「麻生政権100日」評価 結果公表

2009年1月06日


言論NPOの「麻生政権100日評価アンケート」結果を公表します

有識者アンケートで浮かび上がった「麻生政権の100日評価」と「日本の政治」

 麻生政権は2009年1月1日に発足後100日を迎えました。どのような政権も、発足後100日を過ぎれば有権者による厳しい監視にさらされなくてはなりません。その立場から、言論NPOではマニフェスト評価の一環として2006年の安倍政権から、「100日評価アンケート」を行い、その結果を公表しています。今回の麻生政権の100日評価は、安倍政権、福田政権に続き3回目になりますが、今年は衆議院の解散・総選挙が行われる年でもあり、設問は麻生政権やその政策課題の評価に留まらず、現在の政治状況や政界再編などの課題についても行われています。

 なお、アンケート調査は2008年12月中旬から下旬に調査票の郵送やメールでの送付によって行われ、言論NPOの活動にご協力、あるいはご参加いただいている各分野の有識者、ジャーナリスト、企業経営者、官僚など363人から回答をいただきました。

 回答者の属性は、男性が86.5%、女性が12.4%となっています。年齢別でみると、10代が0.8%、20代が12.4%、30代が9.9%、40代が17.6%、50代が24.5%、60代が21.8%、70代が8.5%、80代が1.9%です。

 回答者の職業は、公務員が7.7%、サラリーマンが20.1%、企業経営者が6.9%、企業幹部が7.2%、マスコミ関係者が12.9%、学者・研究者が4.4%、NPO・団体関係者が7.2%、政治家が0.8%、大学生が8.0%、自営業が4.7%、自由業が5.8%、その他が12.7%となりました。

期待も支持も安倍、福田両政権よりかなり低い「麻生政権の100日」

 今回の調査でまず浮かび上がったのは麻生政権に対する非常に厳しい見方です。100日時点の「麻生政権」の支持率は11.0%に過ぎず、「支持しない」という回答は70.8%に達しました。これは、100日時点の過去の安倍・福田両政権の支持率(安倍政権:24.0%、福田政権:31.9%)と比べてもかなり低い水準です。

 また、発足時に抱いていた期待と比べて100日たった時点はどうか、との問いに対して「そもそも期待していなかった」という回答が51.8%ともっとも多く、次いで「期待以下」が37.7%となりました。「期待通り」はわずか6.9%、「期待以上」は1.4%にとどまりました。これまで「期待以上」あるいは「期待通り」と答えたのは安倍政権が18.0%、福田政権は30.4%ですから、麻生政権に対する失望はかなり高いことが分かります。

 では、麻生政権は誕生時、どんな役割を期待されたのでしょうか。麻生政権に本来期待されていた役割を問う設問で最も多い回答は、「速やかに解散・総選挙を行い、民意に基づく政治を復活させること」が53.4%と半数を超えました。続いて回答が多かったのは、「日本の将来に向けた新しい仕組みや制度の組み立ての目処をつけること」の24.2%で、「日本経済に迫る経済不況を克服すること」は9.6%と、かなり差がつきました。麻生政権はまさに勝てる候補として強い政権基盤を作るための選挙の断行を期待されましたが、その選挙のタイミングを失い、またそれに代わる政権の役割への期待を作り出せなかったところに本質的な弱さがあります。

 また、この100日時点で「今後の麻生政権に期待できるか」という質問に至っては、「期待できない」と回答した人が77.4%にも達する一方、「期待できる」と回答した人は6.9%に過ぎず、麻生政権の今後の継続にも否定的な見方が広がっています。

 こうした麻生政権の支持率が急落している原因(いくつでも回答)については、「発言面での失点が続き、リーダーとしての重みを感じないから」という回答がもっとも多く、60.1%となりました。ついで、「定額給付金など、実効性のないばら撒き型の政策を行おうとしているから」が55.1%、「経済対策を優先するといいながら、政策決定にスピード感がないから」が54.8%、「党内や政府内をまとめる指導力が不十分だから」が53.2%とそれぞれ 50%台で並んでいます。

