「日本の知事に何が問われているのか」/佐賀県知事 古川 康氏

2007年5月16日

 「日本の知事に何が問われているのか」をテーマに、全国の知事にインタビューを続行中です。
現在の発言者は古川佐賀県知事です。

camp4_saga.jpg古川 康 (佐賀県知事)
◆第1話:5/16(水) 「ローカルマニフェストはすでに踊り場にある」
◆第2話:5/17(木) 「知事の役割は何か」
◆第3話:5/18(金) 「都道府県は地域経営の単位としては不十分」
◆第4話:5/19(土) 「地元経済をどう振興し、県財政をどう改革するのか」
◆第5話:5/20(日) 「幕末の幕臣のような気持」

古川 康 (佐賀県知事)
ふるかわ・やすし

1958年生まれ。82年東京大学法学部卒業後、自治省(現・総務省)入省。自治大臣秘書官、長崎県総務部長などを経て、03年無所属から佐賀県知事に当選。日本で初めてマニフェストを掲げて選挙を戦った政治家の一人であり、当時全国で最も若くして知事となった。07年に再選を果たし、現在2期目。全国知事会政権公約評価特別委員長。
「がんばらんば さが!」をキーワードに、「くらしの豊かさを実感できる佐賀県」の実現を目指して県政に取り組む。

第1話 ローカルマニフェストはすでに踊り場にある

今回の統一地方選ではマニフェストの配布が二種類ですが、認められました。マニフェストを軸とした政治は地方でもこの間かなり進みました。もちろん問題点はないわけではありません。課題は幾つかあります。1つは、選挙の期間中はマニフェストをなかなか配れないので、政策を一番訴えたいときに、一番訴えたいツールが使えないことをどう考えるのかということ。佐賀県知事選挙の場合、マニフェストは13万枚つくれたのですが、手配りで配れたのは1万 8000枚だけでした。街頭演説している場だとか、例えば業界団体の人を集めて、毎日2000人とか3000人の集会をやっていればすぐ配れますが、それはあまりせずに、10人とか20人の小さな集会でずっと手配りで配布していたからです。手配りでは、スタッフが読んでくださいね、ぜひ目を通してくださいねと言えるし、私も演説で説明しますから見てくれます。残りの11万枚は新聞折り込みで配りましたが、読んでくれた人は、私は寡聞にしてほとんど知らない。10人ぐらいに聞いて1人いたのが私の家族でした。だから宅配が新聞折り込みという配布手段だけ認められているということにも違和感があります。

マニフェストを使った選挙はいろいろな意味でまだ改善の余地はあると思います。マニフェスト以前の選挙は、氏名連呼以外は選挙公報と個人演説会、政見放送しかなかった。個人演説会は支持者を集めるだけの会で、政策を訴える手段はほとんどなかったと言ってもいい。それに比べ、選挙というのは政策をテーマにするのだということが伝わった。このこと自体をまず、この4年間の運動として私は評価したいと思います。

マニフェストを4年前につくったときは、つくるだけで注目もしてもらえたし、自分なりに満足感もありました。その後、マニフェストが一般化して、特に首長選挙ではマニフェストを出さない人は本気か、という感じにもなりました。その反面、マニフェストは候補者が真剣につくればつくるほど分厚くなり、各項目が網羅されるようになりました。その結果、有権者から縁遠くなってしまったと思います。結局、市や県がつくる総合計画を縮小したようなものになってしまい、本当に何をしたいのか、どういったことを実現したいのかということが伝わらなくなってきている。それを私も1年ぐらい前から痛感していました。

つまり、マニフェストはつくるだけではだめで、有権者のもとに届けなければならない。とにかく手にとっていただける、どういう地域にしたいかがわかってもらえる、つまり、物理的に有権者のところに届くというだけではなく、有権者の心にも届くというものを私は実現したかった。

そう考えたときに、では、私がどれぐらい先を見据えて、どういう佐賀県になればいいと思っているのかということを絵にかいてみようと思いました。 10年後、佐賀県をこんなふうにしていきたい、そのために4年間があって、具体的に何をしていけばいいのかを書こう。そうしたら古川康は佐賀県をどうしようと思っているのかがわかっていただけるのではないか。そう思って、法定文書以外のマニフェストを試みにつくったのです。これはネットではずっとオープンにし続けられましたので、これをムービー版にしたものもつくりました。

