言論スタジオ

メディア報道のジレンマ -メディアは戦争を止められるのか

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2013年10月18日(金)
出演者:
会田弘継氏(共同通信社特別編集委員)
倉重篤郎氏(毎日新聞専門編集委員)
加藤青延氏(NHK解説主幹)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


議論で使用した調査結果はこちらでご覧いただけます。


主権問題に対する国家としてのスタンスと報道の在り方

工藤:今、出てきた論点というのは、メディアそのものに過熱させるような本質、つまり過激に報道してしまうことにメディアの特性があるようなところがある。あと、真相をきちんと伝えて切れていないのではないか、ということもあると思います。

 もう一つ冒頭で気になったことがあります。加藤さんがおっしゃった、「立ち位置」という問題です。かなり難しい論点だと思うのですが、メディアの立ち位置というのは自国のナショナリズム、自国の利害を代弁する仕組みになってしまうのでしょうか。例えば、中国であればメディア報道が政府当局にある程度管理されています。一方で、日本は自由な社会で多面的なオピニオンがあってもいいと思うのですが、それでもメディアは日本の利益を背負うという報道をしてしまうのか。結局、主権を争ってしまうような問題が発生した時に、日本と中国のメディアが、それぞれ政府の代弁者として議論をしてしまうのではないか、という気がしています。この構造は、どう考えればよろしいのでしょうか。

倉重:その点について注意を払っているのは、歴史認識問題と領土問題です。ある意味で裏表の問題なのですが、両者で少し扱いが違う気がしています。歴史認識問題、例えば、靖国参拝をどうするのか、韓国の従軍慰安婦問題についてはメディアによっても違いはありますが、リベラルな立場をとりやすいと思います。ただ、領土問題など主権が絡む問題については、報道の仕方が難しくなります。本来は色々な捉え方があると思うのですが、日本が国家としてどのようなスタンスをとっているのか。日本の外務省が過去にどういう外交をしてきて、これからどうしようとしているのか、ということを無視して書きにくいという面があります。

工藤:日本のメディアはかつて太平洋戦争の時に戦争を煽ってしまう、加担してしまうような報道をしてしまったということが総括されています。しかし、構造としては現在でも同じような状況になってしまうのではないか、という気がしています。この点についてはどうですか。

倉重:ナショナリズムを背負ってどこまで報道するのか、ということは非常に難しいところです。過去の痛い経験もあるので、私たちメディアも極力抑制的に報道しているつもりです。日本の領土問題は尖閣を始め3つありますが、北方領土問題がどうだったかということを考えますと、1956年に2島の先行返還論が出て、それが撤回されてから一歩も進んでいません。それは外務省がそういう外交を行い、歴代の自民党政権がそれに従ってきたという構図でした。しかし、メディアも同様に従ってきたわけです。メディアの情報ソースがどこから来るのか、といったら、日本の外務省しかないわけです。例えば、ロシアやアメリカを始めとして、世界には世界的な視野から大局的に物事を見ることができる記者もいるとは思うのですが、そういう記者が日本にも数多くいて、日本の外務省からの情報の重要性を相対的に小さくするようなことができれば、もっと北方領土問題における報道でも違った展開があったのではないでしょうか。そういう意味では、記者クラブ制度のような記者の独自取材する力が育たないシステムの存在も問題の背景にあるのではないか、と思います。


政府をけん制するような報道も日本のメディアの役割

会田:メディアがナショナリズムを煽るというのは、19世紀、20世紀前半まではあったと思います。しかし少なくとも、先進諸国では冷戦以降、そういう傾向はあまり見られなくなってきたのではないかと思っています。むしろ、自国政府のナショナリズムを批判していくような流れにきているのではないでしょうか。アメリカのメディアがイラク戦争の時に非常に大きな間違いをしていますが、彼らはすぐにどこで間違い、どうナショナリズムに加担したのか、ということを自分たちで検証しました。多くの先進国メディアは、かなりグローバルに自分たちの位置を考えながら報道するようになっていると思います。

 日本の状況はというと、先程、倉重さんもおっしゃっていたように、ニュースソースを外務省に頼ることが多いのですが、外務省担当の記者も世界各国の報道に目を配りながらやっていると思います。ですから、20世紀前半と比べると、随分違ってきていて、先程工藤さんがおっしゃったような状況は、半世紀ぐらいまでのメディアの状況だと思います。日本のメディアも物事をもっとグローバルに見るようになり、脱ナショナリズム化に向かって、自国政府のナショナリズム的な行動を批判します。

 しかし、日本のメディアが自国の政府を批判する記事を逆手にとって、ナショナリズムが強い中国のメディアがそれを材料にして、日本批判をして、自国のナショナリズムを煽る、ということが起こっています。つまり、日本と中国の近代化の段階の違いが、メディア報道の在り方の違いにも表れているのではないでしょうか。

