2014年衆議院選挙 マニフェスト評価(外交・安全保障政策)

2014年12月11日

評価の視点

現在、世界的なパワーバランスの変化の中で、日本は外交・安全保障の理念をどのように設定し、いかなる政策体系によって自国の安全・繁栄・価値の実現を図っていくかが問われている。

そのような状況の中、第一の評価の軸は大国間関係である。米国はアジア太平洋に軸足を移して、中国の台頭、特に海洋進出に対する警戒を強め、同盟国・友好国との戦略的関係を強化している。しかし同時に、中国との戦略対話の枠組みを維持しつつ、抑止と対話の枠組みのバランスを図ろうとしている。こうした潮流をとらえ、日米関係をどのように位置づけているのかが問われる。

急速に台頭する中国とどう向き合うのかは、現在の日本外交の最大の課題といってよい。日中関係は依然として尖閣諸島問題をめぐり緊張が続いており、中国の軍事的台頭を含め地域の懸念材料ともなっている。同時に、中国経済がアジア太平洋の成長エンジンであることに変わりはなく、日本は中国との共存・共栄も模索しなければならない。中国との緊張関係をどのように管理しつつ、戦略的互恵関係の具体化を目指していくのか、という課題は重要な評価の指標となる。

第二の評価の軸は、地域および多角的な外交の展開である。アジア太平洋地域に台頭する経済・エネルギー・環境・安全保障といった様々な地域枠組みに、日本がどのような戦略をもって臨むのか。どのような国々とパートナーを結びつつ、地域枠組みの構築に主体的に関与し、日本のプレゼンスを向上していくのか。ODAや平和維持・平和構築にどのように関与すべきか。世界の人権・民主主義・法の支配といった価値にどのように貢献していくのか。こうした秩序構想、戦略的外交のあり方を評価の指標とする。

第三は、緊張を増す我が国の安全保障環境の認識と、これに対応する防衛政策のあり方である。北朝鮮の核・ミサイル開発問題、中国の空海軍力の増強と海洋進出といった問題に対して、どのような防衛力のあり方が望ましいのか。またそれは単に強硬的又は融和的態度の提唱に止まらず、日本の目指すべき国際秩序、同盟関係、外交関係、法的基盤のあり方、予算的制約といったなかで、どこまで現実的に追求可能なのか。集団的自衛権についてどう考えるのかなど総合的な観点から評価することとした。




【 評価点数一覧 / 自民党 】

  項 目
自民党
形式要件
(40点)
理念(10点)
5
目標設定(10点)
7
達成時期(8点)
0
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
3
合計(40点)
15
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
10
課題解決の妥当性(20点)
5
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
2
合計(60点)
17
 合 計
32


【評価結果】自民党 マニフェスト評価   合計 32 点 (形式要件 15 点、実質要件 17 点)

【形式要件についての評価 15 点/40点】

自民党はその政権公約で、外交・安全保障政策に関して、3つの大項目を設けている。

まず、第1項目の「地球儀を俯瞰する戦略的外交を」では、「米国・オーストラリア・ASEAN諸国・インド等との協力の強化、中国・韓国・ロシアとの関係を改善」や、「自由、民主主義、人権、法の支配といった普遍的価値を共有する国々との連帯を通じて、グローバルな課題に貢献する」こと、さらに、「平時から切れ目のない対応を可能とする安全保障法制の整備」、「尖閣や小笠原諸島周辺での監視・取締り体制の強化」、「国際社会への戦略的対外発信機能を強化」などの政策が掲げられている。
第2項目の「拉致被害者全員の早期帰国の実現を」では、拉致問題に進展がない限り、更なる制裁緩和や支援は一切行わず、制裁強化を含めた断固たる対応を取るという方針が示されている。

第3項目の「揺るぎない防衛体制の確立を」では、「日米同盟強化を進めるとともに、アジア太平洋地域における同盟の抑止力を高めるため、『日米防衛協力のための指針』(ガイドライン)を見直しつつ、同盟国・友好国との防衛協力を推進」することや、「普天間飛行場の名護市辺野古への移設を推進し、在日米軍再編を着実に進める」、「新たな『防衛大綱・中期防』を踏まえた自衛隊の人員・装備を強化」などが掲げられている。