しかし、私もいろいろ試みをしてきましたが、それでも今、地方のローカルマニフェストは踊り場にあるように思います。私は、自分なりに今度、1つの突き詰めた形をつくっていこうと思ってやっていきながら、一方で限界も感じました。それは、そもそもマニフェストが本来排除しようとした、あれもやります、これもやりますというものと似てきていないかということです。

財源問題を書こうとする。とにかく交付税1300億円の水準が12月20日にならないとわからない状態だと、先を見据えてこれをやめて、その分の財源をこうしますといったことが、ほとんど書けない。責任を持とうと思えば思うほどいい加減なことは言えなくなる。

現実には、踏み込んで書いた人は、結局、当選した後、否定しています。そして、選挙のときだけ選挙民に受けることを言って、知事になれば、すみませんでしたと言う。絶対それは許されないと思います。それを信じて投票した人はどうなるのか。勉強不足でしたと言うのか。私はそれを不思議に思っているのですが、メディアの人たちは割とそうした問題に甘いのです。

国政はまだマニフェストを軸とした制度をつくる側だからいいかもしれません。が、日本版ローカルマニフェストというのは、すでに踊り場かもしれません。皆さんがマニフェストをつくるのが当たり前になった。政策が大事だというのは共通認識になってきた。しかし、それ以上のものにはなっていない。もともと政策を通じた有権者との約束というマニフェストが本来実現しようとした部分までは、今のままではなかなか到達できないかもしれません。本当はそのためにも、地方の自立が必要なのですが。


第2話 知事の役割は何か

これまでの伝統的な知事像というのは、いわば制度に乗っている存在であり、それを変えるということではなく、執行者だったと思います。そこでは、着実に安心して任せられるという人が選ばれてきました。ところが、地域全体が揺らいでいる今は、安心して任せられる人だけでは、とても地域の将来は託せないという感じになってきている。まさに地域を引っ張っていける人を求めています。引っ張るということは、すなわち今までやってきただけではだめなわけですから、そこに新しい提案をし、改革をし、実行できる人が求められているということだろうと思います。

いわゆる改革派と呼ばれた人たちは、多分何かアプリオリな、当たり前という感覚がないのだと思います。すべてに対して、まず本当かというところから入っていく。片山(善博前鳥取県知事)さんのように内部の事情に詳しい者の犯行のように確信犯的に変えていくという人もいれば、浅野(史郎前宮城県知事。以下、同じ。)さん、橋本(大二郎高知県知事)さん、北川(正恭前三重県知事。以下、同じ。)さんのように、何も知らない市民ではなく、思いもあり、勉強もし、プロフェッショナルな市民の代表として県政を預かる人もいる。

私自身も、図らずも同じことを言っていますが、知事の仕事は職員のリーダー、トップであるという仕事と、県民の代表者であるという仕事の両方あるわけです。職員をまとめる仕事では、これは県庁株式会社の社長ですから、従業員の士気高揚も含めて組織を束ねていかないといけない。一方で、そこに出てくるアウトプットについては、株主である住民からチェックを受けるわけですし、株主の代表者でもあるわけです。逆に県庁の仕事がしっかりなされているかという、株主代表兼監査役のようなチェックもしなくてはいけない。一方で、別に社外監査役として議会があるわけです。その両方の仕事が自分にあることをどれだけ認識しているのかということではないかと思います。

佐賀県は大きな県ではありませんが、私はその中でもこの地域を引っ張るために様々な提案をしています。

実は、佐賀県は国に対して法人住民税と消費税を交換しないかという交換論を提案しています。もう2年ぐらい前になるかと思いますが、それ以来ずっと言い続けています。ですから、税源移譲ではなく、税源交換です。消費税は地域ごとの偏在が比較的小さいが、法人住民税は偏在が大きいので、同じ地方税収でも偏在がない方がいいからです。

