【ご報道のお願い】
ルールに基づく自由秩序の下で米中や世界の共存を実現するため
民主主義国が結束して取り組むことの必要性を世界10カ国のシンクタンクトップが合意し、世界に発信しました

2020年3月02日

~言論NPOは「東京会議2020」未来宣言を発表し、G7議長国の米国政府に提出しました~

 非営利シンクタンク言論NPO(東京都中央区、代表:工藤泰志)は、2月29日(土)と3月1日(日)の2日間にわたり、世界10カ国の主要シンクタンクのトップや各国の首脳・閣僚経験者が参加し、「東京会議2020」を開催しました。

 会議は、参加10カ国のシンクタンクの合意で採択した「未来宣言」を、今年のG7議長国である米国のヒル駐日主席公使代理に提出し、閉幕しました。

 「未来宣言」は、米中対立の出口は、あくまでルールに基づく自由秩序の下での米中、あるいは世界の共存でなければならず、その実現に向けて世界の民主主義国が協調して取り組む決意を、10カ国のシンクタンクで合意したものです。

 2日間の議論を通し、参加者らは、米中対立の深刻化、長期化が避けられず、世界経済の分断すら危ぶまれているが、今回の新型コロナウイルス流行のような世界の共通課題の解決は、各国の協力の上にしか成り立たず、その協力は双方向的なものでなければいけないことを確認しました。

 その上で合意した同宣言では、世界の自由秩序を守り発展させるため、10カ国のシンクタンクが、世界が共存できる新しいルール作りや自国の民主主義の強化など以下5点において、積極的な貢献を行うことを盛り込んでいます。

 なお、「東京会議2020」はコロナウイルスの感染拡大により開催が危ぶまれましたが、言論NPOは、こうした局面だからこそ世界の困難に向かい合う議論を展開し、社会に発信すべきだという強い決意から、会議を予定通り開催しました。当日は4カ国のシンクタンクの代表が来日を断念する事態となりましたが、それぞれビデオメッセージでの参加などを通して、議論や宣言づくりに協力しています。

 報道関係者の皆様には、この取り組みをぜひご報道いただきたく、お願い申し上げますまた、代表・工藤への個別取材も承っております。

「東京会議2020」未来宣言の全文や、当日の議論の詳細は、言論NPOホームページで公開しております。



「東京会議2020」未来宣言要旨


1. 米国が国際社会での役割を重視し、G7で強いリーダーシップを取ることを今後も期待する。G7など世界の主要国は協調してリベラル秩序を守り、将来もその中心に立つ努力を続けるべきである。そのためにも主要国は、世界のシステムの安定や地球規模課題での協力を主導しなければならない。

2. 中国が世界市場に平等のアクセスを求めるなら、中国は世界との相互主義を受け入れる必要がある。私たちは世界経済に公平な競争条件を実現するために、中国に国内経済改革を迫る必要がある。ただし、中国を排除することがその目的ではない。

3. デジタル経済やAIの進展にルールが追い付いていない問題に対し、G7は率先し、ルール作りの動きをWTO等の場でマルチ化する努力が求められる。リベラル秩序を守り抜くということは、目指すべきリベラル秩序を再定義し、世界が共存できる新しいルールを作り上げる攻めの対応なのである。そして、この作業に中国が参加するための努力を行うべきである。

4. G7など世界の民主主義国は、自由、民主主義という共通の価値を持つ国自体がより強くなることに、一緒に取り組むべきである。民主主義国が世界のリベラル秩序を守り抜くには、グローバル化と国内の利益をつなぎ、世界だけでなく国内にも包摂的な成長を実現しなくてはならない。

5. G7各国は、それぞれの国の民主主義自体をより強靭なものに変えなくてはならない。そのためにも、権力の機能的な牽制や法の支配、そして何より市民が自己決定できる社会を守ることが必要である。自由と民主主義の将来をかけたこの歴史的な作業は、幅広い人々の理解と支持に支えられるべきものである。


「東京会議2020」テーマ・参加者

【1日目公開フォーラム】

 世界のシンクタンクのトップが東京に集まり、米中対立の出口や、目指すべき国際秩序の姿について議論しました。参加者間では、コロナウイルスが世界で流行する状況だからこそ、多国間連携や民主主義の強靭さを試す局面で、リベラル秩序のもと米中や世界が共存する道筋を探る必要があるとの認識で一致しました。

