世界の課題に挑む

10年後の世界秩序に悲観や楽観をするのではなく、「何ができるか」を考えていく局面に
―「東京会議2020」2日目公開フォーラム パネルディスカッション報告

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HIR_2431.jpg 基調講演に引き続き、カナダ・国際ガバナンス・イノベーションセンター総裁のロヒントン・メドーラ氏による司会進行の下、「民主主義各国に求められる責任とは」をテーマとしたパネルディスカッションが行われました。

 まずメドーラ氏は、米中両国の対立関係を解消させ、平和で安定的な国際秩序にしていくためには何が必要なのか、米国のリーダーシップが低下している中、他の民主国家がなすべきことは何か、などといった質問を各パネリストに投げかけました。

 こうした質問に対し、基調講演を行った2人がまず発言しました。


10年後に向けて、今こそ先手を打つべし

HIR_2457.jpg フランス元外務大臣のユベール・ヴェドリーヌ氏は、「世界秩序の趨勢は今後10年間で決まってくる」とした上で、今民主主義国家に求められることは「先手を打つこと」であると主張。新興諸国が権威主義体制に靡かないようにするとともに、米中両国が国際秩序という枠組みの中から退出しないように引き止めるために手を尽くすべきであるとしました。そのためには、民主主義国家同士での連携は不可欠であり、協力関係を深める必要があるとした上で、現状ではすべての国が合意できるようなコンセンサスはないため、合意可能な最小限の共通項を早急に探るべきだ、と語りました。

まず、自分の地域の足元を固めつつ、米中という"二頭の巨象"を抑え込むべき

HIR_2490.jpg インドネシアの元外務大臣であるハッサン・ウィラユダ氏は、米中対立構造は今後も続き、世界秩序も揺れ続けるとやや悲観的な見方をまず提示。一方で、貿易交渉で対話は継続していることや、選挙戦後に米国の対中姿勢が軟化する可能性などを指摘。厳しい現状があるからといって民主主義国家は諦めることなく世界秩序の維持に努めなければならないとも主張しました。さらに、そのためには米中間の仲介に尽力するとともに、各地域レベルの秩序を安定させるなどして足元を固めておく必要があるとしました。また、既存の国際的な枠組みの活用についても提言し、例えばG20など大国も新興国も入った枠組みを秩序立て直しの足掛かりとすべきだ、と述べました。  その上でウィラユダ氏は、米中を"二頭の巨象"に喩えながら、「ここで象たちを抑えないと我々は草のように踏み固められてしまう」とし、今こそまさに正念場であることを再度強調しました。


「多国間協力の方が得策だ」とトランプ氏に思わせることが重要

HIR_2518.jpg こうした発言を受けて、"巨象"の一角である米国の外交問題評議会(CFR)シニアバイスプレジデントのジェームス・リンゼイ氏は、トランプ大統領は、米国はリベラルな国際秩序から奪われるものが多かったと思い込んでおり、EUさえも敵視していると解説。今秋の大統領選で再選を果たした場合、とりわけ通商面ではさらに攻勢に出ることが予想され、米国の同盟国・友好国にとっては重大なチャレンジにさらされることになるだろうと問題提起しました。

 また対中姿勢についても、トランプ氏は中国には米国の要求を押し戻す力があり、一方的な攻勢は不可能と判断したため、二国間の"ディール"路線を選択したと解説。逆に言えば、同盟国・友好国と協力しながらアプローチをしていった方が効率的に中国の姿勢を改めさせることができる、とトランプ氏に思わせることが米国の行動も変えられる可能性はあると語りました。

 ただその一方で、対中強硬路線は共和・民主両党の党派を超えた米国のコンセンサスとなっているとも指摘。また、民主党政権が誕生した場合、トランプ氏が黙認していたような中国の人権問題にも介入する可能性があり、そうなれば中国の反発を呼んで米中対立はより深刻化する可能性があることには留意する必要がある、とも語りました。


