民主党のマニフェストを問う ― 外交安全保障・エネルギー政策を中心に

2012年12月07日

福山哲郎氏(参議院議員)


工藤:福山さん、よろしくお願いいたします。私たちは昨日、民主党のマニフェストを読みました。そのうえで、民主党のマニフェスト全般、そして、外交安全保障、エネルギーの問題、時間があれば社会保障と経済成長についてもお聞きします。まず全般についてですが、2009年にマニフェスト選挙を戦われて、そして今回新しい総選挙を迎えたわけですが、前のマニフェストをどういうふうに総括して、新しいマニフェストに切り替わったのか、ということの特徴について、まず一言いただけますか。


09年マニフェストは総括後、どう変わったのか

福山:まず我々が2009年に政権交代をさせていただいて、マニフェストに書かれたことを実現したいと思って、まずは事業仕分けをし、行政刷新会議を立ち上げて、何とか無駄遣いを明らかにして、財源を確保したいと取り組みました。現実の政治の流れの中で、リーマンショックで法人税が減るなど色々と厳しい状況がありましたが、積立金や埋蔵金も含めて、最初の2年間で15~16兆円の一定の財源を出して、できる限りマニフェストに書かれた政策を実現したいと努力してきました。結果として、できたこと、できなかったことはありますが、ほとんどの課題について着手はできたと思います。ただ、そのことについて、国民の皆さんに対して十分な反省ができたか、お詫びができたかという点については、一定の反省の余地はあります。ただ、そのプロセスにおいて、2年目に中間検証を行いました。そして、この新しいマニフェストを作るにあたって検証を行なった上で、作成しました。もちろん、そのプロセスの中では、国民の皆さんに対して、全国11カ所で政策進捗報告会を開く中で、フィードバックをいただきながら対応してきました。これは工藤さんにも認めていただいていると思うのですが、私たちがマニフェスト選挙をしたいと考えてきた2003年からずっと申し上げてきたのは、やはりマニフェストに沿って評価をしていただく時に、ちゃんとフィードバックできる体制が重要である、と。今までの自民党のように、公約など誰も覚えていないような状況で次の選挙が行われる、そうではなくて、どれほど進んだのか、どれほど変化があったのか。社会は生き物ですから、そういう状況の中でマニフェストを言論NPOさんにやっていただいているように、評価をいただくというサイクルができつつあるという点では、ひとつの政治文化が変わってきた証かな、と思っています。

工藤:私たちは実績基準できちんと評価をしているのですね。もともとは、形式的な進捗評価をしてきたのですが、民主党に関しては実質的な評価をするというのは、それくらい本気で取り組んでいるということです。その中で気になったことを、いくつか説明していただきたいのですが、まず政治主導という問題で、やはり約束したことをきちんと主導して実現する、と。その中で官邸という施設で、一体的に、しかも戦略的にやるという動きがどうもうまくいっていなかったのではないか、という認識。それから、菅さんの参院選のマニフェスト、これは衆院選のマニフェストとの違いなのですが、菅さんのマニフェストは「強い経済、強い社会保障、強い財政」ということで、これは鳩山さんの元々のマニフェストにはない姿勢ですよね。これは政策を変更したものなのか。であれば、それについて国民に分かりやすく説明するべきだと思ったのです。この2点については。


鳩山マニフェストから菅マニフェストへ 政策変更はあったのか

福山:それは「強い」という言葉の印象の話であって、参院選の時に菅さんが言われたのは、財政については、色々なご批判もいただきましたけれど、消費税について見直しましょう、という問題提起をされました。経済についてもリーマンショック後に立ち直って・・・実はあの菅さんの時というのは3・11の前で、経済が名目で徐々に、継続的に成長してきたところだったのです。まさに参院選の前に、菅さんは成長戦略を作って、日本はグリーンや医療などを中心として、農業なども含めて対応していくのだ、と。それで、ようやく持ち直してきた経済をより強くする、と。社会保障は我々がやろうとしてきた診療報酬のプラス改定や、なかなかできなかった年金の問題、また、子育て環境も含めて、ある意味では、しなやかな強さの社会保障状況を作るということで、財政もある一定のレベルで強さを持つ。そして、経済も成長戦略に乗りかけていたところだった。さらに、社会保障でしっかりとセーフティーネットを張りめぐらせる。それは、鳩山さんが言われていた居場所と出番がある社会であり、菅さんが言うところの社会的包摂のある社会を作っていくためにどうしていくのか、ということであって、それは「強い」の印象論はありますが、別に方向性が変わったわけではなくて、その理念は今回の野田総理の、ここにある「誰のための政党か」。それから目指す社会も「生活者、働く者、納税者、消費者、将来世代を大切にしたい」。それから「透明・公平・公正なルールにもとづき、正義が貫かれる社会」、「働く人が豊かさと幸せを実感できる社会」、「格差を是正して、誰にも居場所と出番のある社会」ということで、我々の本質的な立ち位置は変わっていないと思います。

