総勢12名の有識者が「第7回北京-東京フォーラム」事前協議で激論
震災復興や日中関係の再構築をメインテーマに8月開催で合意

2011年4月02日

 認定NPO法人 言論NPO(代表:工藤泰志)は中国・北京市おいて、「第7回北京-東京フォーラム」の事前会議を開催し、昨年9月の尖閣諸島漁船衝突事件、またその後の東日本大震災を経た日中関係や両国民の相手国に対する世論について議論を行いました。会議には、総勢12名の日中の有識者が参加しましたが、今回の日本における大震災に対する両国の協力が新たな日中関係に向かう扉を開くだろうとの認識で一致、また夏の本会議は8月下旬に北京で開催されることが決定し、日本の災害復興や日中関係の再構築をメインテーマとして、5つの分科会を設けて議論を行うことが合意されました。


参加した有識者(敬称略)

【日本側】
明石康(財団法人国際文化会館理事長、元国連事務次長)、秋山昌廣(海洋政策研究財団会長、元防衛事務次官)、高原明生(東京大学大学院法学政治学研究科教授)、松本健一(麗澤大学経済学部教授、内閣府参与)、宮本雄二(前駐中国特命全権大使)

【中国側】
趙啓正(全国政協外事委員会主任)、陳昊蘇(中国人民対外友好協会会長)、呉健民(国家創新与発展戦略研究会副会長、国際展覧局名誉主席)、魏建国(中国国際経済交流センター秘書長)、楊 毅(中国国防大学・戦略研究所所長、少将)、劉江永(清華大学教授)


当日の議論内容

 ◆昨年9月以降の日中関係、そして日中両国民の相互認識の変化について

 協議ではまず、昨年の尖閣諸島問題や東日本大震災を踏まえた日中関係や日中両国民の相互認識の現状について議論が行われ、いま日本が直面している困難に対する両国間の協力が、新たな日中関係の幕開けとなるとの認識で一致しました。

 その中で宮本氏は、「尖閣の事件を通じて、中国、とりわけ人民解放軍に対する不安が日本国民の中で広がっている」と指摘した上で、「脅威ではないということであれば、日本の一般国民にも分かるような形でそれを説明して欲しい」と中国側に対応を求めました。さらに、「幅広い層にまで「中国は怖い国だ」という認識が広まり、マイナスの感情が想像以上に広く共有されてしまったが、それには報道するマスコミにも問題がある」と述べ、今回の本大会において本質的なメディアの報道姿勢を深く議論すべきだとの見方を示しました。

 陳昊蘇氏は、「我々の関係が昨年以降急速に悪化し、国民の間で相互信頼が失われたということは認めざるをえない」としつつも、「私たちは波乱が起きないように信頼関係を構築し、何か問題があったときは抑えめに、挑発しないように対処することが必要」と指摘。「我々の間にはたしかに相違があるが、大きな問題があっても現状を改めることはしない、あるいは、改める場合には積極的な方向で行うといったルールをつくることが必要ではないか」と述べました。また、これに関連して、呉健民氏は、「日中間には食い違いがあるだろうが、それをことさらクローズアップする必要はない。共通利益の方にエネルギーを分配させるべきだ」とし、今後の日中協力のあり方として、「現在中国で深刻になっている水質汚染などの分野で、日本の世界最高の技術を活かして欲しい」と語りました。

 次に、今回の震災を受けての日中関係の新たな変化と第7回フォーラムに向けた展望についても議論が行われ、まず、趙啓正氏は今回の日本の激甚震災を「日本人だけではなく、人類の災難だ」として哀悼の意を表明、明石氏は、「今回の震災の復旧、復興のために中国からの無条件で多大な支援をいただき、日中の連帯感を強く感じている」として、中国参加者に謝意を示しました。そして、「たしかに、昨年の事件以後傷ついた日中関係の修復には時間がかかるとは思うが、我々は相互認識を深めるという当初の目的、使命を変える必要は全くない。日中間に既に通っている「戦略的互恵」という言葉に具体的な肉付けをしていくために、より改善した形で我々が語り合う場を続けることが必要だ」と述べました。

 秋山氏は、「今回の震災では、日本経済の再構築、政治体制の再構築という復興以上の問題が日本に課されていると思う。経済はもちろん、外交、日中関係にも大きな影響を与えるという意味で、日本の隣国である中国は、北東アジアにおける一大事件としてこの震災をとらえてもおかしくない」と述べ、中国にとっても注視し、綿密に議論をすべきトピックだという認識を示しました。
さらに、内閣府参与を務める松本氏から、「菅総理は、今回の大震災に際して中国の指導者からいただいたご丁寧な挨拶や、中国国民の皆様の援助の申し出、迅速な災害復旧チームの派遣に対し、今回の事前協議の場で感謝の気持ちを伝えて欲しい」と言付かったことを語り、協議の場で日本政府として感謝の意を表明しました。