これら3つの項目の上位にある理念として、「地球儀を俯瞰した積極的平和外交」が掲げられている。ただ、これは同党がこれまで掲げてきた「地球儀を俯瞰する外交」と「積極的平和主義」を混合させたものであるが、それぞれについて、いったい何を目指しているのかが明らかにされていないため、この理念の目指すところも判然としない。

達成時期や財源などが明示された政策はない。

工程や政策手段については明示されているのは、「新たなODA大綱の作成」、「ジャパン・ハウス(仮称)の主要国への設置」、「大使館・総領事館の新設並びに防衛駐在官を含む外務省定員の増員」、「日米防衛協力のための指針(ガイドライン)を見直し」、「防衛装備庁(仮称)の新設」、「自衛隊の人員・装備を強化」など具体的なアジェンダが明記されているものも見られるが、全体的には方針提示にとどまっているものが目立つ。


【実質要件についての評価 17 点/60点】

「評価の視点」で示したアジェンダについては、ほぼ網羅されており、政策としての体系性はあると評価できる。個別の政策についても、方向性自体は総じて妥当なものである。

ただ、その具体的な内容が定まっていないものが多い。例えば、外交政策では、「日米関係の強化」とあるが、具体的な政策としてどのように強化していくのか、という点についての記述はない。「中国・韓国・ロシアとの関係を改善」というのも、方針自体は極めて妥当であるが、それを実現するための方策は何ら示されていないし、課題抽出もなされていない。中国とは11月の首脳会談で「戦略的互恵関係」や「海上連絡メカニズムの構築」について、その必要性を確認したが、これらを今後どう進めるのか。南シナ海や東シナ海で対中牽制を意識した公約が掲げられているが、それと関係改善への動きをどう両立させるのか。慰安婦問題を念頭に置いたと見られる「虚偽に基づくいわれなき非難に対しては断固として反論し、国際社会への対外発信等を通じて、日本の名誉・国益を回復するために行動する」という公約が掲げられているが、これを進める中で強硬な姿勢を崩さない韓国とどう折り合いをつけていくのか。ロシアと主要7カ国(G7)の対立が続く中では、日露の接近は欧米の反発を招きかねないが、どうバランスを取っていくのか。これらが全く示されていないため、目標の実現可能性も判断できないものとなっている。外交努力により、近隣諸国との関係を改善することは、安全保障環境の向上にも資するため、特に掘り下げた方針を示すべきであろう。

一方、方針ははっきりしているものの、大きな問題点があるのが対北朝鮮政策である。形式要件で示した通り、拉致問題について独立した大項目を設け、政権として力を入れていく方針を強調している。しかし、独自外交では限界のある対北朝鮮政策では、米国、韓国などの関係諸国との連携が重要になるとともに、拉致だけでなく、核・ミサイル問題を含めた包括的な対応をしていくことが求められる。今年5月以降、日本は拉致問題に焦点を当てて北朝鮮と交渉してきたことに対し、米韓が度々懸念を表明するなど、関係諸国との足並みの乱れが生じ始めている中で、公約で改めて拉致のみを突出させたことは課題抽出として適切ではない。

安全保障政策でも、大きな問題が2点ある。まず1点は、集団的自衛権に関する記述が不十分であることである。「集団的自衛権」という直接の文言がなく、関連するのは「平時から切れ目のない対応を可能とする安全保障法制の整備」のみであった。しかし、自衛隊の活動範囲、例えば、ホルムズ海峡での停戦前の機雷除去などをめぐって連立を組む公明党とは温度差があるが、どう折り合いをつけていくのか。7月の閣議決定で言及されなかった国連の集団安全保障措置への参加についてはどうするのか、など国民に対して説明すべきことはまだ山積みであるが、それがなされていない。さらには、そもそも集団的自衛権をどのように戦略的に行使し、地域や国際社会の平和と安定に貢献していくのか。これは国民はもちろん、関係諸国にとっても重大な関心事であるが、この根本的なビジョンも示されていない。

