言論スタジオ

日中の経済関係をどう見るか

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2014年9月26日(金)
出演者:
田中修(日中産学官交流機構特別研究員)
駒形哲哉(慶應義塾大経済学部教授)
遊川和郎(亜細亜大学アジア研究所教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)


 第10回日中共同世論調査では、多くの日本人が中国経済の先行き不透明感を抱いていることが浮き彫りとなった。背景には「中国悲観論」一色に染まっている日本メディアの報道があるが、実際の中国経済は今、どうなっているのか。中国が抱える構造問題とその改革の見通しについて、中国経済の実態を知り尽くしている3氏が語り合った。

工藤泰志工藤:言論NPO代表の工藤泰志です。言論NPOは今月の28日、29日の2日間、東京で「第10回東京-北京フォーラム」を開催します。この対話には中国から閣僚も含めて35人ぐらいのパネリストが来日します。日中関係が悪い状況の中で、このような大がかりな対話が行われるのは非常に画期的なことだと思います。この対話では、「安全保障」、「政治」、「メディア」、「経済」と、4つの分野で議論が行われるのですが、今回の言論スタジオでは「経済」について、専門家の皆さんと議論して、今度の「東京-北京フォーラム」の経済対話をどのような視点から読み解いていけばいいのか、ということを明らかにしていきたいと思います。

 それではゲストの紹介です。まず、日中産学官交流機構特別研究員の田中修さん、続いて慶應義塾大学経済学部教授の駒形哲哉さん、最後に亜細亜大学アジア研究所教授の遊川和郎さんです。

 さて、9月9日に言論NPOは第10回日中共同世論調査の結果を発表しました。その中の経済に関する設問における日中両国民の回答の傾向をどのように読み解けばいいのか、というところから議論を進めていきたいと思います。

 まず、「2030年の相手国をどう見ているか」という設問です。これに関して日本人では「中国はアメリカを抜いて世界最大の経済大国になる」、または「中国は経済成長を続け、アメリカと並ぶ大国となって影響力を競い合う」という中国経済が世界最大規模になるとの見方は、合計しても2割に満たなくなっています。一番多かったのは、「中国経済は順調に成長することすら難しくなり、将来は極めて不透明にある」という回答で34.4%でした。これは一般世論ですので、中国経済について専門的な知識を持っているわけではないのですが、日本国民は何となくそういう実感を持っているわけです。
 
 これに対して、中国人は2030年の日本をどう見ているのかというと、一番多かったのは「世界第3位の経済大国で、軍事大国ではない」という回答で28.1%です。もう1つ、「世界第3位の経済大国で、軍事大国になる」という回答が8.9%なので、この2つを合わせると、中国人で2030年の日本の経済規模は世界第3位のままであるという見方が合わせて37.0%です。これに対して、「経済大国の地位は低下するが、影響力は保持している」や「経済大国の地位も影響力も低下する」といった経済大国の地位が低下するという見方は合わせて48.2%と半数近くにのぼっています。

 次に、日中の経済関係がwin-winの関係なのか、それとも相手に脅威を与える競合関係なのか、という設問です。この設問は例年、日中の政府間関係の状況にかなり相関していて、それによって変動してくるのですが、最近は日本の中に、「Win-Winの関係を築くことは難しい」という見方が非常に多くなっています。今年も、その「Win-Winの関係を築くことが難しい」とい見方は47.1%と半数近い。これに対して中国は逆で、「Win-Winの関係を築くことができる」という見方がいつも多い。今年もそれが増えて、62.9%の中国人がそのような意識を持っている。

 さらに、尖閣諸島をめぐる対立が経済に影響するのか、という設問です。これに対しては両国で6割を超える人が「経済関係に影響がある」と答えています。さて、この3つの調査結果からどのようなことを読み取られたか、皆さんにお話していただきたいと思います。


中国経済の実態を正確に伝えていない日本メディア

田中修氏田中:まず、日本人が考える中国の2030年の設問では「順調に成長するのは難しい」という回答が多くなっていますが、これはここ数年の傾向ではないかと思います。2010年、11年、中国がGDPで日本を抜いた頃は、メディアの記事を見ると「中国はいつアメリカを抜くのか」「中国が世界で君臨する日」というような特集しかありませんでした。ところが、昨年6月の上海の短期金利の高騰や、シャドーバンキング問題が出た後は、とにかくどのメディアを見ても「中国リスク論」「中国崩壊論」一辺倒です。どうも、日本のメディアは、国が統制しているわけでも何でもないのに、中国を褒めるときにはベタ褒めになるし、貶すときには徹底的に貶すという傾向があるので、それに世論が引きずられていっているという印象があります。相手の実態はそんなに変わっていないのに、それに対する評価が極端にぶれるということも、最近の傾向ではないかと思います。

