安倍政権1年の経済政策をどう評価するか

2013年12月02日

2013年12月2日(月)
出演者:
内田和人氏(三菱東京UFJ銀行執行役員)
鈴木準氏(大和総研調査提言企画室長)
湯元健治氏(日本総合研究所副理事長)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)

工藤泰志工藤:言論NPOの工藤泰志です。私たちは、12月26日に安倍政権が1年を迎えることから、安倍政権1年の実績評価作業を進めています。私たちは、選挙で自分たちが選んだ政治がきちんとパフォーマンスを上げているか、ということをチェックして、次の選挙に繋げていくために定期的に評価を行い、公開しています。今日は「経済政策」の評価について、議論したいと思います。

 この評価のプロセスである議論を公開すると同時に、この議論を見ている方たち自身でそれぞれの政策について考えてもらう場を提供できればと思っております。三菱東京UFJ銀行執行役員の内田和人さん、大和総研調査提言企画室長の鈴木準さん、日本総合研究所副理事長の湯元健治さんの3氏で議論していただきます。

 まず、安倍政権は就任後、大胆な金融緩和と機動的な財政運営、そして成長戦略の3つを柱に掲げたアベノミクスを提起し、すぐに取り組みました。その結果、円安が起こり、株価は上昇するなど、経済的には1つの大きな変化をもたらしました。では、今起こっていることが、安倍政権が掲げる目標に見合った変化なのか。また、安倍政権が取り組んでいることが、目標の実現の方向を目指しているのか、ということについて考えてみたいと思います。最初に、安倍政権の経済政策全般についてどのように評価されているのか、ということについて議論してみたいと思います。


機動的財政政策の持続性は?

内田和人氏内田:参議院選挙時に行った言論スタジオで、3つの矢のうち、1つめの金融政策について3つのルートがあるという話をしました。1つは、長期金利を押し下げることによって、債券の利回りが下がりますので、債券で運用している銀行や生命保険会社が国債や債券を日銀に売り、そのお金で株式や外債を買うという「ポートフォリオリバランス効果」。2つめは、黒田日銀総裁の異次元緩和を受けて、マーケットが大きく反応し、株価が上昇したり、為替が円安になる。つまり、資産価格に直接、影響を与える効果です。3つめは、それらの効果を踏まえながら、一般の方々がインフレ期待を持つ、つまり賃金や物価が上がるのではないか、という期待によって経済成長が高まるという効果です。

 参院選挙時には、2番目の、為替が円安になり株価を上昇させる効果だけしか認められませんでした。その後、株価は大きく上昇した後に急反落しましたが、その後は、狭いレンジで推移しています。金融政策についての当初の期待がはげかけていたのですが、一方で日本銀行の金融緩和が、この3カ月にかなりの効果を発揮しています。具体的には、アメリカの金利が上がったり、物価も足元の上昇率は0.9%にある中で、日本の長期金利は0.6%と極めて低い水準で推移しています。これにより、銀行や一部生命保険会社も含めて、国債を買う量を抑えたり、保有している国債を日銀に売却して、民間としては国債のリスクを落とす方向にあります。一方で、日銀が国債を購入することで、金利が0.6%に固定され、推移しています。その結果、名目金利から物価上昇率を差し引いた実質金利が、ここのところマイナスで推移しています。そういうことによって、もう一度、円安傾向が強まってくる。それを受けて、また株価が上がり始めるといった形で、第一ラウンド、第二ラウンドと、波状的に効果が表れ始めているということだと思います。

 次に、前回の参院選時にはポートフォリオリバランスはほとんど効果が出ていなかったのですが、ここ一カ月間の、国内から海外の外債を購入するといった対外証券投資という統計を見ると、7週連続で外債の買い越しが続いています。これは過去半年では、初めてに近いことであります。そういう意味では、金利を低く抑えることで機関投資家や金融機関の行動から、ポートフォリオリバランスの効果が出始めていることが分かります。

 効果が出てきたかどうか、まだ分からないのは、期待に働きかけるというところです。これは、来年度を見据えると、賃上げをする企業が増えたり、12月2日の日経新聞では、設備投資が増える計画になっていますので、先行きについては期待が出始めていますが、足元のハードデータで確認する限りは、賃金は現金給与で前年比ほぼ横ばいです。また、設備投資に関しても、12月2日に法人企業統計が出ましたが、製造業を中心にまだ停滞しているという状況です。ここを確認するのが最後のポイントになると思います。

 第二の矢、財政政策については、かなりの規模の緊急経済政策を実施しました。特に、この政策が発注から執行段階までが非常に早かったこともあり、4-6月期以降、GDP統計上の公共投資を四半期ベース年率換算で20%~30%ぐらい押し上げ効果として効いています。それを受けて、特に公共事業関係で、建設や小売りが結果的に恩恵を受けて、かなり業況感が改善しているという効果が出ています。来年度に予定されている消費税の3%の引き上げに対しても、その引き上げに伴うデフレ効果の7兆円程度の下押し圧力の7掛けは、税収増や不要不急の財政支出を活用しながら国債を発行しないで、1兆円程度の法人減税を含む5兆円規模の補正予算が実施されます。こういった対策を採ることによって、経済の持続的な成長を狙っているという意味では、機動的な財政政策というものも、今のところうまくいっていると思います。ただ、持続性という意味では財政再建は遅れていますので、来年度以降、どのように財政再建が進んでいくのか、ということを見極めないといけないと思います。

