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米朝首脳会談を前に、世界が北朝鮮にどう向き合うべきかを議論 -非公開第3セッション報告

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 「東京会議2018」最終日の3月11日、北朝鮮の核問題をテーマにした非公開セッションが東京都内のホテルにて開催されました。東京会議メンバーである主要10か国のシンクタンクの代表に加え、中国、韓国のシンクタンク関係者、さらに日本国内の有識者の計17氏が出席しました。

 初めに、司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志は、東京会議の直前に開催が決まった米朝首脳会談に言及。「なぜ会談が実現することになったのか」「会談によって北朝鮮の非核化が本当に実現できるのか」という二つの論点を提示し、まず、北朝鮮を取り巻く日中韓3か国の参加者らに本音の意見を求めました。


米朝会談決定の背景は

 日本の参加者は会談が決まったことについて、「北朝鮮が核能力の完成を宣言し、対米交渉を新たな段階に進める自信を強めたこと」「国際社会の制裁が効果を上げ、北朝鮮が対話に応じざるを得なくなったこと」「今秋の中間選挙を前に外交で成果を上げ、また内政の問題に取り組みたい米政権の事情」と、米朝双方の観点から三つの要因を提示。そして、「国内の世論を意識した行動と、安全保障上必要な成果との間には乖離が起こりうる。民主主義社会の中で、世論と政策決定の関係が問われる状況になっている」と指摘しました。

 その上で、非核化の成否については、米中間に見られる政策協調への努力に一定の評価をしながらも、「今後、具体策を詰める段階において各国が自国の利益にこだわり、共通目標を見失えば、国際社会の圧力は再び減殺されることになる」との懸念を提示しました。

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北朝鮮の生存に不可欠な核の放棄は見込めない

 日本側の別の参加者は「北朝鮮の核放棄はあり得ない」と断言。その理由として、米国が求める「確実かつ検証可能な核放棄」と、北朝鮮が望む「米国による体制保証」という両国の条件が全くかみ合っていないことを挙げます。具体的には「米国の大統領は長くても8年で交代するが、北朝鮮の体制を次期米政権も継続的に保証するとは限らない。そのときに北朝鮮が核を放棄していれば、自国の生存のために切るカードは残っていない」と説明。会談が物別れに終わり、米朝の軍事衝突に発展するリスクを強調しました。

 中国からの参加者は、北朝鮮の核開発の動機を「核大国として米中と同じ地位を得ること」と位置づけ、北朝鮮は生存の観点から核保有をあきらめないだろう、と日本側に同意します。次に、日米中韓の関係国が非核化の目標のもとに結束することの重要性を語り、強い圧力を加えるという点で「トランプ大統領を支持している」と発言。そして、「北朝鮮の歴代の指導者は核放棄のプロセスを引き延ばし、反故にするための外交術に長けている。過去の経験を知る中国の専門家がトランプ大統領に対処法を提言していくべきだ」と語りました。

 韓国の参加者は「米国本土に届くミサイル保有国という地位を得ることが北朝鮮の目標だ。実際に、最近のミサイルの長距離化や技術進化のペースは予想を上回っている」と指摘。その上で「北朝鮮が対米関係の改善と引き換えに核開発凍結や放棄を約束したことは過去4度あったが、全て破られてきた」と具体的に語りました。すなわち「1993年の、NPT(核拡散防止条約)脱退を停止するという宣言」「94年の米朝枠組み合意」「2005年の6者協議における合意文書」「2012年の米朝協議における『2.29合意』」です。

 韓国からのもう一人の参加者は、今年初め以降の金正恩委員長の言動について、米国への挑発と南北融和への志向という二面性に注目します。「北朝鮮は、自らが核を持っていても南北交流や朝鮮半島の平和は実現できる、という新たなロジックを作り出すのが狙いなのではないか。一方、米国とは同じ土俵で対話し、それによって軍事的圧力を回避するといったメリットを得ようとしている」との見方を提示。核保有の正当性を主張する北朝鮮メディアの論調を取り上げて、核放棄の実現性にやはり悲観的な立場から、「北朝鮮が言葉ではなく行動で核放棄の意思を示すまでは、制裁の緩和や平和協定の締結をしてはいけない」と続けました。

 一方、韓国側は、今回の会談実現の仲介役となった自国政府は圧力一辺倒の立場ではなく、その背景には世論の存在がある、と紹介。ただ、過去2回の南北首脳会談の直後に行われた国政選挙で、いずれも与党が破れている事実を踏まえ、政治家が考えているほど韓国国民は南北関係の改善を重視していない、とも発言しました。

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拡大抑止をやめることは米国にとっても大きな損失

 北朝鮮の非核化に総じて否定的な見通しが出されたここまでの議論を受け、司会の工藤は「では、米国が、自国に届くICBM(大陸間弾道ミサイル)の廃棄を前提に北朝鮮を核保有国と認めることはあり得るのか」と問いました。