工藤:今のお話は核心を突いています。この世論調査では、両国民の意識はメディアの動向や日中の政府間関係の状況にかなり依存していることが明らかになっています。遊川さんは、いかがでしょうか。

遊川和郎氏遊川:例えば、今年の4月に世界銀行が発表した国際比較プログラムを見ると、購買力平価でいえば、今年14年には中国がアメリカを上回るという予測が出ています。現行の為替レートでの名目の比較では、今、中国はアメリカのだいたい55%くらいです。予測の前提をどこに置くかによって違いは出てきますが、例えば、2020年まで中国が7%台の成長を続けるとすると、2010年から倍増することになります。そして、その後もアメリカよりも数%高い成長を維持すると仮定すると、米中が逆転するということもあり得るわけです。さらに人民元がもっと強くなれば、ますますその実現は早まると思います。

 メディアの論調は、中国経済がそれまでにクラッシュするのではないか、あるいは持続的に成長できなくなるのではないか、という考え方を前提にしているのだと思います。さらに、成長が維持できなくなると体制にも不安が生じる可能性もあり、余計に議論を複雑にしているのだと思います。

 現在、中国経済の先行きに不安を持っている人が多くいることが今回の世論調査からもうかがえますが、先ほど田中さんがおっしゃったように、日本ではちょっと「中国経済は大丈夫か」というメディアの論調に左右されすぎているところがあると思います。

駒形哲哉氏駒形:私も両先生と同じように、やはりメディアの存在というのが非常に大きな問題だと思います。私自身は、中国の民間企業や内需の成長性について注目して見ていますが、実体経済としては、それほど悪いと思っていません。問題があるとすれば金融システム、あるいはマクロ管理の問題だと思うのですが、日本のメディアはまずマクロ的な問題や金融の問題、例えば理財商品や民間金融の問題などに大きく焦点を当てて報道しています。他方、フィナンシャル・タイムズなどを見ると、こういった問題だけではなく、民間企業が国内市場向けにどのような活動をしているか、ということも丁寧に報道します。日本のメディアというのは、まず日本人が喜ぶことを揃って報道する傾向があり、日本企業がどうありたいか、どうあってほしいかということを中心に報道しているので、日本人に対して中国経済の正しい実情が伝わっていないところがあると考えています。


依然として相互補完関係にある日中経済

工藤:経済的な相互補完関係があるにもかかわらず、日本人は中国悲観論の多いメディア報道の影響を受けて、日中の経済関係について「Win-Winの関係は難しいのではないか」という見方をしてしまう人が相対的に多くなっています。この状況をどのようにご覧になっていますか。

田中:これまで日本は中国を、工場の移転先として見ると同時に、対米輸出基地を日本から中国に移すという「輸出基地としての中国」という見方が強かった。その前提として、賃金が安いこととレートが安定していることが必要だったのですが、今、人民元の対米レートはかなり趨勢的に上がってきています。また、最低賃金も2010年から20%以上の規模で上がり続けて、労使関係も非常に難しくなっている。そうすると、輸出基地の移転先としては、もはや魅力がないわけです。本当は、中国を市場として見ていく必要があるのに、その戦略がまだうまく立てられていない。その結果、日本側から見るとWin-Winの関係の展望を描きにくくなっているのだと思います。

工藤:最近、日本の中国に対する投資はかなり減っているのですか。

田中:中国側の投資統計を見ると、去年に比べて半分近く減っています。ただ、今の投資の実行額は1年近く前の契約ベースですが、その頃はどちらかというと反日デモの影響が非常に大きかったときです。ですから、今後も減少が続くかどうかは分かりません。

遊川:これまでの日中の経済関係は、日本は中国が持っていない資金と技術を持っている一方で、日本が国内で抱えていた「高コスト、人手不足」という問題が、中国に行けば解消されるという「補完関係」「Win-Win」の構図があったわけですが、この構図が今、変わってきている。その理由として、中国の人件費が上がっていること、中国の技術レベルが上がってきていることなどが挙げられます。例えば高速鉄道などのインフラ輸出では競合するところも出てきているのが好例です。

