世界の課題に挑む

世界は今、どこに向かっているのか

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2019年2月22日(金)
出演者:
古城佳子(東京大学大学院教授)
納家政嗣(上智大学特任教授)
篠原尚之(元IMF副専務理事、元財務官)
司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


 関税問題から生まれた米中摩擦は、通商面の対立に留まらず、今後の自由貿易体制やリベラルな国際秩序に影響を与える可能性が出てきています。言論NPOは、3回にわたってこの問題を考え、日本がこうした世界の大きな変化にどう向かい合うか、話し合います。第1回は、東京大学総合文化研究科教授の古城佳子氏、上智大学特任教授の納家政嗣氏とIMFの元副専務理事の篠原尚之氏の3氏をゲストにお迎えし、世界の自由秩序は今後どうなっていくのか、議論しました。


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国際秩序の混乱は当然のこと

kudo.jpg 司会の工藤泰志・言論NPO代表はまず、基本的な点として、リベラルな国際秩序とは何なのか3氏に問いました。古城氏は、「秩序とは、国内社会の構成員の間で、価値の配分を含めて合意ができ、構成員の行動がある程度、予測できること」と語り、この状態が混乱なく進んでいくことが理想とされていると説明しました。第二次大戦後の冷戦期には、西側陣営でこの自由秩序が発展し、オープンな経済、政治的・社会的自由、多国間主義の3つの柱からなっていました。それが冷戦後、政治体制が違う中国、ベトナムなど構成員が多様になって、価値や合意がブレて調整が必要になり、混乱が見えてきたと話します。

n.jpg 一方、納家氏は、自由の価値とは、人間の自由から始まっているとします。「国際社会には政府がないので、自由秩序を保持し続けることは難しいが、貿易(商売)の制度は比較的作り易い。もう一つ、人間の自由は、それを担保するような国内秩序がなければダメで、人の自由を掲げながら、それを実現できたのは、米国の圧倒的な強さがG7を主導し、秩序をつくってきた」と納家氏。それが今は、米国自体が行き場をなくしたように疲弊し、他の国々が独自の国益を求めて行動するので混乱するのは当然だと言います。

 篠原氏は「欧米型の自由なシステムが機能していた昔は、経済成長がうまくいき、所得の分配にも大きな影響を与えることなく、1990年代までは、成長を促すことが全ての人々の幸せにつながった」と話します。しかしながら、その流れが崩れて、世界全体の成長が鈍化し、AIなど技術革新が起きてもGDPの上昇には結び付かない。人々の生活パターンも変わって、貧富の差が拡大、これまでのやり方はおかしいのではないか、という感覚が蔓延していると、警告します。日本社会はある程度、守られ、強い外圧にも触れていないので、大きなフラストレーションを感じていないようですが、欧米では不満、不安が高まり、それがポピュリズムや秩序、権威など既存の体制を嫌悪する"自由秩序への挑戦"となっていると語ります。


最大の現状維持勢力だった米国の変化

ko.jpg 機能していた自由秩序の雲行きが冷戦後、怪しくなってきたのは米国の衰退だけが原因なのでしょうか。古城氏は、「国際政治と経済の構造が変わった」と話します。現状維持派が多ければ、社会は安定しますが、変革したい勢力が出てくると不安定になります。その現状維持勢力の筆頭と見られていた米国が、現状を変えたい、多国間主義を破ってまで変革を望み単独主義に走っているのです。国内格差も進み、現状を変革したい勢力が増えてきている、と古城氏は見ます。

 「米国は、国際秩序を作るのに適した国かどうか」と疑問を呈したのは納家氏です。「冷戦期は、米ソ対立でも安保の構図は安定し、自由秩序は西側だけで発展してきた。それが、冷戦が終わるとグラグラし、経済的には規制緩和が進んで格差が大きくなり、こうした社会変動にうまく対応したルールができていない」と語ります。


s.jpg 篠原氏もやはり、米国の弱体化を問題にします。「米国の覇権はどんどん弱くなっていて、今もそのプロセスの途中にある。米国の一国主義や、GO(ゼロ)の多極化時代も進んでいる。世界はもっと不安定になる。米国は世界の警察官として活躍した時代はとっくに終わり、自分のことを見るのに精一杯」、さらに「資本主義の限界も多くの人が感じている。モノ、カネを自由にしていれば、みんな幸せ、と思っていたのが、実はそうではない、とみんなが気付いた。新しいシステムを考える時にきているのでは」と提案する篠原氏でした。


中国とゲームはできる? 中国との自由秩序はどうなる?