もう1点は、普天間飛行場の辺野古への移設問題に関する記述である。公約では「日米合意に基づいて推進する」と述べるにとどまっているが、11月の沖縄知事選で「辺野古阻止」を公約に掲げた翁長雄志氏が当選したことにより、民意を尊重しながら進めていくことは困難になっている状況である。沖縄世論の反発がさらに高まれば、日本政府、さらには米国政府も再考を迫られる可能性があり、ひいては地政学的なリスクにまで発展するにもかかわらず、どのように事態を打開していくのかは述べられていないなど、危機意識が感じられない内容となっている。



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【 評価点数一覧 / 公明党 】

  項 目
公明党
形式要件
(40点)
理念(10点)
5
目標設定(10点)
4
達成時期(8点)
1
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
3
合計(40点)
13
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
3
課題解決の妥当性(20点)
3
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
3
合計(60点)
9
 合 計
22


【評価結果】公明党 マニフェスト評価   合計 22 点 (形式要件 13 点、実質要件 点)

【形式要件についての評価 13 点/40点】

公明党の「重点政策」では、外交・安全保障政策に関して、「安定した平和と繁栄の対外関係」という理念を掲げた大項目の下に、「日中、日韓関係の改善」や、「経済連携、資源外交の推進」、「『核軍縮』や『人間の安全保障』で世界の平和に貢献」という目標を掲げている。

さらに、別のページにある「当面する重要政治課題」では、「安保法制と日米ガイドライン」、「拉致問題等北朝鮮への対応」、「領土を巡る問題と平和的な解決」を掲げている。

数値目標や達成時期に関する具体的な記述がある項目は「ODA予算の20%を人間の安全保障分野に優先配分する」という政策のみである。工程や政策手段に関しては、中国、韓国との「人的交流の促進」や、日中間の「海上連絡メカニズム」の構築、TPP交渉と並行して東アジア地域包括的経済連携(RCEP)、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)、日・EU経済連携協定(EPA)に取り組む、などがある。

 


【実質要件についての評価 点/60点】

大国間関係について、まず日米関係では、「日米ガイドラインの改定」の一点のみであり、それも「政府の取り組みを求めます」との表現が示す通り、政権与党として主体的に動く意思が感じられないものとなっている。

日中関係については、「人的交流の促進」、偶発的な衝突回避を目的とした「海上連絡メカニズム」の構築など、それぞれが妥当な提案であるが、大きな理念や目標設定は表明されず、小ぶりな政策項目の提示にとどまっている。また、二国間外交の発想を出ておらず、アジア太平洋地域の国々との関係の中で台頭する中国にどう対応するのかという視点や政策はない。中国を日本の外交上、どのような位置付けとして捉えているのか、その理念も見受けられない。

さらに、領土を巡る問題では、毅然たる戦略的な対応を主張し、領土問題では特に項を割いているが、尖閣も竹島も北方領土も従来の政府の主張を繰り返しているのみで、どこに戦略があるのか、説明できていない。

他方、対北朝鮮政策に関しては、拉致のみを突出させることなく、核・ミサイル問題との包括的対応や、国際社会との協調を掲げており、この点では妥当な方針を示しているとは評価できる。

さらに、経済連携に関しても、アジア太平洋自由貿易圏(FTAAP)など、地域的な広がりを意識した方針を打ち出しているのは評価できる。「資源確保のための外交を推進する」という方向性も妥当なものであり、連立与党のパートナーである自民党の政策とも連携が生まれやすい領域であるといえる。

安全保障政策については、「核ゼロの世界へ核軍縮を推進」、「『人間の安全保障』を推進」という項目は提案としては妥当であるものの、安全保障政策の包括性という観点からは物足りなさが否めない。北東アジアの厳しい安全保障環境にどのような政策が望ましいのか、北東アジアの安全保障環境の変化に対応するためには、いかなる防衛力・同盟関係が必要とされるのか、多国間での安全保障関係はどうあるべきか、といった構想についての記述はほとんどみられない。

また、集団的自衛権に関しては、自民党の公約とまったく同様の問題点がある。普天間飛行場の辺野古への移設問題に関しても、基地負担の軽減を掲げているが、具体的な手段は不明であるし、「振興策」を提示するなど旧来的な懐柔の発想がいまだに見受けられる。アジア地域における米軍のプレゼンスの再配置という発想も見受けられない。

 


