【国と地方】 石原信雄氏 第8話: 「地方財政の改革はどう進めるのか」

2006年7月15日

石原信雄氏石原信雄(財団法人地方自治研究機構理事長)
いしはら・のぶお
profile
1926年生まれ。52年、東京大学法学部卒、地方自治庁採用。84年から86年7月まで自治省事務次官。86年地方自治情報センター理事長を経て、87 年から95年2月まで内閣官房副長官。1996年より現職。編著書に、「新地方財政調整制度論」(ぎょうせい)、「官かくあるべし」(小学館)他多数。

地方財政の改革はどう進めるのか

 地方財政の改革を進めるに当たって、まず、補助金については、基本的に、いわゆる奨励的補助金というものは、極力やめたほうがいいと思います。これは、地方には政策立案能力がない、だから国がアイデアを出してやろうという制度です。やめた後、地方交付税は、財源不足を全部保障するという形ではなく、保障の内容をセレクトするということでしょう。私は、保障の対象は、義務的な経費を中心に、若干の単独施策までを入れればいいと思います。

 地方の独自施策は、それぞれの団体が住民と相談して決めればいいのです。結婚祝い金とか、海外旅行とか、いろいろと行うことはいいが、その財源は住民によく了解を得て、住民の負担でやるべきです。今はどんぶり勘定ですから、そのようなことがルーズになる。そうではなく、交付税のような包括的財源保障の範囲をある程度狭める。ただ、財源保障は最小限度のものは必要だと思います。しかし、保障の範囲はかなり、絞らなければいけません。

 東大の神野直彦さんが提案している地方共有税は、良い案だと思います。これからの行政は中央政府が担う分と地方政府が担う分とがありますが、地方政府が担う分のうち、地方税では賄いきれない部分がどうしても出てきます。その部分は、何らかの形で確保しなければいけません。それは特定の税のうちの地方の取り分として、現在は交付税の法定税目と法定率で地方への配分割合が決まっていますが、それを地方共有税として確保するのです。ドイツなどはそうで、一定の割合で州と連邦が分け合っています。

 日本の場合も、基幹税目については、国と地方の共同税として、その一定部分は初めから国の一般会計に入れず、地方の共有財源勘定に入れてしまうわけです。今、地方譲与税がそうでしょう。譲与税特別会計というものがあり、国の一般会計には入れていません。ガソリン税の一部は、地方道路税という税金ですが、国税当局がガソリン税と一緒に徴収するものの、地方税相当分は国庫に入れず、譲与税特別会計に入れています。

 交付税をこうした形に改め、その代わり、毎年毎年、足りないからいくらよこせということはやめることにする。基幹税で集まった税収入のうち地方への帰属分だけで配分し、それで足りない分は、地方は課税権を持っているのだから、各自治体がそれぞれ独自課税をやればいい。

 これで、交付税特別会計への一般会計加算や借入れはやめることになりますが、内容によっては、今までプラスアルファしている部分には、義務的経費の不足部分など、基本的に足らない分も含まれているかもしれません。加算部分の内容もしっかり精査して、将来ともこの部分は必要だと思われる部分があれば、今の法定率よりも高くする必要があるかも知れませんし、今のままでいいのかもしれません。その議論はしっかりした上で、共同税の地方取り分がここで確定したら、それから後は、地方は、不足したら超過課税をやりなさいということにすればいいのです。そうすれば、本当の自治になります。

 ただ、地方財政計画は、今のような財源保障や、交付税の総額を算定、確保するためのツールとしてではなく、地方財政をウォッチする手段として必要です。地方財政全体としての収支見通しは、やはり把握しておく必要があり、経済政策を考えるためにも必要です。

 以上の結果、歴史的に言えば、平衡交付金制度ができる前の姿に戻ることになります。但し、そのためには、根っこをしっかり固めなければいけません。地方の財源が非常に不足した状態でそれをやってしまうと、地方は干上がってしまいます。今の税制を見直して、税源偏在をある程度是正しなければ、貧しい団体はやっていけなくなります。

 その際、地方消費税の割合は増やすべきです。地方消費税は、国税として徴収して、各県に対し、その県内の消費取引高に応じて配分する、一種の還付税です。多少の偏在は出ますが、所得税などよりは偏在はずっと少ないです。府県段階では実際の消費行為に応じて徴収された実績で配分し、市町村には、計算しようがないため、人口で配っています。偏在が少ないのは、消費税は最終の消費者が負担する制度で、人口比例的になるからです。


※第9話は7/17(月)に掲載します。

※以下にコメント投稿欄がございます。皆さんのご意見をお待ちしております。
(尚、戴いたコメントは担当者が選択し "このテーマ「国と地方」にコメントする・見る" ページにも掲載させて頂きます。どうぞご了承ください。)

 地方財政の改革を進めるに当たって、まず、補助金については、基本的に、いわゆる奨励的補助金というものは、極力やめたほうがいいと思います。これは、地方には政策立案能力がない、だから国がアイデアを出してやろうという制度です。