 最後の第三の矢、成長戦略の進捗については、まだ評価できないという状況ですので、後半の議論に繋げていきたいと思います。


「期待」に働きかけるアベノミクスだが、スピード感に不満

湯元健治氏湯元:今のところ、半分は成功していると思います。但し、半分は本物になるかどうか、という意味では見極めが必要だと思っています。この半分の成功が何なのか、ということですが、内田さんからもお話がありましたが、アベノミクスというのは「期待」に働きかけるということが主眼である政策です。これはマーケットの期待、家計の期待、企業の期待など、それぞれの期待に働きかけて、円安・株高というポジティブな方向にマーケットが動く。そして、家計が消費を増やし、企業は投資を増やす、という期待の変化を通じて、経済を動かしていこうということが、アベノミクスの本来の主眼だと思います。その観点から見たときに、マーケットの期待という点では、1月~5月下旬にかけて、円高是正が進み、それに伴って株も上がってきました。その結果、企業業績の改善に働き、企業のマインドも改善し、家計のマインドも改善する。株高については、全般的な消費の改善をもたらしているわけではありませんが、富裕層を中心として株を売って儲かった人たちが、個人消費を押し上げ、いわゆる資産効果というものが発揮されたと思います。そういう意味では、安倍政権誕生以前のような先行きに対する悲観的なムードは、安倍政権誕生以降、半年余りが過ぎてかなり先行きに対して、ひょっとしたら日本はデフレから脱却できるのではないか、という期待を抱く向きが非常に増えてきたと思います。

 しかし、今のところ実体経済を押し上げているファクターとしては、第一の矢である金融政策、第二の矢である財政政策がメインになっています。元々、アベノミクスの第一、第二の矢だけでデフレ脱却が可能なのかどうか、というところについては議論があったところですが、少なくとも第一の矢に関しては、円安・株高の流れが半年近く止まり、調整局面に入りました。ここにきて、少し改善の兆しも出始めましたが、効果が持続的に出てくることではないと思います。それから、リスクファクターとしては円安が行き過ぎた時のリスクがあり、企業や消費者のマインドが改善したといっても、非常に跛行性、二極分解する可能性があります。例えば、輸出関連の大企業製造業はマインドも改善し、収益も改善する。他方で、輸入が多いような業種、例えば素材関連の製造業や非製造業、流通関係、家計もそうですが、そういったところは円安のデメリットを受けているという状況があります。

 やはり、円安・株高が続いていけば、経済全体がよくなる、という構図ではありません。円が90円後半から100円程度で安定し、株価も比較的高い水準を保っている中で、公共事業を中心とした第二の矢によって経済を下支えしている間に、早く第三の矢の効果が表れてくるようにやっていかなければいけない。つまり、成長戦略に対するスピードと実行力が求められていると思います。年前半の6月中旬の成長戦略を出すまでのテンポについては、比較的矢継ぎ早に色々な政策を打ち出してきたということで、マーケットも好感する場面もありました。しかし、選挙が終わった後、例えば、国家戦略特区など色々なことを打ち出していますが、1カ月ずれ、2カ月ずれ、今は年明け以降になっています。それから、岩盤規制と言われる規制の緩和についても、思ったような期待されている結果に落ち着く兆しがみられず、不透明感の残る状態です。もちろん、安倍総理としては、意欲は強く持っておられるので、期待はまだ残っていますが、スピード感は欠けてきています。そういう中で、来春の消費税の引き上げという問題もありますから、来年度以降、デフレを脱却していけるのかどうか、という点について不安が残っています。特に物価上昇については、表面的には上がってき始めましたが、私の分析では、電力料金の引き上げ、ガソリン価格の上昇、食料品価格の上昇など、円安を一つの要因とする物価上昇という側面が9割方だと思います。ただ、残り1割は、期待インフレ率の上昇、企業の価格設定行動の変化など、デフレを脱却する芽もわずかに見られているかと思いますが、今の状況が続きますと、特に家計部門にとっては、来春の賃上げが一番、重要な鍵になってきます。この賃上げが十分に行われないまま、物価が足元で上昇し、消費税も来春に上がってくるということになると、来年前半にかなり大きなインパクトが起きる恐れがあります。従って、賃上げに向けた安倍政権のスタンス、行動が期待されるところでありまして、9月から政・労・使の会合で、企業業績が改善し、設備投資が増えて、賃金が上昇し、個人消費が増えるという前向きの循環を引き起こしていこうということで、話し合いが続けられています。財界の首脳からも賃上げに向けて、ポジティブな発言も出だしていますので、期待感を持って見守っている状況です。