または、地方交付税の財源である税のうち、法人税の割合を高めていく、その代わり、消費税を交付税の財源の対象から外していく、そうしたことを通じて、地方税を偏在のない税制に持っていくことが必要ではないかと思います。

もう1つ、私は東京都の直轄化を平成16年に提案しました。東京23区といっても、板橋と練馬は後から入ってきましたから、もともと21区や20区だったのですが、そのいわゆる東京をもう一度見直したらどうか。特に、私がイメージしている東京というのは都心3区、千代田、中央、港です。新聞で言えば、もう14版というか、最終版が配布されるような地域の経済活動は、実は東京都という自治体の事業活動の結果でも何でもなく、それは首都であることによるものではないのか。そうしたものを東京都にだけ帰属させることが税制上正しいのか。そういう首都機能のおかげによる税収を地方の共有財源にしていくようなことを考えたらどうですか、と提案したのです。

東京都知事選の結果についていろいろ思うことがあります。私は、首長というのは批判ではだめだと思うんです。何よりどういう東京都にしたいのかというところがうまく伝わってこないと、多くの都民の心をつかむことはできないし、そういう考えがご本人にないのであれば、私はやっぱり浅野さんは出ない方が逆に浅野さんらしいということを考えていました。別にアンケートをとったわけではないですが、根っこのところに田園風景の広がるようなふるさとを持っている東京都民の割合が、21世紀に入った今、激減しているのではないでしょうか。かつて、自分の精神的な尾っぽを田舎に残している人には、自分は稼ぎに来ているとか、自分たちの稼ぎの幾ばくかが仕送り代わりに地元の振興に使われることに対して、精神的に、あるいはほっとする感じがあったかもしれませんが、今や多くの東京都民の人たちはそうは思わないだろうと思います。

私たちも東京問題を大変な問題だと思っています。浅野さんを応援する人たちとは、東京を東京だけの東京にするのではなく、日本の共有財産のようなイメージで何かできないのだろうかと話をしました。これまで三位一体を進めてきた中で東京都に入ってきている税収をどうするかというのが大きなテーマになり始めています。ですが多くの東京都民は、そうだと思うような感じになっていないのではないでしょうか。

これから地方が自立をして、自分たちで制度設計をやっていこうとすると、どうしても水平的調整の問題が出てきます。水平的調整とは、自分のところに入った金を、要するによその家にやるということです。子供に仕送りするのならまだいいのですが、なぜ隣の家にやるのかということになる。

では、東京都に入るべき税収が、例えば佐賀県に行くということに対して、それは「そうだろう」と思うのか、「ちょっと待てよ」と思うのかということです。 水平的調整ができる機運が今回の東京都知事選で見えるかと思ったのですが、それは思った以上に厳しかったという感じを持っています。東京都民にとってみると、東京問題というのは、東京都自身にとって直接プラスになる話ではないという判断があったのではないでしょうか。

東京都の超過課税をかなり厳しくして、東京にいることのコストが高過ぎるようにしたらどうかという提案もあります。そうすると、よその国に行ってしまうという問題があります。今、世界的に法人税の引下げ合戦が始まっています。特に今、ネットが普及してくると、どこにある会社かという議論があまり意味を持たなくなってきている。

実は佐賀県は、アマゾンの本社を佐賀県に誘致できないかと考え、アマゾンと交渉したこともあります。あのような企業の事業税収が、今、東京都に帰属していますが、別に東京都に帰属させる必要はないではないかということです。税金をまけるから佐賀県に本社を置かないかという提案をしています。会社戦略上、六本木にも本社があった方がいいというのであれば、東京にも本部らしきものを置いていい。それによって、アマゾンから上がる事業税収を佐賀県に持ってこれないかということも議論しています。かって三重県の北川さんがやられたように、企業誘致で補助金を出すというやりかたもあります。


第3話 都道府県は地域経営の単位としては不十分

佐賀県としてまだ、できることはいろいろあるだろうと思っています。やるべきことをやり尽くしたときに、本当に佐賀県という単位が十分かどうかという議論は出てくるのだろうと思います。しかし、地域経営を行う単位として都道府県がいいかといえば、現時点では十分ではないだろうという仮説を持っています。例えば、北部九州は自動車産業が非常に集積しており、佐賀県にもたくさんの企業が進出しています。トヨタは各県に進出することになり、もう九州でまとめて、窓口を1本にしてくれと言っています。今、福岡に窓口になってもらって、一本化してトヨタにアプローチをしています。