 一方、今の日本の一番の弱みは人口減少です。それを考えると、日本の市場が少子化によって縮小していく中では、中国の市場は最も欲しいものですから、日本から見たらまだまだ補完関係はあると思います。

駒形:日中の経済関係について、これまでは国境線をはさんで「日本」、「中国」という2つのグラウンドがあると考えてきたのですが、これからは日本企業も中国企業も経済活動の主なグラウンドが中国になっていき、そのグラウンドで競争していくことになると思います。ですから、今、日本から国境線をはさんで見た場合には競合関係にあると思うのですが、動態的に見た場合には、依然として補完関係にあると思います。中国の国内市場も拡大しているだけではなくて質的な向上があるので、その質的向上の流れの中に日本企業のチャンスが必ずあるということです。

 ところが、日本人の中には「どうも中国は嫌いだ」という感情がある。それから、中国経済の正しい情報が伝わっていないということが、日本企業の中国での活動を思いとどまらせている部分があると考えています。

工藤:尖閣問題が出てきたあたりから日中関係が特に悪化し、経済界の中でも中国リスクを指摘する見方が増えてきたのですが、そういう見方はまだまだ多いのでしょうか。

駒形:まだあります。ただ、中央と地方では別で、中央は「政冷」ですが、地方の方は決して冷たくはなっていない。ですから、トップが会うかどうかによって大きく動き出す可能性があると思います。

遊川:私が感じているのは、日本の企業の本社と現地でのギャップがあるということです。特に、本社からすると、「中国であれだけ反日デモが起きているが大丈夫か」ということになります。しかし、現地からしてみれば、「中国だったら、これもありかな」という、とらえ方の違いに温度差があるのが現状だと思います。


10年間の中国経済をどう見るか

工藤:今は中国経済悲観論が多いですが、数年前は「中国経済はこれからすごくなる」というような論調が目立ちました。皆さんはどちら派だったのでしょうか。当時と今で見通しはほとんど変わっていないのか、それとも、かつては中国がかなり大きくなると思っていたけれど、今は違う見立てなのでしょうか。

田中:私は、中国が二桁成長に入った2003年当時の成長についても、「投資過熱、過剰投資が背景にかなりある」と申し上げていました。中国の中にある投資依存型、輸出依存型、あるいは第二次産業への過度の依存型、格差拡大型、というような経済構造の問題はずっとありました。私はその問題を指摘していたわけですが、みんなどうしても目先の成長の大きさに目を奪われてしまい、どんどん拡大していた中国の抱えている大きな構造問題には目が行っていなかった。今、経済の成長が鈍化している中で、構造問題は大きく表面化してきたわけですが、もともとあったものなのです。特に2008年のリーマンショック後、11月に4兆元の投資追加や大規模な金融緩和など、中国は非常に大きな経済対策を打ち出し、2010年には日本を抜くくらいの回復をしたわけですが、その副作用、後遺症によって、従来の構造問題がより拡大して出てきてしまっている。シャドーバンキング問題、地方政府の債務問題、生産能力過剰問題、インフレ、住宅価格の高騰などあらゆる問題が噴出してしまったというのが現状なのだと思います。

遊川:2003年からの前指導部である胡錦濤・温家宝体制の中で、中国の諸問題、矛盾が拡大しました。では、習近平体制になってどうなっているのか。私の立場は、日本では少数派かもしれませんが、直面する問題に対する診断と、今立てられている治療法は納得できるものなので、期待しながら見ています。非常に難しい治療ではあるけれども、良い方向に向けて動いているのではないかと思っています。

駒形:私も学生の指導をしながら、10年間、月次や四半期など定期的に中国経済のマクロを追いかけていくという作業を行っていますが、田中先生のご指摘の通り、10年以上ずっと過剰投資の問題、成長方式の転換の問題をずっと抱えてきながら、結局変わらないという状況です。遊川先生がおっしゃったように色々な問題を抱えながらも、結局、それに対応してしまうという、私たちが理解できない力を中国は持っていると思うのです。それは、高度成長を続けて生み出される富の再配分を、国が非常にうまくやっているということが前提にあります。今のやり方が続くかどうかは、右肩上がりの成長が続くかどうかにかかっていると思うのですが、右肩上がりの成長が続く限りにおいては、多少の問題に関しても調整していくことができると思います。この点で、私たちの既存の経済学の常識では説明できないような懐の大きさがあると理解しています。

