言論スタジオ

エクセレントNPO大賞から見た、日本の市民社会の変化と課題

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2014年3月14日(金)
出演者:
石川えり(難民支援協会事務局長、第2回エクセレントNPO大賞受賞団体)
小倉和夫(国際交流基金顧問)
田中弥生(大学評価・学位授与機構教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


議論で使用したアンケートはこちらからご覧下さい


 「エクセレントNPO」を目標にして非営利組織が競い合い、その動きが市民に「見える化」されることで、市民社会に大きな変化を起こす――市民社会の中にこのような好循環を生み出すための課題は何か。第2回「エクセレントNPO大賞」の表彰式から3カ月が経った今、改めてこの賞の関係者たちが語り合った。


工藤泰志工藤:言論NPO代表の工藤泰志です。さて、言論NPOではこれまで、安全保障やアジア外交について議論してきたのですが、「日本の市民社会をどのように強くしていくのか」ということも私たちにとっては、議論の柱となる重要なテーマです。私たちは2012年に「エクセレントNPO大賞」というものを創設しました。社会の中で活躍し、課題解決に取り組んでいるNPOを見える化し、「どのようなNPOが良いNPOなのか」ということをNPOの実践者や学者の皆さんと議論をし、「エクセレントNPO」の評価基準をつくり、その評価基準に基づいて表彰を行っています。第1回目の表彰では、「エクセレントNPO大賞」は「該当団体なし」という結果だったのですが、昨年12月の第2回目の表彰では、今回の言論スタジオに来ていただいている「難民支援協会」が、「エクセレントNPO大賞」に選ばれました。ということで、この「エクセレントNPO大賞」と、こういった活動を通じて、「日本の市民社会」について議論していきたいと思います。

 初回となる今回は、初代「エクセレントNPO大賞」受賞団体の難民支援協会の石川えりさん、この大賞の審査委員長を務められた、国際交流基金顧問の小倉和夫さん、エクセレントNPOの評価基準そのものを開発された、日本NPO学会会長の田中弥生さんにお越しいただき、「エクセレントNPOから見えてきた日本の市民社会の課題」について、今後どのように考えていけばいいのか、議論していきたいと思います。

 さて、エクセレントNPO大賞は2回目が終わったのですが、この賞の持つ今日的な意味や、実際に審査されて、日本の市民社会の課題は何なのか、ということについて、田中さんはどのようにお考えですか。


エクセレントNPO大賞の今日的な意味とは

田中弥生氏田中:そもそも「今日的な意味」というのは、「なぜこの評価基準を作ったか」ということと表裏一体であると思います。NPO法が1998年にできて、現在NPOは5万団体くらいあり、数はものすごく増えました。しかし、社会貢献や市民の自発的なボランティア活動の受け皿となる非営利組織をつくろう、という本来の法律の趣旨、目的から逸脱したような団体が増えて、玉石混淆の状態になっています。その結果、「NPOは信用できない」という意見が、特に外部から数多く聞かれるようになりました。

 他方で、NPO自身にも課題があります。非営利組織の経営というのは何をモデルにしていけばいいのか、それぞれのリーダーたちはとても悩んでいます。そうであるならば、一度原点に戻って、目指すべき姿というものを基準というかたちで示してはどうか、というのが、この評価基準をつくる背景となった問題意識です。

 そういう問題意識から出発して、私たちはピーター・ドラッカーの非営利組織論をベースにしながら、「市民性」「課題解決力」「組織力」の3つの領域で評価基準を考え、合計33の基準をつくりました。ただ、基準をつくっても、使ってもらわなければ意味がありません。では、何のために使うのかといったら、やはり、目指すべき基準を達成するために切磋琢磨し自分たちの組織の質を向上させる、という良い意味での競争が非営利セクターの領域で生まれれば、さらにセクター全体としての成長も実現できるのではないか。そのような考えからこの評価基準をつくりました。

工藤:要するに、非営利セクターの中に好循環を生み出すということだと思いますが、実際にそのような動きが始まり、これまでの2回目の審査を通じて何か手応えを感じましたか。それとも、まだまだ先は遠いという感じですか。