トヨタの工場には、1次、2次とサプライヤーがたくさんついてきます。トヨタに納品できるところは大変レベルが高く、そのような会社はボーイングにも納品できる。それぐらいの精度を持つ技術集団が地域に立地するということが大きいのです。

ですから、そういったことを実現していくために、北部九州全体があたかも1つの企業立地適地地域であるかのようなプレゼンテーションを我々は今やり始めています。すでに福岡、大分、佐賀、長崎が入っていて、いずれ熊本が入ると思います。そうしたことが企業の立地にもつながっていると思います。

ですから、例えば道州制をやりましょうということで、道州制に向けて九州の域内でいろいろなことが完結できるようにしていかなくてはなりません。自己完結性を持った地域としての志向が出てくると、そこでは交通体系も人の動きも学問の体系も変わってくる可能性が出てきます。道州制になれば、ユナイテッド・ユニバーシティー・オブ・キュウシュウというものがあっていいのではないか。各県にばらばらの大学があるのではなく、大学連合のようなもので、非常に高いレベルの研究や業績が出せるような大学をつくっていく。そういうことがあってもいいのではないかという議論が、今、現実に出ています。

私自身も道州制は、そういうことを可能にするものだと思います。道州制をやるのかどうか、やるとしたらどういう道州制にするのかというのを、今まさに私も責任者になって制度設計をしている段階です。

知事選挙に臨むに当たって道州制を前提にするのかどうかで結構議論しました。10年後の佐賀県と書いたときに、佐賀県はあるという前提でいいのかといったことでスタッフとやりとりし、あるということにすることにしました。なぜなら、10年後に道州制がこうなっているという具体的なイメージがまだできていないからです。グラフィティーではなくマニフェストですから、責任ある発言としてはできないということで、佐賀県という地域の単位で考えようということになった。

そこでは、佐賀県というところを、「佐賀県政府」という自治体ではなく、「こんなすてきな佐賀県に」の佐賀県とは、県庁のことではないというイメージで書いています。つまり10年後の佐賀県がどうなっているのかではなく、10年後の佐賀の地域がどうなっているのか、という発想です。佐賀県という地域に暮らしている人から見たときに、佐賀県という地域がこうなっている、そこに、市政や県政、ひょっとすると道州の政治や国政がどうかかわっているかというのは、それほど見えないという姿にしたのです。


第4話 地元経済をどう振興し、県財政をどう改革するのか

地域経済の観点ということで言えば、私は大きく3つの課題があると思っています。1つは、とにかく地場の企業をどうアップデートさせていくか。2つ目は、例えばベンチャー企業に代表されるような新しいものをどう育てていくか。もう1つは、外からどう引っ張ってくるか。この3つに尽きるだろうと思います。

地元のものをどう生かすかについては、なかなか妙案はありませんが、佐賀県はトライアル発注といって、例えば佐賀県の企業が開発したものを県が率先して買うということを始めまして、実はこれが今全国に広がっています。こうした地域の企業を育てる成功事例をつくり出していきたいと思っています。すぐに役に立つのは、やはり企業を引っ張ってくることです。この4年間で大体3000人ぐらいの企業誘致をと思っていたのですが、4千何百人にもなり、成功し過ぎてしまいました。1000人規模の世界最大の半導体工場が伊万里にできるようになりましたし、小糸製作所も立地を決めました。すでに立地した企業は、今度は工場の規模を倍にしたいと言っています。

この4年間で、むしろマニフェストの数字のほうが小さくなっています。佐賀県に帰ってきて働きたいと思っている人が多いにもかかわらず、それに応え切れていないのが非常にもったいないと思っています。ですから、企業誘致をしていくことがすぐに役立つ対策としては最も良いだろうと思います。