消費増税の来年以降、全体の収益が増えるか

鈴木準氏鈴木:この1年間を振り返って、総論的に申し上げると、民主党政権は分配政策重視で、安心が成長の基だという考え方でしたが、安倍政権ではパイを増やす成長志向の内閣だ、というところは大きな転換だったと思います。内田さん、湯元さんが言われたことと同じ意見ですが、安倍政権になってマインドは大きく変わったと思います。特に、昨年の夏、秋ごろは1ドル80円を切るような行き過ぎた円高でしたが、世界経済の復調があったとはいえ、うまくコントロールしながら行き過ぎた円高を是正し、日経平均株価も8000円台から15000円台まで回復しているという状況です。これはマーケットだけではなくて、企業の経営者、あるいは一部個人も含めて、マインドが明るくなってきたということは言えると思います。ここまでは、期待が先行している世界ですが、実体経済を見ると、例えば1~3月期、4~6月期は12年度の補正予算などもあって、公的な需要によって経済がかなりよかった。しかし、7~9月期になると、良くないような内容も見えてきました。何が良くないかと言うと、設備投資に本当の意味での動きが見えていないということです。そこの動きが見えてこないと、自律的な成長の回復ということは言えないと思います。それから、グローバルに見ても、アメリカ経済は緩やかに回復している、一方で欧州はデフレになるのではなか、と言われています。また、新興国も非常に調子の悪い状況ですから、なかなか輸出も増えていかない中で、日本の消費税を来年上げなければいけないわけです。第一の矢、第二の矢というものは、短期的な需要の政策としてこれまでうまくいっているわけですが、公需から民需へのバトンタッチがうまく行われるのかどうかは、まだわからないという状況です。しかも、財政再建や社会保障制度改革、原発政策を含むエネルギー政策の今後など、棚上げになっていることが数多くある状況です。国家戦略特区法案や産業競争力法案など、やると言っていたことは一応、着手してやってきているわけですが、来年以降、言われているようなパイの拡大にいけるかどうか、ということは分からない状況だと思います。


名目3%以上の経済成長は達成できるのか

工藤:各論について聞きたいと思います。経済政策の焦点として、「経済再生本部を司令塔に、富創出の成長経済に転換、名目3%以上の経済成長を達成する」というのがあります。この目標は、今年、達成できるのか、来年、再来年はできるのか、という点についていかがでしょうか。

内田:今年度は日銀も民間もGDPの実質成長率を2.7%近辺と見ています。名目デフレーターをどう見るか、ということもありますが、ほぼ3%の名目GDPは今年度については達成が可能だと思います。しかし、問題は来年度以降ということで、成長率の方は、日銀も民間も1%から1.5%ぐらいということなので、名目GDPが3%達成するには、2%を超えるようなインフレ率が必要になってきます。このインフレ率を達成するために、どのようにしていくか。先ほど、湯元さんがおっしゃったように、為替の円安という政策を続けていかなければいけないと思いますが、現実的に1%そこそこの成長で、2%のインフレ率を達成するのはバランスが悪いと思います。名目GDP3%を達成するためには、2%近い成長と大体1%台のインフレ率というのが、バランスが良いわけです。そこで、2%近い成長率をつくっていくためには、女性の活躍や移民など労働人口力を高めていくような政策があると思いますが、それに加えて、設備投資に伴って成長が拡大するという道筋をつけないといけませんので、1にも2にも成長戦略にいかに早く着手し、実行に結び付けていくのか、ということに尽きると思います。

工藤:今年は名目3%の成長は達成するが、来年、再来年については、実質成長率を2%ぐらいで維持しないといけないが、難しいということですね。


目標達成には 1%を割る潜在成長率の引き上げの努力を

湯元:基本的に、今年の数字は非常に高めの数字になりますが、割り引いて見ないといけないのは、来年度の消費税引き上げの駆け込み需要があるということです。特に、年前半は住宅関係で大きく伸びていますし、後半は自動車や耐久財といった駆け込み需要がおきますので、それによってかなり押し上げられています。こういった要因は、来年度は反動として出てきますので、その要因を除いたベースで見ると、目標としている実質2%、名目3%というのは遠い道のりだと思います。そして、来年度は消費税のショックというものがかかるために、それを最小限に和らげ、そのまま崩れていかずに持続的な成長軌道に乗せるために5兆円の経済対策を行うわけです。最終的に、実力として実質2%、名目3%という成長率が常時、達成できるような、つまり経済が正常化するという状態に持って行くためには、内田さんが言われたように、生産性を引き上げて潜在成長力を引き上げる努力をしていかなければなりません。ところが、近年、日本の潜在成長力は1%を割っている見方が主流を占めています。これを大きく引き上げていくには、規制緩和の努力は当然必要ですし、海外から人・モノ・カネを日本に呼びこんでくるという政策も重要です。それから、製造業、非製造業、大企業、中小企業を問わず、日本の企業が海外展開をどんどん進めていって、海外から富を得ていくような体質を作り上げていく、ということが大事だと思います。これは、全て成長戦略の目標として書かれていることであって、それを着実にスピーディーに実行していく、ということをやっていかない限りは、目標に掲げた実質2%、名目3%を達成するのは難しいと思います。

 第一の矢、第二の矢というのは、基本的には時間を買う政策です。つまり、第三の矢が実行され、効果を表すまでに一定の時間がかかりますから、その時間を買うために、第一、第二の矢という政策をやっていると見るべきです。それらを踏まえると、現時点で実質2%、名目3%を達成するのはやはり難しいと思います。

