言論スタジオ

次の選挙で問われる財政政策とは

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2012年10月25日(木)収録
出演者:
土居丈朗氏(慶應義塾大学経済学部教授)
鈴木準氏(大和総研調査提言企画室長)
田中秀明氏(明治大学公共政策大学院教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)
※この議論は2012年10月25日(衆議院解散前)に行われました。


放送に先立ち緊急に行ったアンケート結果を公表します。ご協力ありがとうございました。



第2部:【どうなっている日本の財政状況】

財政健全化の鍵は?

工藤:次の議論に進みましょう。財政再建の状況はどのようになっているか、をここで話さなければいけないと思います。アンケートでは、「日本の財政再建は可能だと思いますか」と聞いてみました。私は、財政再建はかなり厳しいと思っているのですが、有識者の方は、「現状の取り組みでは難しいが、まだ間に合うと思う」というのが74.7%、「財政再建は厳しい」というのが18.4%、「現状の取り組みで可能である」というのが、0%でした。これはなぜなのかと言う理由をみると、「まだ間に合うと思わなければやってられない」という意見もあったのですが......日本の財政、今はどんな状況で、どういうことを考えなければいけないのでしょうか。

土居:私は現状の取り組みでは難しいけれども、まだ間に合うという考え方に立っています。共同論文を最近、書きまして、そこで分析した結果、100年という長きにわたる財政状況を見渡した時に、ということなので、5年後、10年後に突然今のスペインやイタリアのような状況に追い込まれてしまったら、身も蓋もないのですが、少なくてもそこまで異常な金利上昇がないとしたならば、対GDP比で10%ぐらいの収支改善を行わないといけない。10%というのは、いろいろな計算方法が出来ますけど、例えばそれを全て消費税で賄うという極端な場合、だいたい消費税1%の税率で0.5%のGDPの税収が入ってくると考えると、今から20%ポイント税率を上げればその収支の穴は埋まる。その代わり、ただちに上げて100年間取り続けなければいけないというかなり厳しいものですが、そうすると税率に直すと25%前後ということですから、前人未到の高税率ではない。つまり、スウェーデンや北欧諸国では25%の税率で消費税を取っているわけですし、もちろんこれすべて消費税取る必要は全然ありませんし、自然増収に若干委ねることもあるし、歳出をもっと削るということによってこの増税幅をもっと少なく出来る。何が言いたいかというと、とても想像できないほどの財政負担を国民に課さなければ、政府債務は発散して、財政は破綻してしまうのかというと、そこまでひどくはなっていない。ただし、今は非常に低い税率だから、何とか収まっているのであって、これがまかり間違って何らかのきっかけで国債金利が3%、4%、それ以上になるということが起これば、たちまち今の話は破綻してしまう。ですから、そうならないように短期的には財政健全化の姿勢を示しつつも、手堅くきちんと消費税や歳出削減をすることで、収支改善を対GDP比で10%というのは結構大きいですけど、頑張ってやれば財政再建はまだ間に合うと。

工藤:つまり今の形は25%ですよね。今、10%になってこれから15%消費税を上げなければいけないというのが、日本の今の政治で5%上げるだけでもこんな大変な状況の中で本当に可能なのか。確かに数字上は辻褄が合うような気がしますが。それと、今のお話で気になったのが、現在日本の財政は債務が累増する破産状態になってますよね。

土居:もちろん。今のスピードで政府債務が累増し、これが食い止められないということになれば、早晩対GDP比で300%という前人未到の政府債務残高になるということも考えられるので、そんな状況でも1%を割るような金利で投資家が買ってくれるのかというと、さすがにそれはあり得ないと。