田中:まだまだ遠いと思います。ただ、応募団体は確実に増えてきているという手応えは感じます。5万というNPOの母集団に加えて、さらに、公益法人や、生活協同組合のようなところも応募してくださっています。そういう点でいえば、母集団が大きい中で応募団体が173という数自体は少ないのかもしれませんが、実は1回目の応募よりも3割増しとなっています。あまり宣伝されているわけではありませんが、このように一挙に応募が増えたというのは、何かの兆しなのではないかと思っています。

 実は、173団体の中の30団体くらいは、昨年落選した団体が再チャレンジしてきていましうた。一度落とされているにもかかわらずなぜ今回も応募したのか、ということを聞くと、「自分たちがやっていることをちゃんと審査で見てくれているのが分かるから」という答えが多く、そこから「少しでも自分たちが向上したい」という意欲を強く感じました。

工藤:石川さんの難民支援協会は、初めての大賞受賞団体となりましたが、受賞の感想を聞かせてください。

石川えり氏石川:受賞自体は本当に嬉しく思いました。ただ、それに劣らず感謝していることは、やはり、自分たちの組織を、特に経営的な観点から見直す機会をいただいたことです。そういう機会はなかなか外から与えられるものではなく、今まではどのように団体を律していくかも含めて、自分たち自身に任されている部分が大きかったと思います。

 私たちはNPO法ができた翌年にすぐ法人格を取得しましたが、東京都では初めて「人権」というテーマで取得したNPOです。難民問題の場合、難民の人がすぐ故郷に帰れるようにする、あるいは、そもそも難民が生み出されない状況をつくることができれば理想的なのですが、15年間活動してきても、なかなかそういう兆しは見えません。そのような中で、「難民を生み出さない社会をつくる」というビジョンを持ちつつも、やはり組織としての経営基盤を固め、「来年はどうするか」「再来年はどうするか」という計画性を持ちながら経営していく必要性を、ここ数年私たち自身が感じながら、手探りの状況が続いていました。そのような時に、エクセレントNPOの評価基準のことを知り、一定の軸をもって自分たちを定期的に測ることができる基準として活用させていただきました。実は、私たちも2012年も応募して落選した30団体の一つなのですが、その過程を経ることで、毎年原点に立ち返れる基準があり、その中で、色々な団体と一緒に切磋琢磨できる、という点が非常に魅力的だと思っています。

工藤:今回の応募で難民支援協会は、「課題解決力」「市民性」「組織力」の中で、どこにアピール力があったと自己評価されていますか。

石川:自己評価では「課題解決力」です。日本の難民法が変わったか、難民がもっと認定されるようになったか、という明確なアウトプットという点から見ると、結果を出せてはいません。しかし、政治への働きかけを超党派で行い、法改正にあたっての参考人招致をしていただくなど、各政党に理解者を増やしていく、もしくは難民に関するワーキングチームを与党から野党までつくっていただくなど、少しずつ成果を出してきたという思いはありました。

 ただ、本当に課題解決をされている方々の評価を聞いて、我々にまだまだ足りない部分があることを認識させていただきました。逆に、そんなに意識していなかった「組織力」に強みがあるということを評価していただいたことも、自らの組織のことを再確認する良いプロセスになりました。

小倉和夫氏小倉:田中さんと石川さんがおっしゃったことと重複しますが、この賞の一番の意味は「自己評価をする」ということです。世に「○○賞」と呼ばれているものの多くには審査員がいて、その審査員が客観的ではありますが一方的に評価しているわけです。しかし、この「エクセレントNPO大賞」では、審査を受ける方がまず自分たちで自分の組織を自己評価することが条件になっています。ですから、審査員が一方的な審査をして、一方的に「いいね」と表彰するわけではないのです。自己評価が根本になっているということが非常に大事なことだと思います。

 同時に、私の印象では、時間が経つにつれてそれぞれの団体の自己評価が次第に客観性、妥当性を持ってきていると思います。特に、難民支援協会さんが今回大賞を受賞された大きな理由の一つは、自己評価が客観性を持っていた、ということがあると思います。

 また、この賞の意味というのは、田中さんが言われるように評価基準が普及し、それが重要な意味を持ってきているということもありますが、加えて、フィードバックプロセスが存在していることは大きいと思います。審査する方、基準をつくった方と、評価基準を実際に当てはめてそれを基に活動している人たちの間で、対話が双方向になってきている。その結果、石川さんが言われるような好循環が生まれてきています。そういった点がこの賞の意味であり、また良いところではないでしょうか。