トライアル発注をなぜやっているかというと、佐賀県が使ってOKでしたら、OKとお墨つきを与える。そうすると、その会社は営業実績、納入実績で佐賀県庁と書ける。お役所というところは、どこかが使っていると自分たちも使っても大丈夫だと思うのです。どこも使っていない会社のものは使いたくない。例えば、卵の殻でつくったチョークがある。これは環境にも優れ、廃品利用としても良い。ところが、本当に大丈夫かということで、皆、使ってくれない。それを佐賀県庁で使いました。佐賀県はマーケットが小さいですから、佐賀県がお墨つきを与えて、世界中で売ってもらう。本社や工場は佐賀県にあるわけですから、その会社の業績がよくなることによって雇用も生まれ、税収も生まれていく。それが佐賀県に還元されていくということを目指しているのです。トライアル発注は、私の造語です。今、30数県でこの制度を始めています。

次に、県の財政改革ですが、県債の残高は確かに総額は増えています。しかし、これはマニフェストにも書いたのですが、県の実質的な借金とは何か、ということです。県の実質的な借金というのは、公共事業が減っていますし、赤字地方債は出せませんので、減らざるを得ません。ただ一方で、国が地方交付税をお金で払わずに、今は現金がないから後年度に必ず交付税で払うから、今借金しておいてくれと言われている部分が増えてしまっている。そのために総額が下がらないという状況もあるわけです。この部分が地方の責任なのか、経営者の責任なのかどうかということなんです。

ここも含めて減らさなくてはならないとすれば、これは地方での自立的な経営は難しいですね。ここの部分が幾らになるかというのは、毎年12月ぐらいに決まるわけです。だから、交付税ではなく、借金に振りかえる額が増えたら、その部分だけ例えば社会資本整備を減らしますというふうなメッセージを出さないと予算を組めなくなります。
 経営的な目で見たときには、県ができる手段は増税と増収との2つがあります。もちろん歳出を減らすという方法もあって、まず人口が減っていけば、公共サービスがカバーする範囲も小さくなっていくので、職員が要らなくなる。まずはそこの部分で、いわゆる内部コストは下げられると思っています。

ただ、一方で、例えば県立の福祉施設を民間に移譲するということで職員が減るとしますと、減ればコストも下がりますが、その部分を何に使うかということで、私は3分の1ルールというものをつくり、3分の1は財政の健全化に使っていきますが、残りの3分の1は福祉施設の例えば障害福祉なら障害福祉に使う。次の3分の1は福祉全体、例えば子供の医療費の負担軽減などに使っていくというやり方で、県立福祉施設の民間移譲が福祉切り捨てにならないようにしていくという方針でやっています。

ですから、既存のものを変えていくときに、充実させていかなくてはいけないものの財源を見出すやり方として、そのようなやり方をとりつつ、財政再建にも資するものにするということはあるのではないかと思っています。


第5話 幕末の幕臣のような気持

自治体も国も、例えば夕張市のように経営不可能になったらだめだと思いますが、では、山形県の齊藤知事が言っているように、借金の残高が減少しゼロがいいのかというと、ゼロではなくても、持続可能にするかどうかということだと思います。ただ、持続可能かというときに、12月20日にならないと交付税が決まらないという状況もあるわけです。

佐賀県の場合、税収は800億円です。それに対して交付税は今1300億円ぐらいです。税収をはるかに超える交付税の額というのが決まらないと予算が組めないのです。この構造がある限り、本当の意味で経営は難しいのです。この部分は変えていかなければなりません。自立のメインは税収にあると考えなければ、自立的な経営はできないのです。例えば、消費税をもっとメインな位置づけにしてほしいと私が言っているのは、国が裁量で鉛筆をなめて地方に幾ら配るといったことはやめるべきだからです。

今、多くの都道府県の税の組織というのは、とにかく、税をいただくだけなのです。どうやって税源をふやすかということを余り考えていない。佐賀県では、去年から今年にかけて、佐賀のものを買おうという運動をしています。なぜそういうことをやっているかというと、去年の4月から今年の3月までの1年間の小売の売り上げの数字が、今年調査される。その結果で地方消費税の配分割合がある程度決まる。だから、この調査統計の結果が実は税収を左右する。調査統計の数字で鉛筆をなめるわけにいきませんから、この1年間に何とか売り上げを伸ばさないといけないのです。そこで1年間とにかく買おうということをしました。