日 時   2月29日(土)14:00~18:00
会 場   日経ホール(東京都千代田区大手町1-3-7 日経ビル3階)
内 容   セッション1「米中対立の出口と共存の在り方をどう描くか」
      パネリスト:10カ国のシンクタンク代表
      問題提起・ゲストスピーカー:牧原秀樹(日本/経済産業副大臣)※ビデオ出演
      ゲストスピーカー:
      古城佳子(日本/東京大学大学院総合文化研究科 国際社会科学専攻教授)
      ポール・トリオーロ(米国/ユーラシアグループテクノロジー地政学担当部長)
      セッション2「米大統領選の意義と目指すべき国際秩序」
      パネリスト:「東京会議」参加シンクタンク代表
      問題提起・ゲストスピーカー:中尾武彦(日本/前アジア開発銀行総裁)
      ゲストスピーカー:藤崎一郎(日本/元駐米大使)

【2日目公開フォーラム】

 各国の首脳・閣僚経験者3氏の基調講演に続き、10カ国のシンクタンクトップが加わり、パネルディスカッションを行いました。 前日の議論も踏まえ、米中対立の出口をどのように考え、その中で私たちはどのような立ち位置を示すべきか、そして、米国のリーダーシップが期待できないとすれば、自由な秩序を維持・発展させるために、主要な国々はどのような努力をするべきなのか、意見を交わしました。

日 時   3月1日(日)13:00~16:30 (開場 12:30~)
会 場   東京プリンスホテル2階「プロビデンスホール」(東京都港区芝公園3-3-1)
内 容   基調講演:
       クリスティアン・ヴルフ(第10代ドイツ連邦共和国大統領 ※ビデオ出演
       ユベール・ヴェドリーヌ(フランス元外務大臣)
       ハッサン・ウィラユダ(インドネシア元外務大臣)
       パネルディスカッション「民主主義各国に求められる責任とは」
       パネリスト:海外要人、「東京会議」参加シンクタンク代表
             藤崎一郎(日本/元駐米大使)

◆「東京会議」参加シンクタンク代表:
・ジェームス・リンゼイ(米国/外交問題評議会(CFR) シニアバイスプレジデント) 
・ロビン・ニブレット(英国/王立国際問題研究所(チャタムハウス)所長) ※ビデオ出演
・エットーレ・グレコ(イタリア/イタリア国際問題研究所(IAI) 副総裁) ※今回は欠席
・サンジョイ・ジョッシ(インド/オブザーバー研究財団 理事長)
・オン・ケンヨン(シンガポール/ラジャラトナム国際研究院(RSIS) 副理事長)
・ロヒントン・メドーラ(カナダ/国際ガバナンス・イノベーションセンター総裁)
・フォルカー・ペルテス(ドイツ/ドイツ国際政治安全保障研究所(SWP)会長)
・カルロス・イヴァン・シモンセン・レアル(ブラジル/ジェトゥリオ・ヴァルガス財団 総裁) 
                           ※ビデオ出演
・トマ・ゴマール(フランス/フランス国際関係研究所(IFRI)所長) ※今回は欠席
・工藤 泰志(日本/言論NPO 代表)


【「東京会議」とは】

 「東京会議」は、2017年に言論NPOが設立した世界的なシンクタンク会議です。「自由」と「民主主義」という価値を共有するG7各国に民主主義の新興国を加えた10カ国の世界的シンクタンクのトップが毎年、東京を舞台に国際秩序の将来を議論する初めての枠組みで、その成果はG7議長国などに提案されることになっています。議論の内容は、日本国内で報道されるだけではなく、これらのシンクタンクを通じて世界に広く伝わる仕組みとなっています。

【言論NPOとは】

 言論NPOは、「健全な社会には、当事者意識を持った議論や、未来に向かう真剣な議論の舞台が必要」との思いから、2001年に設立された、独立、中立、非営利のネットワーク型シンクタンクです。2012年から米国外交問題評議会が主催する世界25ヵ国のシンクタンク会議に日本を代表して参加し、世界の課題に対する日本の主張を発信しています。このほか、国内では毎年政権の実績評価の実施や選挙時の主要政党の公約評価、日本やアジアの民主主義のあり方を考える議論や、北東アジアの平和構築に向けた民間対話などに取り組んでいます。


「東京会議2020」未来宣言

 私たちは2月29日と3月1日の2日間、アメリカ、イギリス、イタリア、カナダ、ドイツ、日本、フランスのG7加盟7カ国にインド、シンガポール、ブラジルを加えた世界10カ国からのシンクタンクと今回で4回目となる「東京会議2020」を開催した。

 隣国・中国で発生した新型コロナウイルスの感染は世界中に影響が広がっている。このような状況にもかかわらず、世界を代表する10のシンクタンクがこの東京での議論に参加したのは、世界の状況は、私たちシンクタンク自身にも新しい覚悟を迫っていると考えたからである。