工藤:メディアが政府に対してけん制するような報道をしたら、それを中国に逆手にとられてしまい、日本が不利になる。そうすると、日本のメディアは報道を自粛するという形になるのでしょうか。

会田:日本のメディアは自粛しないと思います。それは、政府をけん制するようなことを報道することも、戦前、戦中の反省から、メディアの重要な役割だと思い続けているので、尖閣問題について知り得たことは、極力報道していると思います。しかし、中国はメディアの役割が違いますから、自国政府の何が間違っているのか、という検証報道はしません。


メディア報道は主観的、感情的、一方的なものになっているのか

工藤:今回行ったアンケートの中で自由記述欄もあったので、その内容を一部紹介してみます。「日本のマスコミは、反中感情を刺激するような主観的、感情的、一方的な報道をしているのではないか。日本側に不利な情報は一切報道しない。また、右派の極端な発言や暴言を疑問視したり批判することもなく黙殺放置している。領海問題などのTV・ラジオ報道では、わざとナレーションの声音までおどろおどろしく感情移入して『演出』しているのではないか。これは宣伝、扇動と見られるのではないか」というような意見がありました。一般の人たちから見れば、記事の背景にある考え方などは別にして、出てくるものを見ているだけなので、そういうふうに感じる人もいると思います。この意見についてはいかがでしょうか。

加藤:主権の問題と、ナショナリズムの問題は分けて考えなければいけないと思っています。NHKの場合は、不偏不党であることと、客観的に報道しなければいけないことが法律で決められていますから、何事も客観的に報道するしかありません。ただ、主権の問題ということになると、NHKは日本の放送局ですから、尖閣問題に関して「日本と中国の間で尖閣諸島の領有権に関する争いがある。尖閣には領土問題がある」、とは言わずに、やはり「尖閣諸島は日本の領土です」、と言います。しかし、だからといって、日本政府の言いなりで報道しているのか、というとそうではありません。我々は常に、自分たちの独立した視点で日本政府の間違いを正す必要があるし、他の外国政府が正しいことを言っていればそれを伝える義務があるわけです。決してナショナリズムを煽っているわけでもなく、乗っかっているわけでもありません。


本来の意図とは違う形でナショナリズムを煽ってしまうメディアのジレンマ

工藤:主権を争う時には、政府やメディアも含めて、色々なジレンマを抱えてしまうのではないか、と思ってしまいます。アンケートでは、メディア報道も、きちんと報道することによって、本来は国民感情を過熱させるということを意図していないのだけど、結果的に国民感情を過熱させてしまう、というジレンマがあるのではないか、ということを問題提起しました。

 そうしたところ、61.7%の人がそのようなジレンマは「存在していると思う」と回答しているのですが、このジレンマは本質的に避けられないのか、それとも努力によって避けられるのでしょうか。

加藤:非常に難しい問いかけだと思います。例えば、尖閣諸島の周辺に中国の船が入ってきて領海を侵犯した。そこでそれをNHKの飛行機が飛んで行って撮影したとしましょう。これを視聴者が見た時に、「中国の船が領海侵犯してきてけしからん」という見方もできるし、「日本の飛行機が飛んで行って撮影しているけれど何も攻撃されないぐらい平和なのだ」という見方もできるわけです。

 物事の本質をどこまで正確に伝えるのか、というところで視聴者に伝わっていない部分があるかもしれないけれど、人によって色々な見方があり得る以上、どこまで伝えればいいのか、ということは非常に難しいですね。

工藤:今の話を聞いていて、過去の東京-北京フォーラムでも同じような議論があったことを思い出しました。確かに、単なる事実でも、それを何十回も何百回も伝えてしまうと、問題を大きく見せてしまう、ということもあるような気がします。それが、結果としてジレンマをもたらしてしまう、ということがありますね。

会田:日本の中核的なメディアは、ナショナリズムを煽ったり、過熱させようと意図していることはないと思っています。客観的に見て、そう思います。ただ、新聞は色々な意見を掲載します。オピニオン欄が重要になってきている。その中で、ナショナリスティックな意見も捨てていないわけです。そういうものを見て、ナショナリズムを煽っている、と感じる読者もいるかもしれません。しかし、全体的なバランスとしては、そうなっていないと思いますし、そうしようと思っているエディターもいないと思います。

 近代的なメディアはナショナリズムと密接につながっているのも事実ですが、ここ半世紀ぐらいは、日本も含めた主要先進諸国のメディアは、ナショナリズムを煽るような報道はしていないと思います。ジレンマという意味では、私たちが自国の政府を批判した報道をすると、例えば、関係が良好ではない他国の中で、その報道が思いもよらない反響を呼んでしまう、ということ起こり得ることが、一つのジレンマといえるのではないか、と思います。

   

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