言論スタジオ

日韓は未来志向の関係を構築できるのか

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2015年5月29日(金)
出演者:
小倉紀蔵(京都大学大学院人間・環境学研究科教授)
澤田克己(毎日新聞外信部副部長兼論説委員)
西野純也(慶應義塾大学 法学部政治学科 准教授)

司会者:
工藤泰志(言論NPO代表)



 6月21日に東京で開催される「第3回日韓未来対話」に先駆け、5月29日放送の言論スタジオでは、「日韓は未来志向の関係を構築できるのか」と題して、小倉紀蔵氏(京都大学大学院人間・環境学研究科教授)、澤田克己氏(毎日新聞外信部副部長兼論説委員)、西野純也氏(慶應義塾大学 法学部政治学科 准教授)をゲストにお迎えして議論を行いました。


改善の傾向は見られるものの、2013年比ではまだまだ悪い日本人の国民感情

工藤泰志 冒頭で、司会の工藤が、日本では4月9日から30日まで、韓国では4月17日から5月8日までの期間で実施した「第3回日韓共同世論調査」の結果について、説明しました。

 まず、「相手国に対する印象」では、日本では、「良い印象」を持っている人は、昨年の20.5%から23.8%になり、「良くない印象」は昨年の55.4%から52.4%になるなど前回からは上向きの傾向が見られた一方で、韓国では「良くない印象」が依然として7割を超える状況が続いていること、そして、その「良くない印象」を持つ理由としては、日本人では「歴史問題などで日本を批判し続けるから」が7割を超え、韓国人では、日本が「韓国を侵略した歴史について正しく反省していない」ということと、「竹島をめぐって領土対立がある」2つが大きな要因となっていることなどが紹介されました。

 この結果に対し、小倉氏は、日本人の「良くない印象」において、「韓国人の愛国的な行動や考え方が理解できないから」や、「韓国の政治指導者に好感を持っていないから」などが減少していることに着目した上で、「日本人に関しては、去年は韓国とはなんとひどい国なのだろう、理解できない、という気持ちがたくさんあったが、徐々に韓国人の考え方も分かってきたし、これはなかなか変わらない、ということも分かってきた。ということで、もう少し他の考え方もしてみようか、という反応なのだろう。それに対して、韓国側の認識の内実は変わっていない」と分析しました。

 西野氏は、「相手国に対する印象」に関して、「日本側では良い印象、悪い印象ともに改善しているように見えるが、数%の回復にすぎない。2013年の調査結果を見てみると、良い印象は31%で、悪い印象が37%であり、そこから比較するとまだまだ悪い」と指摘しました。

 澤田氏は西野氏の指摘に同意した上で、「2013年は、当時の李明博大統領が竹島に上陸してかなり日韓関係が悪くなっていた。その時よりも日本人の韓国に対する印象が悪いという背景には、やはり、朴政権に対する悪印象が大きく寄与しているのではないか」と述べました。


韓国のニュースメディアが日本人の認識に影響を与えている

 次に工藤は、「日韓関係の重要性」について、韓国では、87.4%と9割近くが、日本でも65.3%と7割近くが「重要である」と答えた一方で、日本では「重要ではない」が昨年から5%程度増加したり、中国との比較において、「日韓関係よりも日中関係の方が重要である」という日本人が10ポイント増加しているという結果を紹介しました。

 小倉氏は、日韓関係が「重要ではない」と考える日本人が増加したことに関して、「インターネットを見てみても、『韓国とは断交すべき』、『韓国など重要ではない』というような言説が見られる。そういう人は全体の10%ないし15%くらいだろうが、その発言力があまりにも強くなってきており、それが全体に影響を与えている」と見解を述べました。

 西野氏は、日韓関係の専門家の中でよく議論されることとして、朝鮮日報、中央日報、東亜日報など韓国のニュースメディアの問題点を指摘しました。西野氏は、「それらのメディアは、日本語のサイトを持っているが、そこの記事は、韓国内で議論されている、あまりにも日本に対して批判的な対日認識のような文脈のまま翻訳されて、掲載されている。それを読んだ日本人は、韓国に対して、『日本のことを全然きちんと理解していない』と不満や不快感が非常に高まってくる」と解説し、これが韓国に対する印象のみならず、日韓関係の重要性に対する認識にも影響を及ぼしているとの見方を示しました。

 澤田氏は、日本の中で、日韓関係よりも日中関係の方が重要だ、という認識が増加していることについて、「最近の外交関係を見ると、中国とは話はできる、と日本人は感じるようになってきた。その反面、朴大統領は取り付く島もなく、これはもうどうしようもない、というような認識になっているのではないか」と述べました。