工藤:この10年で過剰投資などの構造問題が、成長の鈍化の中で見えてきている。それが大きな課題だということは理解できました。では、2010年に中国が日本を抜き大きく成長したのは、真の実力によるものなのか、それとも、過剰な投資など無理なかさ上げによるものであって、実際の実力とは違うのでしょうか。

田中:若干水ぶくれ的なところがあったと思います。2008年のリーマンショック後の対策は、必要以上のものでした。過剰な対策によって、急激に成長が回復して日本を抜いたわけですが、今から考えればそこまでやる必要はなく、むしろ構造改革をやるべきだった。そういう意味ではちょっと無理をした、やや水ぶくれ的な成長だと思います。


実際の中国経済の成長可能性をどう見るか

工藤:中国が水ぶくれ的な、無理な成長だったとのご指摘ですが、それがなくてもどんどん発展していける大きな潜在力はあると見ていいのでしょうか。

田中:中国は非常に国土が大きいので、東部の方はかなり成長が伸び切っているところもありますが、中西部の方はこれから本格的な発展、都市化が進んでいきます。そういう意味で中国全体の国土を眺めてみると、まだ発展可能性が残っている地域がかなりあります。

遊川:同意見です。以前は暴飲暴食してもそれほど大きな病気になることはなかったけれど、それが蓄積して、2010年代に入ってから「もうこのままではいけない」となってきた。そこで、より構造的な問題の解決に乗り出してきている。そういう段階なのだと思います。

工藤:冒頭に申しあげた通り、世論調査では2030年の中国経済について聞いていますが、遊川先生ならその質問に対してどう答えますか。「アメリカに並ぶ」と思いますか。

遊川:私は、基本的には、経済規模では「世界一になり得る」と考えています。ただそれが「世界一豊かな国、あるいは世界一良い国」を意味しない、今までにはない経済規模ナンバーワンの国家が生まれる可能性を想定しています。

田中:ランキングというのはドル換算でやるわけです。そういう意味で人民元の対ドルレートが上がっていって、しかも7%程度の成長をすれば10年で2倍になるわけですから、アメリカ経済が急速に立ち直らない限りは、成長率の差とレートの関係で、規模的にアメリカに並び、若干抜くということは十分あり得ると思います。ただ、1人当たりGDPということで言えば、依然、中国はまだまだアメリカにはるかに及ばないという状態が続くのではないかと思います。

駒形:私も、中国経済については若干水ぶくれの部分があると思います。私が言う「水ぶくれ」というのは質的な部分です。中国の経済成長は、外から遮断された非常に大きな市場を自分のグラウンドとして持っているということ、それから為替管理をしていることが大きな要素としてあります。為替を人為的に非常に安く設定している状況です。ですから、実際に為替が大きく変動すれば、日本の1985年のプラザ合意以降のような変化には、おそらくまだ耐えられないと思います。人為的な為替と自分の巨大なグラウンドを持っていることで、お金の面だけで見たら非常にふくれて経済大国になっているけれど、実際のところはそんなに力がない、という今までにない非常に特殊な国、というのが今の印象です。


金融の構造改革は段階的に進めている

工藤:よく「人民元の国際通貨化」という話を聞くのですが、人民元はどうなっていくのでしょうか。

田中:実際、国境地帯で人民元がにじみ出していますし、国境周辺で使われるというのは今後拡大していく可能性があると思います。ただ、人民元が国際通貨化するためには、やはり金融の自由化、あるいは為替レート・資本取引の自由化をしっかりやる必要がありますが、まだ中国は非常に規制が多い国ですから、その改革ができないまま人民元が広く国際通貨化するのは難しいと思います。

遊川:私は、中国が自分のペースで進めていることは評価しています。つまり、拙速に開放して対処不能な問題を引き起こすのではなく、自分の身の丈にあったかたちで徐々に自由化を進めている。その方針自体は正しいと思ってみています。

駒形:私も同じです。中国の為替の問題というのは実体経済の力にかなりリンクしていると思います。ですから中国は、自分たちの技術力や生産力などの実体経済の能力を見ながら、段階的に為替の自由化を進めているのだと思います。

工藤:中国は金融市場の構造改革について、きちんと計画を立てていますが、これは順調に動いているのでしょうか。

田中:金融改革は比較的順調に進んでいます。例えば、人民元レートの変動幅を少しずつ拡大したり、貸出金利の規制を撤廃したり、日本がかつて行ったような金融の自由化を、段取りを踏んで順番にやっていっている。そういう意味では、金融改革は非常に評価できると思いますが、まだ日本がやっている預金保険制度などのセーフティーネットをきちんとつくっていません。そこが大きな問題だと思っています。