鈴木:政策の評価という意味では、何と書いてあるのか、という確認が重要だと思うのですが、安倍政権の6月の骨太の方針では「再生の10年」という言い方をしています。結局、名目3%、実質2%というのは2013年から2022年度までの10年間での平均で、という言い方をしています。そして、10年後には一人当たりの名目国民所得を150万円増やす、ということになっています。ですので、定義的には10年経たないと評価ができない、という書き方になっているという問題があります。とはいえ、足元はどうなのか、ということなのですが、政府の経済見通しを見てみますと、2月の段階では、名目2.7%、実質2.6%でした。つまり、GDPデフレーターはその差になりますから、0.1%です。8月の内閣府が出している年央試算によると、名目2.6%、実質2.8%となっています。細かい違いかもしれませんが、政府の見通しはGDPデフレーターがプラスからマイナスに変わっています。予測機関によっても少しずつ違いますが、大和総研でも2013年度は名目2.4%、実質2.6%というように予想しておりまして、駆け込み需要の効果もあり、実質はそれなりにいいわけですが、デフレは続いているという状況になります。ですから、今後10年間を見て、GDPデフレーターがプラス1、実質が2%という状況が実現できるのかどうか。これについては、色々な成長戦略を入れて、日本の潜在成長率を上げていったとして、大和総研の試算では、今後10年間の実質成長率は1%強ぐらいかな、と思っています。そうすると、更に1ポイント上げなければいけないというのは、よほど生産性を上げていかなければいけないということになります。更にそこに物価を上乗せしたものが名目ですから、3%となると、何の手も打たずにできるようなものではありませんし、相当なことをやらなければならないと思います。そこで、さきほど、設備投資に火が着いていないと言いましたが、日本の設備ストックは、今はかなり陳腐化しています。また、稼働率が低いので設備投資が行われない、という議論がありますが、それで設備投資が行われないと、ますます陳腐化するという悪循環に陥っていますので、日本の資本ストックを、新規性のあるもの、生産性の高いものに変えていくことができるかどうかだと思います。政府は現在、投資減税ということを言っていますが、そこが大きなポイントになってくると思います。


司令塔・経済再生本部は機能しているか

工藤:「経済再生本部を司令塔に」という言葉があります。今、経済財政諮問会議と産業競争力会議がありますが、その2つは並列しているわけではありませんよね。今、司令塔という役割は機能しているのでしょうか。

湯元:過去は、経済財政諮問会議が経済財政運営の司令塔として役割を果たしてきました。今回は、経済財政諮問会議は中長期的な経済運営と財政規律というものに重点を置いた司令塔になっています。成長戦略に関しては、経済再生本部の下に置かれた産業競争力会議を実質的な司令塔として議論を進めてきました。6月中旬に打ち出した成長戦略が当初の予想と比べれば、かなり思い切ったものも含まれていて、次々とそれなりのスピードで出てきました。そういう意味では、マクロの世界ではなく、セミマクロ、ミクロの分野にあたるような政策については、産業界のトップクラスの方々、あるいは学識経験者の意見を迅速に反映しつつ、成長戦略をまとめていく体制だったと思います。それから、経済再生本部の役割というのは、産業競争力会議によって提案されたことに対して、首相がリーダーシップを発揮して、この政策をやるという決断をする機能があります。例えば、薬事法の改正をするという決断も、安倍総理が自ら発表する形で決断しましたが、これも産業競争力会議の中で議論されたことが、そのままストレートに再生本部の政治家の中で議論されて、政権の決定事項になって出ました。そういう意味では、スピードある決断を実行していく上で、こういう枠組みは有効に機能したと思います。

内田:会議体がかなり増えました。例えば、成長戦略であれば産業競争力会議、全体のマクロ政策は経済財政諮問会議、規制改革会議もあります。はたから見ると、官邸主導なのか官庁にある程度影響を受けるのか、会議体が分散化してしまっているのではないか、と思います。

鈴木:民主党政権時と比べると、オープンになったと思いますが、会議体は増えたと思います。政策をウォッチする立場からすると、どこをどういう風に見たらいいのか、ということは分かりにくくなったと思います。


2%の物価目標は?

工藤:黒田日銀総裁は「2年間で2%の物価目標」を設定しましたが、これについてはどのような評価でしょうか。

内田:正直、日銀と民間のエコノミストの間に、かなり乖離がある大きなポイントですし、日銀の審議委員の中でも、この目標達成は厳しいと見ている方がいらっしゃいます。先ほど、湯元さんもおっしゃったように、今の消費者物価の上昇率のほとんどが円安効果によるものです。消費者物価は平たく考えれば、約4割近くが財の価格、約4割近くがサービス関係、残りの2割近くが住宅関係です。財については、世界がグローバル化していますから、安いところでつくって売る、というビジネスモデルが確立していますから、どこの国も大体はマイナスになっています。そうすると、サービス価格で2%のCPIをつくるためには、倍の4%かそれ以上あげなければいけないことになり、現実的にはかなり厳しい状況になります。後は、2割の家賃関連のところですが、あえて言えば、日本で不動産価格が急騰して、そこから起きるアセットバブル的なものがあれば住宅が牽引していく、といことはあると思いますが、現実的には2%を構成していくのは難しい。従って、2%が実現するとなると、かなりの円安が継続し、日本経済にはあまりよくないコストプッシュという物価の上昇になるのではないか、というのが私の見方です。ですから、「2年間で2%の物価目標」を実現するのは難しいと思います。


