世界との対話で見えてきた日本の課題

2012年5月19日

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、工藤がワシントンや北京などを訪問して感じたこと、日本が海外からどう見られているのかを考えました。

(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2012年5月2日に放送されたものです)
ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。


「世界との対話で見えてきた日本の課題」

工藤:おはようございます。そして、お久しぶりです。言論NPO代表の工藤泰志です。毎朝、さまざまなジャンルで活躍するパーソナリティーが、自分たちの視点で世の中を語るON THE WAYジャーナル。今日は言論のNPOと題して、私、工藤泰志が担当します。

 さて、私は、2カ月ぶりということになりますけれども、東京ではすっかり桜も終わって、もう新緑の季節です。みなさん、ゴールデンウィークですけれども、どうしていらっしゃるでしょうか。私は、たぶん、部屋の片付けで終わってしまいそうなのですが、本も溜まっていますので、いろいろ今回は勉強しようと思っています。さて、この2カ月の間に、私たちのNPOもいろいろなことをやっていました。今日はそれをみなさんに報告しながら、あることをみなさんと一緒に考えてみたいと思っています。

 私は、この2カ月の間に、日本国内だけではなくて、ワシントンとか、北京とか、いろいろなところに行ってきました。その中で、世界の人たちと対話をして、日本が今考えなければいけないことを、私も非常に実感してきたというか、いろいろ学ぶことが多かったのです。この番組で、言論NPOとして、今年はまさに日本を変える本当に大きなチャンスの年だ、と。そのためには、市民や有権者が、自分の問題として、この国を考えなきゃいけないということを主張してきましたけれど、そういう感じというのは、日本だけではない。世界もみんな、そういう感じだったわけです。そういう話を、今日はしていきたいと思います。ON THE WAYジャーナル 言論のNPO、今日のテーマは、「世界との対話で見えてきた日本の課題」ということでお送りします。


ワシントンで世界のシンクタンクと会議

 さて、私がワシントンに行ったのは、3月11日ですから、ちょうど1カ月半くらい前でした。そのとき、もう、ワシントンの気温は22度で、桜が咲き始めて、すごく暑かったのです。初夏のような感じでした。ただ、その陽射し以上に刺激を受けたのは、世界が大きく変わっているなということです。それから、その中で、日本が取り残されているなという感じもしました。特に感じたのは、アメリカの政治関係の人たちといろいろな形で会ったとき、日本の政治に対して、かなり厳しい視線があったことです。

 私が、今回、なぜワシントンに行ったのかということなのですが、実は、ある組織が、ワシントンでこの3月に発足し、私が日本側からのメンバーとしてそこに出席したということなのです。みなさんもご存知かもしれませんが、アメリカに外交問題評議会という、世界的に、かなり影響力のあるシンクタンクがあります。「Foreign Affairs」という、世界を代表するクオリティー誌を出していることでも有名です。そこが、世界のシンクタンクに呼び掛けたのです。今、世界にはいろいろな問題があるし、脅威もある。それに対して、みんなで繋がって、議論をし、世界にメッセージを出そうじゃないか、と。そして、それに呼応して、世界19カ国の、これまた世界を代表する20の著名なシンクタンクが集まったのです。その中に、日本からは、私たち言論NPOがそのメンバーとして設立に加わったということです。

 この組織はカウンシル・オブ・カウンシルズ、COCといいます。活動はかなり大きな取り組みで、少なくとも、国際的な課題に対してメッセージを出します。もちろん、それだけではなく、メンバーのシンクタンクは、世界でも有数なシンクタンクなので、それぞれの国においても、きちんと輿論に対して訴え、政府に対しても提案して、国際的な問題を解決しようという試みなのです。COCの会議に参加して非常に驚いたのは、世界のシンクタンクのトップの人たち―みんなトップが集まっていたのですが―は世界で起こっている問題を、まさに自分の問題として考えていることです。だから、これはどう解決すればいいのかという話をみんなで議論しましたが、次々にみんなが手を挙げて発言する。たとえば、共同でメッセージを出そうとか、共同研究しようとか、次々に意見を出してくるのです。


機能しないグローバルガバナンスへの危機意識

 彼らの問題意識は、基本的に私の問題意識でもあったのですが、世界のグローバルガバナンス、たとえば、国連の安全保障理事会とか、G20とか、先進国であればG8とか、地球環境問題ではCOPというのもありますが、そういう組織が全然機能しないじゃないか、と。今までは先進国を中心とした国際的枠組みでしたが、中国とか、インド、ブラジルとか、新興国が台頭して意見の集約が難しくなってきている。その中で、いろいろなことが起こり始めているのに、それに対して国際社会が全く機能していないのではないか、というところがみなさんの問題意識にあるのです。そうであれば、私たち民間が、連携してアクションをするしかないという話だったわけです。

