【国と地方】 石原信雄氏 第4話: 「国への依存財源が多すぎる状況をどう正すのか」

2006年7月07日

石原信雄氏石原信雄(財団法人地方自治研究機構理事長)
いしはら・のぶお
profile
1926年生まれ。52年、東京大学法学部卒、地方自治庁採用。84年から86年7月まで自治省事務次官。86年地方自治情報センター理事長を経て、87 年から95年2月まで内閣官房副長官。1996年より現職。編著書に、「新地方財政調整制度論」(ぎょうせい)、「官かくあるべし」(小学館)他多数。

国への依存財源が多すぎる状況をどう正すのか

 交付税制度については、その年度の交付総額を実質的に決める「地方財政計画」におけるマクロの財政需要額がその後、水脹れしてきたとも指摘されています。

 膨らんだ理由は、社会保障費を始めとして地方の行政サービスのレベルが高くなったことです。これは地方が勝手に上げたと言われますが、そうとばかりは言えません。各省が指導し、あるいは与党や国会が要求したことが多々ありました。例えば、平衡交付金制度を導入した頃の小中学校の学級編制基準は60 人学級です。今は40人で、それを30人にしろと言っている。一事が万事で、いろいろな行政のレベルアップが、制度導入当時からみれば随分となされています。その割に地方税収入が増えていません。その結果、収支のギャップが増えて、交付税が増えてしまっているのです。

 昭和25年の平衡交付金の当時は、東京、大阪、愛知、神奈川は不交付団体でした。それがその後、3団体が交付団体になったのは、石油ショック以後の経済成長の低下にもかかわらず、歳出需要が増えているからです。今、国、地方を通じて、国民所得対比での国民負担は36%程度ですが、実際の歳出のほうは45%程度になっています。収支のギャップが大きくなるということは、その影響なのです。石油ショック以前は、ギャップは国、地方を通じて2~3%程度で、税収と財政需要はほぼ見合っていたわけです。そうなると、税源の豊かな団体は不交付団体になるわけで、大きな団体はどれも不交付団体でした。

 しかし、現在では、地方交付税が地方の財源の20%を占めています。依存財源が多過ぎて、地域に住む住民に直接負担していただく部分が少なすぎます。地方財政全体でそれは3割少しの割合です。しかも、その数値は東京都などを含めたもので、大部分の団体にとっては、財源の半分が補助金と交付税等の依存財源となっています。

 これは地方自治の本来の姿からすると望ましくないと考えます。この状況は直すべきですが、では、どこを直せばよいのでしょうか。

 補助金は、国がどういう基準でどのような仕事を行えばよいか細かく決めて、その経費の半分や3分の1を出すものなので、地方は事業内容について補助金所管官庁の指示内容の仕事をすることになり、地方の主体性もアイデアもなくなってしまいます。そういう部分を減らしていくべきです。中央政府はなるべく大まかな枠組みだけ決め、その中身は各団体が決めることが必要です。今は基準が細かすぎます。

 地方の財源として一番良いのが地方税です。地方税を増やすことを考えるべきです。その代わり補助金はもっと減らしてもよい。

 今回、所得税から住民税に3兆円の税源移譲を行いましたが、非常に良いことだと思います。さらに地方税を強化すべきです。また、今の地方税の中で、法人系統の法人事業税や法人住民税は団体によって偏在が激しいので、これらの偏在を是正する方策をもっと考えるべきです。そのためには課税基準を直すというやり方もあります。

 法人系統の地方税は、法人の利益に対して大半が従業員数で割り振っています。そうすると本店の所在地はどうしても大きくなる。昔は工場の所在地が多かったのですが、今はオートメ化しているため、工場の従業員数は減り、本店の管理部門の人数が多くなって税も本店の所在地に集中するようになっています。その是正のための措置をこれまでも行っていますが、もっと工夫があってもよいのではないでしょうか。

 さらに言うと、法人系統の税金と所得系統の税金を入れ替えしてもよい。つまり、法人事業税や法人住民税の税率を下げ、国税の法人税を増やし、その分、所得税と住民税について、所得税を減らして住民税を増やす。今回、補助金を減らした分を3兆円相当、所得税から住民税に移しましたが、できれば、法人住民税や法人事業税の一部を国税の法人税に戻し、その戻した分だけ、国税の所得税からさらに地方に、住民税の所得割りで移し替える。そうすると、地域偏在はかなり緩和できます。また、地方税の性格からしても、法人系統の税金よりも所得系統の税金のほうが住民の負担感がはっきりします。自治体としては、住民税が大きいほうが住民に対する遠慮も出てくるのです。

 このように偏在是正を行った上であれば、交付税を減らし、地方税を増やすことも可能になります。交付税の根っこは所得税、法人税、消費税であり、交付税の取り分を減らした分、地方消費税、地方たばこ税、住民税所得割りなどの取り分を増やすのです。

 こうすると、偏在が大きくならずに、交付税を地方税に振り替えられます。つまり、交付税の基幹5税の比率を、例えば法人税にシフトして、その代わり地方の法人関係税を減らすと偏在是正ができます。現在の交付税の基幹税目を含めて、交付税を地方税に振り替える方策をもっと研究してほしいのです。


※第5話は7/9(日)に掲載します。

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 交付税制度については、その年度の交付総額を実質的に決める「地方財政計画」におけるマクロの財政需要額がその後、水脹れしてきたとも指摘されています。膨らんだ理由は、社会保障費を始めとして地方の行政サービスのレベルが高くなったことです。これは