【座談会】改善点を見つけ、日中関係を一歩進めるための対話に ~「第9回 北京-東京フォーラム」事前協議を終えて~

2013年4月03日

「第9回北京-東京フォーラム」事前協議終了後の
日本側参加者による座談会:


明石康氏(「第9回北京‐東京フォーラム」実行委員長、
                国際文化会館理事長)
田波耕治氏(三菱東京UFJ銀行顧問、元国際協力銀行総裁)
宮本雄二氏(宮本アジア研究所代表、元駐中国大使)
山口昇氏(防衛大学校教授)
工藤泰志(言論NPO代表)



工藤:先ほど、事前協議が終わりました。みなさん、お疲れ様でした。

 私たちは今回、日中関係が非常に深刻な状況の中で、対話の力でこの状況を何とか改善しようということで、北京に来ました。今日の事前協議の成果について、みなさんにお伺いしたいのですが、明石さん、いかがでしょうか。

危機の中に秘められた日中関係改善のチャンス

明石:率直に申し上げて、今回の事前協議ではっきりしたのは、日本側も中国側も危機感というものを共感しているな、ということでした。尖閣諸島をめぐる状況、それに伴い日中関係が非常に悪くなっているという危機感を、日本側は今回の訪中に持ってきたわけですが、中国側も同じように事態を深刻に受け止めている。そして、それを何とかしなければいけない、という問題意識、緊張感、大きな懸念を持っている、ということを確かめられたことは1つの大きな収穫だったと思います。まず、問題意識を共有しなければ問題の解決もあり得ないわけです。ですから、解決するかどうかはまだわかりませんが、少なくとも、今のままではいけないのだ、何とかしなければいけない、という意識においては共通のものがあったと思います。

 それから、尖閣諸島の問題はうまくやらないと武力の行使、戦争になるかもしれないということがチラチラし始めている。これについては、日本も中国も戦争は起こしていないわけですが、もしかしたら何かの誤解で、何かの錯誤で、何かのマルファンクション(malfunction:機能不良)で、戦いになったらとんでもない。そして、一度そうなったら、そこから抜け出すのは極めて難しくなってしまいます。我が国にしろ、中国にしろ、戦後今まで多くのことを築き上げ、両国関係についても今のところまで持ってきた。そこには、多くの人々の汗と血と涙があったと思います。そういうものが大事なのだということで、危機管理を何とかしなければいけない。お互いに戦いに入ってはいけないという意識...つまり、現在の状況というのは、危機であると同時に、日中関係を再びよくするためのチャンスというものが秘められているだろう、という期待感を今回の協議では非常にはっきり読み取れたと思います。そういう意味で、私は、今回の「第9回 北京‐東京フォーラム」の準備をするにあたって、基本的な日中の意識が噛みあい、8月の会議までにじっとしているわけではなくて、我々がやらなくてはいけないいくつかの課題、というものが目白押しに待っている、ということを感じました。大変だなという意識と共に、日本が1人芝居をするのではなくて、本当の意味で両国が真剣に取り組む価値のある、現在のアジア、あるいは世界における最大問題の1つの課題を、もしかしたら解決する糸口をやっとみつけたのではないか、という感じがしました。


工藤:今、明石さんがおっしゃったのは、現状認識について日中間で共有していることが確認されたということ。一方で、今後それを乗り越えるという点で、双方の認識が噛みあっていることがわかったので、今年の対話は歴史的な役割を果たせるのではないか、という話をされたのですが、宮本さんどうでした。


日中間で再確認された「東京-北京フォーラム」への意気込み

宮本:基本認識は全くその通りだと思います。更に勇気づけられたのは、そういう現状認識を踏まえて、両国が多くの共通利益を抱えている大変重要な関係であること、そして、そういう重要な関係は元に戻さなければいけない、という理性的な声をもっと発出する。さらにその声が、それぞれの社会や政府などいろいろな所に届けなければいけない、という強い使命感、今やらなければいけないのだという中国側関係者の意見、姿勢に接して、非常に勇気づけられました。しかし、日本と争うな、という意見が中国社会全体の主流の意見になっていない、形として表れていない、というところが大きな問題です。したがって、我々は発言し、発信していかなければいけない。この「東京-北京フォーラム」が、そういうきっかけになれば非常にありがたいと思いますし、共に一緒にやっていけるな、方向性は一致しているなと思いました。中国側にそういう人たちがいる限り、「東京-北京フォーラム」の存在意義があり、日中関係にも積極的な影響を与える、そういう可能性がでてきたな、と感じました。