田中:フィードバックというのはまさにおっしゃる通りです。実際、1回目の審査後、こちらの方が反省するところがたくさんあり、評価基準を修正しています。それに基づいて、今回の2回目では、第7次審査まで行いました。そこまでやりながらもなお、「あの評価基準はもっと直した方がよかったかな」というところが見えてくるのです。そういう意味では、どちらが教えられているのか、どちらが評価しているのか分からなくなるくらい、こちらがたくさんフィードバックをいただいています。

工藤:今回、大賞の難民支援協会さんは「組織力賞」も受賞されていますが、かものはしプロジェクトさんとの2団体同時受賞でした。ということは、かなり各団体の差がなくなってきている、ある程度質の高いレベルの団体が出てきているということでしょうか。

田中:賞の応募用紙が自己評価書になっているのですが、1回目のときには、その出来にかなりばらつきがありました。そもそも、「自己評価」という概念自体、よく理解できていないと思われるところがあって、「全部優れている」というように、自らの団体がいかに優れているかをアピールする評価書が数多くありました。そこで、すべての応募団体に「なぜ落ちたのか」という理由について説明したところ、今回は、かなり充実した自己評価がなされた応募書類が増えました。


「市民性」が脆弱な日本の非営利セクター

工藤:エクセレントNPO大賞には、「市民賞」「組織力賞」「課題解決力賞」という3つの賞があるのですが、日本のNPOの現状を見れば、結果として「組織力賞」と「市民賞」に該当する団体が集まってくるという傾向はありませんか。

田中:各団体は「自分はどの賞に応募したい」ということを指定しないで応募し、私たち審査委員会が振り分けをしています。

 全体を見ますと、一番弱いところが「市民賞」でした。「組織力賞」に関しては、ガバナンス要件をきちんと整えることには自信があるという団体は結構多く見られます。また、「こんな課題を解決しました」というアピールをする団体も見られます。実は「市民賞」がこの表彰の一番の特徴だと思っているのですが、「ボランティアや寄付者、会員とどういう対話をしていて、その人たちの成長をどう促しているか」というところに関しては、どの団体も意外と弱く、それに該当する団体は一番数が少ないのです。

工藤:それはなぜなのか、ということを聞く前に、この議論の前に有識者にアンケートを行ってみました。「あなたはどのようなNPOが優れたNPOだと思いますか」と複数回答形式で質問してみたところ、一番多かった回答が「社会の課題を解決するために成果を出している団体」で78.0%でした。ただ、「市民とのつながりを大事にしながら活動している団体」が61.0%、「多くの人が市民として成長できるような舞台を提供している団体」が57.0%となり、2位、3位に「市民性」が重要だという回答が続きました。この結果から、有識者の方々はNPOに対して「課題解決力」と「市民性」というところを重視しているのではないかと考えられるのですが、いかがでしょうか。

小倉:そこには非常に難しい問題があります。例えば、今回、「課題解決力賞」を受賞した「多文化共生センター東京」もそうではないかと思いますが、課題を解決するためにはある程度、政治性を持たないといけないわけです。課題解決をしていくためには資金も必要ですが、それだけではなく、どうしても政治に働きかけないとうまくいかない。市民が立ち上がったからといって、現実にはそう簡単に、課題を解決できないのです。しかし、政治性を持とうとすると、中立性の問題が出てきてしまう。課題を解決する際に、政治的な働きかけの必要性が出てくるとなると、どうしても政党、政治家と関わる機会が増えてくるからです。市民団体としての中立性と、課題解決の意欲とをどうやって結びつけるかというのは、本当は非常に難しい問題だと思うのです。

 このアンケート結果のように、「市民性」と「課題解決力」の両方あればそれに越したことはないのですが、実際上の問題としてはこの二つのバランスをうまく取っていくというのはなかなか難しいと思います。

工藤:市民性の評価基準では、多くの人の参加があり、しかも、ただ単に参加するだけではなく、参加することによって市民として成長できるような機会が提供されているか、そのような運営をしているかが問われています。そのような社会になると理想的だと思うのですが、実際のところ、現状はどうなっているのでしょうか。

田中:NPO法人だけでいうと、この10年近く、5割くらいのNPOは寄付を全く集めていない状況が続いています。それから、一昨年の内閣府の調査では、ボランティアがまったくいない団体が4割くらいいました。つまり、周囲の人たちの参加を得ずに、自分たちだけという閉じたかたちで活動している、市民に開かれていない団体が非常に多いということが、今の日本のNPOセクターの特徴であり、課題だと思います。