 また、シャドーバンキングの問題については色々な面があって、すべてが悪いわけではありません。中小企業などが必要な資金を調達できないので、シャドーバンキングのルートを使って資金を調達している面があり、もしそれがなくなってしまえば中小企業は倒産してしまいます。また、中国は預金金利の規制が厳しいので、どうしても利回りの高い金融商品に資金が流れていく。それは、規制金融になっているとやむを得ない面もあるわけです。シャドーバンキングにも色々とありますので、一概にシャドーバンキングすべてが悪いということではなく、その1つひとつの商品のリスクというものを見ていかなければいけないと思います。

工藤:金融商品のルールや透明性の問題など、ガバナンス上の問題はあるのでしょうか。

遊川:預金金利が自由化されていない中で、色々な高金利商品が出てくる。そういう時代のあだ花のようなところがあるのですが、それが現時点で問題を起こすかどうか、それに対してリスク対応をどうするか、ということで言うならば、規模的にはまだ対応可能なレベルだと思います。ただ、これは「戦術を誤らなければ」ということです。つまり、モラルハザード等が起きて、予期せぬ規模に膨れ上がると難しくなる。そういう意味では、今の政府の統制がとれている限りは、大きな問題には発展しないのではないかと思っています。

駒形:基本的に、中国は開発金融のやり方を変えていないのだろうと思います。つまり、膨大な貯蓄を国有銀行に集中して、それを特定方向に供給していくやり方です。主な供給先は、開発プロジェクトや国有企業です。中小企業その他民営企業の資金調達のルートが非常に細いなかで、制度外に生み出された問題というのが、理財商品や民間金融の問題だと思います。預金保険がないというのも、最後は政府が助けることができるという認識のもとで「まだつくらなくていい」という判断をしているのだと思います。今のところ基本的には、色々な問題があるものの、最後は政府が資金を注入すれば終わるというレベルで問題が推移していると考えています。

工藤:政府が資金を投入して、金融機関の救済や処理をしているのですか。

駒形:必ずしも政府財政の投入という形ではないのですが、例えば、将来的に起こりうる不良債権の問題では、日本の場合、バブル崩壊後、「償却に50年くらいかかる」と言われていました。中国の場合、おそらく国有銀行の7~8年くらいの利潤を巻き上げて投入すれば償却できる。だいたいこういう感じで、政府の統制が効くようなかたちになっています。


アジアインフラ投資銀行構想の真意とは

工藤:中国は、アジア開発銀行のようなアジアインフラ投資銀行を独自につくるというような話を進めていますが、あれは何なのでしょうか。

田中:1つは、中国がアジアで一番の経済大国になったのですが、それにふさわしい地位が国際的な金融機関の中で得られていない。現状がアメリカ中心で動いていることに対する不満があるのだと思います。もう1つは、中国は外貨準備を運用するときに、これまで直接運用していたのですが、なかなかうまくいっていない。そこで、新たな機関を経由して外貨準備を運用していく別のルートを作りたい、ということだと思います。

工藤:アジア開発銀行に挑んでいるような見方もあるのですが、それは考えすぎなのでしょうか。

田中:両睨みだと思います。信用力という問題もありますから、ものすごく強力な金融機関が誕生するかというと、それはなかなか難しいと思います。おそらくIMFや世銀、アジア開発銀行などにおける自らの地位をもう少し高めていくための1つの取引材料に使っているという面もあると思います。

遊川:アジア開発銀行の総裁は中尾武彦さん(元財務省財務官)で、中国は総裁ポストを取れなかった。中国からしてみれば、自分たちの意思で動かせる銀行がほしい。そこで、もう1つ別のものをつくりたいと考えているのでしょう。また、特に世銀やアジア開発銀行は、今、「貧困の削減」というところに主目的が移ってきていますが、中国としては、もっと「インフラ支援」に重点を置き、途上国に対する影響力を行使したいと考えている。そういう外交戦略の中で出てきたアイデアだと思います。

