貿易、核、サイバー、気候変動など、グローバル課題への国際協力を評価する

2019年2月28日

2019年2月27日(水)
出演者:
秋山信将(一橋大学教授)
浜中裕徳(地球環境戦略研究機関・特別研究顧問、初代地球環境審議官)
山内智生(内閣サイバーセキュリティセンター副センター長、内閣審議官)
渡辺哲也(経産省通商政策局通商機構部長)
司会者: 工藤泰志(言論NPO代表)

 言論NPOによる「東京会議」(3月3日、東京・ホテルオークラ)を前にしたプレフォーラム第2弾は、「貿易、核、サイバー、気候変動など、グローバル課題への国際協力を評価する」と題して2月27日、都内の事務所に秋山信将氏(一橋大学教授)、浜中裕徳氏(地球環境戦略研究機関・特別研究顧問、初代地球環境審議官)、山内智生氏(内閣サイバーセキュリティセンター副センター長、内閣審議官)と渡辺哲也氏(経産省通商政策局通商機構部長)の4氏をゲストとしてお迎えし議論しました。


IMG_7858.jpg

kudo.png 司会を務めた言論NPO代表の工藤泰志は、「戦後、欧米が主軸となり発展・維持させてきたリベラルな国際秩序と多国間主義が危機的な状況にある現在、グローバル化した世界では、様々な問題が国境を越え、技術革新によりサイバーガバナンスなど非伝統的な問題で、国際的な協力体制やルールづくりが求められている」と今回のフォーラムの趣旨を説明。そこで、核拡散防止、国際貿易の拡大、気候変動への対応、サイバーガバナンスの管理などグローバル課題での昨年一年間の国際協力をどう評価しているか、4氏に尋ねました。


「協力」よりも「競争」が重要だ、との認識が大国間に存在しているのではないか

akiyama.jpg まず、秋山氏は、「グローバルな課題で国際協力がどう展開するか失敗するかは、各国の利害がどれだけ収斂するか」だと指摘。その上で、「現状、各国の関心とか利害関係のベクトルは収斂するのとは反対に進んでいる。協力することが良いことである、という考え方が共有されなくなっている」と語りました。さらに、「競争することこそ重要。協力して得られる利得は小さく、また、協力することで他者に裏切られるリスクの方が、より大きくなっている、との認識が大国間にはあるのではないか」と問題を投げかけ、「米国のユニラテラリズムに帰する問題もあるが、国際社会が米国に多くを依存してきたことの帰結でもある」との認識を示しました。

hama.jpg 続いて浜中氏は、「気候変動に限って言えば、昨年暮れの気候変動会議で、3年前に合意されたパリ協定を締結している全ての国に適用される新しいレジームができた。それを実施に移すためには、ルールを決めなければいけないが、それがほぼまとまり、2020年からスタートできるようになった。その意味では、国連を通じた多国間のガバナンスが一応、機能した」と評価しました。さらに浜中氏は、トランプ大統領はパリ協定からの離脱を表明しているものの、米国内では連邦政府が何を言おうと、カリフォルニア州や多くの自治体、1700以上の企業はパリ協定に「留まる」とし、国家に縛られない動きが広がっていることも強調しました。しかし、パリ協定の長期目標のレベルは非常に高く、今世紀半ば、あるいは後半までにはCO2の排出量をゼロにしないと問題は解決しないにもかかわらず、その目標達成に向けて各国の野心は足らず、行動強化に向けた取り組みも不明確であることを指摘し、「今後の行動を引っ張るリーダーが出てくることも期待できない状況だ」と今後の展開に疑問を示しました。


戦後、世界が頼ってきたルールベースの国際通商システムそのものが問われている

 次に工藤は、「自由貿易体制について、建前ではルールに基づいた国際的な自由主義と言われてきたが、それが十分に機能してこなかったことが、今回の米国の対応につながっている。グローバリゼーションのあり方自体が問われているのではないか」と経産省の渡辺氏に尋ねました。これに対して、渡辺氏はトランプ政権が通商法301条に基づいて中国に関税をかけ、中国も関税で対抗措置をとったり、米国の同盟国の日本やヨーロッパにも通商拡大法202条で鉄鋼、鉄鋼アルミに関税をかけたこと、さらに北米で23年続いたNAFTA(北米自由貿易協定)の再交渉やイギリスでのブレクジットなどの動きを挙げ、「戦後、グローバル体制が世界貿易を拡大するという約束事の上に、各国の繁栄はあった。しかし、ルールと世界経済の現実、技術革新の間にギャップが出てきて、一気に噴き出したのが2018、19年だった。戦後、世界が頼ってきたルールベースの国際通商システムが問われている」と応じました。