 この数年、米中経済対立は技術の覇権的な争いとなり、世界の自由秩序の将来は一層不安定なものとなっている。世界に広がる自国第一主義の傾向は、多国間による国際協力や合意形成にも深刻な影響を与えている。

 私たちが昨年に引き続き、米中対立の行方を話し合ったのは、世界は今後、米中の二つの大国の競争を軸に展開し、さらに深刻化し、長期化することが避けられなくなっているからである。
 コロナウイルスの感染の拡大は、世界が即時に連鎖する、相互依存を高めていることを明らかにしている。こうした世界が共有する課題の解決は、協力の上にしか成り立たず、その協力は双方向的なものである。にもかかわらず、世界の繁栄を支えてきたリベラルな国際秩序の未来は不透明になり、世界経済の分断の可能性も否定できない状況が続いている。世界の民主主義国は結束し、努力を始めなければならない局面だと私たちは判断した。

 私たちが目指すのは、世界の自由秩序とその枠組みを守り抜き、アップデートすることである。大国間の対立はそうしたルールに基づく自由な市場での競争でなくてはならない。
 それが意味することは、この対立の出口は世界の分断ではなく、ルールに基づく世界の自由秩序の下での米中、あるいは世界の共存ということである。

 そのためにも世界の民主主義国は協調して取り組むことが必要であり、今が、その局面なのである。私たち10か国のシンクタンクはそのために積極的な貢献を行うつもりである。

 この「東京会議」に集まった10ヵ国のシンクタンクは各組織の既定の範囲内で、議論に参加することで合意している。私たちは二日間の議論で多くの点で共通の理解を得た。その中から、私たちは以下の5点に焦点を当てた。

 第一に、本年のG7議長国となる米国は、大統領選の真っただ中にある。私たちは米国が国際社会での役割を重視し、G7で強いリーダーシップを取ることを今後も強く期待する。民主主義を唱えるG7など、世界の主要国は協調してリベラル秩序を守り、将来にわたってその秩序の中心に立つ努力をし続けるべきである。そのためにも主要国は新しいルール策定を先導し、世界のシステムの安定や地球規模課題での多国間協力で強いリーダーシップを取らなくてはならない。

 第二に、米中対立の今後は、米国の禁輸リストをもとにした輸出、投資の規制の進展で緊張が高まり、全ての政策課題で安全保障と結びつけられた判断を求められる可能性がある。しかし、民主主義国は結束を崩さず、世界経済の分断の回避に努めるべきである。中国が世界市場に平等のアクセスを求めるのであるならば、中国は世界との相互主義を受け入れる必要がある。私たちは世界経済に公平な競争条件を実現するために相応の対応をし、中国に国内経済改革を迫る必要がある。ただし、中国を排除することがその目的ではない。

 第三は、急速に進むデジタル等の技術開発やデジタル経済、AIの進展にルールが追い付いていないという問題である。日米のデジタル貿易協定や日欧の協議などルールに向けた動きが世界で期待されているが、こうした動きをG7が率先し、WTO等の場でマルチ化する努力が求められる。リベラル秩序を守り抜くということは、目指すべきリベラル秩序を再定義し、世界が共存できる新しいルールを作り上げる攻めの対応なのである。そして、この共同の努力に中国が参加するための努力を行うべきである。また、気候変動など世界の共通課題への対応、持続的成長の実現も緊急の課題である。

 第四に、世界が戦略的な競争の過程に入る中で、G7各国など世界の民主主義国に問われることは、自由、民主主義という共通の価値を持つ国自体がより強くなることであり、それを私たちは一緒に取り組むべきである。民主主義国が、世界のリベラル秩序を守り抜くには、世界の共通利益であるグローバル化と国内の利益をつなぎ、世界だけでなく国内にも包摂的な成長を実現しなくてはならない。そのためにも、まず国内の経済格差などの問題に注力し、教育や必要なインフラ投資、技術の発展に積極的に取り組み、その競争力を高めなくてはならないのである。

 第五に、G7各国は、それぞれの国の民主主義自体をより強靭なものに変えなくてはならない。民主主義国間に広がる権威主義の動きやポピュリズムの動きを抑え込むためには、民主政治の課題解決に向かうサイクルを立て直し、代表制民主主義への市民の信頼を回復する必要がある。そのためにも、権力の機能的な牽制や法の支配、そして何より市民が自己決定できる社会を守ることが必要である。独立のメディアやシンクタンクなどの知識層もその立ち位置から積極的な役割を果たすべきである。自由と民主主義の将来をかけたこの歴史的な作業は、幅広い人々の理解と支持に支えられるべきものである。

2020年3月1日
「東京会議」