工藤:そういう課題認識からこの評価基準ができ、その後こういう賞が生まれて、各団体が市民の参加や市民の成長が重要であるという大きな気づきになっていく、という展開にはなっていないのでしょうか。

田中:私はまだそこまでの実感はありませんが、石川さんはいかがでしょうか。

石川:難民支援協会には、立ち上げ時から多くの方が「ボランティアで参加したい」ということで、様々な形で関わっていただいているという事情もあり、市民参加をどう考えればいいのか、私たちスタッフの間でも何度か議論がありました。一口に「参加」といっても、寄付をしてくださる方、会員として組織の総会を構成してくださる方、ボランティアとして時間を提供してくださる方、またインターンということで事務所の中でお手伝いしてくださる方など、色々な参加の方法があります。いずれにしても広く、多くの方を巻き込もうとしていくと、それだけすごくコストがかかっていきます。多くの方々に私たちの活動についてお知らせし、その方々の問い合わせに一つひとつお答えしていくと、どうしてもスタッフなど、コアで事務局に関わっている人間の時間が取られてしまう。一方で私たちは難民の支援をし、関連政策を変えていくという仕事もしているので、そこに割ける時間が少なくなってしまうのであれば、ボランティアの方々にもう少し参加をご遠慮していただこう、という二者択一のような議論がありました。

 ただ、組織として経営をしていく中で、課題を解決するということも重要だけれど、同じくらい市民参加というものも重要であると、改めて評価基準の中で気づかされました。「どっちを取るのか」という二者択一ではなく、市民の方々の参加を、自分たちが解決したい課題につなげていくということが非常に大事なのではないかと感じています。

工藤:田中さんにお聞きしたいのですが、東日本大震災後、各団体がボランティアを集めるような動きが出始めましたよね。あれは一過性の動きだったのでしょうか。それとも構造的に、多くの市民がボランティアとして参加していくような、そして、NPOがそれをきちんと受け入れながら一緒に課題解決に取り組むような動きが始まる一つのきっかけになったのか、どちらだと思っていますか。

田中:とても難しい質問です。あまり比較することは妥当ではないのですが、あえて比較をすると、1995年の阪神淡路大震災の際の全国的なボランティア熱やエネルギーと、今回の東日本大震災の際の国民のボランティア熱の、どちらが熱気に満ちていたかというと、あくまでも印象論ですが95年の方が強かったという印象があります。

工藤:今回の「市民性」の評価基準は、当初は「市民参加」という基準だけだったのですね。そこを小倉さんが「それだけでは駄目で、市民が市民として成長する機会を提供するということの方がはるかに重要だ」とおっしゃって基準に追加されました。ですから、この評価基準は、市民性の評価の体系としてはかなりレベルの高いものになっています。小倉さん、この評価基準にチャレンジしていくようなうねりがこの国では始まっているのでしょうか。

小倉:先程、石川さんも言われたように、「市民性」というものを重視すると、課題解決のための効率性が必ずしも上がらないという問題が出てくると思います。

 そこで、ボランティアの意味をもう一度考える必要があるのではないでしょうか。「ボランティア活動とは何か」というと、ボランティアになった人が課題解決のために役立っていくということのほかに、ボランティアをやっている人自身の意識が変わっていく、ということもあると思います。そのように自分自身の意識を変革した人が増えていけば、社会の意識も徐々に変わってきます。ですから、「市民性」といったときには、もちろん最終的に重要なのは、課題解決なのですが、その前に参加者の意識の改革がなければならない。なぜなら、社会の意識が変わらなければ課題は解決できないのからです。

 ただ、私が最近非常に感じていることは、「ボランティア活動の罠」というものがあるのではないか、ということです。そもそもボランティアは自らの意思でやるものであり、別にお金が欲しいからやっているのではないし、権力に近寄りたいからやるものでもありません。あくまでも純粋な気持ちでボランティアをしている。そうすると何が起こるかというと、「寄付など活動資金を集める必要などない。私がボランティアでやる」とか、「政治の助けなど必要ない。私が一生懸命やるから任せておいてくれ」などと言う人が出てくるわけです。ですから、田中さんがおっしゃったように、一部のNPOが内向きになっている一つの理由は、ボランティアでやっているとそれに満足し、自己完結的になってしまい、「余計なこと言わないでくださいよ、私は私なりに善意でちゃんとやっているのだから」という姿勢になってしまうということがあると思います。そういう「ボランティア活動の罠」というものを考えていく必要があると思っています。私が知っている団体などでも、せっかく「資金集めに努力するのでお手伝いしたい」と言っても「余計なことしないでください」と拒否されることがあります。ですから、ボランティア精神という意味での市民性にこだわりすぎる団体もまだまだ多いという現実は、直視しなければならない問題であると思います。

