言論スタジオ

次の選挙で問われる財政政策とは

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2012年10月25日(木)収録
出演者:
土居丈朗氏(慶應義塾大学経済学部教授)
鈴木準氏(大和総研調査提言企画室長)
田中秀明氏(明治大学公共政策大学院教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)
※この議論は2012年10月25日(衆議院解散前)に行われました。


放送に先立ち緊急に行ったアンケート結果を公表します。ご協力ありがとうございました。



第3部:【問われる民主主義】

政党のガバナンスは機能しているのか?

工藤:最後の議論を始めます。これから選挙があった場合、財政再建問題について政治家に、何をきちんと国民に説明してほしいのかということ。逆に言えば、そういうことを説明しない政治家には、票を入れないということを考えないといけないと思います。ただその前に疑問に思っていることがあって、ギリシャもそうだったのですが、民主主義の問題が問われました。いろんな政治家がここまで多くの国民を切り詰めさせなければなりませんでした。サービスにしても、そうしていかないと中々、財政再建が出来ないという状況の時に、政治家よりも実務家で組閣した時もありましたよね。実際に、政治家が国民に本当のことを語っていない。借金がここまでなっていても、まだそれをきちんと大変だよ、とこうしなきゃいけない、という人が現れない政治の構造そのものを、どう考えるのか、お聞きしたいのですが、鈴木さんからお願いします。

鈴木:さきほど増税の余地があると言いましたけど、田中先生のおっしゃるように、もし政治的に出来ないと判断されれば、これは財政破綻するということだと思うんですね。そこで一つの知恵は、日本が財政再建に取り組んでいるのだと内外の人々が理解し把握するために、きちんとしたルールを作る、財政再建のルールを作る。今であれば2010年代後半どうすればいいのかを正面から議論すべきだと思います。足元では特例公債法案が通らないことが問題になっていますが、一方で予算をとおして、歳出していいと言っておきながら、歳入の法案を通さないのはある種の自己矛盾を政治が起こしているわけで、そこにはルールがありません。もちろん今の憲法や財政法が、特例公債をこんなにたくさん出すことを常態化させるということを想定していないということがあるかもしれませんが、財政再建ルールがきちんとあってそれを決断してやるということが信認を失わないための一番のポイントだと思います。財政再建のルールに関しては田中先生がご専門ですけど、そういう意味では次に何を求めたいか考えた場合、2010年代後半以降何をやるのか、3党合意で社会保障制度改革国民会議を作って、1年以内に、先送りされたことについて何かしらの結論を出すと法律に書いたわけです。これが本当に守られるのかどうか、守られないとしたら、一体何を信じたらいいのか分からない状況に陥ることになりますので、3党合意で決まった社会保障制度改革推進法で書かれている理念と考え方で進む意欲と方策がどれくらいあるのか、ということを次の選挙で示していただく必要があると思います。

工藤:言葉だけでは駄目ですけど、どうでしょうか、政治家の話ですよ。

田中:よく言われるように選挙になると、政治家は歳出増、減税に走りやすい。これはある意味で政治家を批判してもしょうがなくて、合理的な行動なのです。次の選挙で当選することが政治家にとって最大の目的であって、そういう行動を取りやすい。財政について言えば、政府部門の予算は他人のお金を使う仕組みです。自分のお金だったら大事に使いますが、他人のお金であればどんどん使うというインセンティブ、メカニズムが働きます。予算というのは人のお金を使うという根本的な問題があるわけです。人のお金だけれど、自分のお金のように大事に使う、そういうようなメカニズムが必要です。例えば財政ルールであり、透明性な予算制度なのですが、それがないと、政治家や官僚が自己の利益を追求するように合理的に行動し、赤字は限りなく膨れてしまいます。この根本的な問題が、民主主義に内在しており、これにメスを入れない限り問題は解決しません。

工藤:土居さん一言、本論に入りますので。

土居:この10年くらいの日本の政治を見て、確かに小泉政権の時は骨太方針2006、これでプライマリーバランスを2011年までに黒字化しようと言っていたのに、リーマンショックとかいろいろあって、とん挫した。それで民主党政権も財政運営戦略で財政ルールを作って、2020年までに黒字化と言っているけれども、ご承知のようになかなか進まない。確かにこういうのを見ていると、田中先生ご専門ですけど財政運営ルールが非常に重要で、これにコミットできないと財政健全化出来ないけれども、さらに日本の場合はそれ以前の問題があるのではないかと。それは政党の中のガバナンスが全然うまく機能していない。極端なことを言えば党総裁・党代表が党の全体を掌握出来ない状態で、果たして本当に与党となって内閣を形成して、本当に財政健全化にコミット出来るのかということから、確かに危うい状況になっていると思います。国民はそれぞれの政党の状況を見ながら、党代表は党の顔としてきちんとその政党内でガバナンスを効かせられているのか、というところは、もっともっと積極的に問うべきだと思います。もっと別の言い方をしますと、党内の集権化をきちんとやっていただかないと、各党、やっぱり与党になってもだらしない。与党になったら、たちまち意見が分かれて造反が起きたり、党内分裂してとなっては、何のために政党に票を入れたのかさっぱり分からない。こういうことになるのでは、だからこそ、そこはきちんと襟を正して頂きたいと思います。