「2%の物価目標」の達成は未知数

湯元:実際に9割が円安要因で上がってきているということは、このまま0.9%徐々に上がっていって、2%に到達しそうだという絵を描くというのは、非常に誤った考え方です。円安による様々な価格の上昇というのは、1年経つと影響が一巡してきますので、そういった要因は来年の春辺りから少しずつ剥落してきて、基調の物価が上昇してこない限り、物価上昇率が途中から下がってくるという局面になってきます。このまま2年後まで延長すると、そう簡単に2%には届かないと思います。ただ、重要なのは2%インフレを何が何でも達成しないといけないのか、あるいはインフレの中身が今のような形であるにもかかわらず、2%インフレを達成しても、国民にとっては不幸な出来事になってしまいます。現在マイナスの需給ギャップが、ゼロからプラスに転じていって、需要が供給を常時上回るような状態の中で、賃上げが行われていけば、値上げをしても消費者にも受け入れられる環境になっていくと思います。そのような環境では、1%インフレでも問題がないわけです。そういう意味では、2%という物価目標の実現、ということに陥ってしまうと、かえって好ましくない形になってしまう可能性もあるわけです。

 但し、日銀が「2年間で2%の物価目標」ということを宣言することによって、期待を変えたい、ということではあるのですが、家計や企業、市場参加者がどこまで信じるのか、という意味においては、この政策はまだまだ未知数であって、やってみないとわからないといのが正直なところで、現実的な効果はまだ十分にでていないという状況です。

鈴木:エネルギー価格の上昇で、コアCPIは0.9%まできています。それは、エネルギー価格が上昇し続ければ、どんどん上がっていくわけですがそういうわけではありません。コストプッシュ型であっても、一度インフレが起きると、世の中の人たちの予想が変わって、インフレになるのではないか、ということを思い描くようになるという人もいますが、私はコストプッシュ型の物価上昇は、コストの上昇でしかなく、需要の減退を招いて、安定的な物価上昇にならないと思います。ただ一方で、エネルギーや食料を除くコアコアというCPIが、10月で0.3%と5年ぶりのプラスになりました。ですから、少しずつ温まってきているということは言えるのですが、民間のエコノミストの中で達成できるとしているのは、40人中1人だけぐらいの割合で、ほとんどの人は無理だろうと見ています。今後の見通しですが、先程、内田さんからサービス価格という話がありましたが、結局、財の価格というのはこれまでもマイナスになったり、プラスになったりとかなり変動があります。問題は、日本の場合、サービス価格が全く上がらなくなっているということですが、サービス価格というのは賃金そのものですから、2%のインフレをつくるためには、日本の賃金が名目で3%から4%ぐらい上がっていないと、2%のインフレは起きないと思います。そういう意味では、そこまでの名目賃金の上昇を予想できるかというと、難しいというのが現状だと思います。

工藤:日銀総裁の黒田さんは、2年間で2%の物価目標を設定しましたが、難しいという状況ですね。もう一つ、日銀はこの目標を達成するために、更なる対策を打つということになるのでしょうか。

内田:今、足元の為替は円安になっています。海外の投資家は、来年の4月の消費税の引き上げの時に、日本銀行がインフレ率2%を達成するために、追加的に緩和政策をしてくるのではないか、という期待感が相当、反映されていると思います。日銀としても来年、4月に展望レポートを出す時に2016年度の展望も出してくると思います。そこで、かなりの確度でインフレ率を見極めていかないといけないと思います。


デフレは脱したのか?

工藤:「デフレ脱却」という定義も含めて、今年、デフレは脱却したのでしょうか。また、物価目標の2%は実現できなくても、来年、再来年に「デフレ脱却」は実現するのでしょうか。

湯元:「デフレ脱却」の定義は、消費者物価が安定的にプラスになるということと、当面の先行きを展望したときに、マイナスの領域に逆戻りしない、という2つの条件が必要になります。つまり、コストプッシュ型のインフレになりますと需要を冷やすことになり、先行きは需要が落ちてくることになり、物価上昇率は下がってくる方向になりますので、そういう上がり方を称して「デフレ脱却」とは言えないと思います。


財政出動と財政再建

工藤:この1年を見れば、マインドは変わったけれど、まだ見通しは見えていないということですね。では、第二の矢である財政の機動的な運営と経済成長について考えていきたいと思います。

 まず、財政の機動的・弾力的運営ということで大型の補正を組んで、また今回も5兆円の補正予算を組みました。これは1回限りだと思っていたのですが、どんどん続けていくものなのでしょうか。仮に続けていくとした場合、財政出動が増えていくことになりますが、一方で財政再建をコントロールができなくなるのではないか、という問題がでてきますが、その点についてどのようにお考えですか。

