言論スタジオ

持続的な社会保障制度の確立と出産・子育てを応援する社会に向けためどはついたか

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2014年12月8日(月)
出演者:
池本美香(日本総研主任研究員)
加藤久和(明治大学政治経済学部教授)
小黒一正(法政大学経済学部准教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



工藤泰志工藤:今回は、昨年の参院選で安倍政権が提起した社会保障の課題について議論します。自民党のマニフェストでは、「持続的な社会保障制度の確立」と「出産・子育てを応援する社会」を実現するということが掲げられました。その実現の目処はついているのか。安倍政権二年目の中間評価をきちんと評価してみたいと思います。ゲストは、明治大学政治経済学部教授の加藤久和さん、法政大学経済学部准教授の小黒一正さん、それと日本総研主任研究員の池本美香さんです。

 まず、マニフェストに掲げられている政策課題や目標があります。それに対し、政府の対策は実現に向かって動いているのか、また、その動きは、現在の日本が抱えている非常に大きな構造問題に対して適切なのか。総論として、皆さんにお伺いします。加藤さんからお願いします。

加藤:「持続的な社会保障制度の確立」ということですが、基本的に言えば、これだけ高齢化が進み、人口減少が進んだ中で社会保障制度を持続的なものにするためには、ある程度の選択と集中が必要だろうと思います。年金にしても、給付のことを見て行かないといけないし、医療にしても、ある程度の負担を考えていかなければいけない。そういった中で、この二年間の安倍政権が何をやってきたかというと、非常に中途半端なことしかやっていない。それに加えて、実際に「社会保障制度を持続するために」ということで消費税率の引き上げを予定していたにもかかわらず、10%への引き上げを延ばしてしまった。そういう意味では、「持続的な社会保障制度の確立」というのが十分に視野に入っていたのか、非常に疑問だと思います。

 それに加えて、「出産・子育てを応援する社会」ということで、女性の活躍支援や人口目標のようなものが出てきたのですが、これはスタート地点に着いたばかりで、「さて、これからどうするのか」というところで評価するのは少し難しいところがあると思います。ただ、この二年間で見ると、「十分にやった」というところまでは言い切れないと考えます。

工藤:「持続的な社会保障制度の確立」とありますが、現行の制度が持続可能なのかということの判断は、政府はどのようにしているのですか。

加藤:政府が持続可能性を定義すること自体、難しいと思います。例えば年金にしても、給付額を大幅に下げて負担をどんどん大きくすれば年金制度は維持できますが、そうしたところで実質的に年金というものが機能しているのか。医療についても、ある程度の負担の中でやっていけるような仕組みとして続けていけるのかということを考えると、非常に難しいでしょう。もちろん、何らかの指標で、「持続可能なのか」というのは考えていかなければいけないとは思います。


社会保障改革は二番手、三番手の課題で後回し ――安倍政権に取り組む意思はない

小黒:もはや増税延期を表明してしまいましたが、増税の延期は間違った判断です。リーマンショックや東日本大震災のような異常事態が起こらない限り、再増税を延期することは賢明な選択ではありませんでした。もし増税を先送りするのならば、財政や社会保障の持続可能性を高めるため、経済財政諮問会議等において本気で社会保障改革を議論するべきです。なぜなら、一般会計の予算自体は現在100兆円くらいになっていますが、社会保障の費用は国と地方を合わせると110兆円くらいあります。いわゆる「社会保障給付費」です。年金がだいたい約50兆円、医療が約37兆円、介護は約10兆円というかたちになっているわけです。これは一般会計よりも大きいのですよね。

 もう一つ、危機感が足りないと思うのは、消費税1%の増収分で手に入る税収は2.7兆円と言われますが、国と地方を合わせた社会保障の給付がどれくらいのスピードで伸びているか。2012年度は少なかったようで1兆円くらいと報道されていましたが、過去には約5兆円も伸びている時もあったりして、年による増加分の差をならすと、だいたい年間で2.6兆円くらい伸びているのです。つまり消費税1%分伸びているということなので、今年4月に消費税率を3%上げましたが、3年で食いつぶされてしまうというか、膨張する社会保障費の財源として消えていく方向にあるということです。長期的に社会保障の持続可能性を考えた場合、財源の問題は非常に重要ですから、そこを最終的にはどうするのか、詰めた議論が必要です。例えば、すべて消費税の引き上げで賄っていくか、もしくは社会保障をスリム化するのか、効率を上げていくために、重点的に切り分けていく作業をしないといけません。消費税率だけで対応すると最終税率が30%くらいに上がってしまうという試算もあるわけで、その辺の議論が出てこないということ自体、社会保障の改革に関する危機感が感じられないと見ています。

工藤:安倍さんはそれに取り組む意思がないということですか。

小黒:はい。現在のところ、取り組む意思はないように見えます。とりあえず、安倍政権の1丁目1番地は、いま「デフレ脱却」になっています。アベノミクスの三本の矢のうちの一本目である金融政策が一番重要なので、そこを重視しています。だから今回も、デフレ脱却をするために消費税引き上げを延期したわけです。そういう意味で、社会保障改革は、どちらかというと二番手、三番手になってしまっているというのが、今の本質的な問題ではないかと思います。

