世界の課題に挑む

ヨーロッパと日本の戦略的な対話が今後重要になってくる / ユベール・ヴェドリーヌ(フランス元外務大臣)

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工藤:今回の「東京会議2020」は、「世界の民主主義国は自由秩序をどう守るか」をテーマに議論を行いました。私たちは今、まさに世界の民主主義国は連携すべきタイミングだと危機感を持っています。ヴェドリーヌ大臣はこの会議だけのために日本に来ていただきましたが、この会議にどのような期待がありましたか


EUと日本はもっと対話をし、
トランプ大統領抜きでもできることがないかを模索する必要がある

ヴェドリーヌ:まず、今回の会議は非常に時宜を得たものだと思います。そういうイニシアティブをとってくださった工藤さんに御礼申し上げます。

 今、世界のどの民主主義国を見ても、混乱している状況にあります。その混乱の原因は、中国やトランプ、プーチンのようなリーダーがいるという現象によるものです。そして、外的要因だけではなくて、ヨーロッパにおける民主国家、アメリカもそうですが、内的要因によっても混乱の時期を経験しています。一般論として、私は日本と欧州の間にもっと対話がなされるべきだと考えています。日本とヨーロッパの間には相違点は多いといえばそうかもしれませんが、今回の危機に関しては共通点の方が多いと思っています。

 まず、共通点、あるいは共通の利害についてですが、中国に対してどうすればいいか、ということです。中国にとって大事な経済のパートナーの間に共同戦線が張られているということに気付くのであれば、中国もいろいろな点について考えざるを得ません。各国は中国に対して、バラバラな形で主張するのであれば、中国をけん制することにならず、中国の言いたい放題、やりたい放題を野放しにしてしまいます。マクロン大統領も言っていますが、フランスが中国に対して主張していることは「相互主義」で望みたいと考えています。

 ヨーロッパにとって、もう1つ厄介な問題があるとしたら、それはトランプ大統領の存在です。トランプ大統領に対しては、日本の方がヨーロッパよりも曖昧なものであって、トランプ大統領には良い面もある、と考えている日本人の方も結構いると思いますが、ヨーロッパでは、トランプ大統領に対して肯定的な意見はあまりありません。私はアメリカとの対立を煽ったり、緊張関係になることを望んでいませんが、ヨーロッパと日本、その他の国も交えて多国間の協力の下で、トランプ大統領を抜きにしてできることがないか、ということを検討する必要があると思います。例えば、アメリカの大事な経済パートナーであるヨーロッパや日本は、制裁の問題をどうするかという問題があります。アメリカは一方的に単独的に制裁を科すことが多いのですが、それについて意見交換する必要があると思います。

 私どもはリベラルな枠組みの中で、市場経済のルールしっかりと守るパートナーと組みたいと考えています。そういう意味で、今日の会議は一緒に考え、協力するヒントに富んだ会議だったと思いました。

工藤:私たち10カ国のシンクタンクも合意したのは、「相互主義」の問題でした。先ほど発表した「未来宣言」にも書かれていますが、中国に対しては「相互主義」で臨むべきであり、それに対する対応をせざるを得ないし、それをみんなでやることによって中国の国内改革を迫っていくという視点をはっきりさせました。

 一方で、経済の連携については、TPP11ではアメリカが外れた上で合意されました。つまり、ルールベースという形での地域メガのFTAをやり、同じような形でEUともEPAを結びそれを連携させていく、ということも今後、我々が今後進めなければいけない選択肢に入っていると思います。日本とEUの戦略的な連携は、日本の社会でも非常に大きなアジェンダになっています。

 ただ、わからないことが1つあります。それは安全保障の問題です。日本は日米同盟があるからこそ、隣国の巨大な中国に対して抑止力を持ち、維持しているわけです。フランスは核をもっているから、いろいろな戦略の余地があると思いますが、日本にはどのような戦略的な余地があり得るのでしょうか。


