グレン・S・フクシマ氏 第3話:「日米関係はこれからも重要だが、バランスを取ることも大切」

2006年2月05日

「日米関係はこれからも重要だが、バランスを取ることも大切」

 私は、2005年の2月まではアメリカの政府の仕事やアメリカの会社で働いていましたので、日米関係をアメリカ側から見てきましたが、その後、ヨーロッパの会社に入ってヨーロッパから日米関係を見るようになると、想像していた以上に日米関係というのは特殊な関係だと思うようになりました。

 私は、アメリカ人としては、日米関係が良好な状況が続くことを期待していますし、そうした関係がお互いに健全な利益をもたらすとは思いますが、適正な競争がないことは基本的によくないことだと思います。

 航空業界に入ってたまたま気がついたのですが、いろいろな面で、現在の日米関係はかなり片寄っていて、日本があまりにもアメリカに依存し過ぎていると思います。これはひとつの例なんですが、非常に象徴的ですので、少し説明をさせていただくと、世界では100席以上の民間旅客機を作っている会社はアメリカのボーイングとヨーロッパのエアバスの2社しかないのですが、日本ではボーイングが96%独占しているということは、価格面でもリスク管理の面でも決して健全ではないと思います。

 これは、日米関係がどれだけ安全保障上や政治上において密接かというひとつの表れだと思いますが、こうした独占関係が正しいかは別です。

 例えば中国と日本の場合を比較してみると、対照的なことは、中国は皮肉なことには、社会主義的な制度のはずなのに意図的にエアバスとボーイングから飛行機を買ってお互いに競争させて安い値段でいいものを買う。あるいは共同生産、共同開発に関しても、中国は積極的にボーイングともエアバスとも飛行機を作るという、非常に中国のほうが戦略的に意図的に競争を導入しています。

 日本の場合は、資本主義の国なんですが、結果的には独占になっています。だから、これは、航空会社にとってみても飛行機を利用する乗客のことを考えても、競争がないということは高いものを買わされることになりますし、リスクが分散できず決して良いことではないと思います。

 例えば共同生産、共同開発することを考えても、エアバスの場合は、ボーイングにはない技術とか、ヨーロッパで開発された先端技術がありますから、一社を締め出すことでその技術が導入できなくなってしまいます。むしろ2社と付き合って、日本にとって良いものを両方から導入するというのが普通の姿だと思います。

 日本が特殊なのは他の国と比較すればよくわかります。例えばボーイングの本拠地である北米市場では、エアバスのシェアは50%以上なんですよね。また過去4年間の実績をみると、北米と南米両方あわせますと49%がエアバスなんですね。ですからまぁだいたい半分ぐらいで分け合っています。またアジアでも、日本以外では55%ですが、日本ではたったの4%です。

 私が日本のメーカーに対して、「もう少し両方の会社と付き合ったほうがあなたの会社あるいは日本の産業にとってもいいんじゃないですか」といっても、「いや、しかし、日本の美徳は一社と長期的な関係を結び信頼関係を構築すること。一社以上と付き合うのは浮気であって節操がない」という返事です。確かに長期的な信頼関係は大切ですが、バランスをとることも大切だと思います。


※第4話は2/6(月)に掲載します。

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発言者

グレン・S・フクシマグレン・S・フクシマ(エアバス・ジャパン㈱代表取締役社長)
profile
1949年米国カリフォルニア州生まれ。72年にスタンフォード大学より経済学学士を取得後、ハーバード・ビジネス・スクールおよびハーバード・ロー・スクールを卒業。82年から大手法律事務所で弁護士として活動し、85年に米国通商代表部に入省、90年にかけて対日・対中通商政策の立案、調整、実施を行った。90年以降、民間企業に奉職し、要職を歴任。米国外交評議会委員など多数の委員も務める。

 私は、2005年の2月まではアメリカの政府の仕事やアメリカの会社で働いていましたので、日米関係をアメリカ側から見てきましたが、その後、ヨーロッパの会社に入ってヨーロッパから日米関係を見るようになると、想像していた以上に日米関係というのは特殊な関係だと思うようになりました。