 ただ、11月17日に内閣府から出た実質GDPの季節調整値を見ると、2013年の10-12月にはマイナス成長で、個人消費もマイナスになっています。その後、消費税引き上げ前の駆け込み需要などの影響でプラスになって、増税した後マイナスになって大騒ぎしていますが、マイナスになったのは実はもっと前からです。これは公共事業などが目詰まりし息切れしてきたことに関係していると思います。加えて、2013年度の実質成長率が高かったのは公共事業と増税の駆け込み需要が大きかったからなので、これが剥落した瞬間に成長率が一気に落ちたように見えているということです。GDP成長との関係でデフレ脱却は重要なのですが、「選択する未来」委員会が2040年代にマイナス成長に陥る可能性を指摘しているように、長期的に見ればもっと成長率が落ちるかもしれないわけで、その時に社会保障改革を進め始める方が、ものすごい痛みが走るわけです。「今の小さい痛みか」「将来の大きな痛みか」という選択も、時間の流れの中で重要だと思うのですが、そういう話が一切聞かれてこないということに、すごく危機感を感じる、安倍政権の政策のスタンスです。

工藤:今回の新しいマニフェストでも、優先順位がよく分からない。去年のマニフェストでは、一番初めに書かれていたのは復興でした。「三度目の正月を安心して暮らせるように」ということだったのですが、今回はかなり後ろに行っています。やはり、今の社会保障の位置付け、優先順位はまだよく見えないですね。

 池本さんはどうでしょうか。「出産・子育てを応援する社会に向けた取り組み」や「女性の活用」といった新しいことに関しては政権がけっこう言っています。このあたりは、安倍政権の取り組みをどのように見ていましたか。


子育ては次世代の負担にするしかないのか

池本:長年研究してきた「子ども・女性」というテーマはいつもサブテーマだったのですが、ようやく、社会保障の一つのテーマとして子育てが位置付けられました。あと、安倍首相が成長戦略発表時のスピーチで、「女性の活躍が中核だ」と言ってニュースで報道され、これがメインテーマになったという意味ではすごく良かったと思いますし、それによって議論が起こったということは評価しています。ただ、そういうキャッチフレーズのところだけで、中身は「三年間、抱っこし放題での職場復帰支援」という、仕事も子育てもすべて女性に押し付けるようなものが出てくるなど、諸外国の女性活躍の流れと比べると、あまりの落差にショックを受けたというところもありました。子育ての分野も、今回、消費税引き上げが見送られましたが、現場の人たちは4月に向けて必死に準備をしているところです。それに対して「こんなに苦労して何が良くなるのか」と先が見えないような状況で、非常に不透明になっていると思います。

工藤:消費税の増税分に、子育て関係の予算措置があったということですか。

池本:「10.7兆円を充てる」ということで、現場ではそれに向けて準備をしていました。まず保育の量を増やす、それから質を上げるという二つの施策があります。とにかく、保育所の待機児童を解消するということで、量はきちんと確保しよう、ということでした。その10.7兆円だけでは足りないと言っていたのですが、その分も確保できないということになっていますので、それをどこから持ってくるのか、ということです。量の確保だけでも予算が使われてしまうので、実際に働いている人の処遇を上げていくとか、1クラスの人数を少なくするといったところには、どこまで予算が回るのか懸念しています。

工藤:それは実現するのでしょうか。

池本:「実現させる」とは言っているのですが、どこから予算を持ってくるのかは不透明だと思います。

加藤:これは、完全に、将来世代の負担でやるしかないと思います。社会保障費の伸びが年間で1兆円という話がありましたが、2%の増税分がないわけですから、当然、財源がなくなっていく。やるのであればどこかから持ってこないといけないわけですが、赤字国債を出すのか。出さないのであれば、どこかを削るしかないわけですが、この状況の中で選挙をやって、「削る」などという話が出てこないわけで、結局、次世代の負担で賄うということになってしまいます。

工藤:今回の消費税引き上げの延期は、社会保障全体の課題解決の上で大きな影響を及ぼしている。


負担増か歳出削減か ――消費増税延期の影響

加藤:引き上げ分5%で14兆円くらい入ってくると言われていた中で、実際に子育て支援に使われるのは1兆円弱くらいです。それ以外に様々な社会保障の充実をやっていますから、今と同じ社会保障を維持するためだけに消費税3.5%分くらいを使うかたちになっているのです。結局、消費税を上げなければ、「改革」とか「充実」などということがまったくなくても、今の社会保障を同じペースで給付するということを継続できないのは間違いないわけです。そうなってきた時に、このまま同じようにやるのであれば、負担を改めて求めるのか、あるいは歳出を削減するのか。どちらかをやらなければいけないところが、まったくうやむやになっている。

工藤:昨日、財務省の人と話していた時に、「今度の増税による追加分として想定していた事業は見送らざるをえないのではないか」と言っていました。子育て支援もそこに入っているわけですね。

加藤:もちろんそうです。安倍政権が掲げている特に育児の問題は、将来を考えると今すぐ手をつけなければいけない問題です。見送るとなれば「それをまた先送りするのか」ということになってしまいます。本当のことを言えば、消費税を引き上げて育児支援をやってほしかった。