工藤:田波さんは、事前協議に参加するのは今回が初めてですが、どうでしたでしょうか。先のお二方は、かなり話が噛みあっているし、大きな期待がある。だからこそ、僕たちがもっとちゃんとした議論を表に展開すべきだ、ということを宮本さんが指摘されたのですが、どのようにお考えでしょうか。

田波:認識という点では、明石さんや宮本さんが言われた通りです。ただ、私は事前協議の役割として、何が求められているのか、ということを考えると、8月に第9回のフォーラムをやる、それに向けてどうやってテーマを絞り、共通の認識を作っていくか、という考えを持って臨みました。そういう観点からすると、まず、昨年つくり上げた「東京コンセンサス」に対して、我々のみならず中国側からも完全な支持を得ているということが確認できた。そして、日中平和友好条約35周年の締結日である8月12日に北京で開催されるということが合意され、一連の延長線上で、「北京コンセンサス」をつくろうではないか、と。それは「東京コンセンサス」の理念をより具体化させるということで、今のような困難な状況の中で一歩進める、ということは完全に達成されたと思います。そういう意味で、私たちのみならず、中国側も同じ思いだということがわかったという意味でも、大変有意義だと思います。

工藤:ということは、ある程度、今回の事前協議における成果目標は達成できた、ということですね。

田波:自分で評価するのも変ですが、そのように思っています。


工藤:山口さんどうでしょうか。

山口:私は、一種の瀬踏みをしたいという思いでこの協議に参加しました。日本も中国も政権が代わって移行期に入っていますし、今、非常に危ない時期にある。1つはこの「東京-北京フォーラム」というチャネルがどれぐらい効力のあるものなのか、ということと、その中で、どれぐらい前向きに日中関係を考えるということが、コンセンサスとして得られるのか、ということについて瀬踏みをしたいという思いでした。

 その2つとも、思いのほか固いというか、すごく安心をしたというか、勇気づけられた気がします。第一に、このフォーラムに対する期待というのは非常に高い。それから、今日、中国側と話をしていて、このフォーラムで前向きに日中関係を考える、新しい習近平体制の中で、一種の高いレベルでのコンセンサスみたいなものが感じられました。これは、非常に勇気づけられることだったと思います。中でも、まず危機感を共有し、これは危ないぞと言いながら日中共に、利益になる方向に向かうということ。それと同時に、使われた時間のかなりの部分が、環境問題などでの共通の利益を日本と中国の間で共有しているということに費やされました。そこで齟齬を感じないというか、同じ考えを持っているということがよくわかりましたので、その部分についても広げることができる。ですから、危ないぞ、という危機の部分と、チャンスがあり、そのチャンスを逃さない政治的なモメンタムというのが捉えられる可能性がある、というタイミングだと思います。ですから、これから8月までの間に、準備することはかなり多いと思いますが、やりがいのあることだと思いました。

工藤:非常に嬉しいというか、重要な指摘をしていただきました。最後の質問ですが、8月12日、日中平和友好条約35周年の締結日に、しかも非常に困難な状況の中で「第9回 北京-東京フォーラム」を開催する。そこで、我々が自分たちに課すべき目標は何なのか。そのために何を準備していけばいいのか。そして、いろいろな形で、多くの人たちに協力してもらいたいと思っています。それらについて、私たちはどうやって世の中に訴えていけばいいのか、ということについてお伺いしたいと思いますが、宮本さんいかがでしょうか。