工藤:そうすると今の状況ではかなり厳しい雰囲気である。

土居:かなり厳しいです。これは物理的に可能だということで、政治的に可能かどうかは全然、別問題。

工藤:鈴木さんどうでしょう、今の話を聞いて。

鈴木:土居先生から、何とかなるけれども財政が非常に厳しいというご説明があったわけですが、今の財政状況の中身を見てみますと、じゃあ、歳出のどこを減らすかと。もちろん公務員人件費を減らさなければいけないとか、行革をもっとやらないといけないとかたくさんあります。公共投資はかなり減らしてきたけれども、まだムダがあるのではないかと。しかし、やっぱり一番大きいのが社会保障です。どうしても社会保障の話になってしまいますけど、超高齢社会での社会保障費が一番大きい。これをどうコントロールするかが、財政健全化の一番の鍵です。また、日本の国民負担率は国際的にみて非常にまだ低い、増税余地があるということで日本の国債はまだ信頼を失ってないと思いますが、やはりどうやってうまく負担増していくかというのがもう1つ。社会保障についてはどういうふうに、実質で減らしていくか。実質というのは現役の賃金に対してです。賦課方式でやっていますから、経済成長すれば負担をしていけるのですが、成長しないのに所得代替率を上げてってしまうと、これはもう破綻するということになります。賃金で測った実質で見た給付を、どう下げていくかが一番問題で、今回も年金の特例水準2.5%払い過ぎているのを減らすと言う法律はまだ通ってないんですね。物価対比の実質水準の適正化すら3年もかけてやるという政府案ですが、私はすぐにでもやった方がいいと思う。こういうところを見ても、やはり社会保障をどういうふうにやっていくかという難しさ、ここをどう克服できるかという問題が財政再建に一番重要なポイントです。

工藤:実際問題ですと、社会保障費がどんどん増えて、他のところがどんどん減ってきているわけですよね。逆を言えば、他のところをゼロにしても、いずれ社会保障だけが、毎年1兆円ずつ増えているわけですよね。だから、そこにメスを入れないと駄目になると言う話ですよね。

鈴木:一兆円というのは公費負担部分の話で、社会保障全体はもっと大きいわけです。


日本は沈むタイタニック号でパーティー中

工藤:田中さんはどうですか?

田中:可能かどうかと聞かれれば、将来の話は一般論でいえば可能だと思いますが、政治的な情勢を考えれば極めて難しい。財政、予算は政治そのものなので、毎年総理大臣が変わっているような状況では、財政再建は難しいでしょう。小泉さんといえども財政再建を達成できなかった。今の日本の政治状況を考えると極めて難しい。諸外国で財政再建を成功した例をみると、国民にせよ、政治家にせよ、官僚にせよ、危機感が共有されています。自分の尻に火がついて、改革せざるをえなくなるのですが、残念ながら日本はそのような状況ではない。これも例えて言えば、タイタニック号は沈んでいるけれども、日本国民の多くはまだ宴会をして楽しんでいます。海水が自分の口のレベルまで来て、呼吸が出来なくなるということにならないと。現状の政治状況をでは、タイタニック号が沈んで海水が自分の口のところまで来ない限り、改革は難しいと思います。

工藤:今、見ている人から質問が来ているのですが、財政破綻したらどうなるのかということです。日本が昔、戦争で負けた時に、この時はもう国家は破綻しているのですが、その後財政調整というか、市場にすごい調整があって、すごいインフレになって、すごい厳しい状況っていうのは本では見ているのですが、皆さん専門なので財政破綻したらどうなるのですか?

土居:いきなり日本政府がデフォルト宣言することは起こらないでしょう。明らかにそれ以前に、いろいろな事実上、財政破綻と言えるような現象とか、そういうようなこととして観察されることになる。欧州の財政危機、これが1つの教訓だと思いますが、まず金利が上がってくると、政府が支出を決済できるキャッシュを必ずしも十分に持ち合わせてないのではないかと。そうすると高い金利をつけないと貸せないと言うことになります。一番、最悪のケースはギリシャということになりますけど、仮にギリシャのようにならないとしても高い金利を払う。高い金利を払いたくないということで、政治家がもし間違った選択をすれば何をするかというと、事実上、国債を日銀に引受させるかのような行為で高い金利負担を回避するでしょう。欧州諸国は欧州中央銀行がそれをさせないようにしてますから、今のところ起きませんけど、日本の場合は政治家が選択を誤ればそうなる。そうなればまさに戦前の軍部の軍事費の賄い方と同様に、工藤さんがおっしゃったようなインフレという話になる。

工藤:84倍ぐらいで、100倍近い数字ですよね。

土居:もちろん戦時中は、空襲による生産設備の打撃が追い打ちをかけたので余計そうなっているのですが、少なくともまかり間違うとそういうことになると。例えそれまでデフレだったとしても、人々の期待が変わって非常に高い、10%前後の高いインフレが突然起こるということはあり得ないと思うかもしれませんが、場合によっては起こるかもしれない。

工藤:さっき鈴木さんがおっしゃったように、日本の財政債務は対GDP比で200%を超えているわけですよね。これは世界で最高のレベルの負債比率です。それが何で持つのかというのは、消費税がまだ低いからそれが上がるという余力があるからだと言っていましたよね。ただ、消費税そのものが20%から30%まで余力があるといっても、日本の国民はまだ本当に30%になるとは感じてないと思います。そうなった時に、もしくは何かがあった場合に、この前IMF(国際通貨基金)と世銀総会が東京であった時に、日本の金融機関が日本の国債をほとんど持っているから国内でほとんどファンディングができるけれども、土居先生のおっしゃった金利が上がるということは、国債が暴落するということだから、持っていた国債がみんな下がってしまうと金融機関が自分たちの資産がどんどん減ってしまうので、貸出が出来ない状況になってきますよね。ひょっとしたら、金融機関が倒産する。そういう可能性があるから、この前IMFの世銀総会でそういうことは危険だと、鈴木さんはどういうふうに見ていますか?

