加藤紘一氏 第1話:「日中の環境」

2006年2月14日

「日中の環境」

 今年の政治の世界はまぎれもなくポスト小泉の総裁選挙なんですが、私は、「誰がなるか」というふうに具体的な人名を入れた話は、本来は6月か7月ぐらいからスタートで十分だろうと思っています。なのに、マスコミの政治部は去年から、「4人のうちの誰か」みたいな話をやっています。この4人の中でどうのこうのとか、それ以外の人も含めてですが、もう名前の話をやってたら9カ月持たないだろうと思いますね。出がらしのスープみたいな話になって、いかに若くて新鮮な能力のある人が予想されたとしても、それはもう面白くなくなって手垢のついたものになるし、また、例えば安倍晋三さんというふうに決まると、今度は「それはどうかな、悪い」みたいな話をやるわけですから、これでは切りがない話になってしまいます。

 だから、私が今回提起したい論点は、そうした人の名前の話ではなく、「今の日本の政治社会は何を考えるべきなのか」ということです。

 それは二つあると思います。

 第一はやはりアジア外交で、それは極めて壊れてます。そうは言っても、経済関係は非常にスムーズではないかという議論があると思いますし、確かに鉄鋼は売れてるし自動車もいい状況で展開しています。一方、中国のほうも、日本との経済関係は非常に良いものにしなければいけないという要請が国内情勢からもありますので、経済のほうから日中関係の断絶を画策してくるとかということは無いと思います。やはり、政治の問題を私たちは考えなくてはならない。

 私は昨年の6月に中国へ行って日頃付き合いのある人たちと会ってきましたが、日中のギャップに驚きました。私は、「4月にデモがあって、二週目あたりに党の中央と国務院外交部やなんかは、人民大会堂に3000人の政府党幹部を集めて、"やはりデモは規制していかなければいけない"ということを決めたそうだね」ということを武大偉第一外務次官やなんかに話したんですね。彼はご承知のように駐日大使から第一外務次官になったわけですが。そこには多くの外務省の職員とか党の対外連絡部、「中連」っていう対外中央連絡部の幹部なんかもいたんですが、朝ご飯の丸テーブルでみんながワっと顔を見合わせて、「加藤さんは分かってないね」というような顔をするから、「何なんだ?」と聞いたら、「3000人じゃなくて6000人です、党幹部を集めたんじゃありません、学生運動のリーダーとかデモをやりそうな労働者グループの長とかその有力メンバーとか、ありとあらゆるデモをやりそうな人間を全部集めて説得したんです。で、日中関係は良好でなければいけない、それは経済のことを考えればすぐ分かるでしょう?それに、学生の皆さん、あんたたちの雇用問題にも日中関係っていうのは重要なんです、と説得したんです」と。もしこれが失敗すれば、そのデモが今度は国内要因にもとづく不満分子と結びついて収拾がつかなくなるということを考えたら足がすくんだそうです。李肇星外務大臣はじめ歴代の駐日大使が一人ひとり壇上に上がって発言をし、そこはうまくいきましたと。で、各省でそれをやるように全国に散ったと、こう言うんです。

 そこで、在北京の日本人の記者団に言ったんです。「そんなことがあるということを、あんたら知ってるんなら日本で報道すればいいじゃないか」と。「日本では、デモを中国政府がわざと起こしてそれを利用して対日外交カードに使ってるっていう論調がいっぱいあるんだから、そこは事実と違うということを本国に打電すればいいじゃないか」。そう言ったら、「1、2回はやったんだけれども、採用されない、記事にならない、東京のデスクの書こうとしてる論調に合わせた記事を送らないと成績にならないんです」ということで、どこも書いてない。これは外務省、在北京大使館の幹部の情報でも同じですが、記者団もまた同じようなことを言っていました。

 今の日本の外交とメディアを見ると、どうもストーリーができちゃってて、それに合わせて記事ができていくという状況なのではないかと思います。


※第2話は2/16(木)に掲載します。

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発言者

加藤紘一氏加藤紘一(衆議院議員)
かとう・こういち
profile
1939年生まれ。64年東京大学法学部卒、同年外務省入省。ハーバード大学修士課程修了。72年衆議院議員初当選。78年内閣官房副長官(大平内閣)、91年内閣官房長官(宮沢内閣)、95年自民党幹事長。著書に『いま政治は何をすべきか―新世紀日本の設計図』。

 今年の政治の世界はまぎれもなくポスト小泉の総裁選挙なんですが、私は、「誰がなるか」というふうに具体的な人名を入れた話は、本来は6月か7月ぐらいからスタートで十分だろうと思っています。なのに、マスコミの政治部は去年から、「4人のうちの誰か」みたいな話をやっています。