「第9回 北京-東京フォーラム」の成功に向けて必要なことは何か

宮本:これは中国側も指摘していて、大変な危機の中で同じ問題意識を持ちながら、そこからどうやって脱却するか、というロードマップは見えてきていない。しかしながら、我々が両国の社会に伝えなければいけないことは、そういう日中関係でも、持って行き方いかんによっては、将来に希望があるのだと。なおかつ、その結果、日中両国のみならず、アジア、ひいては世界に対して、積極的な貢献ができるのだということを感じるような、あるいは両国の社会や国民に感じてもらえるような内容の「第9回 北京-東京フォーラム」にしていく、ということだと思います。したがって、いかに双方に共通の利益があるか、我々がしっかりやれば将来が拓けるのだ、という点を、いかに説得力のある形で、両国社会に提示できるのか、というための準備が必要だと思います。これからどうやっていくのか、という目標についてある程度、中国側と確認できたのはよかったと思います。そのための準備をしていかなければいけないと思っています。

工藤:これから東京に帰って4カ月間、準備を始めなければいけないのですが、田波さんは今回の対話について、どういうことを目標にすべきで、そのためにはどういう風な準備をするべきだと思っていますか。

田波:全体のスキームから言うと、8月12日に本音で、腹を割って話そうではないかという意思を、両国の実行委員会で決定することが何よりも大事なことだと思います。それに加えて、それまでの準備、意思疎通というものが非常に大きな要素になると思います。これをどういう風にやっていくのか、ということはなかなか難しいのですが、全員が努力しなければいけない。それは個人のベースでもいいですし、メールのやり取りもあるでしょう。あるいは、工藤さんを通じてかもしれません。これは参加者全員が、そういう意識で臨むということは2番目に大事なことだと思います。

 3番目は宮本さんが言われたと思いますが、そういった形で議論を進めていくことも大事だけど、この言論NPOのフォーラムという意味では、対外的な発信、メッセージ性は非常に大事だと思っています。それについても、ある程度議論が行われ、せっかく共通の認識が日中間でできているわけですから、それに基づいて、できるだけ早くどういうメッセージを出すか、という観点から物事を考えて、最後の成果物を念頭に置きながら作業をする。その3つが大事だと思います。


工藤:今の話はまさにその通りだと思います。どうでしょう、山口さん。

山口:私はそういった議論ができるような雰囲気、空気をつくる上で、専門家が今まで起きてきたことをしっかり見る、ということが大事だと思います。中国側も、今日の会議で言っていましたが、事実をしっかりと認識する。どれぐらいの危機で危ないか、ということを認識することもそうです。しかし、それが過度にセンセーショナルな形で週刊誌的に扱われて、冷静さを失うような議論になりがちです。そうではなくて、今まで起きてきたことがどうなのだ、ということを含めて事実を見ていく。率直に申しますと2004年の11月に中国の潜水艦が宮古で領海内に入って、潜没(急速潜航)したまま航行した、という事例がありました。それ以来、いろいろな事件が起きています。その中には、その経過を通じて、ある意味で、中国の海軍なり公機関がそれなりに統制をされたというか、よく見れば改善しつつあるということも見られるわけです。そういったところも、我々は考えなければいけませんし、自衛隊や海上保安庁もいろいろなことをやってきている。例えば、2010年の漁船がぶつかった事件のハンドリングのまずさについても、当時の政権も反省しているわけです。そういったことを反芻して、今まで起きたことが実態以上にセンセーショナルに捉えられて、国民感情を両国において逆なでする、という事態を和らげるためには、実際に何が起きて、どういう意味合いがあるのか。そうしたことをプロの目から議論し、国民のみなさんにわかるような形で提示できるような議論が、人民解放軍や中国側の安全保障の専門家との間でできれば、空気をつくるのに役に立つのではないかと思います。そこは非常に大事だと思います。

工藤:ありがとうございました。最後に、明石さん、実行委員長として4カ月後の8月12日に「第9回 北京-東京フォーラム」が開催されます。私は、かなり重要なタイミングでの開催になると思うのですが、意気込みをおねがいできますでしょうか。


