「地方の再生」と地域提携 3知事座談会 / 第6話:地域提携の可能性

2008年3月31日

080112_tottori.jpg2008年1月12日
福祉フォーラム実行委員会主催 「Japan'sea 福祉フォーラム8 in とっとり」



出席者:平井伸治鳥取県知事、古川康佐賀県知事、溝口善兵衛島根県知事
コーディネーター:言論NPO代表工藤泰志

地域提携の可能性

工藤 もう1つ、提携というか、つながりという点では、市民社会の中でのつながりがあって、私もNPOですが、変化を感じる。どういう変化かというと、今までのコミュニティーは地域社会のコミュニティーでしたが、それを超えた横断的な何かの人の動き、ネットワークが今、日本全体にずっと続いてつくられているのではないか。

 北海道で、たまたま北海道の自立の議論を北海道の人たちとやっていたときに、私は、もし夕張市で何か1枚のドラマがあれば、絵とか写真でもいいのですが、多分、全国の人が支援に来るのではないかと言ったことがあります。そうしたら、地方の新聞社の人が、そんなことはない、夕張の破綻は人災だからと言いました。でも、あのとき成人式の話がテレビに出たら、いろいろな人たちが応援に行ったではないですか。

 東京でも、社会に貢献したいという人がかなりいる。それはすさまじい大きなエネルギーなのです。それを地域と結びつけることが必要な気もします。東京だけではなく、地域社会にも、市民の自立的な公を担おうという動きがいっぱい始まっていると思いますが、どう考えていますか。

「県庁職員にプラスワン運動への参加促す」

古川 すごく一杯あると思います。昔からの、例えば自治会や婦人会など、地域の縁で集まっていた団体のことを地縁団体といいますね。そういう地域の縁(えにし)で集まった方たちもあるし、志(こころざし)の縁で集まるNPOを担っている方もあるでしょう。そういった方たちを含めて、佐賀県ではCSOという言い方をしています。シビル・ソサエティー・オーガニゼーション、市民社会組織です。昔からやっていた人たちも、そして今、何かをやろうということで集まっている人たちも、私たち行政のパートナーですよという宣言をしてやっています。

 大きく2つに分けると、1つは、まず足元からやろうというので、職員に入れと言っています。婦人会とか地域の団体には普通みんな入りますから、役員をやれと。そして、県行政を一歩下がって見てみてくれと言っています。そうして見たときに職員の目にはどんなふうに映るかということです。

 例えば自分の子供が障害を持っている職員もたくさんいます。そういった職員たちは、そういう団体にも入って、その中で会長をやっている職員もいます。いろいろな団体の事務局長をやり、そういう中でいろいろな声を聞いてくる役割をしている職員もいます。障害を持つ子供がいる職員が障害福祉課で働いている例もありますし、そうした希望はなるべく聞くようにしています。もちろん自分が関わっているものに対してだけ有利になるようにとか、そんな仕事をする人はいません。基本的には、こういうものがきちんと県政の中で大事だということでやっていくのですが、でも、現場のことをよくわかっている人が実際に担当になると、気持ちが通じる点で全然違うことがあります。

 私は今、そうやってまずは県庁職員に、これは「プラスワン運動」と呼んでいるのですが、職場と家庭だけではなくて、地域での役割も果たしてくれと言っています。プラスワンだということで、やる職員が増えてきました。

 佐賀県は今でも消防団の組織率が全国1位です。先日、有田町の消防団に行きましたら、人間国宝になっているような人が帽子をかぶって行進していたりするわけです。そういう地域です。そうした昔からある地域のよさを絶対失いたくないと思うのです。

 一方で今、NPOの活動をやろうという人も増えてきています。そこで今、佐賀県が政策としてやっているのは「協働化テスト」というものです。例えば学校の教員だとか警察官の仕事、どうしても公務員でなければならない仕事以外の職務について、どこかやるところはありませんかといって募集しているのです。これを「協働化テスト」と呼んでいます。

 県庁の2000ぐらいの業務を、どこかやる人はいませんかといって、ずっと公募をしています。応募してくるのは400件ぐらいです。もちろんやりとりして、これはできませんねということもあります。しかし、例えば、県庁の中にある県民からのいろいろな相談を受ける窓口は、もともと県が直営でやっていたものを、いまNPO法人が受託してやっています。消費生活センターの相談業務も「NPO法人消費生活相談員の会さが」というところが受託して、実はそこが県内のそれぞれの市にある業務も全部受託しているのです。