工藤:「増税の延期に伴って、増収分による事業はこうする」ということは、最低限、マニフェストで国民に説明していなければいけないと思います。小黒さんは、今回の消費税引き上げ延期が社会保障全体へ与える影響について、どう思われますか。

小黒:政府の説明では、社会保障の安定財源を確保するという観点から、増税を行いつつ、社会保障を充実するというストーリーで、「社会保障・税の一体改革」として今まで議論してきたわけです。しかし、政治的には「社会保障は部分的にある程度充実します、税収が入ってこないので国債を発行して赤字で穴埋めします」という構図は当然ありうるわけです。そうすると、社会保障の方はあまり問題ないけれども、将来世代にツケが先送りされるというかたちで負担がなされていく。そういうことになる可能性がけっこう高いのではないかと思っています。なぜかというと、充実としている社会保障の中には、高齢者向けの年金・医療・介護などがある一方で、子育て支援などの次世代への投資もあります。このうち、最近のニュースの中では、「子育て関係のものについては一部措置する」ということで決着がついており、それはそれで重要なのですが、財源が手に入っていないとなると、そこは拡充されるにもかかわらず財源がないということになります。すると、結局、将来世代に先送りされたツケだけが回っていくというかたちになるのかなと思います。

 そういう意味では非常に問題で、結局、「財政規律をどう考えるか」という話になるのだと思います。今は、日銀が異次元緩和で国債を大量に買っているから、長期金利は1%を切る水準で推移し政府債務の利払い費も抑制されており、問題が顕在化しないわけですが、長期的に見れば、それがずっと続くことはありえません。例えばデフレを脱却すれば、いつかの時点で金融政策は出口に向かい、金利を引き締めなければいけなくなってくる。その時に、消費税率を大幅に上げていくのか、社会保障を切っていくのかという話にならざるをえない。その辺の議論が抜けていると思います。

工藤:消費税は予定通り上げた方がよかったということですか。


2017年4月に増税できる保証はあるのか 不透明な財源の行方

小黒:はい。そして、それは景気の動向をどう考えるかということだと思います。内閣府が出している実質GDP成長率の季節調整値を見た場合、昨年10-12月はマイナス成長で、個人消費も前期比でマイナスでした。あと、これを前期比ではなく前年同月比で見た場合は、昨年GDPがかさ上げされている要因のほとんどが公需、第二の矢の公共事業だったわけです。その結果、2013年度を全体で見た場合に、プラスがかなり大きくて2.3%くらいの実質成長率だったのですが、この理由としては消費税の駆け込み需要も大きかった。それが剥落して一気に落ち込んでいることを考えると、もともとそれほど高い成長率ではなかったところで増税したということです。増税が短期的に経済成長率に影響を与えている面はあるわけですが、本当に根本的な影響を与えたのかを判断するには、もう少しデータが揃い精緻な分析を行わない限りは誰も分かりません。そこをよく考えるべきだった。実際、今年7-9月の個人消費は前期比で0.4%プラスになっています。在庫投資がマイナスの要因だと聞いていますが、実際は在庫が売り切れている可能性があると考えると、この部分を加味すると実質GDP成長はプラスだったのですね。

 つまり、緩やかに回復していた可能性があるわけで、もしかすると景気の判断を間違っていたのかもしれない。そうすると、非常にもったいないことをしていることになります。2016年4月に先送りしなかった理由は、同年7月に参院選などがあるということで、さらに1年先送りして17年4月になった。では、17年4月に増税できる環境にあるかというと、分からないですね。安倍首相は「必ず増税する」と言っていますが、景気がその時に悪かったら「本当に増税するのか」という話になります。今回、「景気が悪い」と判断したから増税を先送りしたわけで、そうすると、17年4月に増税できる保証がない。財源は最終的にどうなっていくのか、まったく分からなくなってしまいました。

工藤:分かりました。やはり、山を登りきる努力をした方がよかった、という話ですね。

加藤:それと、増税決定時に景気状況が入った段階で失敗したということです。

工藤:具体的な社会保障の一つ一つは、私たちの生活にかかわっている問題なので、こうしたことについて今の政治がどう取り組んでいるか、評価したいと思います。

 まず、年金ですが、今年は年金の財政検証がありました。現行制度は「100年安心」と言われていて、そこにはマクロ経済スライドなどの仕組みもあるのですが、それは持続可能なものなのか。それがダメだということになれば、その是正ということを政治は真剣に考えなければいけない。しかし、なかなかそれが見えない。このあたりの評価と、現行制度の見直しが必要な段階に来ているのか、それをやろうとしているのか、お聞きしたい。

 ちなみに、マニフェストを見ると、前回の衆院選の時は、「現行制度を基本に必要な見直しをしていく」というかたちですが、昨年の参院選からは「自立・自助を第一に、公助・共助を組み合わせたかたちで、税や社会保険料を負担する国民の立場に立って持続可能な社会保障制度を構築します」としかない。それは、今ある制度がダメだということを言っているのかどうか、よく分からない。国民としてはこのあたりを考えないといけないのですが、小黒さん、どうでしょうか。