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【 評価点数一覧 / 民主党 】

  項 目
民主党
形式要件
(40点)
理念(10点)
5
目標設定(10点)
5
達成時期(8点)
0
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
2
合計(40点)
12
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
3
課題解決の妥当性(20点)
5
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
2
合計(60点)
10
 合 計
22


【評価結果】民主党 マニフェスト評価   合計 22 点 (形式要件 12 点、実質要件 10 点)

【形式要件についての評価 12 点/40点】

民主党はマニフェストにおいて、外交・安全保障政策に関して、「専守防衛と平和主義」を旗印に、「国民の生命・財産、領土・領海等を断固として守ります。日米同盟を基軸に、共生のアジア外交を展開します。集団的自衛権の行使を容認した閣議決定は立憲主義に反するため、撤回を求めます」という目標を掲げている。

個別の政策項目はマニフェストに付属している「民主党の主要政策」で掲げられており、「主権」、「防衛」、「日米関係」、「アジア外交」、「拉致・核・ミサイル」、「特定秘密保護法」の6項目である。

達成時期や財源に関して具体的な記述がある項目はない。政策手段に関しては、「主権」の項目において「海上保安庁を中心にした警戒監視や警備態勢の拡充・強化」や、「領域警備法の制定」が、また「防衛」に関しては「動的防衛力の強化」等の対策が記述されている。「日米関係」、「アジア外交」、「拉致・核・ミサイル」、「特定秘密保護法」については、一般的な記述にとどまっている。


【実質要件についての評価 10 点/60点】

大国間関係について、日米関係に関しては、日米同盟の深化、米軍再編を進め抑止力を維持することなど一般的な認識が展開されているが、具体的な深化の方法や抑止力維持のあり方についての方策が明示されていない。

また焦点となる中国との関係に至っては、「中国」の文字すらなく、「アジア外交」で一括りにされている。そこで掲げられている「戦略的なアジア共生外交の展開」も具体的な内容が全く分からない。また、尖閣など領土に関する問題についての部分は、ほとんどが従来の日本政府の立場表明に過ぎず、具体的にどう解決するのか不明確である。
民主党が元来得意としていたアジアへの地域外交の具体的展開や、多角的な国際枠組みへの積極的参加、経済・環境・人権分野に関する言及はなく、やや外交分野への積極性が感じられない内容となっている。

安全保障分野に関しては、「主権」に関する項目で「海上保安庁を中心にした警戒監視や警備体制を拡充・強化して領土・領海等の守りに万全を期す」という項目、さらに「防衛」における「南西重視、サイバー空間・宇宙・海洋でのリスク対応、インテリジェンスの強化やNSCの設立」等は、自民党との連携が期待できる分野であり、政策実現性という点で評価できる。

また、武装漁民による離島不法占拠など武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」に対応するための領域警備について、現政権下では現行法の枠内での運用改善にとどめられ、法制化が先送りされている中、「領域警備法」の制定を掲げている点も評価できる。

他方、民主党政権下の防衛政策の基本概念であった「動的防衛力」を改めて提示しているが、それならば現政権下の基本概念「統合機動防衛力」と比較し、動的防衛力の方の実効性が高いことを論証すべきであるが、それがないためなぜこの方針を打ち出しているのか説得力が感じられない。

そして、安全保障分野における最大の問題点は、集団的自衛権に対する姿勢が明確でないことである。7月の閣議決定の撤回を要求しているが、その理由は「閣議決定が立憲主義に反する」からであり、行使自体の是非には踏み込んでいない。さらに、「民主党の主要政策」の方では、「集団的自衛権の行使一般を容認する憲法解釈の変更は許さない」とあり、限定的な行使については容認するかのような表現である。このように、方針がはっきりしていない点は、国民に対する説明責任の観点からは大きな減点要素である。

 


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【 評価点数一覧 / 維新の党

  項 目
維新の党
形式要件
(40点)
理念(10点)
3
目標設定(10点)
5
達成時期(8点)
0
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
2
合計(40点)
10
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
7
課題解決の妥当性(20点)
5
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
2
合計(60点)
14
 合 計
24


【評価結果】維新の党 マニフェスト評価   合計 24 点 (形式要件 10 点、実質要件 14 点)