「何となく」重要な日韓関係

 続いて、議論は「なぜ、日韓関係は重要なのか」ということに移りました。

 小倉氏は、「日本と韓国は植民地支配をした側とされた側、という関係の中で、非常に強い意志と努力の下、この50年の中で対等の関係を築こうとしてきた。そして、韓国が発展していく、ということに関して、日本はかなりお手伝いをしてきた。そういう植民地支配というものに対する何らかの清算というモデルを、世界の中で日韓が作ってきた、という意味で、重要性がある」と自らの見解を述べた上で、「韓国は日本の過去の清算について、『不十分だ』と言っているが、完全に不満というわけでもない。現在の韓国の発展に何らかの形で日本が寄与してきた、ということは認識しているために、9割近い韓国人が『日韓関係は重要である』と答えているのではないか」と述べました。

 西野氏は、「安全保障上の観点からいえば、日本にとっての韓国及び朝鮮半島の重要性というのは、地理的な位置からしても今も昔も重要である。戦後の韓国にとっても北朝鮮との対峙の中で安全保障上のパートナーとして日本の重要性は大きい。ただ、パートナーと言っても、まず米韓同盟というものがあり、アメリカを通じて日本とつながっているという構造である。一般の韓国人には必ずしもそのつながりが明確には見えていない。また、中国が台頭して、韓国にとっての重要性が高まり、尚且つ韓国から見れば日本の歴史認識が揺らいでいるように見えてきている中では、日韓関係の重要性というのが、韓国ではなかなか実感しにくくなっている」と述べた上で、「約9割の韓国人が日韓関係を『重要である』と回答しているのは、『何となく』という面もある。今年は日韓国交正常化50周年という節目だからこそ、政治指導者が、なぜお互いがお互いにとって重要なのか、ということについてもっと真摯に議論してもよいのではないか」と主張しました。


韓国人の認識形成は、まず「枠組み」を設定し、その中に事実を放り込んでいく

 続いて、工藤は、「相手国の社会・政治体制」をどう認識しているかという設問に対して、韓国では日本を、「軍国主義」や「覇権主義」とみる見方がこの1年間で急増したことなどの結果を紹介しました。

 これに対して、小倉氏はまず、韓国人特有の思考法として「枠組み」について言及し、「例えば、『日本人は軍国主義だ、覇権主義だ』という枠組みがあり、事実をその枠組みの中に放り込まれて処理される、という傾向が著しい」と指摘した上で、「だから、この枠組み自体を取っていくことが重要だが、この枠組みを設定しているのは主にマスコミと大統領府なので、なかなか難しい」と語りました。

 一方で、小倉氏は、日本側の韓国に対する認識で、「民主主義」が低いことについて、「日本は、欧米の民主主義をお手本と考え、それに合っていない国は民主主義国家ではない、と評価する傾向にある。しかし、民主主義は国家や社会によってやり方が異なるのだから、韓国のやり方にも学ぶ点を見出すような発想になることが大事だ」と主張しました。

 澤田氏は、小倉氏の「枠組み」という説明に対して同意しつつ、「メディアも青瓦台(大統領府)もこの対日認識の枠組みを修正しなければならない、という切実な思いを持っていない。修正しなければ、韓国の存立に関わるとか、韓国に何か大きな不幸が起こる、ということでもない。その枠組みを現実的なものに修正していくことになると、非常に大きな労力が必要になり、コストパフォーマンスを考えると、そんなことをやっても意味はない、という考えになってくるのだろう」と分析しました。

 西野氏は、日本において韓国を「民主主義」とみる見方が減少したことについては、産経新聞ソウル支局長基礎事件の影響が大きいと指摘しました。
次に、韓国で日本を「軍国主義」や「覇権主義」が増加した背景には、昨年来の日本の安全保障政策の見直しが大きく影響していると述べました。
西野氏は、「朴政権は中国を非常に重視し、協力関係を拡大している。しかし、日本の安全保障政策の見直しは中国を念頭に置いたものであり、こうした日本の動きが、韓国にとっては地域の不安定さを助長しているように見えている。さらに、日本がだんだん潜在的な脅威に見えてきてしまっている。それがこの世論調査の結果にも出ているのではないか」と解説しました。

 次に、工藤は安全保障関連の設問として、「日韓間で軍事紛争は起こるか」という設問に関して、日本では「起こらない」が65.3%だったのに対し、韓国では、「将来または数年以内に起こる」が4割近くいた、という結果を紹介しました。

 小倉氏は、この結果の背景も「枠組み」で説明できるとした上で、「日本は歴史を清算していないし、そもそも清算する能力もない国家だから、邪悪な攻撃を仕掛けて来る可能性がある、というような幻想的な論理で作られた枠組みがあり、その中に、日本に関する事実を放り込んでしまっているわけだから、これを変えるのはなかなか難しい」と述べました。続けて小倉氏は、「それでもやはり、我々は、日本は軍国主義でも覇権主義でもないのだ、ということを説いていくしかない。そして、韓国のメディアのアジェンダセッティングについても画期的に変えてもらわないと困る、というメッセージを強く打ち出していくしかない」と主張しました。