首相の資質は、五点満点で1.8点と評価は最低

 次に、麻生政権の100日時点までの政権運営や業績評価に関する設問では、まず、内政問題・外政問題の評価について質問したところ、「いずれも評価できない」との回答が58.7%と6割近くを占めました。特に内政問題に関する実績を評価する回答はわずかに1.7%にとどまる一方で、外政問題については15.2%が「評価できる」と回答しています。

 また、麻生首相の首相としての資質に関して、①首相の人柄、②首相の政策決定におけるリーダーシップや政治手腕、③首相としての見識、能力や資質、④政権として実現すべき基本的な理念や目標、⑤既に打ち出されている政策の方向性、⑥これまでの政策面での実績、⑦麻生政権を支えるチームや体制づくり、⑧国民に対するアピール度、説明能力、の8項目について、「よい」(5点)「ややよい」(4点)「ふつう」(3点)「ややよくない」(2点)「よくない」(1点)「わからない」(0点)の6段階で評価してもらいました。

 今回の評価では、この首相の資質を問う8項目の評価を5点満点で点数化してレーダーチャートで表示している。8項目の平均は1.8点であり、これは福田政権の平均点2.3点、安倍政権の2.2点よりもかなり低く、人柄だけは2.5点(福田政権は3.4点、安倍政権は3.3点)と2点台ですが、他の項目は全て1点台となっており、全ての項目で福田、安倍政権の点数以下になっています。

 特に「首相の政策決定におけるリーダーシップや政治手腕」では回答者の81.3%が、「首相としての見識、能力や資質」は79.6%、「国民に対するアピール度、説明能力」では79.0%とそれぞれ8割程度の人が、「よくない」あるいは「ややよくない」と回答しています。

 次に麻生政権がこの100日の間に行った21項目の個別課題への対応や政策などの取り組みに関して回答者に評価を求めました。

 それぞれの課題にこの100日時点で、「適切」「うまく対応できていないが、今後期待できる」「うまく対応できておらず、今後期待もできない」「わからない」の4段階で評価してもらったところ、「適切」あるいは「うまく対応できていないが、今後期待できる」が「うまく対応できておらず、今後期待もできない」を上回ったのは一つの項目もなく、全ての項目が「うまく対応できておらず、今後も期待できない」と判断された。

 唯一プラスとマイナスの評価が分かれたのは、消費税増税を「全治3年」後に位置付けたことで、41.4%の人が「適切」あるいは「うまく対応できていないが、今後期待できる」と判断しています。

 また評価が低く、「うまく対応できておらず、今後期待もできない」と7割を超す人が判断した項目は、「政策決定における政治主導体制の確立」の 78.5%、「政策実行にための与党内、政府内、政府与党間の調整」の78.2%という政治のリーダーシップに関わる項目のほかに、「麻生政権の改革姿勢」の75.8%、「当面の緊急経済対策」の74.9%、「行政改革」の72.7%、「社会保障制度改革」の71.6%などの政策課題がならびました。

「早期解散」や「政権交代」への期待はかなり強い

 こうした麻生政権の100日評価を前提に、今回ではいまの政治の課題についても評価の一環で回答を求めました。まず衆議院の解散と総選挙の時期については、「すぐにでも行うべき」が48.8%と半数近くを占めました。ついで「第二次補正予算案や09年度予算の目処がついてから」が25.6%で続き、早い時期での解散を求める声が高まっています。

 これに対して、「現在は金融危機や経済不況に政治が協力して対応すべき時期であり、解散・総選挙は考えるべきではない」という回答は17.4%に留まりました。

 総選挙が行われた場合、政党が国民に説明すべき課題は何か(2つまで回答)という質問に対しては、「日本が目指すべき社会と改革の目標、そのための道筋」が56.2%でもっとも多く、「国内の経済不況に対する緊急的な経済対策において国民生活の何を守るかという目標とその中身」が47.1%で続いています。