G20を足掛かりとして、秩序の新たなバージョンを探っていくべき

HIR_2527.jpg インドのオブザーバー研究財団理事長のサンジョイ・ジョッシ氏は、トランプ氏の登場以前から既に世界秩序の動揺の予兆はあったとしつつ、「だからといって、世界は1930年代のような分断の状況に戻ることはもはやできない」と主張。秩序の修復は民主主義国家に課せられた責務であるとするとともに、ウィラユダ氏と同様にG20は秩序再考の良い舞台であるとし、「ここで秩序の新たなバージョンを探っていくべき」と主張しました。

 同時に、世界はサプライチェーンによって強固に結びつき、利害も密接に絡み合っているために、「協力せざるを得ない」とし、多国間協力が復活する余地は十分にあるとの見方も示しました。


欧州がその強みを活かしながら新たな世界秩序の担い手となる

HIR_2551.jpg ドイツ国際政治安全保障研究所(SWP)会長のフォルカー・ペルテス氏は、トランプ氏の登場について、「欧州の目を覚まさせ、戦略的自立について考える良いきっかけとなった」とし、ポジティブに捉えるべき面もあったとまず評価。しかし、欧州が真に自立し、新たな秩序の担い手となれるかどうかは、今がまさにその分岐点であると語りました。

 ペルテス氏は、欧州が担い手になるために必要な取り組みとして、データなど「自らの強みを活かせる分野でルールづくりを主導すること」を提示。こうした次代のカギを握る新領域において米中に一歩先んじて、自らの優位性を高めていくことが発言力の強化にもつながっていくとの見方を示しつつ、巨大な域内市場と産業基盤を有する欧州にはそれが十分可能であると自信を見せました。同時に、データ流通や電子商取引に関する国際的なルールづくりを進めていくプロセスである「大阪トラック」を開始した日本との連携にも意欲を見せました。

 中国についてはさらに踏み込んで言及しました。AIと監視カメラのテクノロジーとを融合させた顔認証システムによって国民管理を進めるなど、リベラル国家には真似できないような手法で社会実装を進められる点が中国の強みであるとし、これを警戒。また、次世代の無線通信規格5Gで、中国が世界に先行していることについても、「スパイや破壊工作に悪用されかねない」と懸念。欧州側もイノベーションによる技術革新を進めると同時に、やはりルール形成を主導することで対抗していくべきと語りました。さらに、こうした方向性はGAFAなど国家に比肩するような巨大企業を抑える上でも意義があると付言しました。

 ペルテス氏は続けて、安全保障戦略についても論及しました。フランスのマクロン大統領が2月、フランスが保持する核抑止力が欧州の安全保障に果たす役割について欧州各国と「戦略対話」を行いたいとの意向を表明したことを紹介しつつ、欧州で戦略的協力の機運が高まっていることに期待を寄せました。


 この発言を受けてヴェドリーヌ氏は、 NATO軽視の言動を繰り広げるトランプ氏と米国には、もはや全面的に安全保障を頼ることができなくなった以上、欧州側の自助努力は不可欠となったとし、「戦略対話」創設もその一環であると補足しました。また、データ管理やAI技術に関する提案に対しても、「技術の優位性なくしてルール形成主導は不可能」と賛同しました。

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米中の狭間で揺れ動いてきたASEANも積極的な役割を果たしていく

HIR_2585.jpg シンガポール・ラジャラトナム国際研究院(RSIS)副理事長のオン・ケンヨン氏は、米中の狭間で揺れ動くASEANの視点から発言しました、その中でオン・ケンヨン氏は、米中両国に依存せざるを得ないASEANとしては、どちら側に付くか旗幟を鮮明にすることをこれまで避けてきたが、今後もそれは同様であるとし、ASEANの置かれた立場の難しさを吐露。一方で、データや資本市場、サプライチェーンなどをめぐっては時代の変化に適合した新たなルールによる規律は必要であるとし、落としどころとなるルールの策定にあたってはASEANも積極的に発言していくべきと語りました。