今回のフォーラムを、危機をチャンスに変える歴史的な転換点に

明石:おっしゃる通り、今までのフォーラムもそれぞれの次元で、それぞれの節目として重要な対話だったと思いますが、今度の9回目のフォーラムは、我が国にとっても、中国にとっても、アジアにとっても、世界のバランスにとっても、重要なものではないかと思います。基本的な態度においては、先ほど申し上げた通り、また、みなさんの意見も一致していると思いますが、日中両国間で同じものがあります。それは喜んでいいことだったと思います。中国が日本を、真剣な対話の相手として考えているということは、日本にやっと安定した政権ができつつある、という意識があるからであって、この7月の参議院選挙の結果次第では、それほど安定しなかったということになるかもしれません。確かに、日本は中国と真剣に話し合うだけのリーダーシップを持った安定した政権である、ということであればいいのですが、そうであるという100%の確信は、我々としてもまだ持てないわけです。日本がこれから8月まで、そしてその後もしっかりとした中国側の期待、日本国民の期待を受け止められる政権になるであろうか。日本経済が20年の低迷を乗り越え、真の意味で活性化した経済になり得るか、という大きな課題を、我々は抱えていると思います。

 8月のフォーラムを成功させるためには、8月の前に危機管理と偶発的事故をいかに防止し、未然に処理できるか、ということについて両国が専門家を動員して真剣に取り組み、両国の紛争処理、危機管理の仕方について、できれば、はっきりした青写真をつくるところまでいきたいと思います。少なくとも、それに関しての一番大事な作業は、8月以前に始まり、ある程度のところまできていなければいけない、ということが、大きな宿題として我々の前に立ちふさがっているのではないかと思います。

 もう1つは、今までやってきた両国の世論調査のやり方について、いろいろな批判や注文、自己反省が両国で行われています。設問の仕方によって出てくる回答結果は違ってくるわけで、その点についてのより一層の細かい配慮が必要である、ということが中国側からも出ましたし、我々の方からも似たような指摘があったと思います。それから、一般の世論調査と有識者調査と、もう少し近づけることができないだろうか。そういう意識も真剣なものがあると思います。やたらに、出てくる量的な結果を見て喜んだり、悲しんだりするのではなくて、その結果の持つ意味を、両国ともに真剣に受け止めることができるような調査になるように、調査問題の専門家にも参加してもらうと共に、我々が一緒になって日中両国で出されるいろいろな質問について検討してみる。そのことによって、両国の国民が何を考え、心配し、何について期待しているのか。そして、両国関係をどうしようと思っているのか、ということが浮かび上がってくると思います。

 これらを8月のフォーラムの前に準備し、実際に実施されなければならない大きな問題だと思います。これから8月までの間、我々はいろいろな意味で、今回の課題に対して、一貫した態度で取り組み、8月のフォーラムが、今予想しているような具体的ないい結果を生み出すように努力しないといけない。このチャンスは最後のチャンスかもしれません。これらを一生懸命受け止めて、危機を大きなチャンスに変える、という歴史的な転換点に立っているのではないかな、という気がしています。

工藤:皆さんの話を伺って、非常に重要な、ある意味で歴史的な大きな役割を僕たちなりに果たさなければいけない、という局面だということを感じましたし、多くの人に、私たちがこういう思いで、この対話に臨んでいるということを知ってもらいたいと思っています。ただ、今、言われたように、僕たちは8月まで待つわけではありません。帰国してすぐにでも、今の偶発的な事故の防止に始まり、世論調査の中身の問題だけではなくて、国内での議論を継続的に行い、多くの市民、関係者の人たちにある程度理解してもらう努力もしながら、山場である日中平和友好条約の35周年の締結日である8月12日の対話に向かっていきたい。私たちの目標は、あくまでも成果を出す。そして、その中から改善点を見つけ出して、一歩進めるという思いをどうしてもつくっていきたいと思っています。

 ということで、今回の事前協議では、非常に質の高い議論ができたことに、みなさんに感謝を申し上げたいと思います。この勢いで一気に進めていきますので、これからもよろしくお願いします。みなさん、ありがとうございました。

「第9回北京-東京フォーラム」事前協議終了後の
日本側参加者による座談会:


明石康氏(「第9回北京‐東京フォーラム」実行委員長、
                国際文化会館理事長)
田波耕治氏(三菱東京UFJ銀行顧問、元国際協力銀行総裁)
宮本雄二(宮本アジア研究所代表、元駐中国大使)
山口昇氏(防衛大学校教授)
工藤泰志(同運営委員長、言論NPO代表)