内田:正確には、5兆円の補正予算は、来年度の消費税の増税に合わせて実施をするという計画段階ですが、消費税の引き上げは、14年4月と15年10月に予定されており、それに対応して補正予算が組まれています。なぜかというと、安倍政権の1丁目1番地はデフレ脱却と安定的な経済成長を取り戻すことであるということですから、ダウンサイドリスクが見える中では、機動的な財政活動というのは財政再建よりも、財政支出の方に軸足が置かれていると思います。

 公的な財政支出からPFIという民間の資金を活用した公共的な事業にスイッチをしていくことが本格的に進まないと、財政再建のために消費税を上げ、それに伴う景気対策として財政出動を行うという、いたちごっこは終わらないと思います。このPFIはイギリスやフランス、スペインでも成功していますから、早くそういう方向に切り替えるべきだと思います。


甘い財政規律 日本の最大の欠点

湯元:PFIの活用については同意見ですが、そもそも日本の財政規律というのは、当初予算にしか働く仕組みになっていない。つまり、補正予算はその時々の経済情勢、政治家の判断によって自由に大規模な予算が組めるようになっています。この点については、諸外国と比べて、財政規律が甘いという日本の最大の欠点です。リーマンショックのように、経済的に非常に大きなショックが起きた場合に限り、巨額の財政支出が許容されるという厳しい財政ルールを設定しないと、消費税の影響が心配だから5兆円の予算を組みます、その次の消費税増税の時にも予算を組みます、ということになります。そうなると、財政健全化目標との齟齬が表面化してくると思います。今は、2015年のプライマリー赤字の半減目標が、ぎりぎり維持できそうだ、という段階ですが、2020年のプライマリーバランスの黒字化目標については達成不能という状況にあると思います。だからこそ、根本的な財政運営のルールの転換というものをしていかないと、市場で大きなリスク要因となって顕在化してくると思います。

工藤:そもそも12年度補正の10兆円の影響がはげ落ちてくるという状況の中で、それをカバーするために財政出動を行う、というのは、評価としてどうなのでしょう。

鈴木:12年度の10兆円補正予算、事業規模で20兆円という対策が必要だったか、というそもそもの議論はあると思います。ただ、その補正が春、夏の日本経済を支えました。ただ、その効果はだんだん剥げ落ちてきますので、来年の消費税増税にあわせて5兆円の補正予算を組みました。つまり、一度公的な需要をつけると、それにあわせた経済構造、所得構造も出来上がってしまうので、一度限りのつもりが、これまでずっと断ち切れなかった、というのが日本の財政問題だと思います。今回の増税分は社会保障に使うということなのですが、一方で余裕ができるので他のことに使いたい、という誘惑は常に働きます。今回の5兆円も12月の頭に決まりますが、国債を発行しないということになっているので、財源としては予想以上に多くなった税収増部分を使うわけです。つまり、日本の財政というのは税収が予想以上に減ると国債発行を行い、税収が予想以上に上がると使う、ということになるので、借金は増え続けるという仕組みになってしまいます。そういう意味では、安倍政権は6月の骨太の方針と8月の中期財政計画を一応のルールとしてやっているわけですが、その内容を見ても、一応は無駄の削減や"ペイ・アズ・ユー・ゴー"は書かれていますが、どうすれば中長期的な財政健全化を達成できるのか、という道筋は分からない状況です。また、国の一般会計については、歳出のキャップは決まってはいるのですが、社会保障や地方の財政が大きくなっています。

工藤:アメリカは金利があがりましたが、日本は金利が低い状況が続き、国債を発行しやすい環境がある中で、財政出動が膨らんでいく、ということが長期化するのは危険じゃないですか。

内田:構造改革が遅れたり、非効率な経済構造が残るということで、ネガティブな要素が多くなっています。ただ、貨幣発行益(シニョレッジ)と言いますが、経常黒字国においては中央銀行が国債を購入して貨幣を発行する、ということが唯一実施できる余地がありますので、日銀はそれを実施している。それを行うことによってデフレを脱却させるというのが主目的になっています。ですから、結果的に財政がどんどん拡大しても、日本銀行が国債を買い続ければ全体的なシステムは回ります。しかし、このシステムも長くは続かず、4、5年が限度だと思います。

工藤:次に経済成長の話ですが、様々な政策手段がある中で、結果的にうまくいっているのか、ということ。出された経済成長戦略を見ると、長期的な効果の発現を前提にしているように見えます。そうなってくると、第一の矢、第二の矢で時間を稼いでいる間に、第三の矢が機能して、10年間で3%経済成長を達成するという構造そのものが成り立っていくのでしょうか。


成長戦略、構造改革は時間がかかるもの

内田:成長戦略と構造改革は時間がかかるものなので、順番としては間違っていないと思います。1980年代半ばのイギリスは民営化を行いました。そういうことを明確に提示して進めていくということが重要です。アメリカも1970年代から1980年代にかけてやったことは、85年のヤングレポートを出したり、米加の貿易協定など自由貿易を推進しました。つまり、自由貿易と民営化が明確に前面に出てこない限り、他の構造改革が大きな効果をもたらさなくなると思います。そういう意味でも、自由貿易と民営化の2点が重要だと思います。