工藤:つまり、目指すべき社会像は変わっていないのですよね。それは今回もきちんと引き継がれて明確になっているので、これは今回評価しています。ただ今、わからなかったのは、菅さんの強い財政のところでは、財政再建の目標を定めているわけですね。鳩山さんの時には財政再建はないのですよ。つまり、16.8兆円をどう捻出しようかという話だったので。それから、民主党は実際に政権を取ったわけだから、課題に向き合わないといけない、その中で財政という問題をきちんと意識したのだと思ったのですね。そうしたら今回、マニフェストでそれがはっきりしていないので・・・

福山:それは逆に言えば、野田総理は鳩山政権の時は財務副大臣であり、菅政権では財務大臣だった、と。そして、財政戦略も作られていたということで、財政については最も民主党政権内で真剣に取り組んでおられた一人だと思います。そして、その方が総理になって、政治生命をかけて、消費増税を何とか3党合意でまとめさせていただいた。我々としては、国民に厳しいことをお願いするわけですから、そこは財政のことも十分に踏まえた上で、3党合意に基づいて消費税と社会保障の一体改革をやっていきました。まさにここに書いてあるように「社会保障の改革を断固としてやり抜きます」と。

工藤:これを一番にしたというのはいいですね。

福山:「子や孫にツケを先送りしてはなりません」ということは、まさに財政のことを意識していますし。その次の真ん中にあります「分厚い中間層を取り戻すため、持続可能な新しい成長を追求します」というのは、まさに工藤さんが言われた成長概念と、分厚い中間層というのは先程私が申し上げた「めざす社会」のところにある理念を、総理はそのまま見せたということです。

工藤:今度のマニフェストで財政再建の目標を入れなかったのはなぜですか?

福山:それは元々政府与党ですから、政府の中にもう財政戦略はあるわけです、それは所与のものだと僕は思います。

工藤:そうですか。あと、今回は財政で議論はしたくはないのですが、ただ、2020年までにプライマリー赤字の解消というのは誰が見ても非常に難しいと思います。それはひとつの課題だと思うので、それについて全く言及しないというのは気になります。どうでしょうか?

福山:それは今、政府としてそういう方向で考えているわけですから、与党としては当然、考えているということです。


"新しい公共"理念の政策化は

工藤:もうひとつ、ここがちょっと分からなかったのですが、「官から民へ、国から地方へ」、「『新しい公共』と地域主権を確立」。ということは、国から地方へというのは地域主権ですよね。官から民へというのは新しい公共ですよね。この官から民へというのはこの場合、官から市民へということですか?それとも、民というのは民間企業の、規制緩和を含めた話でしょうか?

福山:両方でしょう。元々ここで新しく出てきた話ではなくて、官から民へ、国から地方へというのは、まさに2009年のマニフェストで我々が主張したことで、それに合わせて地域主権改革をし、中央と地方の法的な協議の場を作り、一括交付金を創設し、そして、例の話題になった直轄事業の一時負担金をなくし、地方交付税を厚くしました。そして、途中の菅政権の時、片山さんが総務大臣の頃に、光をそそぐ交付金という、例えばDV被害者のためのシェルターに対する補助や、子供の図書館の本をしっかり確保する、など何らかの状況の下で、必ず最初に財政的に切られるようなものに対してしっかりと光をそそいでいこうという補助金を作ったりもしました。それはまさに我々の新しい公共の概念ですし、その中で我々はNPOとの協働なども強く推進してきました。