アメリカに頼ってきたヨーロッパや日本も
  ある程度の負担と、それに伴う役割を担うという意思を固める時期

ヴェドリーヌ:どれだけ余地があるか、ということは各国の判断であり、まずは日本が判断すべき問題だと思います。そして、北大西洋条約機構の中で、核兵器を持っているのはイギリスとフランスのみです。ただ、北大西洋条約機構の他の同盟国に関しては、いろいろな検討が始まっていて、アメリカの保護は今後も持ち続け、維持してもらいたいと考える一方、以前よりもアメリカには頼りがいがない、という考え方が増えてきた。しかも、もっと費用を負担しろとアメリカから要求されています。そうすると、もう少し経済的に負担した場合には、戦略の選定についてももっと大きな役割を持ちたいという考え方の国が出ています。

 これはアメリカ大統領としては認められないことかというと、必ずしもそうではないと思います。同盟国にもっと負担してもらいながら、同時にもっと大きな役割を担ってもらうということについて、アメリカは必ずしも反対しないと思います。オバマ大統領の第一期はそのように考えていました。トランプ大統領はヨーロッパに対して何を言っているかというと、もっとお金を出せと。アメリカは前から言っている内容で特に目新しいことがあるわけではありませんが、ただ、それだけではなく、トランプ大統領はヨーロッパの同盟国はもっと大きな役割を持つということに対して、必ずしも反対していません。全てコントロールしたい、ヨーロッパにはもっと大きな発言権を持たせたくないのは国防総省の方であって、大統領の方ではありません。

 ということで、逆説的なことかもしれませんが、国防総省とトランプ大統領の考え方の間にはギャップがあります。ですから、トランプ大統領と交渉する余地があるかもしれません。


工藤:問題はそれぞれの国内の世論にどのように理解してもらうか、ということだと思います。以前、ヴェドリーヌさんにお会いした時に少し話をさせてもらいましたが、私たちは最近、北東アジアの平和のために、日本とアメリカ、中国と韓国を加えたマルチの対話を1月に立ち上げました。そういう地域の平和をつくるという目的のために、日本も積極的にリーダーシップを発揮すべきという、議論を日本の社会でつくろうと考えています。

ヴェドリーヌ:日本の世論に対してこのようなことを主張できるのは、工藤代表を始め、日本人の専門家であって、フランスの元外務大臣としては日本の世論にこういったことを訴えることはできないと思います。

 中国の脅威を考えると、アメリカに守ってもらっている安全保障に関しては同盟であるけれども、アメリカの保護は絶対的なものでないことを考えれば、日本はアメリカを挑発する、あるいは中国を挑発せずに、独自の手段を持つことは、理にかなったことだと思います。


宇宙開発、北極の管理、環境問題でのEU・日の戦略対話を検討

工藤:最後に、日本とEUの戦略的な強化をするためのシンボルとなるような事業をどうお考えですか。私は経済の連携やデータについてのルール作りに、関心がありますが、何かアイデアがあれば教えてください。

ヴェドリーヌ:宇宙開発分野とか、温暖化によって氷床が融けていて、北極の今後の管理をどうするか。そして、環境保護やエコロジーの問題です。これについては、技術や科学研究が絡んできます。この問題を解決するためには技術や科学が必要になるため、そうした環境の問題解決のためには、科学の研究開発が益々必要になるので、そうした点が戦略対話の1つになるのではないかと思います。

工藤:我々も今回の議論をベースに、世界の自由と民主主義のための大きな流れをつくっていきたいと、考えていますので、ぜひ協力していただければと思います。ありがとうございました。


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 言論NPOでは、「東京会議」に参加する世界のシンクタンクのトップが音頭を取って、「#私たちは世界を分断させない」と題したキャンペーンを開始し、議論を始めています。

 その一環として、東京会議にも参加した世界の賢人3氏が、自由と民主主義、多国間主義に基づく世界を守るという決意を語りました。

 コロナウイルスの感染拡大が私たちに問うているのは、国境を越えた共通課題に対する多国間協力の強靭さや、自由と寛容の精神、さらに、課題解決に強く機能する自国の民主主義の在り方でもあります。

 こうした時だからこそ、彼らのメッセージを日本の多くの方に広めていただけますと幸いです。

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