「行政と違う形で公を担う組織が地域には必要」

古川 その結果、どうなったかというと、各市の相談と県に来る相談とを突き合わせてよくわかるようになりました。それぞれの市と県でやっていたころには情報が共有できていなかった。しかし、例えば、悪徳商法は日を追うようにして攻め上ってくる。福岡あたりから悪いものが入ってくるときは、東のほうから入ってくる。鳥栖市にきのう何か怪しげな水抜き工事をするという相談が来ているとかという話が来ると、2~3日しないうちに佐賀市に来る。NPO法人に委託したことによって、そういった情報を共有でき、レベルも高くなった相談を受けることができるようになりました。そういうことがいろいろな意味でできるようになると思います。

 ただ、課題も感じています。表現に気をつけないといけませんが、NPOの活動は、世帯主が一生やれる仕事になかなかなっていないのです。家計の補助者の人が収入を得ることを目的にせずにやれるNPOはいっぱいあります。しかし、主として家計を担う人が一生この仕事をやっていくだけの財政的、そして組織的にきちんと基盤を持った組織が、行政と違う形で地域に存在することが望ましいと思っているのですが、なかなかそういう形になっていません。

 私どもも、とにかくコストだけで外注すると、単に単価の安い下請けに出しているだけの話になっていってしまうので、そうではないということで一生懸命いろいろな工夫をしようとしているのですが、まだできていません。今、「新しい公共」という概念がありますが、そう言われる前から、そもそも私たちは、鳥取県も島根県も佐賀県もというか、我が国は昔からそういったことをみんな思っていたと思うのです。これからは、そういったものをもう一遍取り戻す作業をぜひやっていきたいと思います。そうすることによって、コストが縮減されるということではなく、より無駄がなくて、満足度の高い住民サービスが提供できるようになるのではないかなと思っています。

工藤 鳥取と島根の強みの中にボランタリー比率が高いという話がありました。そこが2県に関してはかなり強みとして戦略ができるのではないですか。

古川 そうですね。

溝口 古川さんはおもしろい話をされましたね。さすが先輩知事です。CSO(civil society organization)という言葉もおもしろいし、県の職員にそういうところで活動しなさいというのもおもしろいですね。

 私も、例えば退職した県庁の職員などは、公的な仕事もやっているし、そういう社会貢献活動に現実に入っている人が非常に多いのですが、もっとするようにしたらどうか、場合によっては、いろいろある社会貢献活動団体に現役の人が短期間出向するようなことはできないかということを研究しています。

 まだ研究段階ですが、県の職員などがシビル・ソサエティー・オーガニゼーションのようなところでやるのはいいことですね。自治会活動は土日などにかなり参加しています。自治会長のようなことやる人が多いのですが、そうでないところもやれるかどうか。きょうの話を参考にして少し考えたいと思います。

平井 私も結局、今までとは違った地域社会に生まれ変わらせていく1つのキーワードは、県民が担い手であって、しかも主役である、ということになってくるのではないかと思うのです。今までどちらかというと、これは公的なことだから、もう県庁にやってもらおうとか、市役所にやってもらおうということだった。ですが、皆さんだんだんわかってきて、どうせ頼んでもお金がないしな...と。やってくれるのが10年後や20年後になるかもしれない。それなら自分たちで一遍やってみよう、ここは元気出そうやと。そういう時代に今なってきていると思います。それがかねてからの地域でお互いに支え合う風土とマッチして、NPOの数もどんどん増えてきています。

「県の業務によっては丸ごとNPOなどに任せることも」

平井 鳥取県も、実はホームページで募集をしています。こういう業務があります、NPOなり何なりでこれを引き受けてもらうことはできますか、提案してくださいと。職員にも、消防団への参加といったように、地域参加をするよう働きかけています。やってみると、だんだん参加者が増えてきて、消防団の加入率もかつての2倍、3倍ぐらいに増えてきました。このように、今までやっていなかったことで、これからやらなければならないことがいっぱいあると思います。私は、従来からの単なる業務委託といった市民参加の時代から、次のステップへ行かなければならないと思っています。例えば、地域の公園の管理、河川や道路の管理、そういうものは丸ごと契約して、地域のNPOや地域団体に任せてしまうことができないだろうか。これは新年度でぜひパイロット事業のようにして、どこかモデル的にやってくれるところはないか探してみたいと思うのです。

 世界的に見ると、そういうことはもう当たり前のことです。例えばニューヨークのタイムズスクエアは、地域のスーパー町内会が経営します。ごみ拾いをする清掃員やガードマンは地域の自治体で雇っているわけです。それだけではなく、タイムズスクエアのあたりも歩道を広げ、世界中から来るお客さんを入れようとして、常に公共事業をやっていますが、この公共事業も、実は町内会がやっているのです。「コミュニティー・ディベロップメント・ディストリクト」ということでして、そういう地域を発展させる地区といいますか、オーガナイゼーションをつくってやっています。NPOの一種です。これに確かに市も補助金を出しますが、自分たちでも独自財源をつくっていますし、実は固定資産税の上乗せ課税をやっていて、これが主たる財源になっています。