 リビアの春といわれた問題では、カダフィ大佐が殺されて、そこはまさに市民が決起したわけですが、その後、かなり混乱している。エジプトもそうです。そういう状況をどうするのか。誰がそのことを考えているのか。今、イランの駆け引きの問題が非常に危険な状況になっていて、イスラエルの動向次第では、ひょっとしたら戦争になってしまうのではないか。そういう事態をどうすればいいのか。それから、さっき言った、グローバルなさまざまな仕組みが機能しないといった問題が出席者の関心だったのです。そういう会議に参加して、これは言論NPOに似ているなと思いました。つまり、私たち言論NPOも、自分たちが当事者として、この国の問題について考えなきゃいけないと思っていたのですが、世界のほうも、世界のことに関して同様に取り組まないと大変な事態になる、と。

 今、EUの危機もありますし、世界的にもいろいろ混乱が起こっています。アメリカがアジア重視に転換するなかで軍事的な緊張感もあります。石原慎太郎さんの発言もありました。そういう状況の中で、世界史的な視点というものがどうしても必要になってきたというのです。それを聞いて、僕はやっぱり日本が揃わなければいけないと思いました。つまり、こういう世界的な課題に挑むためには、日本そのものが、世界の課題、自分たちの課題に対して、きちんと答えを出して、結果を出していくこと。そのようなちゃんとした政治をつくっていかないと、世界が大混乱をして、新しい秩序に向けて、変化が始まっているということに関して、何ができるのだろうと感じました。


ガバナンス回復を担うのは民間であり市民である

 もうひとつ感じたのは、会議に参加して、みなさんの話をよく聞くと、NGOとか市民という言葉が何回も出るのです。つまり、世界のトップクラス、民間のトップクラスの人たちは、こうした統治の混乱に対して向き合うのは民間であり、市民であるという意識を持っている。持っているというよりも、それが当たり前なのですね。つまり、世界の変化を担うのは市民。そして、そのひとつの大きな触媒役として、世界的なシンクタンクが連携して立ち上がったという話が今年3月から始まったわけです。実を言うと、言論NPOが、なぜそのメンバーに選ばれたのだろうかと、ワシントンに行く前には悩んでいたのですが、会議の光景を見ていて、私たちがなぜ選ばれ、ここに参加しているか、その意味がよくわかるような気がしました。

 私は、4日間、その会議自体も15時間くらい議論したわけで、かなり大変でした。時間があると抜け出して、アメリカを代表する、ブルッキングスとかCSISとか、ヘリテージとか、アメリカを代表するシンクタンクに行き、アジアの代表とも話し合いました。それから、いろいろなレセプションで、アメリカの政府関係者とも議論しました。そこでも、驚くことがありました。私は、COCに参加した翌日に、CFR、つまり外交問題評議会のパネルディスカッションにも出ました。私と、フランスとロシアのシンクタンクのトップがパネリストとして参加して、アメリカの外交問題を世界はどう見ているかという議論でした。その聴衆というのが驚いたのですが、世界的に有名な経済学者とか、アメリカの国防総省とか、国務省の役人がいっぱいいるわけです。


冷ややかな日米関係の背景をめぐって質疑

 その中で議論をしなければいけないというのは、僕にとっては非常にプレッシャーだったのですが、私が紹介された時の、司会者の言葉にまず驚きました。「工藤さん、ワシントンは日本を無視していることをあなたは感じていますか」と言ったのです。私は、ちょっとカチンときたこともあるのですが、「もちろん、わかっている」と答えました。しかし、日米問題というのは、同盟関係、同盟国だと思っていたのだけど、今のような無関心とか、無視されているという状況で、ではアメリカはそれでいいのでしょうかと、私は逆に聞きました。その時に、見回したら、会場が僕に対して非常に冷たい視線なのですね。その時に、何だろう、この雰囲気は、と思ったのですが、確かに、私たちも政権の評価をやっていまして、普天間問題で、今の民主党政権がアメリカとの関係で、考えられない、今まで積み上げたことを壊してしまったという大きな問題があったのですが、ただ、それだけではない、違う感じがしました。

 それは、日本を相手にしていないというか、無視しているというような感じです。僕がそこに参加したという時点で、無視しているのではなくて、本当は期待しているのだけれども、冷ややかな、無関心的な視線がある。その原因は何だろうと、僕は考えたのですが、ちょっとわかったことがあります。日本にいたら、そういうことを僕は分からなかったと思いますが。

 パネルディスカッションで、普天間で働いた経験のある、国務省か国防総省の人だと思われる女性が手を挙げました。そして、普天間問題にからんで、「では、工藤さんが言っている、こんな状況は誰がつくったのですか」と質問してきました。これはかなり本質的な質問がきたので、オッと思ったのですが、ただその時ひょっと思ったのは、この質問で、たぶん参加者は、日本の政府が、政権がそれをつくったという答えを期待しているのではなくて、そのような政治を容認しているあなたたちはどうなのだと、私にたずねているような感じがすごくしたのです。