工藤:小倉さんがおっしゃった「市民性」のあり方は非常に理解できますし、それを評価基準に据えただけでも、市民性について非営利セクターの意識を変えるきっかけになるかもしれません。ただ実際にそういう変化が起こっているかという問題はありますね。

小倉:日本のいわゆる市民団体とかNPOの事業規模というのは、国際的な基準からすると非常に小さいし、設立からの年次が浅い。これらはやはり、致命的な問題だと思います。そういう現実はまず、直視すべきだと思います。そして、この賞の意味というのは、まさにそういう現実があるからこそ、高いレベルの基準を示して、そこに向かっていこうという意欲そのものを表彰していきましょう、という精神でやることが大事ではないかと思います。


社会の中でボランティアを仕組み化するためには

田中:「ボランティアと成長」というテーマはすごく大事だと思います。ただ、誰もが参加したからといって成長できるとは限らず、むしろ「もう嫌だ」と愛想を尽かして辞めていく方も多い。ボランティアで参加した人たちがうまく成長できている団体は、例えば、「Leaning for All」などが特にそうなのですが、ボランティアの人たちへのサポートが徹底されています。ただ、先程、ボランティアへの対応などで時間が取られることにより、団体本来の目的達成が「非効率になる」というお話がありましたが、何しろ「人」が相手ですので、ボランティアのケアをすること自体も実は非常に大変な作業で、重要な仕事の一つとして位置づけないと、事務局の方も疲弊してしまうだろうと思います。

石川:先ほども申しましたが、「ボランティアか、自分たちの課題解決か」という二者択一ではなく、ボランティアの人たちを自分たちの課題解決につなげていくことによって、お互い変わっていく、お互い成長していくということがすごく重要だと感じています。特に、私たちの団体では、その「どちらか」ということを超えるということが、すごく必要な段階に来ていると思います。

工藤:これまでのお話を聞いて、二つの課題があるような気がしました。一つは、NPOでボランティアとして働くという経験が、社会において高く評価されるようになるためにはどうすべきか、ということです。例えば、アメリカの「Teach for America」では、そこで経験を積むことによって能力が高まり、企業にとってボランティア経験者は即戦力の人材として魅力的に見える。つまり、様々な社会貢献活動に従事する人が、広く社会一般で高く評価されるようになり、企業もそういう価値観で採用を行うようになれば、一般の人たちも社会貢献に積極的に参画していくような誘因が生まれる、という流れが日本の社会にも出てくるのではないかという気がします。

 もう一つ、NPOがボランティアや社会参加の受け入れ基盤として信用されているのかという問題があるような気がします。お話があったようにボランティアマネジメントもかなり大変な仕事ですし、そもそも規模が小さい団体は本業だけで精いっぱい、という状況が現実としてあります。ですから、市民参加の受け皿としてのNPOがまだまだ力不足であるという二つの問題があると思います。

 そういう課題を踏まえた上で、目指すべき社会としては、市民がボランティアのように色々なかたちで課題解決に参加していくような社会が良いと思うのですが、その実現のためにはどうすればいいのでしょうか。

田中:私は大学評価・学位授与機構というところに所属していますので、大学政策の例になりますが、現在、大学に対して産業界からのプレッシャーがものすごく強くなっています。大学が、企業が望むような人材を輩出できていないという企業の不満がその背景にあるのですが、企業が望むような人材というのは「社会人基礎力を持った人材」を意味します。すなわち、課題解決力やコミュニケーション力、共感する力などです。