 同時に、今まさに猛威を振るう新型コロナウイルスのように、国境を超える課題については国際協力の他に解決の道はないということを、米中に再確認させるための努力も、両国の間にいるASEANに課せられた役割であると語りました。


中国に変化を促す好機到来

HIR_2607.jpg 元駐米大使の藤崎一郎氏は、従来からの覇権国家と新たに台頭してきた国家が、戦争不可避な状態までぶつかり合うという所謂"トゥキディデスの罠"の現象が米中間で起こるという見方に対しては「賛同できない」とし、その理由として中国はマネーの力によって世界秩序を変えようとしているのであって、旧ソ連のようにミサイルや戦車の力で変えようとしているわけではないことを挙げました。

 また、中国の姿勢を変えさせることができるということを示した点では、トランプ氏に功績があるとしつつも、それを米国単独でやろうとしているために不十分な成果にとどまっていると指摘。そこではやはり多国間のアプローチが求められると語るとともに、新型コロナウイルスや香港問題への対応で中国が後手に回った今はまさに方向転換を促す好機であると述べました。


10年後の世界秩序に向けて、民主主義国家は何をすべきか

 議論を受けてメドーラ氏は最後に、10年後の世界秩序の行方について各氏に予想を求めました。

 ペルテス氏は、現下の危機から教訓を得た結果、「多国間協力こそがベストということを世界が認識する」ため、「来年はともかく、10年後には平穏を取り戻しているだろう」と予測。もっとも、そのためにはG20などの多国間枠組みを通じた努力は不可欠であることも付け加えました。こうした教訓をベースに秩序再興に向かうとの見方にはジョッシ氏やウィラユダ氏も同意しました。


 また、オン・ケンヨン氏は、トランプ体制、習近平体制が続くのであれば「2、3年でディールに至って、米中対立は収束する」との見方を提示。両首脳とも政治的な"夢"を持っているが、対立を上手く着地させることができなければ、その夢の実現がおぼつかず、さらには政治生命自体も危機に瀕することをその理由としました。

 藤崎氏は、「米国が広い視野に基づくリーダーシップを取り戻すこと」、「中国が"チャイナ・ウェイ"は通用しないということを理解すること」の2点さえあれば楽観できるだろうと回答。逆に言えばそれができなければ今後も不安定な状況が続くことを言外ににおわせました。

 一方リンゼイ氏は、「ベストを願いながらワーストに備えていくべき」と主張した上で、ワーストを避けるためには多国間協力が必要不可欠だという流れを世界で確固たるものにしていく必要があるが、「それが間に合うか」だと指摘し、気候変動問題に象徴されるように、世界的課題の解決が遅れることの危険性を考えれば、10年後の秩序は「悲観的」との見方を示しました。しかしリンゼイ氏は、だからこそシンクタンクも努力を続けることが大事だと説くとともに、「『東京会議2030』で皆さんと共に良い成果を得られたことを喜び合いたい」と語りました。

 ヴェドリーヌ氏は、「悲観でも楽観でもなく、『何ができるか』を考えていくべき」と主張。リベラル秩序というものは自然発生したものではなく、かつて米国を中心として人為的につくり出したものであると指摘しつつ、人為的につくり出したものであれば人為的に修復することも可能であるはずだと語りました。そのためには、米中対立が収拾のつかない状況になった時に、多国間協力で助けることによって、米中両国にこの協力の重要性を再認識させることが大切だと指摘。これは「15程度の有志国で連携すれば十分に可能だ」としつつ、逆にそれができなければリベラル秩序は終わりを迎えることになると警告し、居並ぶパネリスト達に奮起を促しました。

 こうした白熱した議論を経てパネルディスカッションは終了し、会議の進行は、「『東京会議2020』未来宣言」の発表と、本年の G7議長国である米国政府及び日本政府への宣言文手交へと移りました。

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【 0:00:00~ 挨拶・基調講演 / 1:20:30~ パネルディスカッション / 2:56:34~ 未来宣言・政府挨拶 】 

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