【形式要件についての評価 10 点/40点】

維新の党は、その公約において、外交・安全保障政策に関しては、「現実的な外交・安全保障政策を貫く」という理念を掲げ、独立した項目を設けている。

そこでは、まず大国間関係に関しては、日米同盟の深化や、日中首脳による戦略的互恵関係のための対話継続、日中間の海上連絡メカニズムの構築、中国と普遍的価値観を共有するため、多国間協議の枠組み活用などを掲げている。

地域及び多角的な外交の展開としては、未来志向の日韓関係の再構築や、アジア太平洋地域の自由貿易構想の実現を掲げている。

安全保障政策については、まず、自主防衛力の強化とともに、尖閣や小笠原周辺での領域における実効支配力の強化を掲げている。また、集団的自衛権に関する必要な法整備を進めることや、在日米軍の再編、合意可能な基地移設の包括的な解決を目指して日米で沖縄と対話すること、国際社会と連携した対北朝鮮政策などを挙げている。

数値目標や期限に関する記述はない。

政策手段としては、「領域警備法の制定」や、尖閣問題の国際司法裁判所での解決などがある。

 

 

【実質要件についての評価 14 点/60点】

大国間関係に関して、日米関係については「日米同盟を深化」や、「在日米軍の再編を着実に進める」など、きわめてドメスティックな内容のみ記載されており、日米同盟をアジア太平洋における外交・安全保障上の戦略において、どう位置付けるのかという発想は見られない。また、基地問題についても、現状に対する問題意識は感じられるものの、具体的な方策は示されていない。

一方、中国に対しては、戦略的互恵関係の推進や、海上連絡メカニズムの構築など、課題は抽出できている。また、中国と普遍的価値観を共有するため、多国間協議の枠組み活用など、こちらでは2国間の狭い視点にとどまっていない点は評価できる。もっとも、中国をどのようにしてその多国間協議に引き込むかは示していない。尖閣問題の国際司法裁判所での解決についても、中国が乗ってくるとは思えず、「現実的な外交・安全保障政策を貫く」という題目にはそぐわない提案になっている。

アジア太平洋地域の自由貿易構想の実現を掲げているのは、方向性としては妥当であるが、そのための方策としては「TPP、RCEP、日中韓FTA等、域内経済連携に積極的に関与し、地域の新しいルール作りを主導」することしか書かれておらず、具体性に欠ける。

安全保障政策に関しては、まず、対北朝鮮政策に関しては、拉致のみを突出させることなく、核・ミサイル問題との包括的対応や、国際社会との協調を掲げており、この点では妥当な方針を示しているとも評価できる。

また、武装漁民による離島不法占拠など武力攻撃に至らない「グレーゾーン事態」に対応するための領域警備について、現政権下では現行法の枠内での運用改善にとどめられ、法制化が先送りされている中、「領域警備法」の制定を掲げている点も評価できる。

このように個別の課題に関しては課題抽出できているところもあるが、北東アジアの厳しい安全保障環境にどのような政策が望ましいのか、北東アジアの安全保障環境の変化に対応するためには、いかなる防衛力・同盟関係が必要とされるのか、多国間での安全保障関係はどうあるべきか、といった全体的な安全保障の構想についての記述はほとんどみられない。

また、「必要な法整備を進める」としている集団的自衛権に関する記述は不十分である。そもそも集団的自衛権をどのように戦略的に行使し、地域や国際社会の平和と安定に貢献していくのか。これは国民はもちろん、関係諸国にとっても重大な関心事であるが、この根本的なビジョンは示されていない。

 



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【 評価点数一覧 / 共産党 】

  項 目
共産党
形式要件
(40点)
理念(10点)
3
目標設定(10点)
2
達成時期(8点)
0
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
2
合計(40点)
7
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
0
課題解決の妥当性(20点)
0
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
0
合計(60点)
0
 合 計
7


【評価結果】共産党 マニフェスト評価   合計 点 (形式要件 点、実質要件 点)

【形式要件についての評価 点/40点】

日本共産党の「総選挙政策」は、他党と異なり選挙公約の項目提示という形式を採用せず、全編にわたって政権与党を批判する論説によって貫かれている。

その中で、同党の外交・安全保障政策と認定しうるのは、「『海外で戦争する国』づくりを許さない 憲法9条の精神に立った外交戦略で平和と安定を築く」、及び「米軍の新基地建設を中止し、基地のない平和で豊かな沖縄をつくります」の2項目である。