 日本側参加者は、日韓両国民に及ぼす不安だけでなく米国自身への影響という観点から、その選択肢に強い反対の考えを表明。「ペルシャ湾からインド洋、日本海に至る地域に米軍基地はない。そうした地域の有事で米軍がハワイから出動するのは無理があり、機動的に対応できるのは7万人の在日米軍だ。また、米中の長期的な競合関係に鑑みれば、米国にとって対日関係の価値は大きい。北朝鮮の核保有を認めれば同盟体制が動揺することになり、米国にとっても損失だ」。

 また、その中国の参加者からも、「東アジアにおける覇権を維持するためにも、米国は日本と韓国を核の脅威から守るべきだ」という意見が挙がりました。

 トランプ政権が抱える問題についての指摘も相次ぎました。米国の参加者は、南北対話を終えた韓国の特使がトランプ氏にその結果を説明した際の詳しいエピソードを披露。これに関しては、朝鮮半島情勢の経緯を知る米国の専門家が政権との距離を広げていることへの懸念や、それに代わる米政権への助言役として「安倍首相の役割がますます大事になってくる」という意見が出されました。

 別の参加者は、不確実性を持つトランプ政権に対する日本の姿勢に注目。「トランプ氏は北朝鮮と取引をし、例えば在日米軍を大幅に縮小することに応じるかもしれない。そうなれば同盟関係を根底から脅かし、安倍首相の失敗にもなる。日本はどういうチャネルを使ってトランプ氏に懸念を表明できるのか」と質問しました。これに対し日本の参加者は「安倍首相が4月に予定する訪米の目的はまさにその点にある。米軍と自衛隊の関係も極めて良好だ」と回答しました。

 北朝鮮から遠い地域の参加者は、今の状況は「新たな脅威に対抗するために相手国側が勢力均衡を図るという、これまでも世界で繰り返されてきたゲームだ」という見方を提示。これに対しては、「繰り返しにどこかで歯止めをかけないと核拡散を人類がコントロールできなくなり、北朝鮮問題どころではない事態となる」という意見が出されました。そして、「既存の核保有国がどのように核を保有するかというロジックが混乱している。この点に対処するため対話こそ急務だ」「米露は核の危険性を互いに分かっている。指導者個人は別にしても両国間には対話のパイプがあり、いずれ新たな核兵器削減条約に合意できるのではないか」といった議論が交わされました。

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多国間枠組みが果たす可能性は

 欧州からの参加者は、北朝鮮が核能力への自信を強め、アジアにおいて核抑止のシステムを維持するのが困難となっているという認識のもと、「それを補完する役割を、6者協議のような多国間の枠組みが果たす可能性はあるのか」と尋ねました。

 これに対し日本側の参加者は、「中長期的には、北朝鮮の安全をも守れるような地域の新しい安全保障メカニズムを考えるべきだ」と発言。「そのまま移行するのではなく、枠組みの原則は大幅に変えなければいけない」としながらも、北東アジアの将来の安全保障体制でこの6カ国は中心的な役割になる、と述べました。

一方、6者協議の効果に懐疑的な参加者からはその理由として「米国が中国を加えた枠組みを模索するのは、これまでだまされてきた経験上、北朝鮮との二国間対話への抵抗感があるからにすぎない」という指摘がなされました。

 民主主義国とは異なる体制や規範を持つ北朝鮮と対峙することの難しさに触れる発言もありました。韓国の参加者は、「拡大抑止や制裁体制は重要だが、同時に北朝鮮の体質、正確を変えない限り金正恩政権は核を持ち続ける。人権など様々な問題を提起していくべきだ」と主張しました。

 また、日本側の参加者は「北朝鮮は民主主義の弱点を利用することが得意だ」と指摘。「北朝鮮のリーダーは『危ない』『常識と違う』という印象を相手国に与えることで情報を引き出している。加えて、民主主義国の政治家は平和を訴えることで選挙に有利となる。また、北朝鮮の経済開発の遅れが取りざたされると『北朝鮮の市民がかわいそうだ』という世論が強まり、政治は対北援助に傾く」と、様々な側面を挙げました。そして、今回の米朝会談は、「核保有国として認められ、北東アジアの在日米軍を縮小させ、そして究極的には北朝鮮主導で平和的に南北統一を果たす」という北朝鮮のシナリオの1ステップだ、との見方を語りました。

 最後に工藤は「中長期的な北東アジアの平和のため、歴史的な対話を作り上げるタイミングに来ている」と述べました。そして、そのために日中、日韓、日米中韓など様々な民間対話を展開している「言論外交」の取り組みに注目してほしい、と世界のシンクタンクトップらに呼びかけ、白熱した議論を締めくくりました。


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