鈴木:まさに今、工藤さんのおっしゃったことは欧州で起きていることですね。金利が財政破綻懸念で上がれば、金融システムがおかしくなって、そこに公的資金を入れようとすると、もともと財政危機が原因ですから、国債の格下げが起きて、金利が益々あがるというこの悪循環。金融システム危機と財政危機が複合的に起きているのが欧州の現状で、そういうことが日本でもいずれ起きかねない。そうすると大増税とか、ものすごい歳出削減をやっていかないといけない、国民の生活水準を相当落とさないといけない、という可能性が出てくるというのが財政破綻の帰結だと思います。本当に破滅的な状況になれば、病院にかかっても財源がないので保険給付を受けられず、いま3割自己負担ですけど、3割自己負担では病院にかかれない。イメージとしては、必要なサービスが受けられなくなる。これが財政破綻です。


自分の尻に火がつくまで動かない?! 危機感の共有を

工藤:田中さんにも聞きたいのですが、そういう状況を回避するということはどういうことですか?どうしたら回避できるのですか? 今、日本の債務はどんどん膨らんでいます。毎年毎年、税収よりも借金の方が大きいわけですよね。だから、借金がどんどん膨らんでいく。その中で最終的な危機を回避しながら財政再建をするためには、どうしていったらそういうことが可能になるでしょう。

田中:確かにGDP比の債務残高は高いのですが、数字だけではなくて、経済全体の規模であるとか貯蓄との関係で考えるべきであり、一概にその数字の大きさに驚く必要はありません。しかし、確実に、まさに皆さんが議論されているようにリスクは高くなっているわけです。いろんな推計でも2,3年はまだ日本に体力があります。しかし、5年から10年のスパンで見ると、貯蓄はどんどん減って、諸外国から借りざるをえなくなると考えられます。ただちに経常収支が赤字になったからといって、経常収支の赤字=破綻というわけではなくて、諸外国に頼ってもいいのですけど、諸外国が日本は大丈夫ですよと信用して金を貸してくれない限りは続けられなくなるわけです。そういうクレディビリティが本当に日本にあるでしょうか。信用がなくなると、今まさにギリシャやイタリアとか、スペインのようになる可能性があります。我々は、リスクが高くなっていることを認識する必要があります。但し、それを回避できるのかというと私は非常に懐疑的です。自分の尻に火がつかない限りは本当の意味での改革は出来ないからです。小泉元首相は改革の旗を振っていたときでも、国民的なコンセンサスは十分ではありませんでした。行きつくところまではいかないので、改革は基本的には難しい。

工藤:危機がなければ、改革は進まないと思っている。

田中:そうです。こう言っては実も蓋もないのですが、諸外国の例を見ても危機が改革を促す最大の要因です。ギリシャになるまでに手を打つことは出来るかもしれませんが、危機感の共有が出来ない限りは、本当の意味での改革は難しいと思います。

工藤:土居さん時間の関係で、一言でいいのですが、土居さんはさっきまだ間に合うとおっしゃって、大きな経済学的なアプローチの中ではある程度のことをやれば辻褄が合うと言ったのですが、どうしたらこの状況を回避して、財政再建というイメージが出来るのか、それを一言お願いします。

土居:今の状況は政治家、官僚もそうかもしれないけれども、低金利の状況にあぐらをかいているということだと思います。日本国債が1%を割るような金利がついているということにあぐらをかいて、どうせ低い金利で借りられるのだから、無駄なことをしても支障はないと勘違いしている。そこには世代間格差を助長しているとか、いろいろな問題も付随しているのですが、少なくとも言えることは、後々、問題が多いと気がついた政治家が現れてほしいということなんです。ないしはそういうことを国民がつきつけて、別に今直ちに増税しろとか、財政再建やらない政治家は駄目だということではないにしても、その金利上昇に伴う国民生活や企業行動に対する悪影響をどうやって回避するか、きちんと政治家が語れないようでは、そんな政治家に財政運営を委ねてはいけないと。金利は上がってほしくはないけれども、少なくともそのリスクをきちんと認識し、それを回避することを出来るだけ心がけようとする姿勢をもっているかどうか、これがまず最初の第一歩になると思います。

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