 澤田氏は、韓国人が軍事紛争を予測しているのは、日本が竹島に関して教科書や外交青書、防衛白書に「竹島は日本の固有の領土」と記述していること自体を、「すでに日本が実力行使をし始めてきていると解釈しているのではないか」と分析しました。その背景として、「朝鮮半島では古くからの社会意識として、言葉による言い争いと、刀を振るうような実際に力を行使することの間に明確な一線が引かれていない。したがって、まさに教科書に記載するだけでも『実力行使してきた』とみなしてしまうのではないか」と解説しました。


関係改善のためには新たな「枠組み」を設定するしかない

 次に、工藤は、日韓間で国民感情が悪化している現状に対して、日韓ともに7割程度の人が「この状況は望ましくない、心配している。あるいは問題であり、改善する必要がある」と考えていること、そして、その改善のための首脳会談の必要性については、両国で8割もの人が必要と考えているものの、その時期に関しては、「急ぐべきではない」と考えている人が多くいた、という結果を紹介しました。

 この結果を受けて澤田氏は、「例えば、慰安婦問題では特効薬も即効薬もない状況で話し合っても絶対にうまくいかないということは皆わかっている。関係改善すべきだとは思うが、自分たちが譲ってまで改善する必要があるのかというと、それほど切実な必要性はないため、首脳会談を急ぐべきではないという声が多いのだろう」と述べました。

 小倉氏は、「自国メディアは日韓関係に関して客観的で公平な報道をしているか」という別の調査結果で、韓国人の5割が「そう思わない」と回答していたことにも言及しながら、「これまで韓国人の認識は、政治指導者はメディアが設定し、提供する『枠組み』の中で形成されてきたが、この提供者たちを信頼できなくなってきている。日本の実態も、その枠組みを通して見た実態だから本当の実態そのものではない。2重にも3重にもフィルターが欠けられた直接性のないところで認識し、判断してしまっている。そうした何かもやもやとした、これではいけない、という感覚が、日本にも韓国にもある。特に、韓国側はそれが強いのではないか」と指摘しました。
その上で小倉氏は、「日本が悪い、という枠組みから離れるためには、『日本だけが悪いのではない、日韓で共存すべきだ』というような新たな枠組みを韓国の誰か、とりわけメディアが新たに設定していくしかない」と主張しました。

 西野氏は、「安倍政権、朴政権下では本格的な首脳会談は無理だ、というのは我々専門家の間でもそういう見方が強い」とした上で、「ただ、首脳会談がなくても、それ以外のところで、関係を回復させる、あるいは、これ以上悪化させないように努力をしていく必要がある、という点については共有されてきているのではないか。とりわけ、韓国のメディアを見るとその意識は非常に強い。日中関係が進むにつれて『韓国は外交的に孤立してきたのではないか』という論調がかなりメディアにも見られてきた」と期待を寄せました。一方で、日本側のメディアに関しては、そこまでの危機意識はなく「やはり、中国との関係改善も進んでいるので、いずれ韓国もついてくるだろう、という見方がまだ支配的だ」との見方を示しました。


「これからの50年をどう作っていくのか」ということを共に考える

 最後に工藤は、日韓国交正常化50周年を迎えた今年、何をする必要があるのかと問いかけました。

 小倉氏は改めて、「日本と韓国は、植民地支配をした側とされた側で、これほど素晴らしい関係をこれまで築いてきた」と述べた上で、「そのことに関する自信が両国で完全に失われている。そのことが一番の問題だ」と指摘。「世界史的に見てもすごいことを我々は成し遂げてきたのだ、という自信があれば、領土や慰安婦の問題でごたごたしてもやはり前に進めていこう、という推進力が出てくる。我々は何よりも自信を回復する必要がある」と強く主張しました。

 澤田氏は、「日本にも韓国にも、1980年代、90年代にいたような、相手のことをよく分かっている人たちがあまりいなくなってきた。韓国社会特有の思考方法をしっかり理解している日本人は、政府も含めてあまりいない。韓国側もやはり、日本のことを分かっている人たちはすでに引退してしまって、新しい世代の人たちはそれほど日本のことを分かっていない。したがって、その分かっていない人たちに対して、自国のことを説明していかなければならない。そもそもどう説明していけばいいのか、ということもまだよく分かっていないので、そこから模索していかなければならない」と述べました。

 西野氏は、「韓国側が主張しているように1965年時に解決できなかった問題というのがあり、それが今日、様々な形で、懸案として浮かび上がってきている。これはこれで十分ケアして、注意して取り組んでいく必要がある」とした上で、「それ以外の部分ではこの50年間の日韓関係は成功してきた。日本側としては、韓国側にそういうところにももっと目を向けて欲しい、と働きかけていく必要がある。それから、この50年を振り返って、評価しながら、尚且つ、これからの50年をどう作っていくのか、ということを共に考える。そういう作業を今年からスタートしていくべきだ」と主張しました。

 これらの議論を受けて工藤は、「過去の問題もあるが、お互いになぜ相手が重要なのか、ということを考えながら、共に未来について率直に語り合うことが必要な段階に来ているの。今年はそういう議論をしきたい」と第3回日韓未来対話に向けた抱負を述べて、白熱した議論を締めくくりました。

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