厳しさを浮き彫りにした年金の財政検証 ――根本的な給付と負担の見直しを

小黒:今年6月3日の財政検証は、確かに画期的だったと思います。従来はシナリオを一つだけ決めて「これが政府の標準シナリオだ」と言っていたわけですが、今回は、比較的高い成長を前提とした五つのケースと、そうではない現実的な三つのケースを出しているということです。高成長のケースはバラ色なのでありえないとすると、厚生労働省としては、残りの三つのケースを示すことによって、年金の財政の厳しさを浮き彫りにしたかったのだろうと思います。最初の五つのケースは、内閣府が出している「経済再生ケース」というものですが、2013年度から23年度を平均した実質経済成長率が2%程度というかなり良いケースです。残りの三つは、実質成長率が1.3%くらいというケースです。2000年代の経済成長率がだいたい1%ちょっとであることを考えると、残り三つのケースの方が現実的です。

 この三つのケースを見ると、けっこう厳しいです。今は、所得代替率(現役の男性の手取り賃金に対する、モデル世帯=40年間それなりの大企業に勤めて、奥さんは専業主婦=の人が老後にもらう年金の割合)が62%くらいですが、三つのケースのうち比較的厳しいケースだと、所得代替率が35%くらいになってしまうということです。場合によっては、年金の積立金がなくなってしまうことを明らかにしたという意味では、非常に画期的だと思います。所得代替率が半分になるということは、今の年金が半分くらいになるということなので、貧困の高齢者がこれから大量に出てくることを明らかにしたということです。

 本来、厚労省は、それを明らかにすることによって、より抜本的な年金改革に踏み込みたかったのだと思います。支給開始年齢を70歳からに引き上げるとか、場合によっては75歳からにしてしまう。もしくは、マクロ経済スライドは、本来、インフレーションになったときに年金の金額を実質的に切ってしまうものですが、今、安倍政権でデフレ脱却に取り組んでいるけれどなかなか進まない中で、デフレーションの中でも年金を実質的に切っていこうという議論があったわけです。しかし、実際はまだ前に進んでいないというのが現状で、踏み込み不足になってしまっている。その理由は、おそらく政治のサポートが弱いことが原因なのではないかと思います。

 もう一つ重要なのは、そういった中で安倍政権が打ち出しているのはGPIF(年金積立金管理運用独立行政法人)の運用改革のようなもので、年金積立金の運用利回りを上げていって、将来もらう年金の給付額を少しでも増やそうという政策です。内閣府の、財政を含めたマクロ経済の検証を見ると、少しでも利回りが高い方が、年金の運用は良くなるわけです。しかし、この前提は財政の持続可能性と矛盾します。なぜなら、内閣府の財政の中長期試算では、金利が高くなると政府債務(対GDP)が発散し、財政危機になってしまうからです。この辺の整合性をとらないまま推計しているということがあるので、現実はもっと厳しいと思います。

 その議論をするのであれば、本来は経済財政諮問会議などがやるべきだと思うのですが、そういうところで議論がなされていないことを考えると、かなり踏み込み不足です。きちんとした議論を早急にしていかないと、将来、大変なことになります。その一例として、積立金が6兆円ずつ減っているという話があります。今ある130兆円くらいの積立金が20年くらいでなくなってしまう可能性も十分ありうる。これは、厚労省の過去の財政シナリオの資料でも明らかにしており、今のような経済状況が続いていくと「2031年くらいに積立金がなくなってしまう」ということが書いてあるわけです。それと同じようなことが徐々に起こっている。そういう意味では年金財政は非常に厳しくて、抜本的な改正をしなければいけない。

 積立金の話も、GPIFの運用を強化するだけでは全然足りなくて、根本的な給付と負担の見直しをしていかないとなかなか難しい。その中には、支給開始年齢の引き上げなども当然入ってくると思います。

工藤:財政検証が出てから、政府としては、年金問題で何かを検討しようというアクションはあるのですか。

小黒:報道ベースでは、一時期、「支給開始年齢を一律に引き上げるのは難しいので、選択制にする」ことが検討されていました。今は原則として65歳から年金をもらうわけですが、60歳からもらうこともできるし、70歳まで先延ばしすることもできるという制度です。65歳からもらうものを70歳からに先延ばしすれば、だいたい1年あたり42%増くらいの年金をもらえるわけです。その選択権を75歳までに先延ばししようという話が出てきているわけですが、これをやっても年金財政は中立になるだけなので、一律に引き上げないと年金財政は改善しないということです。

工藤:加藤さん、どうですか。年金の財政検証を踏まえて、安倍政権は何をやっているのか。


収入が決まっていれば 給付を抑えるしかない

加藤:年金に関しては、「やっていない」と言ってもいいと思います。マクロ経済スライドをデフレ下でも発動するというのは昔から言われている話で、実際にはやれていない。来年の4月以降、実際にそのようなかたちになっていくのだろうと思います。今までは物価スライドの特例で、それが発動できなかったという法律上の制約があったのですが、それを見直すということです。ただ、今ここで考えないといけないのは、2004年の年金制度改革で保険料収入の上限を決めてしまったのですね。厚生年金の保険料率は18.3%と決めてしまったので、これから入ってくる金額は決まっています。