 企業はその養成を大学に求めているのですが、たぶん私は無理だと思います。大学は知識や技術を教えることはできますが、このような実感、体験を伴うようなものは、むしろ大学の外に出て行って、NPOのようなところで身につけた方がいいと思います。「Teach for America」に多くの優秀な学生が集まってくるのは、ハーバードやイェールでは学べない付加価値をNPOで身につけようと思っているからです。まず、ここのところをどういう仕組みにするかということが課題だと思います。それから、大学卒業後、2年間NPOで勤めると、新卒よりも2歳年をとることになりますが、それでも企業は雇ってくれるのか、あるいは、企業に勤めていた人が一度退職をしてNPOで経験を積んだ後、さらにまた企業に再就職できるのか、といった雇用の流動性の問題ともすごく結びついていると思います。

小倉:履歴書に関する日米の考え方の違いの問題があると思います。日本では記入欄のほとんどすべてが「どこで産まれた」「どういう学校を出た」「どこに勤めた」というようなことを書くことが求められていますが、アメリカなどの履歴書では「どういう社会貢献活動をしてきたか」ということが非常に大きなテーマになっています。ですから、よくアメリカの会社に履歴書を出す際には、「自分はこれまでどういう社会貢献活動をしてきたか」というところをたくさん書くのです。ですから、日本の企業などの採用プロセスにおいても、これまでどのような社会貢献活動をしてきたのかということを重視し、履歴書の中にはっきり書かせるようになってくると大分変わってくると思います。

工藤:非営利セクターが、社会にとって必要な人材が成長するための場である、という位置づけになると、NPOに対する認識もがらりと変わるのではないでしょうか。

田中:そうですね。そのためには、ボランティアをしっかりとコーディネートするスタッフが必要で、そこにある程度決まったノウハウをパターン化して蓄積できれば、そういう教育もできるようになると思います。


日本の非営利セクターの現状は「業界化」

工藤:続いて、日本の市民社会の現状と、これからどうすればいいのかということを議論したいのですが、その前にアンケート結果について説明します。

 一つは、「日本の非営利組織が日本の民主主義を機能させたり、社会の課題を解決していくことに期待していますか」という質問ですが、「期待している」と回答した有識者が51.0%いました。続いて「どちらかといえば期待している」という回答が33.0%になっています。通常のアンケートでは「期待している」のようなはっきり断言している回答よりも、「どちらかといえば期待している」のような、ややあいまいな、確信に至っていない回答の方が多くなるものですが、ここでは断定調の「期待している」の方がかなり多くなっており、有識者のかなり強い期待が込められた結果になっていると思います。

 次に、「市民が自発的に社会の課題に参加し、そういう動きが尊重されるような強い市民社会に向けた、日本の市民社会の変化を感じていますか」と質問したのですが、「変化を感じている」という回答が16.0%でした。「どちらかといえば変化がある」という回答が44.0%ですから、この「変化」というところに関しては、期待はあるけれど実感を伴っていないという結果です。

 ただ、「これからの日本を考えた場合、『強い市民社会』が必要だと思いますか」と聞いたところ、68.0%の有識者が「必要だと思う」と答えていました。

 以上を総合して考えると、このアンケート結果に見られる日本の有識者の傾向は、やはり日本に「強い市民社会」が必要だし、それが日本の民主主義を機能させるためにも、課題解決の上でも期待している、しかしその変化があるかどうかは疑わしい、ということだと思います。

田中:「民主主義を機能させるためにNPOに期待しているか」という質問に対して51.0%が「期待している」と答えたということですが、たぶん、他に選択肢がなくてNPOを選んでいるのではないかなと思いました。従来は、メディアに民主主義や言論の自由を機能させていくことを期待してきたと思うのですが、最近メディアの働きに対して落胆が広がる中で、「では、他に誰が」といったときに、NPOを選んだ、といういわゆる消極的選択だったのではないかと私は思います。

工藤:田中さんにお聞きしたいのですが、なぜ、日本の非営利セクターは発言をしないのでしょうか。先週、私はオーストラリアで行われた国際会議に出て、世界のシンクタンクの人々と議論したときに、日本の色々な動きに関して「市民はどのような発言しているのか」と聞かれたように、市民からの発信というものが海外からは見えていない。アンケートの記述回答欄にも「NPOから発言がない」という指摘がありました。つまり、世界から見ると、日本はワンボイスに見えてしまうのです。政府の一つだけの声しか世界に届いておらず、それ以外の発言が聞こえない。自由な社会というのはもっと多様な意見があり、それが色々なかたちで市民に判断材料を提供していると思うのですが、少なくともNPO業界ではそういう議論や発言というものが少ないですよね。