 総選挙の結果として、どのような政治体制を期待するかと聞いたところ、「自民党あるいは民主党の分裂や政界再編」を期待する回答が32.2%でもっとも多い回答でしたが、「民主党と他の政党(自民党以外)の連立政権」を期待する回答が23.1%、「民主党の単独政権」を望む回答が21.5%となり、合わせると4割を超す人が民主党を軸とした新しい政権、政権交代を求めていることが分かりました。「自民党の単独政権」は5.0%、「自公連立政権の継続」は1.4%にすぎません。

日本の政治は新しい政治や政界再編の過程にある、との認識

 一方、現在の日本の政治の現状をどう見ているか(2つまで回答)の認識については、「既存政党の限界が明確になり、政界再編や新しい政治に向かう過渡期」という回答がもっとも多く54.5%となりました。これに「政権交代によって、これまでの政治を一度壊すべき時期」が46.8%で続いています。一方、「世界経済の混乱に対して、政治が協力して取り組むべき時期」は31.7%、「日本の改革のビジョンや課題解決の競争によって、本当に二大政党制をつくりだす時期」は29.8%にとどまっており、日本の政治に対し、多くの人が新しい政治に向けての変化の過程にあるとの認識を示し、既存の政治を軸とした見方は少なくなっています。

 これと関連して、日本の既存政党に「期待していない」という人も48.8%と半数近くにのぼり、「期待している」の20.1%を大きく上回っています。期待しない理由については「既存の政党は構想力が乏しく、課題解決能力が不足しているから」という回答が45.2%でもっとも多く、次いで「既存の政党は異なる意見が混在するなど組織として体をなしていないから」と「多くの政党は既存の団体の利害を反映しており、一般市民の声を反映できないから」がそれぞれ18.1%と14.1%で続いています。

 このように、現在の政治や既存政党に対する厳しい認識が広がっていることも明らかになっています。

民主党への期待ではなく、政治構造へのチェンジ(変化)に期待

 このような政治への認識が高まる中で、民主党への政権交代に賛成すると回答した人は56.7%と半数を越えており、前回の福田政権100日評価での数値(43.1%)から10ポイント以上増加しています。

 ただ、その理由としては、「民主党の政策の方が自民党よりも優れているから」という回答は6.3%にとどまり、「政治の構造を変えるためには一度政権を変えるしかない」という回答が70.9%にのぼりました。民主党への期待は、民主党の政策よりも政権交代そのものによる日本の政治の変化を求める声が多いからという結果になりました。

 一方、民主党への政権交代に反対する人は21.8%いましたが、その理由としてもっとも多かったのは「民主党の政策も基本的にばら撒きで日本の未来に答えを出していないから」の49.4%でした。

 さらに、実際に民主党への政権交代が起きた場合、どのような状況になると思うかという質問に対しても、「混乱が生じるものの、日本の政治や権力構造に新たな変化が期待できる」という回答が51.5%と半数を超えています。一方「民主党政権では今の危機に十分な対応ができず、再編や連立などの混乱が繰り返される」という回答は25.1%となっています。

日本の政治は、有権者との約束を重視しているかは疑問

 現在の日本の政治がポピュリズム(国民の人気取り)に流れているのではないかという質問に対しては、現在の日本の政治にポピュリズムの傾向があるとする見方はあわせて7割近くになっています。ただ、その評価に関しては「ポピュリズムの傾向はあるが、他国の政治にも同じ要素があり本質的な問題ではない」とする回答が36.1%、「ポピュリズムに流れており非常に危険」という回答が32.0%でほぼ並んでいます。

 ポピュリズムに流れていると考える理由(2つまで回答)としてもっとも多かったのは「政治家の政策に予算のばら撒きで国民の歓心を買う傾向が定着し、むしろそうした対応を競っているように見えるから」で43.7%、ついで「政治がメディアの報道を意識しすぎ、振り回されているから」が35.2%、「与野党が相手のあら探しに固執し、建設的な議論が行われていないから」が32.8%で続いています。

 さらに、政党のマニフェストの作成状況や実行状況を踏まえ、日本におけるマニフェスト型政治の現状に関する認識を聞きました。これに対しては、「各党のマニフェストは実際には従来の選挙公約と変わらず、国民との約束を軸とした政治を行おうとしているか疑問」という回答が半数以上の52.6%を占めました。これに「マニフェストのブームは衰退し、政治家はマニフェスト型政治への関心を失っている」という回答が16.3%で続き、「各政党ともそれなりのマニフェストを提出しており、マニフェスト型政治が定着しつつある」という回答は14.6%に留まりました。