最大の目標は財政再建ではなく、少子高齢化の壁をいかに乗り越えるか

工藤:今の話は全ての政策に言えるのですが、政策の立案実行のガバナンスがここまで機能していないと、選挙の持つ意味に懐疑的にならざるをえないわけです。だから、有権者側がこの状況に対してかなりプレッシャーをかけないと、何かの仕組みが変わるインセンティブが出てこないと感じています。財政再建の問題に限っての有識者アンケートで、「次の選挙で政治家や政党は財政再建のために、何を明らかにしなければいけませんか」と聞きました。これはいくつ選んでもいいのですが、一番多くて、8割を超える人が選んだのが「財政再建をどのように進めるのかの全体の道筋を示してほしい」と。その後、「歳出カット」で、これが6割、「少子高齢化による社会保障費増への対応」が52%、そして「経済成長の進め方」も52%。それから「財政の現状についてちゃんと説明しろ」というのが50%と半数くらい。その下に39.1%で続いているのが「政治家の定数を削減しろ」、これは、政治家は話にならないぞという怒りが出てきているのだと思います。これとご自身の考えを踏まえて、今度の選挙で政治家に、この一つでいいから説明しろと求めるとしたら、みなさん何を求めますか。どうですか?

土居:まず今回のアンケートでも一番多くの人が入れた全体の道筋です。これがはっきり言って、抽象的なもので終わってしまうようでは駄目だと。極端に言えば、どの程度歳出削減をするのか、どの程度税収改善によって賄うのかというところの、おおまかであっていいので、少なくとも決意のほどをきちんと示すということと、いつまでに財政健全化を成し遂げるのかということです。願わくば、そういう案を各党が出して、今の日本の内閣府がそういうことをやってくれるか分かりませんが、少なくとも各党が出した案に対して、こういう形ならばそれが実現するとか、辻褄が合っていないとか、というような試算を、もし駄目なら鈴木さんのシンクタンクで出していただければいいかもしれませんけれども、やはりそこは数字、2009年の衆議院選挙の民主党のマニフェストは、絵に描いた餅に終わってしまったということからしても、数字を示すということがあったとしても裏付けがなかったということになってもいけませんから、そこは客観的な数字を伴ないながら、実行可能性を意識して、どこまで本気でそれをやるのかを示すと。当然ながら、2番目に多かった歳出カットの具体策という話も自動的についてくると思います。歳出削減を収支改善全体の7割ぐらいを歳出カットでまかなうのだと高々に言っても、具体策が伴なっていないのでは、単にそれは増税をしたくないと言っているだけに過ぎないと批判されますから、これはきちんとこういう形で削減するのだということを具体的に言っていただくこととなる。

工藤:鈴木さんどうですか?

鈴木:全体の道筋という意味では、土居先生が仰ったように、どういう負担増とどういう歳出削減をするか、この2つが絶対必要なのは間違いないのですが、一つ今日出ていないお話としては、私は経済の成長も合わせて考える必要があると思います。経済の成長によって財政再建が出来るという意味ではなく、部門別のマクロバランス、ISバランスといいますけど、それを見ると、今、政府が赤字であるのに対して、家計はあまり消費をしていない、お金を余らせているわけです。企業も投資をしておらず、お金を余らせている。その鏡として政府が赤字となっている。これはどちらかが原因、どちらかが結果ということではなくて、そういう構図があるわけです。従って、現状から政府の財政赤字が縮小する状況というのは、同時に民間部門の支出が増えている状況を作らないといけない。消費なり投資なりが活性化して、もう少しまともな経済になっている状況が、同時に生じていないと、単純に政府が増税と歳出削減だけをやっても結果的に財政再建は出来ない。もちろん財政再建は国民の経済がより豊かになるために必要ということでやっているわけですから、歳出削減と増税を行う中で成長志向の税制を作っていくとか、歳出構造もより成長志向の歳出に変えていくということをやっていかないと、全体として財政再建自体もできなくなってしまう。最近の政策はどちらかというと成長志向が希薄になってきた面が私はあると思います。もちろん国民負担増と歳出削減が必要ですが、それと一緒に経済をどうするのか、これらを一緒に組み合わせて考えないと、うまくいかないと思います。