前者については、集団的自衛権閣議決定の撤回、日米ガイドライン再改定中止、特定秘密保護法廃止法案の提出などの目標が掲げられている。後者については、新基地建設のストップ、普天間基地の無条件撤去、沖縄へのオスプレイ配備の撤回を要求などが打ち出されている。

さらに、「未来に責任を負う政党、それが日本共産党です」という党の自己紹介らしき項目にも、「日米安保条約第10条に即した廃棄の通告で、日米安保条約=日米軍事同盟をなくします。安保条約は、一方の国が通告すれば、一年後には解消されます。アメリカとは安保条約に代えて、対等・平等の立場にたった日米友好条約を結びます」との方針が示されている。

提示された政策を実現するための達成時期などの記述はないが、手段や工程としては、上記の日米安保の廃棄と日米友好条約の締結が見られる。また、北東アジアの平和と安定を築くために、①紛争の平和解決のルールを定めた北東アジア規模の「友好協力条約」を締結する、②北朝鮮問題を「6カ国協議」で解決し、この枠組みを地域の平和と安定の枠組みに発展させる、③領土問題の外交的解決をめざし、紛争をエスカレートさせない行動規範を結ぶ、④日本が過去に行った侵略戦争と植民地支配の反省は、不可欠の土台になる、という4原則からなる「北東アジア平和協力構想」を提示している。

【実質要件についての評価 点/60点】

大国間関係について、まず、日米関係に関するものとして、「日米安保を廃棄し、対等・平等な日米友好条約を締結する」と宣言している。しかし、北東アジアの厳しい安全保障環境を考えると、あまりにも非現実的な提案である。また、アメリカの軍事政策や対米関係に対する強烈な批判を行う一方で、日米友好条約の締結を望む態度も理解困難である。しかも、対等・平等の意味するところが明らかにされていない。集団的自衛権の行使を認めず、自衛隊の役割拡大も否定しているため、日本が軍事的に応分の負担を担うという意味ではないと推察されるが、それ以外でどう「対等・平等」が実現されるのか、全く示されておらず、アメリカが乗ってくるとは到底思えない提案である。

さらに、中国に関する言及は全編を通じて一切ない。現在、中国の台頭と日中関係のあり方がこれほど問われているにもかかわらず、一切の方針を示していないのは課題抽出としてもあまりにも不十分である。

北東アジアの平和と安定を築くための方策としては、形式要件で示した通り、「北東アジア平和協力構想」を推し進めることを掲げている。同党が公約の中で説明するところによれば、この構想は、東南アジア諸国連合(ASEAN)が、「東南アジア友好協力条約(TAC)」という紛争を話し合いで解決する平和の枠組みを構築しており、ここから着想を得て提唱したものだという。これを北東アジアにも広げようというのが同党の方針であるが、実際にはASEAN諸国は南シナ海問題等をめぐり国防力強化を進め、さらに、アメリカとの関係を重視しており、同党の考え方とは異なる。同党の安全保障政策をめぐるモデルを他国に求めるのは難しいであろう。そして何より、米軍の抑止力への考察を忌避し、自衛隊の果たす役割を検討せずに、単に外交による緊張緩和を目指すのは、安全保障に対する姿勢として不誠実である。

 


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【 評価点数一覧 / 社民党 】

  項 目
社民党
形式要件
(40点)
理念(10点)
4
目標設定(10点)
4
達成時期(8点)
0
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
2
合計(40点)
10
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
2
課題解決の妥当性(20点)
1
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
0
合計(60点)
3
 合 計
13


【評価結果】社民党 マニフェスト評価   合計 13 点 (形式要件 10 点、実質要件 点)