工藤:してきましたよね。今回はそういう文章がなくなっている・・・

福山:これは新しい公共ということですよね。

工藤:これは昔のやつですよね。

福山:なぜ、それを変えなければならないのですか? 我々から見れば変わらないわけだから。

工藤:変えろと言っているわけではなくて、これは理念だから、理念をベースとした課題解決の手段が政策なので、今度は政策に落とし込まなければいけないと思ったのですが、その政策の段階のところで、それが具体的に見えにくいからそれを聞いたわけです。理念を否定しているわけではないですよ。

福山:だって、新しい公共はNPO税制を・・・

工藤:ある程度やった、と。

福山:いや、やったのではないです。つまり、まだ途中、継続しているということです。では、NPOの世界がこの3年間でガラッと変わったのかというと、NPOの税制だってこれからどんどん浸透して、それを利用される認定NPOを早く、たくさん増やしていかなければなりませんし。それは新しい公共の概念で、それぞれの地域の中でNPOのみなさんに頑張ってもらわないといけないので、それは旗を降ろしたのではなくて、逆により強く継続していくことが、これまでやってきた与党としての責任だと思います。


政治主導は機能したのか

工藤:官邸機能と政治主導のところはどうですか?

福山:これも色々言われるのですが、まず、政務三役会議というものが各省庁でできました。これは自民党政権時代には全くない。政務三役会議の中で組織の官僚と議論をしながら政策を決めてきました。例えば、私が最初に入った政務三役会議は外務省だったので、例の密約の解明とか、それこそ国際会議に初めてNPOの代表者を参加させるとか、ODAのあり方を見直すとか、アフガニスタンに対する支援策を新たに作る、などこれは本当に政務三役と外務省の中で議論をして決めてきました。そして一方で、官邸の中では国家戦略室が出来上がり、これは参議院がねじれたこともあり、なかなか法的な根拠としてはうまくいかなかったのですが、国家戦略担当大臣を中心に、成長戦略を立て、また、エネ環会議を中心として、例の原発ゼロの政策等は戦略室を中心に作りました。色々なご批判はありましたが、少なくとも官邸機能は戦略室を中心に色々な政策について動いてきたことは間違いありません。もちろん、我々のシステムがそのまま全てうまくいったとは流石に申し上げません。しかし、今まで資源エネルギー庁やエネルギー基本問題調査会一辺倒だったエネルギー政策が、国民に公開され、コスト計上がなされ、国民的な議論がなされる中で、あの原発稼働ゼロという政策が積み上がった。それはある種、役所の縦割りから官邸主導に持ってきたからこそ、それが仕組みとして出来上がった。官邸主導はそれぞれの方にイメージがおありでしょうし、法的な根拠がないじゃないか、と言われるかもしれませんが、我々としては官邸主導で色々なことを決めていくことにチャレンジして、現実に動いたことがいくつかあると思います。

工藤:このマニフェストでは基本的にほとんど前回と同じような書きぶりなのですが、やはり色々な政策を今までやってきたことも含めて前進させたり、ということになるのですが、政治主導ということに関して、これから新しくしなければならない、ということはないのですか?

福山:国家戦略室に法的な根拠を持たせるとか、大臣の人数をもう少し増やすとか考えていることはありますけれど・・・なかなか法律が簡単に通る時代でもないので、現状の中でよりブラッシュアップさせていく、改善していくということが我々の方向性です。


政府の一元化はできたのか

工藤:党と政府の関係なのですが、結果としては政府の一元化と言っていたのに、党の政調会が復活し、事前審査が復活し。一元ということができているのかどうか、基本的に自民党の政府と党の関係にかなり近いものになったのですが、これはやれなかったという評価でよろしいのですか?

福山:党はみなさんに向き合うという役割がありますので、色々な国民の声を聞く。政府はやはり省庁主体で色々な議論をしますから、そこを結節する仕組みとして、党の政調会と政府側が議論するというのは、僕は決して悪い仕組みだとは思っていませんし、自民党の仕組みと似ているからよくない、というのはあまり建設的な議論ではなくて、それは逆に言うと、国民と向き合っている政党の議論として政策調査会が政策を積み上げる。そして、政府の中で議論する。その中で調整をして物事を決めていくというのは、我々も最初は政策調査会長がいなかった。その次には、逆に政策調査会長を無任所の大臣に入れたのです。最初は政策調査会長がいなくて、その次は玄葉大臣が政策調査会長として党の役職と兼務した。そして今回、政策調査会長に一定の事前審査性を入れた。我々も試行錯誤したわけですけれど、我々の若い議員も含めて、政府の中に副大臣・政務官として入り、その中で徐々に収斂していった結果、今の状況になっていったということです。我々の当初掲げたことがすべて100点満点でできたとは言いませんが、長年の自民党政権から戦後初めて政権交代する中で、我々としては一定の試行錯誤を繰り返しながらここまで来ました。

工藤:では、今の感じがもう到達点ですか、それとも、まだ改善する感じですか?