 では、どうやって支給するか。支給開始年齢を引き上げれば全体的には豊かな年金を出せるけれど、65歳からの支給を続けるのであれば、財政検証の低成長の三つのケースでいえば、所得代替率が50%を切ってしまう。そのような単純な仕組みになっているわけです。では、どうすればいいのか。ある意味では、「経済成長をどう見込むか」という机上の計算はいくらでもできるのですが、どうやってもなかなか確固たる解がない。そうすると、「自助」、つまり確定拠出年金などに少しずつシフトさせて、個人年金の部分を充実させていくというような方策をとらざるをえないし、私たちは、そういったことをこれから考えていかないと、老後の問題は非常に難しいと思います。

 年金問題というのは実は非常に複雑怪奇で、1年間だけの収入と支出をバランスさせようというのではなく、100年間でバランスさせようとするものです。100年間でバランスさせるためにはいろいろなやり方があって、積立金を早めに崩すという方法もあるだろうし、様々なかたちで支給開始年齢を引き上げていくことでバランスさせていこうという方法もあります。そういう細かいところのシミュレーションを財政検証で出しているのですが、果たして、これが具体的にきちんと実現できるかとなると、あくまでこの100年までの問題ですから、「一定のシナリオの中でいえばこうなるかもしれない」というだけになってしまって、非常に難しい。

 であれば、安倍政権が本来やるべきことは、まずは給付を抑えるということです。収入の方が決まってしまっているので、給付を抑えなければ100年間の収支がうまくいかないということを考えて、まずそこをやるべきだと思います。それがまだ手つかずになっているということは、非常に問題だと思います。

 それから、GPIFの問題は、国内 株式の運用を25%に引き上げるということになったのですが、非常にリスクが大きい。ある程度リスク資産を入れなければいけないということはよく分かっていますが、年金は普通の資産とは違います。しかも、一度損してしまったらどうにもならないような資産ですから、この辺はもう少し慎重になってほしかった。安倍政権が株価を念頭に置いたかどうかは別として、そこに入り込んでしまったことに対しては、個人的には非常に危機感を持っています。

工藤:アベノミクスの信奉者から見ると、今の話は非常にグッドニュースだという話もありますが。

加藤:年金の財政から考えると、バッドニュースになる可能性が高いものです。

工藤:物価が下がっている時に年金を下げないといけないというのは、見直されたのですか。

小黒:来年の3月で終わって、本来ならそこでマクロ経済スライドが発動されるはずです。

加藤:物価がデフレであっても、物価上昇率が0%以下であればマクロ経済スライドは発動しないということになっているのですが、それを変えて、それでも発動しようという動きにはなっています。そういう話は社会保障制度審議会などからも出ていますが、実際、その法律を変えたかというと、まだそこまでは行っていません。

小黒:インフレーションが起これば、実質給付額の引き下げはやるのだと思いますが。

工藤:池本さんは、今の話で何か一言ありますか。

池本:要するに、子育ての分野にお金が回ってこないということです。高齢者の方に全体の予算がどんどん向けられてしまう。そうなると、どんどん少子化が進んで、問題は深刻になっていく。それに一刻も早く歯止めをかけなければと思います。

工藤:安倍さんは年金改革に関して、何か発言しているのですか。

小黒:おそらく、年金には関心がないのだと思います。

加藤:もしかすると、税と社会保障の一体改革の報告書が出た段階で終わったつもりになっているのではないか、という心配があります。

 また、医療扶助に一番お金がかかっていますし、国民健康保険に入っている人よりも生活補助の医療費を受けている人の方が、たくさん医療費がかかっている。だから、ジェネリック医薬品によって医療費を下げていくということはやっていかなければいけない話です。


都道府県の保険者機能の分権化の先行きは

工藤:国民健康保険の運営を都道府県単位にするという政策についてはどうですか。

小黒:これは市町村と都道府県の間の駆引きの問題です。例えば、保険者を市町村に任せた場合どうなるかというと、国立社会保障・人口問題研究所などの推計にあったのですが、2040年ごろに、75歳以上の人口が半分を超えてしまう場所があるわけです。介護費も同じですが、医療費は75歳以上で劇的に費用がかかるので、そのようなところに任せても、保険料で閉じようと思ってもなかなかできるはずがないわけです。そうすると、都道府県など、予算の管理をさせる場所、つまり保険者を少し広域にする必要があるわけです。それはもう都道府県ではなくて、そうでなければ次は国、という話になってしまう。はっきり言えば、ここは政治的な対立なのです。高齢者の人たちが医療費をたくさん使うとそれを負担しないといけないわけで、市町村の財布から多く出すのか、都道府県から出すのかということです。

加藤:都道府県は、負担をすごく嫌がっています。保険者機能のことを考えずに、単に都道府県に広げるというだけでは、問題は解決しません。そこがやはり大事だと思います。「市町村がやるのか、都道府県がやるのか」というよりも、都道府県の保険者機能をどこまで広げるのか、医療費に介入するのかということが問題です。

工藤:都道府県に、保険者としての機能を発揮する気があるかという問題ですが、それがない。

小黒:厚労省の中央社会保険医療協議会で診療報酬体系を決めているわけですが、最後は、価格統制機能と、保険料の設定を含めた分権化の機能、これが本当の保険者機能なのですよね。これをどこまで都道府県に移すかという話が非常に重要で、単に、上から制度設計だけを縛って「あとは財政を閉じてください」と言われたら、都道府県はやる気にならない。