第7回北京-東京フォーラムの具体的な開催方針について

 後半の協議では、前半の協議を踏まえたうえで、①第7回フォーラムのテーマと分科会、②フォーラムの発信力強化の二点を主な論点として、本大会開催に向けた具体的な意見交換が行われました。ここでは、8月下旬に北京で開始されること、日本の地域や経済の復興、そして日中関係の再構築をメインテーマとして、5つの分科会を設けて議論を行うことが日中双方で合意されました。

 協議ではまず、①について宮本氏は、「このフォーラムを何のためにやるのかを考えれば、我々の目的は日中両国民の相互理解を増進し、相互信頼を高めること。そうなると、政治関係は避けて通れないし、そのキーが安全保障であれば、それについての分科会も必要だろう。また、これからの関係を強く支えるのが経済だ」とし、今回の基本的な分科会の設定について意見を述べました。秋山氏は、「安全保障の議論では、演説のし合いでは意味がなく、ディスカッションがなければ相互理解は進まないだろう」と述べ、非公式・円卓方式での議論形式とすることを提案、また、「東シナ海や太平洋、インド洋の安全、大災害における軍の役割、日米同盟といったテーマを、『日中間の問題』としてラウンドで議論したい」と述べました。

 ②に関しては、呉健民氏が「もっと若い人々に参加してもらい、若者同士の交流をすべきだ。これは双方の政府が重視していることでもあるが、このフォーラムの影響力を高めるためにも、より幅広い層の人の参加を促し、こういった議論を次代につないでいってもらいたい」と強調するとともに、趙啓正氏は、「どの分科会にも有力なレベルのメディア、記者を参加させる仕組みを考える必要がある」と述べ、報道体制の強化を訴えました。
また高原氏からは、「それぞれの分科会で、お互いどういう事を聞きたいのか、そして、相手に何を伝えたいのかということをあらかじめ聞いておくことが非常に重要。そうしたプロセスを置くことで、フォーラムの成果が高まると考える」と述べ、本大会以前に綿密な準備を経る必要性を指摘しました。


言論NPOについて

 言論NPOは「健全な市民社会」には「健全な議論」が必要との思いから、非営利で新しいメディアや議論の舞台を作ろうと9年前に発足した非営利組織です。現在、有権者主体の政治と緊張ある政策論議のためのマニフェスト評価、議論の舞台をアジアに広げるための「東京‐北京フォーラム」の開催、当事者としての対案を専門家による各種会議の議論を基に作成し、政府などに提言する等の活動を行っています。

「北京-東京フォーラム」について

 「北京-東京フォーラム」は中国で反日デモなどが深刻化した2005年に日本の非営利団体である言論NPOと中国のメディアである中国日報社(China Daily)及び北京大学国際関係学院との提携により北京で立ち上げられました。
 このフォーラムが目指しているのは表面的な友好を取り繕うことではなく、本気で日中やアジアの課題を本音で議論し合う民間主導の対話の舞台をつくることです。この対話の議論の内容はインターネットなどを通じて両国民に幅広く伝わることになっています。
 日本側では日本を代表する学識経験者、企業経営者・政府関係者、主要メディアの編集幹部ら約50名が個人の資格で実行委員会に参加しています。


【認定NPO法人 言論NPO概要】
所在地:〒103-0013 東京都中央区日本橋人形町3-7-6 LAUNCH日本橋人形町ビル5階
設立:2001年11月 代表者:工藤泰志

【お問合せ先】
認定NPO法人 言論NPO
TEL:03-3527-3972  FAX:03-6810-8729
Mail:info@genron-npo.net 担当:宮浦、西村

 認定NPO法人 言論NPO*1(代表:工藤泰志)は中国・北京市おいて、「第7回北京-東京フォーラム」の事前会議を開催し、昨年9月の尖閣諸島漁船衝突事件、またその後の東日本大震災を経た日中関係や両国民の相手国に対する世論について議論を行いました。会議には、総勢12名の日中の有識者が参加しましたが、今回の日本における大震災に対する両国の協力が新たな日中関係に向かう扉を開くだろうとの認識で一致、また夏の本会議は8月下旬に北京で開催されることが決定し、日本の災害復興や日中関係の再構築をメインテーマとして、5つの分科会を設けて議論を行うことが合意されました。