駒形:私も「中国のための銀行」になる可能性が非常に高いと思います。


中国経済の「構造問題」とか何か

工藤:冒頭で「構造問題」についてのお話がありました。これは、もともと指摘されていたもので、それがかなり目立ってきているということでしたが、皆さんが言われている「構造問題」というのは一体どのようなものなのか。それは今の中国経済にとってどういう問題なのか。そして、それを改善することは可能なのか、などについてはいかがでしょうか。

田中:以前から、中国にはいくつかの大きな「アンバランス」があります。1つは投資と消費のアンバランスです。投資に過度に依存しているのに対して消費が非常に弱い。それから、産業構造では、第二次産業に過度に依存していて、第三次産業の発達が不十分というアンバランスがある。それから、都市と農村の格差が非常に大きい、というアンバランスもある。こういう経済はやはり持続可能性がありません。

 ですから、胡錦濤政権の頃から「科学的発展観」や「経済発展方式の転換」など、様々なスローガンを掲げてそれを是正しようと努力してきましたが、実際には、先ほど申し上げたように2008年のリーマンショックへの対策として大規模な投資をし、それを第二次産業に集中投下したわけです。つまり、第二次産業をより強大化して、しかも投資を増やしてしまい、結果的には、やってはいけないことをやってしまい、構造問題としてはむしろ悪化してしまったわけです。

 それが、習近平体制になってから変わってきている。今、経済は少し足踏み状態ですが、今までだったらすぐに大規模な公共事業をやったり、開発区をつくったりするなど、大規模な投資をしてテコ入れをしていたわけですが、今は、バラック地区の改造とか、あるいは治水や、鉄道建設など、非常に的を絞ったかたちで投資を行っている。そこには構造改革をしなければ駄目だ、多少成長が落ちても構造転換を図っていかないと持続的成長は無理だ、という認識が指導部のコンセンサスとして出来てきているからだと思います。

工藤:投資依存にはどのような問題があるのでしょうか。

田中:設備投資をどんどんやれば、生産能力が過剰になってしまいます。今、中国の主要な産業は大変な過剰設備を抱えており、もう一つの大きな構造問題になっています。それから、公共事業をどんどんやろうとしても、公共事業の担い手である地方政府にはきちんとした財源がない。そこで、無理に公共事業をやろうとすると借金をしなければならない。ところが、中国では借金は表向きには禁止されていますから、色々な闇のルートを使って大量の借金をする。そうすると、隠れた地方政府の債務がどんどん累積していくわけです。投資依存という1つの問題をとって見ても、様々な副作用を生んでいるわけです。

工藤:本当は国有企業、政府系企業ではなく、民間企業をきちんと発展させることに期待したものの、やはり国有企業にかなりの投資をしてしまい、それがまた歪みを強めてしまったのではないか、という指摘がありますが、そのあたりはどのような状況なのでしょうか。

田中:国有企業は政府から「設備投資をやれ」と言われればすぐやってしまうので、非常に手っ取り早いわけで、その結果として、生産過剰になっているわけです。ですから、経済対策となると国有企業に集中的に資金が投下されますので、結果的に国有企業がどんどん前進して、民間企業の方はどんどん後退していくという「国進民退」が進みます。この現象は、リーマンショック直後に非常に顕著に見られました。

遊川:日本では「中国の持続的な発展・成長を妨げる要因は何ですか」という問いに対して「格差の問題」を挙げる人が多くいます。中国でこの格差がどうなっているのかというと、地域の格差、それから都市と農村の格差、さらに業種による格差、個人間の格差などがあるのですが、過去10年では都市部の個人間の格差が拡大し、地域格差などは逆に縮小しています。

 では、過去10年の間に格差に対してどのような対策をとってきたかというと、温家宝政権は所得政策、つまり最低賃金の引き上げを重点的に行ってきました。これが習近平指導部になってからは、上をいかに抑えるかというところに焦点を当てている。おそらく、今の指導部は、社会の公正・公平をいかに実現するかという点を考えている。これまで野放図に上がってきた一部の業種、特に国有企業などの幹部の報酬を抑える前段階として反腐敗闘争で地ならしをしたわけです。これも中国における構造問題解消の1つの大きな流れと言えるのではないでしょうか。

駒形:中国の今までの成長の仕組みの中では、「競争を促進する」ということが重視されていましたが、その中の競争プレーヤーとして特徴的なのは、地方政府です。過剰投資に関しても、地方政府がレフェリーでありながらプレーヤーでもあることが投資を過剰にしたという側面があったと思います。そこには、中国共産党における出世のための1つの基準が経済成長だったので、地方間の開発競争というものが出てきて、その結果によって出世が決まるという状況があった。ですから、このやり方を改めない限りは、過剰投資の問題は根本的には解決できないと思います。