工藤:つまり、枠組みは広域化の方向で動いていても、都道府県が保険者機能を担うようなかたちまでは来ていない。都道府県とは、やはり協議がうまくいっていないということですよね。

加藤:もともと知事会が反対していましたし、都道府県がそういうことで準備しているとはまだ聞いていません。

工藤:後期高齢者医療制度に絡んだお金の問題があります。基本的に皆保険制度で、皆さん保険証を持って病院に行きます。いろいろな保険があって、お年寄りは保険が分かれていて、それを支え合う構造になっている。その中で、国民健康保険が広域化していく。国民保険も厳しい状況の中で、お年寄りの医療費の負担をする財源の配分をどうするかということが問われていますが、この問題に安倍政権はちゃんと取り組んでいくのか、この問題について私たちは何を考えなければいけないのか。加藤さんと小黒さん、一言ずつお願いします。

加藤:一言で言えば、保険者機能をどうするのかが見えてこない。もう一つは、後期高齢者医療制度を放ったらかしにしたままで、「変える、変える」と言いながらも変えないままずっと来ている。国民健康保険の都道府県への移譲にしても、何も決めないまま、何となく「進んでいるな」という印象しかありません。

小黒:この問題は非常に難しくて、少し分かりやすい言葉で言うと、2050年ごろに人口が半分くらいに減る地域が4割、無居住地化する地域が2割くらいあると言われている。すると、市町村の格差がこれからものすごく顕在化していく中で、政府が制度の手足を縛った状態で、あとをすべて自治体に任せるという方式がうまくいくのかどうか、ということが肝になります。その意味で繰り返しになりますが、保険者機能などを含めて分権化するかしないか。そこが問われていると思うのですが、その議論が聞こえてこないことが、この問題を複雑化させている。


高齢化社会を迎え 国が一律にコントロールできなくなった医療対策

工藤:次に、医師に関する問題ですが、地域による偏在や医学部定員の問題も含めて、ある程度計画に基づいて動いているのかということです。赤字の自治体病院があるなど、いろいろな問題があります。このあたりはどうなっているのでしょう。

加藤:医師の偏在の問題も非常に大事なのですが、医療施設自体の偏在というものが、特に東京圏で非常に大きい。埼玉、千葉あたりです。増えていく高齢者に、どのようなかたちで医療供給していくかというのは非常に大きな問題なのですが、「医師を育てる」というところから考えていった時に、そう簡単に片が付く問題ではないだろうと思っています。単に医学部の定員を増やせばいいという問題だけではなく、医師が関東にいて、病院をそこに建てるというインセンティブをつくっていかなければいけません。また、増えていく高齢者に、介護の問題を含めてどのように対処していくのか、担い手をどう確保していくのかというのは非常に大きな問題です。政権も政治も、そういったことに早くきちんと目を向けていってほしいです。

工藤:こういう問題には、今は厚労省だけで取り組んでいるのですか。診療報酬の議論と合わせて、地域の医療提供の仕組みをどのようにしていくかという議論がかつてはあったのですが、安倍政権になってからアベノミクスばかりになって、こういう問題が見えなくなっています。小黒さんは、これについて言及するところはありますか。

小黒:この問題は先ほどの問題と同じなのですが、基本的には、人口が増えている時の医療や介護の計画というのは、「足りないところに後から少し支援していく」というだけでよかった。これから起こることは、或るところではものすごく高齢者が増えるし、場所によっては高齢者が消えていってしまうような自治体もあるということです。そういう意味では、国が一律に全体を見ながら配分していくのがだんだん難しくなってきている。医療を含め、自治体にどれくらい権限を移譲していくかということも考えていかないと、難しくなってきているのではないでしょうか。そのキーワードが、例えば保険者機能の強化などという話になっていくわけで、その辺の議論が抜けたまま、一律に国がコントロールしようと思っているところに限界が出てきていると思います。

工藤:昔は「お医者さんが足りない」というところが増えていたのですが、今は偏在しています。しかも、人口減少・高齢化に地域差がある中で考えなければいけない。少なくとも、安倍政権の大きな取り組みというかたちにはなっていないですね。池本さんは、医師の問題については何かありますか。

池本:まず一つは、子どもの医療費の問題です。海外だと無料化しているところもあります。経済的負担という意味では、少子化対策として大きいのではないかと思います。また、産科とか小児科がどんどん減っていってお産が難しいといった問題もあります。

工藤:病院は、地域偏在ではなく減っていっているのですか。

池本:小児科医は大変な仕事なので、なり手がいないという問題もあります。

工藤:介護と子育ての問題に移ります。介護については、「財源の安定化を図り保険料負担の抑制を進めながら、必要なサービスを提供する」と、自民党の公約に書いてあります。これはどういうことを言っていて、これに対して政府は動いているのでしょうか。

池本:「お金が有効に使われているか」、「無駄遣いをなくす」というところは子育てもまったく同じで、どんどんニーズが増えている状況なので、そこをやっていかないといけないということだと思います。

