「第8回言論NPOフォーラム」参加者からのご意見・ご質問の回答 page1 ―増田寛也氏への質問&回答―

2004年11月09日

masuda_h040729.jpg増田寛也 (岩手県知事)
ますだ・ひろや

1951年生まれ。1977年東京大学法学部卒業、同年建設省入省。千葉県警察本部交通部交通指導課長、茨城県企画部鉄道交通課長、建設省河川局河川総務課企画官等を歴任し、1994年退職。1995年4月岩手県知事初当選。2003年4月岩手県知事三選

言論NPOは、2004年10月13日、東京都内で第8回目のフォーラムとして、「ローカル・マニフェストと地方の自立」というテーマを選び、新しい政治の仕組み、とくに地方から政治を変える動きをつくりだすことをめざすにはどうしたらいいか、という点に関して、それぞれの分野で先見性をもって行動されている3人のゲストスピーカーをお招きし、議論しました。

フォーラム自体の報告は、既にホームページ上に掲載されており、ご覧いただければと思いますが、今回は、その議論の詳細を再録しました。

「第8回 言論NPOフォーラム」報告はこちら
「第8回 言論NPOフォーラム」議事録

■増田氏への質問&回答

Q1: 文化ソフトパワーなどコミットメントが数値化しにくいマニフェストの評価は、どう行うのか。
A1: マニフェストの構成要件の一つに「検証可能性」が挙げられます。従って、目標を数値で明示していないものは、従来の公約の域を出ておらず、マニフェストとは言い難いものであると思います。 内容が文化保護・育成政策に係るものであれば、例えば「○○文化の継承者を育成する○○養成講座の受講者数を○年までに○人にする」といった具体的数値目標を示す必要があると考えます。


Q2:昨年の統一地方選挙の中、増田知事が掲げたマニフェストについて、県民の皆さんからの関心を強く感じましたか?
業界、利害関係者から、マニフェストの内容についての質問や批判はどのようなものがありましたか?
A2:
マニフェストは作成したものの、公職選挙法上配付できませんでしたが、地方紙等のマスコミが私の政策を取り上げてくれたことで、県民の皆さんにその内容がある程度伝わったものと思います。
やはり、公共事業三割削減が最も反響が大きく、多くの批判等をいただきましたが、マニフェストは言わば県民との約束であり、それを実行することが私の責務であると考えています。


Q3:昨年の統一地方選挙の中、増田知事が掲げたマニフェストについて、増田知事が公共事業削減などの"苦い薬"の入ったマニフェストを書けたのは、2期目で政権基盤が安定していたからではないのか?
A3:
確かに、マニフェストに「苦い薬」を盛り込むことができた理由の一つに、「知事を二期務めてきたこと」が挙げられます。ただし、二期の経験により、岩手の財政構造をどのように転換する必要があるのかが見えてきたということであり、必ずしも政権基盤が安定していたということではありません。
また、今回、私のマニフェストに「苦い薬」を入れたことで、従来の公約との違いを県民は感じとってくれたのではないかと思います。県民は部分的ではなく、トータルで判断する目を持っており、今回「苦い薬」を入れなければ、今までの公約と変わらないということになり、逆にマニフェストというものに失望したのではないかと思います。


Q4:岩手の場合は、県民がマニフェストを支持したとは単純に思えず、そもそも圧倒的な支持がある増田知事だから当選したとも言えると思います。県職員の方も皆さん志が高く、マニフェストで当選した知事だからというより、すでに自立に向けて取り組んでいるように感じます。 (1) その点はいかがですか?
(2) また、今後、知事と県職員の(良い)サイクルを県民一人ひとりのレベルにどう広げ、ある種のギャップを埋めていかれますか?
A4:
地方紙等のマスコミが私の政策を取り上げてくれたことで、県民の皆さんにその内容がある程度伝わったものと思いますが、公職選挙法上配付できなかったため、政策の伝達は十分ではありませんでした。しかし、より重要なことは、マニフェストを掲げ当選することで、「県民の支持」という裏づけの下、マニフェストを改革や政策推進の大きな起爆剤とすることであると考えていました。
個々の職員も、マニフェストに公共事業三割削減を明記したことで、知事が責任をとることが明確化され意識改革が進むと共に、改革のスピードを速めることに繋がったと思います。
また、マニフェストが有効に機能するためには、(1) マニフェスト作成、(2) 政策論争、(3) 選挙、(4) 達成度検証というマニフェストサイクルを確立することが必要です。9月8日のローカル・マニフェスト検証大会では、私を含め5人の知事が達成度の検証をしていただきました。こうした検証の動きが県民、あるいは県内のNPOの中から出て、行政への住民参画の機運が高まることを期待しております。