田中:今、工藤さんはNPO「業界」とおっしゃいましたが、私は企業であれ非営利組織であれ、公的な資金が流れるところでは必ず「業界化」が起きると思っています。NPOセクターについても、この15年くらい、多様化というよりは一つの流れの中に入っていく、いわゆる業界化というのが進んだのではないかと思っています。そうすると、業界の意見とは違う意見や異質なことは言いにくくなってくると思います。

石川:確かに、非営利セクターの中で、私たちの団体も含めて、みんなが「すごく物わかりのいいお利口さんになろう」としている、というような雰囲気が少し感じられます。一般社会に対してあえて「違う、そうではない」と訴えて波風を立てていく、色々な声を外部に届け、議論を巻き起こしていくというところに、NPOが果たすべき一つの役割があると思います。しかし、現状では予定調和に向かってしまうという、「業界化」の良くない点を、自分としてもどこか感じるところはあります。

工藤:海外の会議などに参加して感じることは、世界には課題解決のために動いている人がたくさんいるということです。その背景には、政府や企業など、これまでの様々な統治の仕組みが、課題解決に向けて動けなくなってきているという問題があるので、それを補うような動きが出てきたり、あるいは、既存の統治の仕組みから外れたネットワークができて、個人がそこに参加していくというようなドラマが生まれてきています。

 ところが、日本では、既存の統治の仕組みが逆に安定し、市民がそれにすがっていくような、逆の傾向があるような気がします。世界的な潮流とは真逆の思考で動いているのですね。その「安定」を求めることがワンボイスにもつながっていると思うのですが、本当は非営利セクターが、そういうことをチェンジさせる役割を担うはずだったのではないでしょうか。

田中:「安定にすがる人々」という言葉を聞いた途端に、ナチスの時代のドラッカーの分析を思い出しました。ドラッカーは「なぜドイツ人が全体主義、ナチズムに陥ったのか。それは結局、国民が選んだのだ。国民がなぜ選んだかといえば、安定にすがってしまった。安定のためには言論の自由も経済の自由も犠牲にしてよいのだ。それを『おかしい』と思った人もいたけれども、自分に火の粉がかかるのが嫌で見て見ぬふりをした」と。だから、安定にすがることと、見て見ぬふりをした人たちは20世紀最大の罪を犯した、と彼は言っていたのですが、今のお話にはそれに通じるものがありました。

石川:「当事者性」というものがもっと必要なのではないかと思います。私は、難民の人を通じて世界とつながることができました。例えば今、ウクライナで起きていることを見ると、「明日、事務所にウクライナの人が来るかもしれない」と考えるようになりました。シリアで起きていることでも他人事ではなく同じように考えます。

 難民という特殊な課題でなくてもいいと思うのですが、当事者性を持って社会に関わっていく人をもっと増やせないかと思います。今は「こういうふうにやっていこうよ」という声自体が以前よりも出しにくかったり、出しても広がりにくかったりする、というような感覚はあります。


市民が課題解決に参加していく流れを拡大するためには

工藤:課題につながるチャネルというのがたくさん用意されていて、そこに市民が参加できることが理想なのですが、そのチャネルが縮小しているのでしょうか。

小倉:個人レベルでは、かなり知的レベルが高く、しっかりと自立している市民でないと、課題解決のために動き出そうとは、なかなかならないと思います。そこで、組織に属して活動する方が良いわけですが、これまでの市民活動の歴史を見ると、参加しやすいチャネルとしては職業別の団体や、地域別の団体があったと思います。

 そうした団体の活動に携わっているうちに、徐々に課題に向かっていくという意識が芽生えてくるという流れになるわけですが、今の日本では地域別のNPOのようなものはあまり流行りません。それから、職業別の団体も流行らなくなっています。その理由は、近年、日本が一種の中間団体である労働組合や農業団体、そして、職能団体などの政治的機能を破壊ないし軽視してきたからです。そういう団体の役割を「癒着だ」などとさかんに批判して、個人と政治・政党との間に存在してきた中間組織を排除してきたのです。その結果、そこに参加してきた市民たちにとっては、課題解決参加のための受け皿が少なくなってきた。これは政治の責任が大きく、政治優先といったようなかけ声のもとで、実はこうした中間団体の社会的機能を減らす方向に政治が動いてきたのです。あるいは経済的な状況もそういう方向に動いてきた。さらに、田中さんが言われるような安定・安心志向ということもあるかもしれません。そこでもう少し、職業別の団体など中間団体の機能を見直していく必要があるのではないかと思います。例えば、韓国を見ると、女性団体や宗教団体がものすごく強い。そういう色々な団体の役割を見直し、団体を通じて市民が課題解決に参加していくということを、もっと奨励していくといいのではないかと思います。