福山:いや、まだ改善するところはあります。


尖閣問題への対応は

工藤:次に、外交なのですが、外交でまず一番初めに聞かなければならないことは、尖閣問題をどういうふうに決着させるのか、と。つまり、尖閣問題で色々なことがあり、非常に緊張感が高まってしまっています。民主党は政権を継続していく場合、これにどのように対応していくつもりなのですか?

福山:外交は継続性が重要ですから、これを決着させるのかというと、これは何というか・・・何をもって決着とするのかにもよります。私は2年前の尖閣事件の時に官邸におりましたが、我々は2年前も逮捕ということにしました。今回も現実には多くの活動家が尖閣に上陸した時に、日本の警察が尖閣の上で、多くの活動家を逮捕した。国際社会から見れば警察の権力というのは、主権の行使以外の何物でもありませんから、尖閣諸島には日本の主権が行使されているということを、国際社会に示したわけですので、私は毅然とした対応を取ったと思っています。一方で、アメリカとの関係でいえば、尖閣は日米安保条約15条の適用だということを、アメリカの国務長官も言っているわけですから、我々としては、これも国際社会に一定のメッセージとして出した。さらに言えば、国有化のこともやったということで、そして、一方で経済の問題もあるわけですから、そこは中国と継続的に一定の抑制をお互いがしながら、外交をしていく。今も海上保安庁のメンバーは本当に徹夜で尖閣を守ってくれていますし、接続水域内に中国の公船が入ってきている状況も、海上保安庁のメンバーは守ってくれているわけですから、その状況を、しっかりと守るべきことは守りながら、しかし、外交ですから、中国との関係は、新政権もできたわけですから、それはやはり一種のお互いが抑制的に、しっかりと中長期的に議論しながら対応していくというのが外交方針だと思います。

工藤:これに関しては、私は海外と議論をしているので、世界の論調なり発言はかなり分かっているつもりです。それで聞きたいのですが、確かに、主権国家として毅然と主権、領土を主張するのは当然だと思うのですね。それは主張することが目的ですか、それとも、今、軍事紛争になりかねない偶発的な事故があった場合に、これに関して中国と何かをやってその問題をコンテインしていく、軍事衝突に発展しないような形に外交努力をして抑えるとか、そのような別の目標設定はないのでしょうか。

福山:我々は、中国との関係でいえば、南シナ海、東シナ海をはじめとして、一定の平和の海にしようということを、常に中国に主張しております。領有権を国としてしっかりと主張することはもちろんですが、政府にいた人間として、今おっしゃったようなリスクについては、我々はそんなことを回避するために外交をするわけですから、しっかり領有権を守る、実質的には主権の行使をしているのです。そして、その上で、いかに中国との関係を含めて対応していくかというのは、もちろん中長期的にいろいろな仕組み、平和のメカニズムを考えていかなければいけませんし、そのことは外交交渉として継続的にやっていかなければいけない。

工藤:一つ教えてほしいのですが、ウラジオストクでAPEC(アジア太平洋経済協力首脳会議)が開催された(9月8、9日)2日後(11日)に尖閣は国有化されましたが、このタイミングが適切でなかったのではないかという議論が一部にあります。

福山:国有化のタイミングはいろいろな意見がおありだと思います。いろいろな議論があっていいと思います。しかしそれは、国家の意思としてその判断をしたので、マニフェストの議論とはまた異なった議論ではないかと思います。
    
工藤:あと、基本的な外交のポジションとか姿勢ですね。つまりこの3年間とか4年間でけっこう揺れたように見えたので、今出されている方向は、鳩山さんが出された方向と何が違うのでしょうか。鳩山さんが当時出されたのは「対等で公平な日米関係」のようなもので、普天間の問題は書いていなかったのですが、基地の問題が入っていって・・・今度のマニフェストで思想は何か変わったのでしょうか。