工藤:田中さんお願いします。

田中:私もこの回答についてはほぼ同じような意見です。若干補足させてもらえば、そもそも論を言って申し訳ないのですが、財政再建が究極的な目的ではないと思います。最大の課題は世界に例を見ない少子高齢化をどうやって乗り切るかです。もちろんそれに当たって財政再建は重要な要素であることは間違いないのですが、本当のゴールは財政自身の再建ではなくて、いかに少子高齢化を乗り切るかということだと思います。少子高齢化を乗り切るためいは改革は待ったなしです。それは、増税でも歳出削減でも痛みは伴うわけです。こういう痛みはあるが、我慢して欲しいと。でもこれを乗り切れば少子高齢化を乗り切れるのだと。そういうメッセージを政治家が国民に伝えられるかということだと思います。政治家が自分のことばでていねいに説明すれば、痛みがあっても、それが公正なものであれば国民は納得するだろうと思います。本来の社会保障税一体改革とは、より恵まれた人には我慢してもらうという改革です。これをやれば乗り切れるというメッセージを政治家は出すべきだと思います。

工藤:この財政再建だけで聞くと、今あるプライマリーバランスの目標設計は自民党政権でもあったわけです、民主党もあったと。であれば、これは目標としてコンセンサスある目標だと認定してよろしいのですか。

土居:プライマリーバランスは学術的にもきちんとした裏付けを持った指標です。もちろんプライマリーバランスがゼロになったからと言って、財政健全化が終わったわけではないですけど、少なくともまずは赤字をなくすということから始めないことには何も始まらないので、一つ重要な指標だと。


良い商品(社会保障)作りには、仕組み(予算編成)の改革を

工藤:この目標はある程度意味があるとしたら、それを本当にどのように実現するのかと、やはり責任を持つ言動が選挙で必要だということはよろしいのですか。もう一つ聞きたいのが、僕が入れた質問の中で10%台になったのですか、予算編成の縛りが非常に気になっています。例えば国債の発行とか、歳出の規模とか、全体的に昔のリーマンショックの水準があって、本当に財政再建に、この政権とか政治とかが取り組んでいるのかよくわからないのです。なので、私は全体の道筋プラス予算編成の仕組みを選挙ではっきりしてもらうと入れたんだけどあんまり人気がありませんでした。専門家の皆さんはこれについてどう思いますか?

田中:社会保障制度の改革は必要だというのは皆さんの共通認識だと思いますが、私はその改革をやるためにはまさに工藤さんのおっしゃられたように予算編成の仕組みを変えなければなりません。つまり良い商品を作るためには、それを作る仕組みが重要なのですが、そこの改革が日本は非常に遅れているわけです。従って、良い政策を作りたいと思っても、それをつくる良い仕組みがない限り、真の改革難しいでしょう。政策をつくる仕組みを改革しないといけない。これについては社会保障制度の改革以上にコンセンサスが乏しいと思います。

工藤:鈴木さんどう思いますか、今の話は。

鈴木:財政運営戦略に基づく中期財政フレームですよね。3年先までについて1年ごとにロールオーバーしてやるというやり方でやっていますが、あれは国の一般会計だけを対象としていますし、毎年注意書きの量が増えて、注書きそれぞれに政治的に非常に重い意味があって、普通の人が読んでも一体何を言っているのかわからない。注書き付きの中期財政フレームもルールといえばルールですが、民間の立場から申し上げれば、社会保障の特別会計も考えていかなければなりませんし、地方財政をどうするのかという問題もあるわけです。プライマリーバランスは国、地方合わせて、黒字化させていかないといけないという話ですから、今の財政運営戦略と中期財政フレーム、一般会計の歳出で71兆円という枠をはめるだけのやり方は、今限界に来ていると私は思います。

工藤:土居さん、どうぞ。

土居:今のお二人の話はその通りだと思います。そういう意味では、一つのキーワードは永田町、霞が関の集権化ということです。つまり、総理大臣がきちんとグリップを握って切るところは切る、メリハリをつけるところはメリハリをつけるということが出来るということが成し遂げられなければ、各政党の総裁・代表として選挙に臨んだ時もその朝令暮改になってしまうかもしれないし、いざ与党になって総理大臣になったからといって、各省の予算要求を押されられないということになるかもしれない。もちろんこれは長年にわたり学者が霞が関、永田町の断片化と縦割り行政ということで指摘してきた大問題で、これを克服するのはそう一朝一夕ではできないかもしれないけれども、そこに果敢に挑むことで、財政再建も経済成長もいろんな面でメリハリのついた政策が講じられるというところにつながってくるのではないかと思います。

工藤:私たちはこういう議論を通じて今度の選挙できちんと政治家に語ってもらおうという動きをしていきたいと思っています。この議論と並行して、私たちは政治家に白紙委任はしない、という賛同を呼び掛けています。今日現在900人になっていますが、どうしても百万人集めたいと思っていますので、ご協力していただければと思います。ということで、土居先生、鈴木さん、田中先生、どうもありがとうございました。

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