Q5:「ローカルパーティ」の概念には正直目から鱗が落ちる思いがしましたが、一方で地方選挙においては「共産党vs. others(各党相乗り)」や「無投票当選」のケースが多く、「対立軸」自体が選挙民にはなかったのであり「有権者の無関心」を助長してきたのではないかと思っております。
そこで、「ローカルパーティ」の生まれる要件、条件についてどう思われるか?(有権者の関心を高めるきっかけ)について、ご意見をいただければと思います。
A5:
国政レベルと地方政治レベルでは、議論の対象が自ずと異なってきます。(例えば、国会では、外交、年金問題について各党がそれぞれの政策を掲げ議論しているが、地方議会ではそれぞれの自治体により、議論の対象が異なる。)
地方政治においても、その自治体固有の問題を政党(政党の地方支部)間で政策を出し合い議論できれば、対立軸が明確になると思いますが、必ずしもそのようにならない部分もあるようです。
このような状況を補うために、地方議会では、ローカルパーティを結成した動きもあるようですが、ローカルパーティが生まれる要件としては、以下のようなことが挙げられると思います。

(1) 自治体に内在する問題を複数の議員が共通認識として持っている
(2) 志を同じくする議員(候補者)が複数存在している
(3) 有権者、様々な分野の専門家、NPOとのネットワークを有している
(4) 政策立案能力を有し、ローカル・マニフェストを作成できる
(5) ローカル・マニフェストを自己検証する機能を有している
(6) 既存政党とのしがらみがない


Q6:マニフェストと総合計画の整合性について 4年で変わるマニフェストと20年スパン総合計画は整合できないとの指摘がありますが、いかがお考えでしょうか。
A6:
国マニフェストの作成に当たり、数値目標やロードマップなどで任期4年間の枠にのみとらわれると、長期的な視点がなおざりになってしまいがちです。このため、10年先のビジョンを持った上で、最初の4年間に実施すべき目標を示すことが大事であると思いました。
地域の将来像なり理念というものをしっかりと持っていないと、目先の業績で点を稼ごうという傾向に走りがちであり、やりやすいものばかり取り組むことにもつながってしまいます。
私のマニフェストは、平成11年からスタートした岩手県総合計画をベースとしつつも、社会経済情勢の変化に応じた指標数値の変更や新規の政策項目の追加等を行ったものであり、岩手県総合計画との整合性が図られた内容となっております。


Q7:次期総選挙において消費税5%から8%(or10%)を自民党あるいは民主党は明確にマニフェストに書くべきだと思いますが、書いた場合議席は大幅に減らす結果になるでしょうか?
A7:
将来ビジョンや財政見通しを踏まえた上で、消費税率を引き上げることが適当であるとの判断に到ったのであれば、政党のマニフェストに、そのことを明示して国民に説明することこそ責任政党の責務であると思います。そうした「苦い薬」を盛り込まずして、国家財政を再建することは困難であることは、周知の事実であります。議席を減らすことを恐れて、耳当たりの言いことばかり言っているようでは、国民の政治不信は募る一方であると思います。


Q8:(1) いわゆる革新派知事の多くが中央省庁若手官僚出身ということに大変関心を持っている。

(2) 然も、もし誤解が無ければ自治省出身(の人も多いが)でないところに注目している。

(3) おそらく、こういう知事は中央官庁の経験(苦い?)を通じて改革の心意気が強いということと思うし、

(4) また、改革実現の手段として中央官庁の泣き所を知っておられるからだろうか?

(5) 以上のことについて増田知事のご意見をいただきたい。また

(6) (2)が正しいとすれば、自治省出身知事が決意を新たに推進原動力になって下さるのが有効だと思われるが、そのmotivationをあげる為の効果的な方針はどういうものがあるかsuggestionをいただきたい。
A8:
私自身、旧建設省の官僚出身ですが、国が補助金制度を背景に地方に対して様々な関与を行っていることや補助金制度に依存する地方の姿を目の当たりにしてきました。このような経験が、地方が真の自治を勝ち取るためには、国と地方の歪んだ関係を是正し、是非とも改革が実現されなければならないとの思いを強くし、私の提言活動等の具体的行動に結びついております。
また、このような思いは官僚出身であるか否か、出身省庁の如何にかかわらず、全ての知事が共通に持っております。現に、鳥取県の片山知事をはじめとする旧自治省出身の知事も改革実現に向けて先導的役割を果たしております。


Q9:「マニフェスト」を日本語で表現するとどのようになりますか?(一文字から四文字ほどで。海外の自治・民主主義に輸出出来るような言語が必要と考えるため)
A9:
マニフェストは「政権公約」、「政策綱領」といった和訳がなされています。私は、名称よりも、まず我が国の政治風土にマニフェストを根付かせて、マニフェストサイクルを確立することが先決であると考えます。また、昨年度、流行語大賞を獲得したことから、「マニフェスト」という呼び名は定着した感がありますので、あえて和訳することなく、そのまま使った方がいいと思います。