工藤:課題解決の力というのは、それに挑む人たちがたくさんいればいるほど増していきます。もしくは、そういう人たちが「かっこいい」と思われるような社会の風潮が必要です。「あの人たちは頑張っているけれど、奇特な人だから私には関係ない」などとなってしまっては話になりません。自分たちが課題を解決し、この国、社会を未来に向けて変えていくのだ、という市民社会の中からの潮流はどうすれば出てくるのでしょうか。

小倉:NPOの自立性が不可欠だと思います。NPOの世界ではよくあることなのですが、政治にスナッチ、つまり、ひったくられる、ということがあります。どういうことかというと、NPOが非常に良い仕事をしていると、行政が援助してくるようになる。そして、そのうちに、いつの間にか行政の中に取り込まれてしまう。そうすると、それはもはや市民社会の動きではなくなってしまうわけです。

 より多くの市民を巻き込んでいくためには、政府・権力からの自立性、営利的な問題からの自立性が必要です。NPOがフェアな存在であり続け、しっかりとした課題解決を目指すのであれば、「自立性」は一番大事にすべき点ではないかと思います。

工藤:市民社会の中から課題解決をベースにしながら、この閉塞感を打破していくような、いわゆる「かっこいい」新しいリーダーが出てきていません。「エクセレントNPO」の課題解決力賞が求めているのは、まさにそういう人たちが出てくることだと思うのですが、いかがでしょうか。

田中:おっしゃる通りです。これからは、社会的なインパクトがあるものを見せられるような人たち、団体が出てきてほしいし、それを課題解決力賞で表彰したいと思います。

工藤:表彰が一つのきっかけになればいいですよね。今回の大賞受賞も、これで「難民」に大きな焦点が当たればいいと思うし、そういうことをきっかけに外国人の人権問題に取り組んでいる人たちが連携していって、それがより大きなパワーになっていけば理想的だと思うのですが、外部から見ているとみんなバラバラな印象を受けます。

石川:そうですね。難民問題に関しては、現在、15団体がまとまってネットワーク組織をつくって、みんなで提言をしていこうというかたちになっています。しかし、外国人問題や移民政策など広く「外国人の人権」というテーマで見ると、まだまだまとまり感はない、とう状況です。

工藤:「社会を変える」というときに、すでに社会的地位のある人など既存の力は結構出てきてくれますが、NPOなど新しく動いている人たちも既存勢力に並んで社会に対してアピールしていく段階が近づいてきているような気がしています。

小倉:今、石川さんが言われたことは重要なポイントです。国家全体としての価値観として日本が何を打ち出すかをはっきりしておかないと、市民も困ってしまうのです。国家戦略として日本は人権や民主主義というものを本当に大事にしていく、という姿勢を打ち出すことによって、NPOなど市民も安心して活動に取り組んでいくことができ、組織として育っていくようになるのだと思います。

工藤:そういう戦略を描ける政治家が出てくることも必要だと思います。

 非営利セクターは、課題解決に向けて力強く前進していく、そして、市民の参加を得て、その成長を促しながら、社会の課題に対して向かい合っていくための基盤でなければならないのだと思います。そのためには、「業界化」して、自分たちの業界の利益だけを追求するようになってはならないということを感じました。今日、皆さんと話をしていて、こういった議論をこれから幅広くやっていかなければいけないと感じた次第です。

 ということで、今日の議論は今年、言論NPOが市民社会を議論していくスタートになりました。議論の中に多くの論点や問題意識が提示されましたので、ここを深めていきながら、今後も議論していきたいと思っています。

 なお、今年も10月に「第3回エクセレントNPO大賞」を実施する予定になっています。応募要項が決まったら発表しますので、是非皆さんに応募していただきたいと思います。皆さん、今日はありがとうございました。

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  5. 【座談会】「トランプ政権と北朝鮮問題」もはや核開発阻止は無理、米国が目標を変えたとき何が起こる?

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