日本政府とのコミュニケーション不足を認める

 その時、その前の日にあった、ある一つのことを僕は思い出しました。その前の日に、私は昼食会で、アメリカの国務省の次官に、ですから結構偉い人に、ある質問をぶつけたのです。今度、野田首相が4月の末に、だからもう終わっていると思いますが、ワシントンに訪米することになったのですが、日本の民主党政権になって、アメリカに公式訪問を2年半もしていなかったのです。2年半もです。同盟国でありながら。テレビで見ていると、韓国の大統領はよく行っているし、時たま、オバマさんと野田さんが握手している光景があったので、いろいろなかたちで行っているのかなと思っていたのですが、実は日本は行っていなかった。僕は、それを国務次官にぶつけました。同盟国である日本の総理が、アメリカに2年半も公式訪問していないことを、あなたはどう思いますか、と。日本のメディアでは、毎日のように、普天間の米軍が移転するから、その経費を誰が負担するかというレベルの議論しかしていない。それが同盟国なのでしょうかと僕は聞きました。つまり、本当に同盟であれば、世界で起こっていること、アジアのいろいろなことに関して、もっと対話があるはずではないか、と。政府関係がだめであれば、民間レベルでもよいのですが、さまざまな対話があるべきだと思っているのですが、そういう対話の空白が日米間にあるのではないか。僕はそう国務次官に聞きました。

 その時の回答に僕は驚きました。CFRのホームページにも英語で出ているので、ぜひ覗いてみてほしいのですが、彼は日本政府とのコミュニケーションが不足していることを認めました。確かにそうだ、と。我々は新興国とのコミュニケーションの方にとらわれていた、と。だけど、ここからが重要で、彼は「私は、政府もそうだけど、あなたのような市民社会とか、NPOとか、そういう人たちと議論がしたい」と言ったのです。僕はどういう意味なのだろうかと思って、また聞きました。私は、日本において、市民社会が強くならなければいけないと思って、そういう運動をしているが、市民社会に対して、かくも理解がある政府の首脳と初めて会った、ぜひ、日本に来て講演してくれと言ったのです。


政治の問題は有権者・市民の問題である

 ただ、そのあと、僕は彼の言葉の意味がこういうことなのではないかと気付いたのです。つまり、政治が、首相が何回交代してどうだっていう話では、もう意味がない。ちゃんとした政治というものをつくらないといけない、それこそ、市民ではないか。民主主義とはそういうものではないか。そういうことを僕に言っているような気がしてならなかったのです。そのことを、さっきの女性の質問のときに思い出しまして、僕はその女性に、こう答えました。「日本では新しい変化が始まっている。その動きにぜひ注目してくれないか」と。「日本は民主主義の国だから、民主主義の仕組みの中で、日本を変えます。政治が意思決定できないのは有権者の責任です。だから、我々は政治を有権者とか、市民の力で変えてみますから、注目してくれませんか」と言ったのです。

 僕は、帰国してから、そのことを言論NPOのいろいろなアドバイザーや、結構偉い人たちに話したら、工藤くんも大言壮語ですごいこと言うじゃないかと言われたのですが、しかし、あの局面では、たしかに、それを言うしかなかったなと思います。僕は、今回、ワシントンに行って感じたのは、まさにその驚きだったわけです。世界は、ギリシャとかEU危機のなかで、政府が機能しなかった。それから、エジプトとか、リビアとか、シリアとか、中東の国々のなかで、統治に対する信頼が失われ始め、それに対して、市民が立ち上がっている。そのように統治のありかたに非常に大きな問題を抱えているところだけでなく、先進国においても、その他の世界においても、まさに統治の大きな変化期に来ている。そして、それを担う主人公は市民である、そういう視点を当たり前に考えているから、日本の政治という問題も、世界から見ると、政党とか、誰が首相か、という問題ではなくて、有権者の問題である、彼らはそう思っているわけです。その視点は非常に健全だと思って日本に帰ってきました。これがまさに、僕たち言論NPOが取り組もうとしていることで、市民が、有権者が変わらない限り、我々は、世界においても貢献する国をつくれないという気持ちがあるわけです。

 今日は、放送再開なので、一発熱く言わせてもらいました。私たちは、このような議論をしながら、市民社会をどうしても強いものにしていかなければいけません。

 ひとつだけ、お知らせがあります。今、日本の非営利組織自体が組織評価、ちゃんとした組織として機能しているのかを問われる時代になっているのではないか。なにか良いことをやっているから誉められるという時代を卒業して、もっと緊張感のある市民社会の担い手という活動がどんどん出てこないと、市民社会も強くならないと思います。ということで、私たちはエクセレントNPO大賞というのを創設し、今、公募しています。締め切りは5月8日。あとちょっとしかないのですが、我こそはと思う人は、法人格をとっていなくても、市民社会で頑張っている人たちであれば応募できますので、ぜひ応募していただきたいと思います。ということで、時間です。どうも、ありがとうございました。

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、工藤がワシントンや北京などを訪問して感じたこと、日本が海外からどう見られているのかを考えました。
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2012年5月2日に放送されたものです)
ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。