湯元:中長期的には日本の潜在成長力、生産性を引き上げていかないといけないと思います。その手法としては、自由貿易体制を推進して、海外で稼ぐ力を作っていくというTPP、その絡みで農業分野を改革し成長産業化していくということです。それから、海外から人・モノ・カネが入ってくるような観光戦略、国家戦略特区という形で外資系企業などをどんどん誘致していこうという戦略です。それと、生産性そのものを引き上げる新しいビジネスチャンスを作り上げていくということで、規制改革ということになります。今のアベノミクスの成長戦略というのは、本来やるべき施策がしっかりと散りばめられている、という点ではフレームワークはしっかり整っています。もちろん、一朝一夕に効果が表れないのは事実ですが、多岐にわたる政策を極力早く効果が表れるように実施していくことが重要です。もちろん、安倍総理も13年前半は、スピードを重視することを再三発言されていましたが、今は別の法案にかかりきりになっていて、実際に明言された実行期限が1カ月、2カ月という形でズルズルと遅れてきています。スタートが遅れれば、その分だけ効果が表れるのも当然遅れてきます。まだまだ規制緩和などで岩盤規制や、労働市場改革など厚い壁が立ちはだかっていますが、それを突破しようとする意欲は持っていると思います。全てが遅くなってしまっているという批判は妥当しないと思いますが、かなり期待をしながら見守っている状況です。

 一方で、いつまで見守っていればいいのか、という点も気にしています。アベノミクスの成長戦略や規制改革が途中で腰砕けになったとか、あるいは十分な実行がなされていないとか、そういう評価が高まってくるだけでも、これまで築き上げてきた円安、株高といったマーケットの動きを反転させかねないような影響が出かねません。そこを意識して、スピードを上げて成長戦略を実行していくということが大事だと思います。

工藤:現時点では予定通り進んでいるが、目標を達成できるか判断できない、という見方でいいのでしょうか。

湯元:項目によって全然違ってくると思います。予定通り進んでいるが効果が表れるのがもっと先だというもの、重要な項目で突破するのが難しいものについては少しずつ遅れてきていると思います。

鈴木:成長戦略は供給サイドの強化の話で、元々時間がかかりますから、今の時点で批判を強くする必要はないと思っています。これまでの内閣も成長戦略を出して手を付けるものの、短命に終わってしまって日本の成長戦略があまりうまくいっていない状況があります。今回、難しい課題についてもスピーディーにやっていけるか、ということが焦点になると思います。少し各論的に言えば、国家戦略特区は大きな目玉なわけですが、小泉政権時も構造改革特区ということで、医療や教育、農業や新規産業など同じような分野で、地方分権的な発想でやっていました。今回は、国家戦略としてやるということです。ただ、岩盤規制と言われている分野において、構想の後退が見られている。一方で、特区諮問会議を作って巻き返しを図っていく、というせめぎ合いをやっている状況です。ですから、特区については正念場にきているだろうと思います。

 それから、産業競争力法案も国会でやっていますが、成長戦略というのは日銀と政府だけが頑張れば、うまくいくのかというと、そうではなくて、本当は民間企業がいかにリスクを取るか、ということだと思います。そういう意味では、産業競争力法案というのは中身をよく見ないといけませんが、どちらかというとお役所がこのプロジェクトはいい、と認定したものについて税の恩恵を与えるとか、規制の特例を認めるとかいう内容になっていて、お役所が目利きをするという性質が見えてきます。そういうやり方が本当にいいのか、という点について国会でも議論が必要だと思いますし、私たちも見ていかなければいけないと思います。


岩盤規制の行方は

工藤:経済競争力関係ですが、安倍政権はこれまでの政権と何が違っていて、何が動いているのでしょうか。薬のネット販売について解禁するのかしないのか、という問題がありました。ということは、想像通り動いていないのではないか、と思ってしまうのですがどうなのでしょうか。

湯元:規制改革について言えば、医療、農業といった岩盤規制については、小泉政権から突破を目指していたわけですが、なかなか突破できていないのが実情です。しかしながら、安倍政権が目指す成長戦略、および規制緩和というのは規制改革会議と産業競争力会議が両建てになっていてわかりにくいというご指摘がありましたが、実はやるべき分野というのは両方の会議でターゲットを同じにして、その中で規制改革をやっていこうと。しかも、その規制改革というのは、単に岩盤だから突破するということではなくて、その規制改革が成長に資するかどうか、という観点から選んでいる点が、過去の政権とは違うところだと思います。例えば、医療分野だと混合診療の解禁ということは以前から言われていますが、それをどう成長に結び付けていくのかと問われると難しい部分はあります。しかし今回は、薬事法の改正によって日本の医療機器の開発のスピードアップを図り、日本から海外への輸出を増やしていくといったような戦略目標をやっているとか、IPS細胞の実用化を促進するために個別の専門の法律を新しく作ってやっていく、ということについては、国会に提出され通すという方向性で動いています。こういう部分については、スピードアップしてやっています。それから、再生可能エネルギーに関しても、環境アセスメントなどに時間がかかって、民間が投資したくてもできないという局面があったのですが、大幅に緩和するということもスピードアップしてやってきていますので、進んでいる分野もそれなりにあります。一方で、遅れている分野も併存しているのが現状です。