【形式要件についての評価 10 点/40点】

社民党の公約では、外交・安全保障政策に関して、「『戦争できる国』に向かう集団的自衛権行使は認めず、平和憲法を守ります」という独立した大項目が設けられている。

その下に掲げられている個別の政策としては、「平和憲法の理念にもとづく安全保障政策を実現するために『平和創造基本法』を制定」、「自衛隊を必要最小限の水準に改編・縮小」、「集団的自衛権の行使容認の閣議決定の撤回と関連法整備に反対」、「辺野古新基地建設に反対し、普天間基地は『県外』・『国外』へ移設」、「米軍への『思いやり予算』を段階的に削減するとともに、日米地位協定を全面改正」、「戦後処理問題の全面的な解決」、「北東アジア非核地帯と北東アジア地域の総合安全保障機構の創設」などがある。

達成時期や財源などが明示されている項目はない。工程や政策手段については、上記の「平和創造基本法」などがある。


【実質要件についての評価 点/60点】

大国間関係に関して、アメリカとの関係については、「米軍への『思いやり予算』を段階的に削減するとともに、日米地位協定を全面改正」というきわめてドメスティックな内容に留まっており、北東アジアの厳しい安全保障環境を前提として、日米同盟を地域の安全保障にどのように活用していくのかといった視点は欠落している。

また、中国に対する言及はない。6か国協議の枠組みを発展させることによって、北東アジア非核地帯と北東アジア地域の総合安全保障機構の創設を目指すというのであれば、この枠組みに中国をどのように取り込んでいくのか、ということは最大の課題になるはずである。現実には中国は「核兵器は大国としての地位を戦略的に支える」として核戦力の強化を進め、軍事費も増加の一途をたどっているが、その現状を踏まえた上での構想実現に向けたアプローチのアイデアがないため、説得力も皆無となっている。

こうした非軍事的アプローチは全項目にわたって貫かれているが、北東アジアの厳しい安全保障環境を考えると、実現可能性という観点からはかなり見込みの薄い内容が多い。同党の理念を体現するであろう「平和創造基本法」についても、そのネーミングは耳触りの良いものであるが、内容は自衛隊の規模や装備、運用に関する基本原則を定め、自衛隊の現状を、必要最小限の水準に改編・縮小するというものであり、中国の海洋進出や北朝鮮の核・ミサイル問題など北東アジアの平和と安定を維持する上での課題とかみ合っていない。そもそも、国際的な安全保障環境の変化に即して何を最小限として定義するのか、防衛力に関する基本的考察もない。

全体的に、これまでの与党の外交安全保障政策への単なる批判にとどまっている。これほどドラスティックな改革を行おうとしているのであれば、その実現に向けたプロセスを丁寧に説明すべきであるが、それがないため国民に対する責任という観点からは大きな問題がある。

 



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【 評価点数一覧 / 生活の党 】

  項 目
生活の党
形式要件
(40点)
理念(10点)
3
目標設定(10点)
2
達成時期(8点)
0
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
0
合計(40点)
5
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
3
課題解決の妥当性(20点)
2
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
0
合計(60点)
5
 合 計
10


【評価結果】生活の党 マニフェスト評価   合計 10 点 (形式要件 点、実質要件 点)

【形式要件についての評価 点/40点】

生活の党は公約において、外交・安全保障政策に関しては、大項目「生活者本位の政治へシフト」の中の一項目として、「平和を自ら創造する」を掲げている。

その下にある個別政策としては、「相互信頼関係を築き対等な日米関係を確立。普天間基地の辺野古移転計画は中止し、国外・県外への移設を検討」、「中国、韓国をはじめ、アジア諸国との友好・協力関係を発展させ、アジアの成長を日本経済の活力に取り込む施策を推進」、「憲法の平和主義、国際協調の理念に基づき国家を守り、世界の平和、地球環境の保全に貢献」、「憲法の改正なき集団的自衛権の行使容認には憲法 9 条に則り断固反対」の4項目である。

達成時期や財源などが明示されている項目はない。工程や政策手段については、具体的な法律や予算の整備といった内容は記載されていない。

 

【実質要件についての評価 点/60点】

アメリカとの関係について「相互信頼を築き対等な日米関係を確立」するとしているが、その具体的な方策は示されていない。特に、辺野古移設計画の中止や、集団的自衛権の行使に反対しながら、どうアメリカの信頼を得るのか判然としないし、日米同盟をどのように安全保障のために機能させていくかといった発想は皆無である。

「中国、韓国をはじめ、アジア諸国との友好・協力関係を発展させる」という方針も、それ自体は極めて妥当なものであるが、方策が全く示されていないために、その実効性の評価ができないものになっている。