福山:基本的には、日本の外交の基軸である日米安保を中心に、日米関係、日米同盟の深化というのは、鳩山さんの時もずっと言っているはずです。一方で、専守防衛のもと防衛大綱を新たに作りました。その防衛大綱に基づいて今の外交・防衛戦略を作り、これまでの継続をもって論じさせていただいている。別に、違いを強く主張することが、このマニフェストの目的ではありません。


TPP交渉参加の曖昧さ

工藤:TPPの問題なのですが、非常に分かりにくい。というのは、マニフェストの問題と、首相がTPP交渉参加にかなり前向きな姿勢を示している問題との整合性がよく分からない。政権公約としてはどのように打ち出されたと判断すればいいのですか。

福山:その前に、TPPの問題はTPPだけではありません。問題は自由貿易体制にどのようなスタンスで臨むかということです。我々は、例えばインドとのFTA・EPAを締結したり、EUとのFTA交渉や日中韓の問題についても一定の前進をみたりしている。農業団体にずっと顔向けをしている自民党政権に比べれば、この3年間で自由貿易体制の推進についてははるかに前に進みました。そして、APECの中で、2020年までに東アジア全体で自由貿易体制を作る時に、ASEAN+3、ASEAN+6、そしてこのTPP、いろんな方向性の中で自由主義体制を作ろうという中での選択肢にTPPがあると。我々は自由貿易体制を目指すと言っているわけですから、総理が前向きな発言をされる、党内ではいろいろな慎重な意見がある、しかしながら、そのことは同時並行的に進めていく方向で考えていますよ、と。もちろんその時には国益を大前提としますし、日本の農業や食の安全などについてはしっかりと守ると言っている、ということなので、別に分かりにくくなっているわけではないと思います。

工藤:基本的に、TPPの交渉参加をこのマニフェストで約束しているわけではないのです
ね。

福山:交渉参加を約束しているわけではありませんが、方向性としては、いわゆるアジア太平洋自由貿易圏の実現を目指しますよ、ということです。


原発問題 他党との違いは

工藤:わかりました。今度は、エネルギーの問題、あと環境、経済のところに入りたいのですが、エネルギーは、まず一言で言うと、民主党政権そのものが原発ゼロを目指していく方向で、しかも、もともと福山さんを中心として環境にかなり取り組んでいたのは、私たちは非常に評価しています。ただ、原発事故以降、これをきちんとまとめ上げて戦略化するということが問われている中で、今度、国民に何を提案するのか。いろんな政党が原発問題を持ち出してきて、違いが分からないので、そこをちょっと説明していただきたいのですが。

福山:なぜ違いばかりを主張するのかよく分からなくて...

工藤:それは国民が分かりにくくなると思うからですよ。

福山:分かりやすいですよ。だって、我々は「40年制限制を厳格に運用」なのですよ。ということは、40年以上のものは廃炉なのです。それから、安全委員会の厳正な安全基準に沿ったところしか再稼働しないのです。

工藤:再稼働の決定は誰がするのですか。

福山:安全委員会の安全基準をもとに決定するのです。

工藤:安全基準をもとに誰が決定するのですか。

福山:それは、現実問題として、まず安全委員会が「安全」ということが第一なので、それ以上の話をすると政治が介入することになります。まず安全基準が重要。安全委員会の安全基準はまだできていませんから、安全基準の中でどのような要件があるのかについてもしっかりと議論していく。そこをクリアしないといけない。そうすると自動的に、ほぼ来年いっぱいくらいまでには、なかなか再稼働の議論にはならないのですね。そういうベースを、手続き論として、ちゃんと原則として我々は作りました。それから三つ目に、原発の新設・増設は行わない。さらに言えば、その中で我々が原発ゼロという定義をした時に、稼働をゼロにするだけではなくて、使用済み核燃料の問題についても責任を持った方向性を示す、と。しかし、このことは、青森の問題を含めて、時間がかかるということの中で、今、我々は「30年代にゼロ」ということを決めました。実は、手続きとしては非常にはっきりとしています。「3年先送り」とか、「10年経ったらベストミックスを探します」という先送りをしている自民党とは明確に違うと思いますし、もっと言えば、原子力安全神話や原子力ムラを作ってきたことへの反省が自民党の政権公約から出てこないことについて、私は非常に理解に苦しみます。