 ただし、民主主義の国家であれば、腐敗の問題や、経済失速の問題が出てくると、政権交代によってまた新しい展開が生まれてきますが、中国の場合は一党独裁ですから、腐敗の問題や経済の失速にしても自分の政権で解決しなければならない。特に経済失速に関しては一番怖い問題ですから、根本的には経済成長の要素になっている開発競争をやめられないのだと思います。ですから、中国の一番の大きな問題は、やはり「共産党一党独裁」というところに行き着き、これを維持する方法というのが経済開発であり、その結果様々な問題が引き起こされていることから、根本的な治療は難しいと考えています。


「新常態」に入った中国経済

工藤:田中さんもおっしゃっていましたが、過剰投資をして生産性が落ちていて、経済が失速するのを何とか抑えたい、しかしまた投資をしてしまう、という悪循環に陥る。そこに共産党内の出世など色々な問題が絡まってくる。今の状況では中国の構造的な問題を解決できない、乗り越えられないのではないでしょうか。

駒形:先ほど申しましたように、右肩上がりで成長が続いている限りそれは消化できるのです。ですから、右肩上がりの状況が続く限りにおいては、こうした問題がごまかせるということです。ただ、成長が止まったときにすべての問題が出てくると思います。

田中:習近平さんは繰り返し、「今、中国経済は新たな常態に入ったのだ」と発言しています。つまり、これまでと同じような高成長を繰り返していくのは無理である、しかも労働人口も減ってきている中では、「中成長をいかに安定的・持続的に維持していくか」という新しい課題に入っているのだ、ということです。だから、発想を転換しないと駄目で、地方政府もこれまでのように成長率を競うのではなく、いかに持続可能性を保障するか。環境問題、資源やエネルギー問題にしても、民生問題もそうですが、そういうことに取り組まなければいけないのだという、繰り返し「発想の転換」を要求しているのです。

工藤:そういう場合の「安定成長」とは、どんなイメージなのでしょうか。

田中:これには論争があるのですが、今進行中の5カ年計画では、「成長率は平均7%あればいい」と言っており、現状、年間の目標を7.5%と少し高めに設定しています。今、中国はGDP倍増計画というのを進めていますが、そのためには年平均7.2%が必要で、今は年間目標をそれより高めに設定している。これについては「もう少し引き下げるべきだ」という意見も相当あります。

駒形:中国が実行可能な成長率は下がってきているのは事実だと思います。それでも、個人的には、7~8%でも十分高い成長率だと思います。この成長が続けられる間にどうにか改革をやっていきたいというのが、おそらく昨年11月の18期三中全会(中国共産党第18期中央委員会第3回全体会議)などでの意思表示だったのだと思います。


少子高齢化問題について、切迫感の薄い中国

工藤:中国でも少子高齢化が進んでいますが、社会保障など様々な仕組みがまだまだ確立されておらず、安定的な社会にしていくためにやらなければいけない課題がたくさんある。しかし、それが実現できるのかという問題もありますが、そのあたりはどう見ていますか。

遊川:特に高齢化の問題については、中国の中ではまだ切迫感が薄い。つまり、目先直面する問題があまりにも大きいので、それに比べればまだまだ先送りが可能だという認識なのだと思います。その目先の問題として、今お話にありましたように、「では、構造問題を解決するのに成長率は一体いくらまで下がっても大丈夫なのか」というところに尽きるのではないでしょうか。それが中国自身も分からないので、手探り状態です。そのため、高齢化の問題には気付いているもののまだ後回しになっているのではないかと思います。

駒形:社会保障の問題に関しては「日本に比べるとまだはるかにやりようがある」という感じです。日本の場合は「既に制度が全部できているけど、お金が足りない」という問題ですが、中国の場合はまだ制度をつくっている途上です。また、お金についても、今、社会保障は地方別にやっていますが、各地方のお金を全部足すとまだ黒字です。ですから、中央に管理を集中すれば、改善のやりようがあるということです。

 高齢化の問題に関しては、遊川先生がおっしゃったようにまだ切迫感がないこともあり、日本に比べると、あるいは中国にとっての他の課題に比べれば、まだ少し余裕がある問題だと考えています。