日本の防衛に関する問題では、「平和を自ら創造する」という題目を掲げているにもかかわらず、北東アジアの安全保障環境の変化に対して、日本としてどのように主体的に対応していくのかについて、何ら方針が示されていない。また、世界の平和に貢献していくという方針が掲げられているが、これまでの公約で示してきた「国連平和維持活動への積極参加」などが見られず、これもどう実現していくのかが定かではない。

全体として、政策というよりはスローガンの色彩が強い項目ばかりであり、実現に向けた指導性も感じられないし、国民に対する説明という観点からも不十分な内容となっている。

 


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【 評価点数一覧 / 次世代の党 】

  項 目
みどりの風
形式要件
(40点)
理念(10点)
2
目標設定(10点)
3
達成時期(8点)
0
財源(7点)
0
工程・政策手段(5点)
2
合計(40点)
7
実質要件
(60点)
体系性・課題抽出の妥当性(20点)
2
課題解決の妥当性(20点)
2
政策実行の体制、ガバナンス、指導性と責任(20点)
0
合計(60点)
4
 合 計
11


【評価結果】次世代の党 マニフェスト評価   合計 11 点 (形式要件 7 点、実質要件 4 点)

【形式要件についての評価 点/40点】

次世代の党は、その公約において、外交・安全保障に関する政策としては独立した項目を設けていない。「政策実例」という大項目の中で、「自立した外交及び防衛力強化による安全保障体制の確立、集団的自衛権に関する憲法解釈の適正化、全ての拉致被害者の早期救出」という題目を掲げている。しかし、様々な課題が混在しているため、同党がどのような外交安全保障政策の理念に基づき、いかなる国際情勢認識に従って、政策を提案しているのかは判然としない。

その下には11の政策項目を掲げている。内容としては、「集団的自衛権に関する憲法解釈の適正化、行使要件を明確化する国家安全保障基本法の制定」、「グレーゾーン事態に対処する領域警備法の制定」、「我が国独自の防衛力の強化、防衛予算の拡充」、「日米地位協定、ガイドラインの見直し、日米同盟とそれによる抑止力の強化」などである。

なお、上記のように題目では「全ての拉致被害者の早期救出」を掲げているが、11項目の中には拉致に関する政策がないなど、内容以前の問題点が見られる。

達成時期や財源に関して具体的な記述がある項目はない。政策手段に関しては、「国家安全保障基本法の制定」や、「領域警備法の制定」、「国家安全保障上重要な土地等に係る取引等の規制に関する法律」など法制定に関するものが目立つ。

 

 

【実質要件についての評価 点/60点】

大国間関係について、まず、アメリカとの関係について「日米同盟とそれによる抑止力の強化」とする方針自体は妥当なものであるが、それを具体化する方策は特に示されていない。したがって、題目で掲げている「自立した外交」がどのようなプロセスで実現していくのかも判然としない。また、北東アジアの安全保障環境の変化に対して、日米同盟を地域の安全保障にどのように活用していくのかといった視点も欠けている。

さらに、中国の台頭と日中関係のあり方が、これほど問われているにもかかわらず、対中政策についての言及がないのは、課題抽出としては不十分である。

そもそも、公約の記述のほとんどが安全保障に関するものであり、外交分野に対する意識は希薄である。

安全保障政策については、集団的自衛権に対する党としての立場を明確にし、さらに、現政権下では見送られた国家安全保障基本法や、現行法の枠内での運用改善にとどめられ、法制化が先送りされている領域警備法の制定を掲げている点は評価できる。

ただ、集団的自衛権をどのように戦略的に行使し、地域や国際社会の平和と安定に貢献していくのか。これは国民はもちろん、関係諸国にとっても重大な関心事であるが、この根本的なビジョンも示されていない。

また、集団的自衛権と関連法の整備に関する記述に傾斜しており、北東アジアの厳しい安全保障環境にどのような政策が望ましいのか、北朝鮮の核・ミサイル問題や中国の海洋進出への対応に対して、いかなる防衛力・同盟関係が必要とされるのか、多国間での安全保障関係はどうあるべきか、といった安全保障全体に関わる構想についての記述は見られない。

 


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