工藤:今の新設のところなのですが、私たちがペーパーを読んでなかなかよく分からなかったのは、今計画しているものがありますよね、島根とかで。あれは新設なのですか。

福山:それは新たな安全基準がありますよね。それに照らさなければいけないと思います。

工藤:今、新設のところは新設を認めないというお話をされたのですが、新設というのはこれから計画されるものも含めて言っているのか、それとも、今計画があるけれどもまだ着工していないものは止めるということなのでしょうか。

福山:そこは動かさないのではないですか。

工藤:それは新設という概念になるわけですね。

福山:それはおそらく、これからの基本的なエネルギー・環境計画の中では、どちらにしたって40年で廃炉になるわけですから、今から計画して何年もかかって地域の安全性といったら採算が合いませんからね。そこはもう、青森とか、自然な判断がいろんなところで起きてくると思います。

工藤:そうですか。この原発問題が分かりにくいと言ったのは、いろんな人たちがいろんな形で言うので。例えば、いま2つしか動いていないわけだから、「すぐにでも止める」という人もいますが、民主党側からそれについては何か反応はありますか。

福山:経済的な合理性の問題だと思います。すぐに止めるということは、火力に頼ることになりますから、CO2の問題とコストの問題がありますので電力料金にそのままはね返りますから、そのことを国民の皆さんとどう共有するかという話になりますし、それはある意味でいうと非現実的だという判断を我々はします。

 しかし一方で、これはマニフェスト通りなのですが、我々の時代に固定価格買取制度を導入して、それによって今年になってから内需が非常に拡大している、投資が行われている。さらに申し上げれば、固定価格買取制度を作るだけではダメなのです。送電網の整備をしたり、新たな電力システム改革をすることによって、実際には新たなグリーンの経済成長につながり、それがグリーンエネルギー革命につながる。さらに言えば、先程言った使用済み核燃料の問題も並行してやらなければいけない。それこそ、言ってもできないことは嘘つきになりますが、電力の問題は経済とパラレル、国民生活とパラレルですから、私たちは原発の危険性を認知しながら、一方で経済の中で「30年代ゼロ」を党としてまとめたということです。

工藤:なるほど。福山さんは地球温暖化に取り組まれていたのですが、地球温暖化対策の目標との整合性というのはまだこれからの話ですか。鳩山政権下で高い目標を出しましたよね。

福山:現実にはこれだけ火力が増えている中でなかなか厳しいですが、それは努力をする。しかし、努力をするにあたっても、どういう形でエネルギー構成をするか、火力の効率化がどの程度進むか、それから、国際社会がどの程度日本の原発事故に対して理解していただけるか。それらも含めて、日本のCO2の目標を考えていかなければいけない。長期的な「2050年80%減」というのは国際社会がコミットしているわけですから、CO2に対しての中長期の基本的な考え方は、これから我々としてもしっかり考えていかなければいけないと思います。


経済成長への道筋

工藤:次に経済成長ですが、「どういうことをやるから経済成長ができる」と考えているのでしょうか。エネルギーの安定供給、労働市場の問題、それから社会保障の安定化、そういう構造問題が問われ始めてきていると思うのですが、そこに対する言及が少ないので、それについてはどう思っているのかなと。

福山:一つだけ申し上げると、例えば政権交代前に失業率が5.4%だったのが4.2%に改善しています。それから、デフレギャップも、政権交代前に30兆円あったのが、今は15兆円に半減しています。実は、建設業は、我々はあちこちから批判を受けましたが、建設住宅着工については2割程度改善しています。つまり、経済的に言えば、もちろん震災という大変な出来事がありましたので、経済的にその当時厳しい状況はありましたが、デフレギャップを含めて徐々に改善の兆しはあります。

 そのことを踏まえて、今年の7月に成長戦略を新たに作りました。それは、再生可能エネルギー、これはグリーン革命です。二つ目は医療や介護です。診療報酬を10年ぶりにプラスに改定したり介護報酬をプラスにすることによって、介護や看護の従事者の方の人件費を若干、増やしたりすることも含めて、今、病院の経営は改善しています。