工藤:法人税の引き下げと投資減税の2つは、この1年で実現できたのでしょうか。


具体的なものがない海外期待の法人税減税

内田:投資減税については、1兆円が既に13年度の補正予算に組み込まれていて、企業も待っているという状況ですから、実現しています。一方で、法人税の減税ですが、2015年までの早期実現に向けて対応するということになっています。この政策については、海外から非常に高い期待が寄せられています。法人税の減税については、岩盤規制と言われているところなのですが、これを引き下げることによって、海外からの投資を引き込めることになりますので、日本経済に対してのイメージは非常によくなると思います。しかし、まだ具体的なものが決まっているわけではありません。

湯元:ただ、震災復興特別法人税の減税については、ほぼ間違いなく決まると思います。これによって35%に法人税が下がります。他の先進国並みの25%ぐらいまで下げる目標を出してほしいのですが、まだそこまで言い切ってはいません。速やかに検討するという言い方になっていて、ここのところはどうなるか、はっきりしないというのが正直なところです。

鈴木:投資減税については、即時償却になるのか、税額控除になるのかというところが見えていません。多分、両方になると思うのですが、即時償却だとあまり効果が見られないと思いますので、税額控除になる必要があると思います。

 また、法人実効税率の引き下げは、10月1日の与党の大綱で、本来の実効税率の引下げを検討していくとされました。しかし、法人2税といった、地方の事業税の問題も絡み、政治的に大変なことなので、きちんとやっていく必要があると思います。

工藤:安倍政権は、参議院選までは国民に理解してもらうために、とにかく成果を出すということを言っていました。僕たちも非常に好感を持って見ていました。ただ、選挙後、成長戦略である第三の矢を含めた形で、予定通り動かしたり、もっと加速させたりという点で、トーンダウンしているのではという気がしています。

 そういうことも踏まえながら、最後にアベノミクスについて、当初、選挙の時に言っていたような形で動いているのか、それともスローダウンしているのか、という点について評価をお願いします。


スピード感ある成長戦略を編み出せるか 正念場の2014年度 

内田:安倍首相のリーダーシップによって、経済政策の方向感などについては、私は非常に期待しています。ただ、今回の臨時国会については、成長戦略を実行する国会と言っていたものの、結果としては安全保障関連が主体となり、成長戦略はかなり遅れてきているという状況です。ですから、2014年度は色々な意味で正念場になってくると思います。日本経済の成長に向けた期待感が高まっている中で、これから財政、金融政策も効果が落ちてくるので、ここで成長戦略がうまくはまり、相当なスピードを持って実現できればいいと思います。そういう意味で1月からの通常国会をしっかり見ていかなければいけません。

湯元:一部の岩盤規制といわれるもの、あるいはインターネットの薬販売といったものについては、要望したものが100%そのまま反映されているわけではありません。従って、巻き返しが期待されるところなのですが、今その巻き返しの動きが国会の中で、別の動きになっていますので、今の段階でははっきりと見えないという状況です。しかし、アベノミクスに対する中長期的な期待は維持されており、やや停滞感は出てきてますが、年末から年明けにかけて、再度スピードアップすることによって期待感を高めていくことは十分、可能だと思います。

鈴木:安倍政権への期待は第三の矢の成長戦略次第、と皆さんが言われていますが、その状態がいつまでも続くのはよくありませんから、色々なことを急がなければいけない。ただ、やはり民間が頑張らなければダメだと思っています。ターゲティングポリシーという言い方は控えめになってきましたが、政府が目利きしたり、官民ファンドをつくるだけではなく、民間にはお金があるわけですからPFIの利用などで、民間の知恵などを活かすような発想、民間が元気になるような視点でやらないと失敗してしまう、ということではないかと思います。

内田:やはりPFIは重要だと思います。これから日本の20年間は公共事業などの維持管理のメンテナンス費用がかさんでくる局面になってきます。それをどうやって財政コストを削減しながら民間需要の活性化を引き起こしていくのか。ただ、PFIの大きな問題は地方で大きく改革が進んでいかないと、今は非常に少額でなかなか進まないという問題があります。ですから、一緒に地方分権も進めていかなければいけない、という大きなハードルがあります。

工藤:今日は、安倍政権1年の経済政策をどう評価するか、ということで議論をしました。

 ありがとうございました。

 安倍政権がスタートし、12月26日で1年を迎える。安倍政権の1丁目1番地、デフレ脱却と安定的な経済成長を取り戻すため、大胆な金融緩和、機動的な財政運営など"3本の矢"を放ち、円安、株高による経済効果は見られた。しかし、「期待」に働きかけるアベノミクスも成長戦略ではスピード感が乏しく、消費増税の来年以降、全体の収益は増えるのかどうか。また、政府と日銀が目指す「名目3%の経済成長」、「2年間で2%の物価目標」は達成可能なのか、岩盤規制などの構造改革は。経済問題の専門家、3氏に話し合ってもらった。