工藤:間違いなく、介護の財源が不足している。つまり、介護の需要はかなり強い。

加藤:財源が不足しているという以上に、介護に対する需要が急速に伸びている。65歳以上が第1号被保険者ですが、75歳以上になると32割くらいの方が認定を受けている。そういった中で、75歳以上の人たちが増える割合以上に介護費が伸びていて、おそらく、社会保障給付の中で今後一番考えていかなければいけないのは介護なのです。介護をどうやって効率化していくかというのは非常に難しい問題で、要介護度の低い人の費用を削っても、実際には費用の負担には響かない。本当に費用がかかっているのは要介護度が高い人たちなので、そこを簡単に削るわけにはいかない。これは非常に難しい問題です。

工藤:介護は、費用項目をどのように財源として捻出しているのですか。

加藤:1割が自己負担で、残りの9割については半分が保険料、半分が公費負担というかたちになっています。今の仕組みではギリギリで賄っていますが、これからどんどん高齢者が増えていく中でどうすればいいかといえば、保険料を増やすか、公費負担を増やすか、自己負担を増やすかのどれかしかないわけです。そういう意味では、高所得者の2割負担というのは当然の話だと思います。


10年後 介護需要は二倍に膨張
     ――労働人口が減る中で どうやって介護人材を確保するのか

工藤:6月に成立した、単身で年金収入が年間280万円以上の人は2割負担にするという法律は、自己負担を引き上げるという話です。あとは、必要なサービスを受ける施設の問題と、サービスを提供する人の問題、お金の問題もあります。

小黒:その問題は本当に深刻で、2000年ごろに75歳以上の高齢者の人口は900万人くらいだったのですが、2025年には2000万人になります。介護の需要は二倍になるのですよね。特に、東京、千葉、埼玉、大阪などの都市部で急増する。これは人材面でも深刻で、二倍必要なのです。厚労省の推計だと、介護人材があと100万人必要だという話があるくらいなので、これをどこから持ってくるのか。片方ではどんどん労働人口が減っている中で、介護人材をどうするのか。

 実は、介護の世界はすべて公費で賄われていて、国が統制して決めているわけです。全産業平均の給料が30万円くらいだとすると、介護の人たちの給料は20万円くらいなので、人手不足ですぐに辞めていってしまうという悪循環になっています。そこを救済するために報酬を上げるかというと、今度は財政に響いてくるという話になるし、今のままでも、放っておけば2025年に介護費用は二倍になるわけで非常に厳しい。その財源をどうするのかについては、加藤先生が言われたように、保険料を上げていくという方法がありますが、保険者は市町村なのです。高齢者が多い自治体だと保険料が何倍にもなって、そうではない自治体はもっと低いという格差が出てくるわけです。

 このような制度設計のもとで走っていくことが、本当にできるのかどうかということが、これから顕在化してくる。片や、特別養護老人ホームなどの待機者が、ある推計だと42万人や52万人くらいになるという話もあります。厚労省は「今、特養ホームに入っている人に該当する人を洗い出すと10万人くらい」と言っていますが、2025年に倍になるわけです。それをどうするのかという問題もあります。

工藤:すると、公約に書かれている「介護は、財源の安定化を図り、保険料負担の抑制を進めながら必要なサービスを提供する」という項目は、需要増という今後の展開を考えると、その課題に対して答えを出していないということですか。

小黒:出していないと思います。今は、自己負担を少し上げて、保険料が上がるのを抑制しようとしているのだと思うのですが、それでは賄えないくらい膨張するでしょう。介護保険は数年おきに保険料を見直しているのですが、そこがまたどんどん上がっていくという話になります。

工藤:すると、実績評価は2点(着手して動いたが、目標達成は困難な状況になっている)になりますね。社会保障関係はみんな2点くらいになりそうな気がしてきました。

 次に、「妊娠から子育てまで切れ目のない家族支援政策を積極的に進める」、「年少扶養控除を復活します」と、自民党は約束をしていました。これは実現しているのでしょうか。

池本:「切れ目のない支援」については、まず「乳幼児期の待機児童ゼロ」、そして「『小1の壁』の解消」です。学童保育の問題などは、これまでどの政権も手をつけていなかったという感じですが、初めて首相の口から「小1の壁」の話が出ました。とりあえず手をつけたという意味は、非常に大きかったと思います。あと、「放課後子ども総合プラン」ということで、学校も活用してやっていくという具体的な施策も出してきています。待機児童ゼロについても、自治体に手を挙げさせて予算をつけてきたというところでは評価できると思います。

 しかし、質の面でいうと、「女性活躍」とセットで考えなければいけない。これまで育児は女性が担っていたので、何もないところにお金をつけなければならず、一気に予算額が増えてくるわけです。その予算がなかなか確保できずに、中途半端に充てられて、保育の質、学童保育の質が非常に大きな問題になってきています。

 働いている人たちが子どもを預ける保育所が足りなくて、働きに行けないという状況がかなりあります。申し込んだのに保育所に入れない待機児童の数は2万人くらいなのですが、女性が働きに行く割合がだんだん増えているので、その数も増えると思います。

工藤:それに対する量的な備えについては、安倍政権はちゃんと対応しているのでしょうか。

池本:消費税の増収分による新制度でやると言っています。そこは手をつけていて、新制度が4月からスタートするということなのですが、新制度は、保育に入る権利を子どもに保障したということではなくて、自治体がニーズ調査をやって、それに責任を持つという仕組みになっています。実際は優先順位をつけてやるので、ニーズがあっても入れないという人が、この4月も大量に出るだろうという見込みになっています。

