竹中平蔵氏 第2話:「安倍政権に問われている歴史的な課題」

2007年2月19日

070216_takenaka.jpg竹中 平蔵(慶應義塾大学教授,グローバルセキュリティ研究所所長 )
たけなか・へいぞう

1973年一橋大学経済学部卒。89年ハーバード大学客員准教授、90年慶應義塾大学総合政策学部助教授を経て96年より同教授。2001年経済財政担当大臣に就任後、金融担当大臣、郵政民営化担当大臣、総務大臣を歴任し06年9月に退任。11月に慶應義塾大学教授・グローバルセキュリティ研究所所長、 12月より現職に就任。

安倍政権に問われている歴史的な課題

次に私が指摘したいことは、安倍政権に歴史的に問われている課題についてです。これを考えれば考えるほど、私は安倍政権は英国のブレア政権と実はかなり似たミッションを持っていると思うようになりました。

1つは教育改革です。そして英国病を脱して強い経済をつくるということです。具体的には「上げ潮政策」です。加えて、イギリスはソフトパワー強化政策をやりました。日本で言うと、アジアゲートウエー構想なのです。そういう意味では安倍政権が取り組もうとしている課題は、ブレア政権は非常に重なるところがあります。

私は歴史的な役割として、安倍政権には日本経済の成長力を強くしてソフトパワーを高め、その基礎にある人間力の教育に取り組んでほしいと思っています。その意味では安倍政権になってからその芽は全て出ていると思います。では、その芽が育ち実現できるような道筋が十分できているかどうか、と言われればまだこれからです。

成長力強化については、最初から安倍さんも言っており、それを進める意思があることも分っています。しかし、問題はアジェンダ設定がまだできていないことです。経済成長のためには「オープン・アンド・イノベーション」と言っても反対する人は誰もいません。ではどうするのかというと、やはりアジェンダが問われるのです。

教育改革も、17人の委員というのは多過ぎます。あのように大きな委員会をつくると結局、役人が最後に出てきてまとめざるを得なくなるからです。5人か6人でいいのです。また現状においては教育再生会議は現場の議論に終始しています。より長期的な観点から日本という国がグローバルプレーヤーとして生き残るためにどのような人材が育成されなければいけないか、そのために何が必要かということの議論をしてほしいのです。

今はいじめの問題とか、精神的なものとか、そういう現場の話にまだ終始しています。現場の話は重要ですから大いにやってもらったらいいのですが、それを超えなければ教育再生会議の意味はないと思います。

アジアゲートウエー構想に関しては総理が去年の9月末の所信表明演説で言っているにも関わらず、そのほとんどが動いていません。先日の施政方針演説で改めてこのことを総理が掲げて5月までに案をつくると言ったのはいいと思います。問題は、戦略は細部に宿りますから、官僚に牛耳られないように、ほころびを持たさないようにできるかどうかだということです。成長戦略で重要なのはアジェンダをきちんとつくって、それを詰めていくということに関して、司令塔的にやる機能を政府の中にきちんと持つことだと思います。 

国会の前日には、「進路と戦略」が閣議決定されましたが、その数字に基づいて客観的に読めば、2010年代の初頭にプライマリーバランスを回復するという目的のために消費税を上げる必要はない。そういうことを明確に言えばいいと私は思います。ところが、現実にはそれを言いかけて口をつぐんだわけです。それは結局、そういうことを言うことで国会がもめないように配慮があるのでしょう。

経済学のタームで言えば、収益最大化か費用最小化という問題があります。本当は諮問会議で改革を一生懸命やって、改革の収益が最大化するようなことをやってほしいのです。そのためには議論はもめなければだめなのです。もめるということは大変重要で、2つの効果があります

1つはもめることによって、何が正論かという論点が明らかになる。だから政策の道が見える。2番目にもめることによって、国民は改革している政権を支持するのです。政治的にも経済的にも、もめることのメリットは大変大きいのです。ですから、もめて収益を最大化すればいいのですが、今はもめないように、つまり費用最小化でやるために、そういうクリアな発言をしないのです。

最近、経済財政諮問会議で出される提案ペーパー(いわゆる民間議員ペーパー)の数が減っています。提案ペーパーを出すともめますが、それを避けようという動きがあるように見えるのです。

竹中 平蔵(慶應義塾大学教授,グローバルセキュリティ研究所所長 )