 工藤の問いは続きます。「米国のトップが自国第一主義で多国間主義を壊し始めているが、その背景には、国際的な公共財の提供を米国に安易に依存した構造がうまくいかなくなった面もあるのではないか」、さらに「多国間主義、自由な秩序というものが、大きな曲がり角に来ているのではないか」と。

米ロ間におけるルールやパワーによるガバナンスの限界にガタがきている

 これに「核秩序で言うと」と秋山氏が答えました。「イラン、北朝鮮の核開発は、1970年代ぐらいから萌芽が見え、問題は前から存在していた。それが顕在化してきたのは、今のシステムが機能しなくなったからだ」という秋山氏。さらに、冷戦時代は「米ロ関係が、世界全体のガバナンスの構造を下支えする役割を果たしたが、現在においては、米ロ関係というのは安定的なのか、軍備管理のアーキテクチャ(構造)が長期的に持続可能なものか、冷戦期とは異なり米ロ関係に完全に依存する安心感がなくなってきた」と説明。特にロシアにとっては軍備管理の枠組みが、一定程度、米国との対等関係を担保するものであったが、米ロ間の格差が顕在化してきて、中距離核戦力(INF)全廃条約の破棄が、別の形で米国と対抗していきたいと考えるインセンティブにもなっている、と解説しました。さらに秋山氏は、米国自身もロシアのINFの不履行を許容できる余裕がなくなってきたと語り、米ロ双方の揺らぎを指摘しました。そうした中で、「北朝鮮、イランも放っておくことができなくなってきた。ルールのガバナンスと力のガバナンスの観点からも、限界に近づきつつあるということだ」と断じました。

 続いて工藤は、「今は国家の話ばかりが注目されるが、非国家アクターの存在は影響力を持たなくなってきたのか」と問いかけました。「気候システムに限って言えば、この公共財をどういう風に維持管理できるのか、新しい動きが存在する」と答えたのは浜中氏です。最近注目していることとして、「米国でいえば各州であり、日本でいえば自治体、ビジネス界、投資家などの政府以外のアクターが行動し始めている。そうした人たちの声をどのように組み込んでいくのか、多層的で多様な主体が参加するようなガバナンスの仕組みが求められているのではないか」との期待を示しました。


サイバー空間での国家主権を認めよ、と中ロ

 話題は、サイバーガバナンスの管理に移りました。工藤は、インターネットは本来、私たちの生活を変え、利便性を高めるものであり、国境を越えて成長していくと期待していたが、国家が障壁を設け、さらには安全保障の問題にもなってきた、と指摘。本来、国境を越えて一つの仕組みを作り出す可能性があったインターネットも、国家の枠を越えるのは難しいという段階に陥っているのか、と問いかけました。これに対して、政府でサイバーセキュリティ対策に当たっている山内氏が答えます。

yamauchi.jpg 山内氏は開口一番、「サイバー空間が、実生活を豊かにするというのか基本的認識であるべきだ」との認識を示した上で、昨年、日本政府が作成した「サイバーセキュリティ戦略」では、セキュリティ対策至上主義ではなくて、サイバー空間を使うことで人類、社会が豊かになり、それを安全で持続的なものにするためにサイバーセキュリティがあることを前提として、戦略を作ったと説明しました。

 さらに山内氏は、サイバー空間上でのルールの問題として、世界各国が国境を越えて電子空間で繋がり、ビジネスの世界でみんなが自由に使ってきたインターネットの中に、「国の主権はどのように関係するのか」という話が出てきたが、これについては国家間の対立がある、と解説しました。インターネットには国境という概念がない中で、「ある種の規範に基づいて、情報の自由な流通を認めるべきだろう、というのが日本の立ち位置だとする一方、中ロは「国家の主権を認めるべきだ」として完全に対立しており、話し合いはいったん中断しているが、その現状を打開するため、今年の終わり頃に国連の中で自由陣営のグループでどこまで合意できるか、話し合いを持ちかけている、と語りました。先進国がサイバー空間に十分な知見も産業もない途上国を支援しながら、中ロとどこまで妥協できるのか、その先の道ははっきり見えていない、と話す山内氏でした。


 続いて、工藤は世界が直面する個別の課題に対する国際協力の評価を尋ねました。

IMG_7859.jpg


核をめぐる3つの危機

 秋山氏は世界の核不拡散体制における現下の3つの危機について言及しました。まず、これ以上核保有国を増やさないことが最低限の目標であるが、仮にトランプ氏が北朝鮮を事実上の保有国として認めるようなことがあれば、核保有の動きは中東各国にまで広がってしまうと指摘しました。

 2つ目の危機は、米ロ間の軍備管理の枠組みが壊れつつあることです。秋山氏はINF全廃条約が死文化しようとしており、2021年に期限を迎える新戦略兵器削減条約(新START)の延長も見通しが不透明であると説明した上で、こうした停滞が核だけでなく、サイバーや宇宙などの他の領域でのルールづくりにも悪影響を及ぼすと懸念を示しました。同時に中国を枠組みに巻き込むことについても「簡単には乗ってこないだろう」と厳しい見通しでした。