Q10:マニフェスト・サイクルは民主主義に律動を与えるので、こうした動きが地方から出来たことは評価。ただ現状全国的に市民レベルでマニフェストという考え方が定着したとは言えない。どうすれば定着するか。例えば(現状の問題点、制約)
・公約と何が違うのか(マニフェストもpopulismに引っ張られれば従来と変わらない)
・理念の裏打ちがない
・市民との対話が不十分
・マニフェストに記述のレベルのバラツキ(形骸化、具体性に欠ける)
・財源的裏付けの制約から地域特性が出しにくい
・マニフェストの実行期限が不明
・マニフェスト・サイクルが一巡していない(成功体験がない)
・第三者による検証基準が不明
A10:
昨年4月の統一地方選挙でローカル・マニフェストが登場してから、まだ1年半足らずしか経過しておりませんが、昨年の総選挙において各党がマニフェストを掲げるに到ったことは、その定着に向けて大きく前進したものと考えております。総選挙時には有権者の約4分の3がマニフェストを投票の判断材料にしたとのデータも出されております。
しかしながら、マニフェストは進化の途上にあり、ご指摘いただいた問題点を含め、まだまだ工夫改善すべき点が多いのが事実です。さらに進化させ、さらなる定着を目指すためには、ご指摘の問題点をクリアする他に以下のことも挙げられると思います。

(1) 公職選挙法を改正して、有権者にとってマニフェストがより身近なものにする。
 具体的には、
[1] マニフェストの「パンフレット又は書籍」の頒布場所を拡大する。
[2] 「パンフレット又は書籍」の内容をダウンロード可能な方法でインターネットのホームページに掲載できる旨の規定を新設するとともに、解説等も掲載し、選挙運動期間中に随時更新できる旨の規定を新設する。
[3] 選挙権を有する者は、誰でも政権公約に関する解説や論評をインターネットのホームページに掲載できる旨の規定を新設する。
[4] 選挙権を有する者は、誰でも政権公約について公開の学習会又は政党の代表や候補者を招致した公開討論会を開催できる旨の規定を新設する。
[5] 首長選挙においてもマニフェスト型の選挙を可能とするため、ビラの頒布を可能とする旨の規定を新設する。

(2) 任期満了時に達成度を検証することは勿論のこと、定期的に進捗状況を検証することにより、マニフェストの進行管理を厳しくチェックする。
私としても、今後も、マニフェストの進化及び定着に向けて一層の努力を払っていきたいと思います。


Q11:県・市町村の二重行政は効率が悪そうだが、現在の形を前提に考えられる。
税金を上げるという公約と、出費を減らすという公約はPrivateからみると全く。
経済財政諮問会議で「市場化テスト」が議論されているが、県・市町村レベルで「市場化テスト」をまわせるサービス施策はたくさんあるのか知りたい。
1)制度的なバリア 2)住民ニーズとの乖離 があれば、あわせて教えて欲しい。
税金や社会保障費を使う人はやめて欲しい。もう贅沢な時代は終わっている。
A11:
まず、三位一体改革で(国からの補助金を削減して)税源移譲により地方税額を増やす一方で、無駄な出費を減らしていくことは、「選択と集中」による地域の特性に基づいた、住民本位の行政を展開していく上で重要であると考えます。
「市場化テスト」については、「官から民へ」の流れを進める有効な一手法であると考えます。政府の規制改革・民間開放推進会議が実施する「モデル事業」の経過等を踏まえながら、県の事業でもふさわしいものがあるかどうか、慎重に検討していきたいと思います。
具体事例の一つとしては、公の施設の管理について指定管理者制度が導入され、本県では、平成17年度から具体に動き出します。これは、これまでの公的団体に限られていた委託先が、民間企業にも拡がることとなります。


Q12:公共事業30%減は理念としては県民は賛成したのでしょうが、その30%が自分の所に来るとは思っていないのでしょうか。理念→具体→予算、事業化のサイクルまで示していないので、理念に賛同していたのでは?
県民は予算、事業化まで下げないとイメージがわかないのでは?
そこまでローカルマニフェストで示すべきなのか。どうでしょう?
A12:
ご指摘のようなサイクルは、本来的には、マニフェストに明記すべきものと考えます。
しかし、「三割自治」という言葉に表れているように、本県を含め、自治体は自主財源が乏しく国からの依存財源が大勢を占めている状況にあります。さらに、国からの国庫補助負担金や地方交付税の金額が、前年度の1月末頃にならないと把握できない上、これらの金額も減少傾向にあり、首長候補者がマニフェストで自治体予算の具体的な見通しを示すことは大変困難な現状にあります。
従って、私は予測困難な歳入ではなく、歳出面に着目し、公共事業を30%削減すること等により一般財源200億円を生み出し、「夢県土創造枠」に集中的に振り向けることをマニフェストで提示しました。
ただ、やはり地方が自立して、地方自治体が自らの歳入を的確に予測できるのが、本来あるべき財政構造であると思いますし、首長候補者のマニフェストにも、「どのような歳入見通しの下、どういった分野に優先的に投資していくのか」を明示することが望ましい姿であると考えています。
今後も、地方の自立に向けて三位一体改革が実現されるよう、地方が一致結束して国に働きかけていきます。

 言論NPOは、2004年10月13日、東京都内で第8回目のフォーラムとして、「ローカル・マニフェストと地方の自立」というテーマを選び、新しい政治の仕組み、とくに地方から政治を変える動きをつくりだすことをめざすにはどうしたらいいか、という点に関して、それぞれの分野で先見性を