 少なくとも、医療崩壊と言われた3年半前の状況からは、一定の底打ちがあります。そのことは、これから高齢社会を迎えるにあたっては必要不可欠なことだと思いますし、それが不安定だと、逆に社会の安定性が危なくなりますので、成長にはつながらない。そこはやらなければいけない。

 さらに言えば農林水産業です。これはTPPとは別に、我々は常に食料自給率を改善すると言っていました。言論NPOさんは戸別所得補償制度の評価が低いようですが、農業者の方々には、後継者難の時代に対するある程度の引き継ぎのことも含めて、これは、ある程度我々が世論調査をしましたが、一定の評価をいただいています。農業の再生は、TPPとは別の問題として徹底的にやっていかなければいけませんが、これは財政的にもお金が必要になります。

 トータルで言えば、急激な高度成長をするような時代ではありません。日本は人口が減っています。だからこそ実質2%程度の成長をしっかりと維持していくことを目指していく。さらに言えば、観光等も含めて、外から人をいろんな方法で入れていただく。私も外務副大臣の時に観光事業を前原国交大臣(当時)とやりましたけれども、日本の観光業はどんどん(海外から)来られている方が増えています。そういったことの中で、徐々に安定成長する社会を作っていく。現実には、その安定成長を作るには、いわゆるセーフティーネットがしっかり張り巡らされていなければいけない。

 自殺は政権交代前には3万人を優に超えていました。あまり言われていませんが、実は政権交代後3年間、毎年自殺者は減っています。今年、15年ぶりに自殺者が3万人を切ります。それは、いろいろな作業、社会保障の政策が一つ一つ、高校の無償化、生活保護の母子加算を復活させたこと、障害者自立支援法をやめて障害者総合支援法を作ったこと、さらに言えば、父子家庭の子どもの手当てを新たに創設したこともそうですし、いろんなことを総合的に積み重ねた結果だと思います。

 成長戦略と、こういう個別の細かな政策を積み上げることによって、両方で社会の安定性を確保して成長していくというのが、我々がずっと考えている根底の考え方です。野田総理のおっしゃる「中間層を分厚くする」、さらには「居場所と出番のある社会」ということにもつながると思っているので、この方向性は、次の選挙において何らかドラスティックに変えるような政策ではありません。地域が崩れ、派遣村ができ、格差が広がり、医療崩壊といわれた3年半前と比べれば、いろいろな手当ての中で改善しつつあるこの変化の兆しを、より強い変化にしていただくために政権を継続させていただきたい、というのが、このマニフェストの本意であり国民に対して訴えることだと思っています。


成長への具体的プランはないのか

工藤:今の話はよく分かりました。ただ、マクロ的に、政府ができることと民間ができることというのはやはりあって、経済運営に関して、供給ゾーンを変えることが経済成長だという認識を持っているのであれば、規制緩和や法人税の問題も含めて、そこに対する具体的なプランが必要だと思うのです。そういうことが選ばれていないのですよね。産業としてのターゲットゾーンを決めているだけです。

福山:我々は菅政権の時に法人税の税制改正の議論をして、その後東日本大震災があって復興財源に回すということでできなかったのですが、もともと我々が法人税減税をしようとした時に反対したのは自民党ですからね。これは事実として申し上げます。それから、中小企業の軽減税率は一定程度前に進んでいます。その立ち位置は、我々は変えません。

工藤:全体的には、さっきの自殺に象徴されるように、国民が安定して生活できるところに非常に重点がありますよね。経済を大きく変えるということよりも、共に生きる社会ということが、優先度が高いという理解でよろしいのでしょうか。

福山:いや、そういうゼロサムではないと私は思いますね。だって、そうでなければ、政権交代直後になぜ名目で成長していたかの説明ができません。現実にデフレギャップはこの3年で15兆円改善されているわけですから、それは一定の効果があったということですので、経済をないがしろにして国民生活に何らかの手当てをすることで、我々がゼロかサムかどちらかという議論をしているわけではない。そのために成長戦略も作ってきたということです。

工藤:わかりました。

福山:言論NPOさんのこういう活動が、我々のもともとの主たるマニフェストの目的なので、とてもありがたいです。

工藤:選挙戦の中で、もう少し政策をいろいろと深めていきたいと思っています。よろしくお願いします。どうもありがとうございました。