 3つ目の危機としては、核兵器禁止条約をめぐって核保有国と非保有国の分断が深まっていることや、核兵器不拡散条約(NPT)を中心とする核不拡散体制が諸々の方面から厳しい挑戦を受けて大きく動揺していることです。これに対しては、「核をめぐる国際社会のコンセンサスが崩壊しつつある」との危機感を露わにしました。

 一方で秋山氏は、日本の役割についても言及し、唯一の被爆国であり、複数の核保有国が交差する地政学的要衝に位置する日本は重要なプレイヤーになるべきと述べました。


リーダー国不在の気候変動対策

 浜中氏も、気候変動問題について厳しい見通しを示しました。昨年のCOP24ではパリ協定の漂流という最悪の事態こそ避けられたものの、浜中氏はこれを一時しのぎにしかなっていないと指摘し、CO2削減目標の引き上げなど「本来やらなければならない課題解決は進んでいない」と断じました。

 浜中氏はこうした停滞の背景として、リーダー国の不在を改めて指摘し、パリ協定合意の立役者となった米国が自らパリ協定に背を向けている現状では、国際社会が一丸となった取り組みも進みにくい、と語りました。


"サイバー先進国"中国をどう説得するか

 山内氏は、サイバーをめぐる状況としてまず、コミュニケーションそのものが成り立っていないという現状の厳しさを指摘しました。今後の課題として「まず会話を成立させること自体が必要」だという山内氏ですが、どの国も「話はしなければならない」とは言っているものの、「どこまでやる気があるのか」と疑問を投げかけました。

 山内氏はとりわけ困難な問題として中国の存在について言及しました。中国はインターネットに関しては既にきわめて網羅的な法体系を構築しているため、「ある意味では先進的」と語りますが、その中国も服する国際的なルールを構築しようとする際、"先進的"な中国がどこまで国際社会に対して譲る気があるのか、それは未知数であると語り、このような「中国の確立されたルールとの調和」は今後の大きな課題になる、との見通しを示しました。


新たな通商秩序を構築するチャンスが到来している

watanabe.jpg 一方渡辺氏は、通商システムも大きな課題に直面しているとしつつも、この現状は「新しいルールに基づく通商秩序を構築するチャンス」でもあると語りました。現実とルールの間にギャップが生じる中、WTOがルールのアップデートをできなかったことが現在の通商秩序の歪みにつながってきたと振り返りつつ、そうである以上アップデートが不可欠と指摘。TPP、日EU・EPAなど地域レベルで新たなルール構築が進展する中、こうした成果をWTOやより多国間のシステムにも反映させていくことが大事だと主張しました。

 渡辺氏はWTO自体についても、当初改革は困難視されていたが、 日米欧三極の協調が進んでいるなどポジティブな動きが見られるようになってきたとし、「新しい通商秩序構築に向けた希望はある」と前向きな見方を示しました。

 最後に工藤は、2019年の世界の優先課題は何か、各氏の見解を問いました。


2019年の優先課題は何か

 浜中氏は、自身の専門の気候変動問題を挙げました。先程はやや悲観的な見方をした浜中氏でしたが、国連のアントニオ・グテーレス事務総長が気候変動問題に積極的に乗り出しており、9月には気候変動サミットが予定されていることを指摘。大きなイベントがある今年、国際協調を進めるチャンスはあるとしました。

 秋山氏、渡辺氏も自身の専門分野を挙げましたが、同時にサイバーも優先課題として提示。その理由として、サイバーが安全保障、経済など多面的な分野に関わっていることを挙げると、山内氏も「サイバーの問題は、サイバーだけを考えても答えは出ない」と応じました。

 山内氏はさらに、サイバー空間と現実の空間との連続性がますます強まる中、人々の生活を豊かにするためのサイバーによって生活に悪影響が出ることがないように、ルールとガバナンスの構築は急務との認識を示しました。


 これを受けて工藤は、「国際的な課題に対するこうした横断的な評価が、これまで日本では行われたことがない。それを語ることができるグローバル人材も日本ではあまりにも不足している」とした上で、今日のような議論を継続していくことで「世界を考えるための言論の舞台を日本にもつくっていきたい」と意気込みを語りました。


「東京会議2019」は3月3日開催


190303_02.jpg

 言論NPOは、現在深刻化する米中対立の行方とリベラルな国際秩序の今後を議論するため、G7加盟国の米国、日本、英国、ドイツ、フランス、イタリア、カナダとブラジル、インド、シンガポールの10カ国から世界を代表する有力シンクタンクの代表者を迎え、「東京会議2019」を3月3日に開催します。

⇒ 詳細はこちら