 このように、もう公共団体がすべてやる時代ではないかもしれないなと思うのです。例えば、こういう小さな河川公園のようなところのスポットを丸ごとお任せします、イベントもどうぞ好きにやってくださいというわけです。今までだったら、何かやろう、改変しようと思ったら、常に役所の許可をもらってどうのこうのということになりますが、そうではない。もう皆さんにお任せしますからということです。モデル的に幾つかつくり始めてもいいのではないかと思っていまして、単にNPOとの協働ということでくくって言う委託的なものでなく、町づくりを皆さんでどうぞやってください、そういう世界をつくってみたいと思っています。

「市民が自立の試みを自分の問題として考え挑戦する時代に」

工藤 きょうは自立をベースに、ここまで話が広がるとは思わなかったのですが、それぞれ今、日本に問われている課題の1つ1つを、皆さん見事に追求して話していただいたと思います。

 私は、日本の中にきちっとした議論を起こしたいということでNPOをやっていますが、その活動の中で私も変化を感じています。インターネットの中ですごいコミュニティーができていて、そのコミュニティーにおける議論は、1カ月何億というか、すさまじいボリュームです。人を誹謗中傷するとか、レベルは低いのですが、でも、最近何か変わり始めたのです。

 私たちの言論NPOは難しい議論ばかりしているので、誰も見向きもしなかったのですが、最近、私たちのところに一緒に組まないかというアプローチがあります。まじめな議論をきちっとしたいという動きがかなり広がっているのを実感します。多分それは、日本の、地域も含めて未来に対して、自分たちも何か参加したいのだなという感じがします。

 知事の皆さんが言われたことは、逆に言えば、非営利セクターなり市民が問われている課題であって、つまり、結果として自立していくような市民市場を官ではなくて私たちがつくらないと、本当の意味での協働にならないわけです。それは私もまだ答えを出していませんが、多分、間もなくその答えを出さなければいけない。そうしないと、地域とか市民社会から、競争社会ではない、まさに共生の中でも競争力を持つという社会がつくり出せないような感じがしたわけです。

 きょうは、この3知事のお話を伺って、この3知事を得ている地方は幸せだと思いました。目線が市民側だし、経営の意識を持っていますし、この中で次に向けてのドラマなり挑戦が多分始まるのだなと思いました。ただ、それでも前途はかなり厳しい。それに対して答えはたった1つです。知事だけではなく、市民が自立の試みを自分の問題として考える、自分も一緒に挑戦するのだということです。多分それが一緒になったときに、地域から変革の改革が始まるんだなと実感しました。

 きょうは2時間にわたって、皆さん、非常にお疲れさまでした。どうもありがとうございました。


Profile

080112_shimane.jpg溝口善兵衛(島根県知事)
みぞぐち・ぜんべえ

1968年東京大学経済学部卒業、大蔵省入省。77年から80年在西独大使館書記官。80年主計局主査、大臣官房企画官、銀行局企画官、85年世界銀行理事代理。89年国際金融局開発政策課長、国際金融局総務課長、93年副財務官。94年在米国大使館公使。主計局次長、総務審議官、官房長、国際局長を経て、2003年財務官就任。04年より国際金融情報センター理事長。06年退任。

080125_tottori.jpg平井伸治(鳥取県知事)
ひらい・しんじ

1984年東京大学法学部卒業後、自治省入省。福井県財政課長、自治省選挙部政党助成室課長補佐、カリフォルニア大学バークレー校 政府制度研究所客員研究員鳥取県総務部長、副知事、総務省自治行政局選挙部政治資金課政党助成室長を歴任後、2007年 2月に総務省を退職し、4月鳥取県知事選挙初当選、鳥取県知事に就任。

camp4_saga.jpg古川 康 (佐賀県知事)
ふるかわ・やすし

1958年生まれ。82年東京大学法学部卒業後、自治省(現・総務省)入省。自治大臣秘書官、長崎県総務部長などを経て、03年無所属から佐賀県知事に当選。日本で初めてマニフェストを掲げて選挙を戦った政治家の一人であり、当時全国で最も若くして知事となった。07年に再選を果たし、現在2期目。全国知事会政権公約評価特別委員長。「がんばらんば さが!」をキーワードに、「くらしの豊かさを実感できる佐賀県」の実現を目指して県政に取り組む。

071113_kudo.jpg工藤泰志(言論NPO代表)
くどう・やすし

1958年生まれ。横浜市立大学大学院経済学修士課程卒業。東洋経済新報社で、『週刊東洋経済』記者、『金融ビジネス』編集長、『論争 東洋経済』編集長を歴任。2001年10月、特定非営利活動法人言論NPOを立ち上げ、代表に就任。