県庁も、例えば今年の4月に買うとだめなので、今年は高校総体ですが、高校総体の備品で腐らないもの、帽子や服などは前年度に買わせています。そういったことを市町村にも、また商工会も通じて、とにかく昨年4月1日から今年3月31日までの間に売り上げを伸ばしてくれとお願いしました。それが結局は自分たちにとってもプラスになるのだということを一生懸命訴えました。それで皆さんに地元のものを見直してほしいということと、一方で、県庁の中でも、税源というのは増税ではなく、税率を変えなくても増収というのはあり得るのだということを訴えたのです。

アマゾンの本社を佐賀県に誘致したいと思っているのも、税収がふえるからです。我々は税金をお預かりして、その使い道を決めてやっていくということですから、とにかく税収を上げるしかありません。人からもらってくることばかり巧みになってもいけません。

私たち地方の自治体にとっては、短期間でやれることと、地方分権の2次改革の中でやっていくことと、道州制でなければできないこととがあります。短期間でやっていくこととしては、例えば、法人住民税と消費税の交換をやろうではないかとかという議論をやっていて、これは今度の骨太の方針に書かれるかもしれません。一都栄えて万村枯るです。もう東京だけ栄えて万村枯れている。万村だけならともかく、地方がかなり厳しいということを分かってほしいのです。

県庁所在地は支店経済がそこそこ成立しています。県庁経済も成立している。ですから、官公需があり、民間の支店がありということで、厳しい中でもそこそこもっています。ぜひ注目してほしいのは、ナンバーツー・シティーです。県庁のない町の今の経済実態や、暮らしの状況がどうなっているのかを見ていただくと、地方は未来に希望を失っているという部分も随分見てとれてきます。

もうすべての市や町が栄えるというのはあり得ません。それをやるべきだとも思いません。例えば、人口二、三十万人の単位ぐらいの生活圏域の中では、そこそこ暮らしていけるような働く場もあり、また、暮らしも充実している感じがあった方がいいのではないか。いつの時代にも、二、三十万人ぐらいの単位でというのは大体言われていることですが、よく考えると、衆議院選挙の小選挙区と同じぐらいなのです。

何か幕末の幕臣をやっているような気が私はしています。つまり、世の中が変わるだろう、今、制度疲労がいろいろ見てとれる、このままではうまくいかないとわかっている。では、このままではだめだから、それを捨てるかというと、私は地域を代表する政府の長ですから、捨てられない。今の中で一生懸命やらないといけない。しかし、今の中で一生懸命やってもそこには限界があるということを感じているということなのです。

道州制を見据えていくかというと、それはもう私も見据えます。なぜなら、私の役割は県民の暮らしの豊かさの実現だと思っているからです。佐賀県という政府があった方がいいのか、なかった方がいいのか。私は県庁のトップだから県庁があった方がいいということではなく、仮に佐賀県庁がなくなって九州が全部一緒になった方がいいのであれば、その道を選ぶべきです。それは県民のためですから。

道州制の議論に私が一生懸命になっているのは、道州制になるときに佐賀県のような比較的コンパクトな県が困らないような仕組みとか、きちんと我々のことを意識した制度設計でないと困るので、それをやっていくためには自分で議論をリードしなければだめだと思っているからです。だから、道州制の制度設計をリードするということと、今のような状態でも佐賀県を磨き上げていくことによって、仮に佐賀県を売りに出すときも蔵つきで売るということなのです。そうしていかなければならないというのが、私の思いです。

camp4_saga.jpg古川 康 (佐賀県知事)
◆第1話:5/16(水) 「ローカルマニフェストはすでに踊り場にある」
◆第2話:5/17(木) 「知事の役割は何か」
◆第3話:5/18(金) 「都道府県は地域経営の単位としては不十分」
◆第4話:5/19(土) 「地元経済をどう振興し、県財政をどう改革するのか」
◆第5話:5/20(日) 「幕末の幕臣のような気持」

 「日本の知事に何が問われているのか」をテーマに、全国の知事にインタビューを続行中です。
現在の発言者は古川佐賀県知事です。