 議論は米国から離れ、米中対立の行方に移っていきました。工藤が尋ねます。経済の相互依存関係の中で、体制、ルールの違う人たちとゲームはできるのでしょうか。共存する仕組みをつくるとしたら、そこで問われる自由秩序とは、何なのでしょうか。

 古城氏は、「とても難しい問題」と言います。「それは、中国がWTOに入った時から、国際政治経済学でも指摘されてきたことで、国内体制の違う国がリベラル・オーダーの中に入ってきて、同じような経済的行為をするといった時に、うまくできるのかどうか」、「中国経済は力を持ち、外側から矯正するのが難しい状況。自由主義経済とどう共存していったらいいのか。中国が世界との相互依存で生きようとするなら、中国に実態に合った市場経済のルールを受け入れて、変えてほしい。政治体制が違うので限界があるが、妥協はできる」と期待を口にする古城氏でした。

 共存は、「無理だと思う」と退けたのは納家氏。「米中は、安保では熾烈な競争をし、経済では世界1,2位を争う貿易相手になっている複合的状況にある。経済的に両国が満足できるには、同じようなやり方でルールを発展させていかなければいけない。中国には相互主義を守ってもらわなければ困るが、中国はそれをやらないので、同じシステムはつくれない」、「国際政治学では、共存できる最低限のところは勢力均衡で、戦争を避けながら、価値観の違う国とも共存するのが土台。その上に、価値の共有まで、いけるかどうか」と悲観的でした。しかし一方で、「市場が分断されることはないでしょう。米中が争っているのは、ハイテク、ITのデジタルの世界で、最先端モデルをどちらがとるかの話。全部が対立する話ではない」との見解も示しました。


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近づいてこない中国

 篠原氏は、逆に「共存していくしかない」と語ります。IMF時代にブッシュ、オバマ政権を見てきた篠原氏は、「両政権の対中政策には、中国の経済が発展していけば、こちらに近づいてくるだろうという思いが根底にあった」と言い、「中国への対応がフラフラしている一方、いつまでたっても中国の姿勢は変わらない。それが、トランプ大統領の強引な手法によって、中国の問題点が明らかになり、声高に叫べるようになったのは大きな進展だった」とその手腕だけは認める篠原氏でした。先に、資本主義の限界に触れた篠原氏ですが、もう一点、政府の役割が小さい方がいい、というのは本当なのか、もう一度、問い直してもいい時期ではないか、と語りました。日本の社会保障政策は、今のままいけば崩壊しますが、その将来を考えると、パブリックセクターとして政府の役割は大きくならざるを得ないのではないか、と語ります。工藤はさらに、現在の秩序を支える国際機関の役割は、中国の経済の拡大の中で、どうなるのかを篠原氏がかつて務めたIMFを例に尋ねました。篠原氏は、「20年後には中国のGDPは米国を上回り、IMF第一の出資国になる可能性がある。IMFの協定によれば本店は北京に移転、IMFの中身自体が変わって欧米が距離を置くようになる。IMFに代わる新たな国際機関ができるかもしれない」と語りました。


日本に求められるものは

 最後に工藤は、現在の状況での日本の役割について各氏に意見を求めました。古城氏が答えます。「日本は、他の国に比べて社会的に安定しています。これまでの多国間主義は重要で、いろいろな分野で合議する場を提供していくのは意味あること。デジタル貿易とか新しい分野ができても、ルールづくりが進まない時に、ルールづくりにコミットして妥協を見出し、リードしていく。日本は、多国間主義や、協力なくしてはやっていけない国なんです」。

 納家氏は、「日本の役割を問われることは、日本の国益をどう考えるか、ということ。日本は日米基軸だけでなく、日中についても、協商というか、理想的にはダメージコントロールができる関係を持っていかないといけない。米中、どちらかを選ばされるのはよくない」とし、さらに「国際経済の面で、リベラルなオーダーを後退させないこと。日本はTPP11とか日欧EPAとか、いい立ち位置にいるので、こうした経済の枠組みを後退させないで維持していき、米国が戻ってこられるような状態をつくっておくことが、貢献となる」と二点を挙げました。


アジアで最も信頼されている国・日本

 篠原氏は、シンガポールのシンクタンクがASEAN10カ国で行った世論調査の結果を紹介しました。「世界の平和と繁栄において、最も信頼できる国はどこか」との選択では、日本が65%で1位、そしてEU、米国が続き、中国は20%で5位だったそうです。また、「最も政治的戦略的に影響力を持つ国」は、中国が45%で1位で、日本はわずか2%でした。篠原氏は、この結果から、「日本は経済力も軍事力も落ちてしまったが、日本は裏切らない国だと思われている」とこの数字を読み解きます。「日本が生かせる道は、知的な部分で一生懸命、貢献していく。日本は課題先進国と言われていますが、日本が抱えている課題を各国でシェアーしていくようなフレームをつくり、悩みを共有して一緒に改善していくことが大事」と日本が進む道を提示しました。

 各氏の提案を受け、工藤は、「日本の未来にも多くの論点がでました。それらをこれからどう具体化していくか、知恵が問われている」と語り、フォーラムを閉じました。


「東京会議2019」は3月3日開催


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 言論NPOは、現在深刻化する米中対立の行方とリベラルな国際秩序の今後を議論するため、G7加盟国の米国、日本、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダとブラジル、インド、シンガポールの10カ国から世界を代表する有力シンクタンクの代表者を迎え、「東京会議2019」を3月3日に開催します。

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