【国と地方】 穂坂邦夫氏 第4話:「改革を妨げる市町村の実態」

2006年5月26日

穂坂邦夫氏穂坂邦夫(前志木市長、地方自立政策研究所代表 )
ほさか・くにお
profile
1941年埼玉県生まれ。埼玉大学経済短期大学部卒業。埼玉県職員、足立町(現志木市)職員を経て、志木市議会議長、埼玉県議会議長を歴任。2001年7月、志木市長に就任。2005年7月から地方自立政策研究所代表

「改革を妨げる市町村の実態」

 地方分権を考えるためには、二層制、つまり、都道府県と市町村の問題を何とかしなければなりません。

 私は、市町村合併と道州制はワンセットだと思っています。それは玉突きだからです。県が空洞化するから国から仕事をもらう。それには県が小さすぎる。仕方がないから、再編して道州制にする。そこまで行かないのであれば、市町村合併をして財政力を強くすると言っても、実感としての効果は出てきません。

 読売新聞が行った市町村合併についての全国調査では、効果があったと言った住民はわずか4%で、18%が悪くなったとし、残りの65%は変わらないということでした。

 市町村の合併には問題が確かにあります。たとえば議員報酬は高い方に合わせてしまう。特例法によって職員の待遇などを阻害してはいけないという条項も入っています。反対すると合併が進まないからで、市町村が合併しやすいようにという飴です。

 だから合併におけるモラルハザードの問題は指摘どおりです。志木市の実例で言えば、消防が先行して合併しましたが、10,年で給料を同じにするということです。志木市の出身と和光市の出身で、同じ高校、大学を出て同じ年齢で給料が違うと怒ります。民間でしたら、高い方を下げて、低い方を上げるということができるでしょう。ところが、条項があるので、高い人を低くはできず、一番高いところに合わせることになる。志木市は5年でそれをやりました。

 普通の企業ならあり得ないようなことが市町村合併ではたくさん起こっていますが、それは、所詮は人の金であり、中央依存体質だからです。
自立と言っても、自己決定権と自己責任は表裏一体ですから、両方がなければ依存体質になります。住民はお任せでしょう。あとは中央集権的なやり方ということになり、国と都道府県という上の二人の殿様の顔を見ていればなんとかなる、そう難しいことは考えないほうがいいということで、地方も50~60年やってきたわけです。

 地方交付税制度も地方のインセンティブを失わせる大きな原因になっています。地方は結構、お金を持っています。交付税制度を抜本的に改革して、職員を少なくして給料を削り、議員の数を少なくする、長の給料を半分にするといったことがなければ危機感が出ません。

 合併特例法では議員の在任特例制度がありますし、職員はリストラできません。終身雇用制で失業保険がなく、分限制度があるといっても余程のことがなければ裁判になると負けてしまいます。地方自治法、地方公務員法、合併特例法など、縛りが色々とある。一時期は、助役や教育長といった特別職は部長職より高い給料が望ましいという通達がありました。何十年も勤めた部長は年俸1,500万円の自治体もあるでしょう。志木市の職員全体の平均は820万円、埼玉県は904万円、そのくらいの高給取りなのです。部長のもっと上が助役なのです。

 要するに、中央集権的制度などによって全国一律で大きな自治体も小さな自治体もやり方は一緒です。どこも知事の下には副知事がいて出納長がいる。市町村には長の下に助役がいて収入役がいる。まさに護送船団方式です。本来、三位一体改革はそうした硬直化に答えを導き出す改革だったはずでした。

 しかし、それが矮小化されてしまい、損だ得だ、補助率を上げた下げたの議論になってしまったのです。


※第5話は5/28(日)に掲載します。

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 地方分権を考えるためには、二層制、つまり、都道府県と市町村の問題を何とかしなければなりません。 私は、市町村合併と道州制はワンセットだと思っています。それは玉突きだからです。県が空洞化するから国から仕事をもらう。