【国と地方】 石原信雄氏 第5話: 「交付税総額の削減のために必要なこと」

2006年7月09日

石原信雄氏石原信雄(財団法人地方自治研究機構理事長)
いしはら・のぶお
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1926年生まれ。52年、東京大学法学部卒、地方自治庁採用。84年から86年7月まで自治省事務次官。86年地方自治情報センター理事長を経て、87 年から95年2月まで内閣官房副長官。1996年より現職。編著書に、「新地方財政調整制度論」(ぎょうせい)、「官かくあるべし」(小学館)他多数。

交付税総額の削減のために必要なこと

 我が国では戦後、新しい行政を普及、徹底させるために、数多くの補助金が地方に配られるようになりました。それは制度を定着させるために当初は必要でしたが、事業が定着したら、補助金ではなく、必要な財源を地方税で与えられても十分にできるようになっています。

 交付税も地方自治の見地からは本来は望ましい姿ではありません。それはなくて済めばなくてもよいのです。地方税でやれればそれが一番よい。しかし、残念ながら地方税収の地域偏在が現状ではあまりにも大きいので、交付税を減らすことができません。だから私は、交付税を減らせる工夫をしなさいと言っています。それは税制改革です。現在の地方税制度を変え、偏在性の強い税目を減らし、偏在性の少ない地方税を増やしていけば、地域の課税力の差が縮まるので、交付税が少なくても済むようになります。

 交付税の財源保障機能については、財務省や経済界の人たちは、誤解しているようです。「どこまでいっても地方は面倒を見ろと言ってきて際限が無いのが財源保障制度であり、やめてしまえ」と彼等は言っていますが、私の考えでは、地方の財源が足りなくなった場合は、その原因如何にかかわらず、国が面倒をみろということではないはずです。そうではなく、一定のルールの下で、客観的に計算される財源不足は中央政府として責任を負うべきではないかということです。

 今の交付税の仕組みでも、足りないと言ってきたものを全部、面倒をみているわけではありません。まず、義務的経費についてはあまり議論がないでしょう。国の法律で義務付けているため、そのための経費を国としてカウントしないのはおかしいからです。問題は、地方が独自に行う単独事業です。単独事業の財源を交付税や地財計画でどこまでカウントするかです。本間正明さんたちは、義務的経費だけを交付税でカウントして、単独事業は独自の財源、起債などでよいではないかと言っています。それは一つの主張だと思います。

 ただ、我が国の現状では、それを行うと、農山村地域はあまりにも貧しいため、単独事業は何も行うことができない団体、要するに、中央政府が義務付けた事業だけの自治体が出て来る。地方自治というからには、その団体が何らか、独自の判断でやれるだけの少しはゆとりを認めなければいけないのではないでしょうか。課税力、税収が小さい団体をどうするかということがどうしても出てきます。

 ここで考えるべきなのは、戦後の中央集権体制の一つの弊害として、各省が所管する行政分野ごとに、行政が北海道から沖縄まで、どのような団体であっても同じ水準で維持されるべきだという要請が強くなり過ぎているということです。義務付ける以上は、裏付ける財源が要るということになり、それを補助金か交付税で行うということになる。極論すると、各団体ができる範囲でやれというのであれば、補助金も交付税も要らず、アメリカ型でいい。住民との話し合いで、税金の範囲内でやれることをやれればよいということになります。しかし、わが国の場合は国民がそれを許さない。少しでも行政水準に差が出ると国会が承知しない。中央集権的で、横並び意識が強すぎます。

 私は、地方自治制度を採用する以上は、住んでいる地域の貧富の差によって、多少の差が出てくるのは仕方が無いと思っています。豊かになる努力をして這い上がってくる団体もあるだろうし、怠けていて這い上がれない団体もあるだろうけれど、それが自治だと思います。住民が選んだ首長さん、議会がそうした課題に応えるか応えないかの問題であり、その結果に責任を負うのも自治です。しかし、法令の規定によって東京に住んでいようと北海道、沖縄の果てに住んでいようと、行政サービスが一定以上のレベルから下がってはいけないとなると、どうしても交付税が大きくならざるを得ない。

 あまりにも依存財源が大きくなりすぎている現状は、もう少し本来の姿にもどす努力が要ります。しかし、その際に、本間さんたちが言うように単に交付税を減らせという方向だけでは貧乏団体が困ります。まず、税制上、地域偏在をなくすようにもう一段の努力をしてほしい。その次は行政の義務付けをもっと緩めろということです。


※第6話は7/11(火)に掲載します。

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 我が国では戦後、新しい行政を普及、徹底させるために、数多くの補助金が地方に配られるようになりました。それは制度を定着させるために当初は必要でしたが、事業が定着したら、補助金ではなく、必要な財源を地方税で与えられても十分にできるようになっています。