「東京-北京フォーラム」議論するべき経済的な課題とは

工藤:最後の質問になります。今のような構造的に大きな問題も踏まえながら、今度の「第10回 東京-北京フォーラム」でどういうことを議論すればいいのでしょうか。その理由も含めてお聞かせいただけますでしょうか。

田中:中国は今、日本でいう1970年代のような状況に入ってきていて、高度成長が終わり、資源・エネルギー制約が非常に厳しくなる中、環境問題も深刻化しています。日本は70年代から80年代にかけて構造転換をし、環境問題に取り組み、省エネに取り組んできました。つまり、日本の70年代、80年代の経験は中国にとって非常に役立つはずなのです。それをいかにうまく中国に受け継いでいくかが大きな課題だと思います。

 それから、財政や金融についても、中国には財政リスク、つまり債務問題もあるし、金融もこれから自由化・国際化をしないといけないという色々な課題があるわけです。ですから、金融・財政面でも非常に大きな協力分野が広がっている。さらに、産業構造の問題もあります。また、将来の高齢化問題や少子化問題というのは日中共通の課題です。そういう意味では、過去の問題でも将来の問題でも協力の余地は非常に大きいと思います。

工藤:状況的に見ると、今は中国と韓国が日本抜きで協力を進めているような感じもするのですが、そういう状況は今後、改善していくのでしょうか。

田中:北東アジアの安定なくしてはアジアの安定というのもあり得ません。そして、北東アジアが安定するためには、中韓だけではおそらく無理で、日中韓がきちんと関係構築していく必要がある。そうすることで、アジア全体が安定していくことになるのだと思います。そういう重要性については、中国でも韓国でも一部の人たちはもう気がついてきているのだと思います。

遊川:中国にとって日本から学び取りたい一番の分野は、環境問題と高齢化だと思います。。例えばPM2.5に代表されるような大気汚染の問題を単に技術の問題にとどめるのではなく、日本の企業と住民、行政が協力して解決してきたというノウハウの部分も含めて交流していくと、おそらく中国側は、今の自分たちの置かれた状況に照らし合わせて強い関心を寄せてくるのではないかと思います。

 高齢化の問題について、今、中国が興味を持っているのは高齢者産業の方です。高齢者を相手にどのようなビジネスが発展するのか、という点に関心が向いてしまっていますが、国民が平等に保障を受けられる制度設計について、失敗例も含めて日本の経験を参考にしてもらうといいのではないかと思います。

駒形:今、お2人の先生方がおっしゃったようなことを「実際に実行に移せるだけの環境をどう整えるべきか」ということを議論すればいいと思います。

 日中間で一番大きな問題は、トップ同士が会っていないことです。中国の政治体制は日本と異なり、トップが方向性について意思表示しなければ下は動けませんから、少なくとも「政凍」にはならないことがまず重要で、とにもかくにもトップ同士がまず会って話をし、関係改善に向けたシグナルを送ってほしい。今回の「東京-北京フォーラム」では、民間レベルで着実に直接交流を進めることで、政府間外交を動かす後押ししてほしいです。

 個別の課題については、日中両国民共にメディアからの情報によって相手国への認識を形成していると世論調査結果に出ていますので、一面的ではなく包括的な報道をするためにはどうすればいいのか、ということを話し合ってほしいと思います。

工藤:直接的な交流をしている専門家と、一般国民の認識ではかなりのズレがありますが、メディアを含めた間接情報に依存していると、相手国に対するギャップがかなり加速してしまう状況があります。そう考えると、私たちの対話も含めて、民間の多様なチャネルが動き出さなければならないと感じました。

 11月のAPECで日中首脳会談を開くために、今、水面下では両国政府が動いています。その直前に、こういう民間の対話がオープンで行われますので、是非皆さんにも見ていただきたいと思っております。この対話の模様は、USTREAMで中継しますので、当日会場に来られない皆さんも、ぜひインターネットを通じて、日中両国の本音の議論をご覧いただければと思います。

 ということで、今日は皆さん、どうもありがとうございました。

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「言論スタジオ」とは

言論NPOでは日本が直面する様々な課題について、有権者に判断材料を提供したり、様々な情報を共有する目的で、週に1回「言論スタジオ」と題したインターネット中継による議論を行っています。
その時々の重要テーマに関する有識者を複数名お招きし、アンケートの結果を踏まえながら、課題の本質に切り込む議論を行います。動画に加え、議論の内容はテキストでも公開されメールにより約7,000人の有識者に直接届けられています。

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