 「小1の壁」というのは、保育園は延長保育などで7時とか8時まで預けられるようになってきているのですが、小学校に上がった後の学童保育はまず数が足りないですし、あったとしても6時くらいで終わってしまうので、子どもが小学校に上がると仕事が続けられないということです。あと、小学校3年生までは学童保育があるけれども、4年生になると何もなくなってしまうので、小4になると仕事を続けられない「小4の壁」というものもあります。

工藤:今、「小1の壁」に安倍政権で初めて取り組んだということですか。


柔軟性のあるワークライフバランスを

池本:「放課後子ども総合プラン」で、学校施設を徹底的に活用することを打ち出していますし、新制度の方でも、「放課後児童クラブ」がもともと3年生までだったものを、6年生までの事業だと位置付けを変えてきました。少しずつは進歩しているかなという感じです。

 あと、子育て支援でむしろ一番大きいのは、ワークライフバランスのことです。保育所に予算をかけるよりは、労働時間を短くすれば保育の時間は減らせます。海外に比べても、日本の労働時間が圧倒的に長い。単に長いだけではなくて、柔軟性がないのです。海外だと、同じ時間働いていても子どもの病気などで休めるといった柔軟な制度があります。男性もそこに参加できるので、男女のキャリアの格差も減らせるのですが、日本は、男性が長く動けないという柔軟性のない働き方なので、すべて女性で調整して、キャリアの格差が出てきています。

工藤:今のような問題に関しては、安倍政権は動いているのですか。

池本:今回、「次世代育成支援対策推進法」という、企業に行動計画の策定を義務付ける法律が延長されました。あとは、今回、指導的地位に占める女性の割合30%を目指して企業が目標値を定めて取り組むように促す「女性活躍推進法案」を出したところまで行きましたが、結局、今回の解散で廃案になってしまったというのは、大きなマイナスになっています。

工藤:池本さんから見ると、5点満点で何点くらいになりますか。

池本:2点です。「動いているけれども、目標達成は困難」というところだと思います。女性活躍のためのワークライフバランスについては実効性が伴っていないと思いますし、保育の方も、今回の増税が先送り延長になり、やろうとしているのですが、本当にうまくいくかというのは、まったく見えてこない状態になってしまいました。

加藤:一点だけ、もしプラスの評価があるとすると、育児休業手当が、最初の半年ですが67%に引き上げられたということがあります。育児休業をすると、雇用継続促進給付として、1年間に限って、最初の3ヵ月は従前給与の67%が雇用保険から出るようになったのです。今までは50%だったのを、時限措置ですが少し引き上げている。そういうかたちでの経済的支援をやるというのは、既に実現しています。これは男性も含めて受け取れます。


増大する非正規雇用がもたらすもの

池本:ただ、今は非正規雇用が増えてきて、そもそも育児休業を取得できない人が増えてしまっています。今のように手当を67%に上げても、結局、恵まれた人がより恵まれるということになってしまっているので、なかなか広がっていません。

 また、海外では、育児休業を時間単位で取得して、そこに給与をもらうということもできるので、男性も「1時間なら育児休暇をとろう」となるのですが、日本の場合は固めて全日で、それも何週間とか何ヵ月かけてとらないといけないので、男性が踏み込むのはなかなか難しい。お隣の韓国は、二人目の取得者の所得補償子どもまでは受け取れる賃金を1ヵ月間だけ100%に引き上げて、男性に1ヵ月だけでも育児休業をとってもらおうという政策を入れてきているので、それをと比較するとまだまだ足りないという感じです。

小黒:私の見立てだとワークライフバランスがけっこう重要だと思います。安倍政権ではホワイトカラー・エグゼンプションの議論があったのですが、労働時間規制がその対になってきます。日本の場合は、企業が法定労働時間を超える労働を命じる場合、労働基準監督署への届出を義務付けるサブロク協定があって、基本的には、残業代さえ払えば無限に働かせることができる制度設計の立てつけになっているわけです。それはそれで、ある程度年収が高い人たちには本気で働いてもらえばいいのですが、フランスなどでは、「48時間規制」のようなものがあったりして、そうではない人たちは、残業代を払おうが払うまいが働かせてはいけない時間が決まっているわけです。それはワークライフバランスと関係していることだと思うのですが、労働時間規制は踏み込み不足です。

加藤:ホワイトカラー・エグゼンプションの話がすごく誤解されているところは、女性の働き方にも寄与するということが無視されたしまったところです。つまり、高い給与の人だけではなくて、女性が自由に時間を選んで働けるというところも含めていこうという議論があったのですが、初期の段階でなくなってしまった。「残業代ゼロ法案」という言い方をしないで、ちゃんとその辺を区分けして議論してほしかったということはあります。

工藤:分かりました。社会保障の分野は本当に重要なのですが、今の政権は優先順位を高く掲げてやっていません。ですから、なかなか私たち国民には伝わっていないのですが、今日の話を聞いて、ここも根が深いと感じました。特に、人口減少や地域格差が反映されている状況の中で、この仕組みの設計も含めて本気で政治が取り組まなければいけない段階に来ていると思います。そういう視点で、今度の各党のマニフェストを見ていただければと思います。今日は、安倍政権の社会保障政策について評価をしました。皆さん、有難うございました。

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