 また、現在の日本の政治に問われている政策課題で、優先的に取り組むべき課題(3つまで回答)に関しては、「世界同時不況への対策」が43.3% ともっとも多く、「日本の中長期的な経済成長戦略」33.1%、「所得格差の、地方格差などの歪みの是正」32.0%との回答が続いています。また今回の経済対策で先送りされた「財政再建」は19.8%、福田政権時のアンケートでもっとも多かった「年金制度の改革」は18.7%などが並んでいます。

改革は必要だが、進め方には批判的な見方が強まる

 次に各政策課題ごとの評価について聞いています。

 まず、小泉政権下で始まった構造改革について現時点での考えについて聞いた(2つまで回答)ところ、最も多い42.7%の人が「まだ日本の政治構造は既得権益を軸に構成されており改革途上」と答えており、既得権益の打破という視点では改革を評価する見方があります。ただ、「壊す改革だけで組み立てがなかった。新しい仕組みづくりに軸足を移すべき」が38.8%、「構造改革は社会の歪みを大きくしただけ」が34.2%、「必要なサービスの供給不足をもたらしたので公共の役割の見直しが必要」が32.8%と、これまでの日本での構造改革の進め方を批判する回答は多く、「改革の流れをつくったので、止めるべきではない」と評価する回答は18.5%にとどまりました。

日本経済の「全治三年」自体が信認を得ていない

 麻生政権の経済政策についての考え方で、麻生首相が世界的な経済危機の中で日本経済を「全治3年」とし、財政再建よりも景気対策を優先して、その後の消費税率の引き上げを主張したことについて聞いたところ、「そもそも経済対策の内容自体に、日本経済を回復させ次の成長を期待させる展望が見えず、「全治3年」そのものが疑わしい」との回答が41.9%と最も多くなりました。ついで「姿勢は正しいが、経済対策の効果や増税の規模などについての十分な説明もなく、約束を実現させる担保もないため、その実効性は疑わしい」が25.1%となり、「この経済危機下で当面は経済対策、然るのちに増税という形で、景気と財政の問題を整理しながらも初めて増税を明言した姿勢は正しい」と評価する回答は17.9%にとどまりました。

 また、麻生政権が打ち出した2兆円規模の定額給付金の是非については、支持する回答は、「賛成」と「どちらかといえば賛成」を足しても8.8%と 1割に届かなかった一方で、「反対」「どちらかといえば反対」との回答は合わせて84.9%と8割を超え、定額給付金に対する反対が多いことが改めて明確になりました。

 続けて、「反対」「どちらかといえば反対」と回答した人に、その理由を聞いた(2つまで回答)ところ、「2兆円もの財源を使うなら、他にもっとやるべきことがあるから」との回答が78.2%と最も多くなりました。ついで「一時的な給付金では効果が期待できず、何のための政策か分からない」、「選挙対策のためにカネで票を買おうとする姿勢に見える」との回答が46.8%、31.5%となっています。

 最後に、道路特定財源の一般財源化についてですが、麻生政権は暫定税率を維持したまま、実質的に道路事業を確保した点に関して、「地方への道路整備のための予算ばら撒きであり、一般財源化の趣旨に反するので反対」との回答が37.5%と最も多くなり、「道路整備のための特定財源制度はもはや不要であり、暫定税率そのものを廃止し、道路利用者への重課税をやめるべき」が27.5%と続きました。

 一方で、「一般財源化を図るとしても、そもそも道路整備のための受益者負担を求めることを大義名分として道路関係諸税が課せられていることから、妥当な決着と評価できる」との回答は10.5%にとどまりました。

 麻生政権は2009年1月1日に発足後100日を迎えました。どのような政権も、発足後100日を過ぎれば有権者による厳しい監視にさらされなくてはなりません。その立場から、言論NPOではマニフェスト評価の一環として2006年の安倍政権から、「100日評価アンケート」を行い、その結果を公表しています。