【国と地方】 増田寛也氏 第5話: 「広域自治体化に向けた制度設計」

2006年6月25日

増田寛也氏増田寛也 (岩手県知事)
ますだ・ひろや
profile
1951年生まれ。77年東京大学法学部卒業後、建設省入省。千葉県警察本部交通部交通指導課長、茨城県企画部交通産業立地課長、建設省河川局河川総務課企画官、同省建設経済局建設業課紛争調整官等を経て、95年全国最年少の知事として現職に就く。「公共事業評価制度」の導入や、市町村への「権限、財源、人」の一括移譲による「市町村中心の行政」の推進、北東北三県の連携事業を進めての「地方の自立」、「がんばらない宣言」など、新しい視点に立った地方行政を提唱。

広域自治体化に向けた制度設計

  私は最終的には基礎自治体が地方自治の主役になるべきと考えています。その場合、県をなくして、もっと広域自治体でいくということになるべきです。

 今後、県単位よりも広域の自治体に変わっていくということについては、随分と賛同者や理解者が広まってきたと感じています。それは、自分たちの県も残って、その上に広域自治体を置くという意見ではないと思います。悪代官が、基礎自治体の上にまた2段階で出てきたら大変なことになります。 

 そこで、広域自治体の権能をどこまでにするのかという話になりますが、権能のかなりの部分が国から来る。他方で、国は外交とか教育などをきちっとやるべきです。今、本当に深刻なのは教育です。国家ということを意識してやって欲しいと思います。一方で、広域自治体は、経済、すなわち、いかに富を生み出すかということをやるべきです。今まで、産業政策というものは、国が、そして経済産業省が、良い悪いは別にして旗振りしてきました。自治体、特にある程度中から下の自治体は何をやっていたかというと、ただ公共事業の量だけで、一応、地域経済を動かしていたような錯覚にとらわれていました。

 要は、量を増やしたり減らしたりという、国の景気対策に付き合う程度のことしかやっていなかった。ですから、広域自治体、例えば道州制で8つか9つのブロックの中で、本当に富を生み出して、そこで全部賄っていけるような真剣な産業政策をやることが一番大事だと考えます。

 広域自治体にすれば、職員をかなり減らすことも可能ですが、もっと減らせるのは、中央省庁の地方支分部局でしょう。それは要らなくなります。そこは今でも二重行政になっていると思います。広域化して国の地方支分部局の管轄くらいまで広げれば、東北地方整備局とか東北地方運輸局といったものがたくさんありますから、それらが不要になります。

 広域自治体化によって労働組合の問題なども色々と出てくると思います。ただ、基本的には、労働基本権が保障されていればいいわけです。職員組合も隣の県とはお互いに仲が悪いとか、何々系の組合がどうだとか、いう点で摩擦は出てきますが、それは乗り越えなければなりません。

 加えて、この検討の際に東京都はどうするかという問題があります。色々と考えてみると、東京都は我々と同列の自治体の仲間とは見えにくい。逆にいうと、東京都はワシントンD.C.でいいのではないかと私は思っています。

 今よりも範囲が狭くなるかもしれませんし、それは23区だけか、いくつかの区だけかもしれませんが、そういうところは、ワシントンD.C.のように国の直轄のようにするのがいいのではないかと思います。

 大変な改革ですが、国の姿を変えるには、地方の姿を変える必要があります。そのためにも、次の総理大臣候補は、やはり、中央省庁の再編の姿をきちんと打ち出すべきではないでしょうか。今欠けている外交の面など、国が本当にもっとしっかりやるべきところはきちんとやる一方で、余計なところは地方に任せなさい、国は本当に必要なことでやっていないことをやりなさい、ということだと思います。

 私は、10年なら10年、15年なら15年後に目指す、理想の国と地方の姿と、そこにたどり着くまでの行程表が大事だと思います。今ある制度が現にあるわけですから、そこからどう理想に近づけるか、毎年どうやっていくか、そのプロセスの話が大事なのです。誰も、来年、再来年に全部白紙のキャンバスに描いた姿にしろと言っているわけではないのです。今までの議論は常にその繰り返しだったのです。


※第6話は6/27(火)に掲載します。

  私は最終的には基礎自治体が地方自治の主役になるべきと考えています。その場合、県をなくして、もっと広域自治体でいくということになるべきです。今後、県単位よりも広域の自治体に変わっていくということについては、随分と賛同者や理解者が広まってきたと感じています。