経済分科会「自由貿易とグローバリゼーションの未来と日中協力の在り方」報告

2017年12月17日

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 経済分科会では、「自由貿易とグローバリゼーションの未来と日中協力の在り方」をテーマに議論が行われました。

 司会は日本側が山口廣秀氏(日興リサーチセンター理事長)、中国側が前半は張燕生氏(中国国際経済交流センター首席研究員)、後半は江瑞平氏(外交学院副院長)が務めました。両国のパネリストは以下の通り。

【日本】數土文夫氏(JFEホールディングス特別顧問、元東京電力会長)、山﨑達雄氏(前財務省財務官)、木下雅之氏(三井物産顧問)、河合正弘氏(東京大学公共政策大学院特任教授)、岡野進氏(大和総研顧問)、船岡昭彦氏(三井不動産常務執行役員)、森省輔氏(三井住友銀行専務執行役員)、守村卓氏(三菱東京UFJ銀行顧問)

【中国】胡鞍鋼氏(清華大学国情研究院院長)、傳成玉氏(12回全国政治協商会議常任委員、中国石油化工集団元取締役)、遅福林氏(中国(海南)改革発展研究院院長)、李暁氏(吉林大学経済学院院長)、劉徳冰氏(元中国通用技術諮詢有限公司董事長)


 分科会の前半では、「より開放的な国際経済秩序をどのように守るのか、またそのための日中協力」をテーマに、李氏の基調報告から始まりました。


日中両国が抱える課題

0B9A3362.jpg 李暁氏は、日中の貿易問題を考える上で、中国は単なる製造拠点から、中国が市場として大きく成長しているという構造的な変化に言及しました。こうした中で、日中関係は両国だけの問題ではなく、大国としてアジア周辺国や世界経済の持続可能な発展に貢献していく役割が両国に求められていると指摘しました。その具体策として、李暁氏は、チェンマイイニシアチブの枠組みの検討、一帯一路やAIIBにおける日系企業の協力が必要であることなどを提起しました。

0B9A3374.jpg 続いて、日本側の基調講演者である數土氏は、一帯一路やAIIBに対して日本は協力する姿勢であるものの、中国側の取り組みに工夫を求めたいと述べました。具体的には、ゾンビ企業の整理、企業や自治体の不明瞭な財務体質への改善を求めました。加えて、国営企業のコーポレートガバナンスを向上させる上で、持続性をはじめとしたステークホルダーへの配慮と、国営企業における共産党関与について懸念を表明しました。

0B9A3440.jpg 胡鞍鋼氏からは、現在の中国は最も経済活動が活発な国であり、今後もアリババのような世界的企業の登場や、世界の研究開発に占める中国シェアの高まりが続いていくとの見方を示しました。これは、100年前に米国が英国の経済規模を超えたような大きなトレンド変化であることを強調するとともに、日本に対しては、「中国のこうしたポテンシャルをしっかりと認識し、中国の成長を日本のチャンスに変えていくべきだ」と語りました。

yama.jpg 一方、山﨑氏は、自由で開かれた貿易体制を進めていくことが日本の基本的なスタンスであり、TPPは決して中国を排除するものではないと強調した上で一帯一路やRCEPにおいても、より高度な貿易自由化の実現を目指すべきだと指摘しました。また、具体的な分野として、日本は医療・介護・健康の分野において、中国企業のイノベーションに協力できるだろうと語りました。

 以上の基調報告を踏まえ、パネリストによるディスカッションが行われました。


グローバリゼーションと中国経済の課題

0B9A3383.jpg まず、中国側からは、劉徳冰氏が、昨今の反グローバリズムは一時的なものであり、グローバリズムの流れは今後も続いていくとの認識を示しました。一方で、日本側の岡野氏は、こうした流れの中で、中国が貿易黒字によって蓄積している資金を、世界経済の発展のために供給することが求められていると述べ、人民元の為替市場における柔軟化は資本取引の活発化に役立つと指摘しました。

0B9A3429.jpg 江瑞平氏からは、日本や欧米の主張するグローバリゼーションは完璧ではなく、新しいグローバリゼーションの路を拓くべきではないかとの問題提起がありました。これに対して、木下氏は、これまでのグローバリゼーションは国家間と国内の両面で所得格差を招いており、サステイナブルな発展を模索する必要がある、と江瑞平氏の見解に理解を示しました。守村氏は日中両国が世界経済との調和を図っていく必要があるとし、一帯一路についても大きなポテンシャルを持っていることは認めつつ、その透明性や公平な資金調達の取り組みには課題があるとの見方を示しました。


いかなる体制で自由貿易を推進するか

0B9A3391.jpg 一方で、中国からは、日本側が進めるTPPへの質問が投げかけられました。TPP11での動きを見ると、日本政府がTPPに強い拘りがあるように感じられる(遅福林氏)一方で、日中FTA等の地域経済一体化に向けた優先度が日本は低いように見える(江瑞平氏)との見解が出されました。これに対し、日本側の山﨑氏は、日本は深い自由化の枠組みとしてRCEPや日中FTAの成立を目指していること、數土市からは、異なる利害の絡む11カ国で合意形成がなされたTPP11は、今後の多国間連携を考える上で大きな意味があると説明されました。

0B9A3352.jpg 張燕生氏は、TPPから米国は離脱したものの、もともとの枠組みは米国が主導しており、そうした欧米のグローバリゼーションの考え方は、過去の世界大戦やスタグフレーションといった問題を招いてきたと指摘。江瑞平氏からも、WTOやIMF等のマルチの貿易交渉ではなく、新しいアプローチの可能性を模索するべきとの問題提起がありました。これに対し、河合氏は、中国ではグローバリゼーションの成長の恩恵が格差等のマイナスの影響を凌駕していること、また、日本では所得再分配によって格差問題に対処していることを強調し、日中両国の経済状況の違いを指摘しました。

 一方、李暁氏からは自由貿易には大きなメリットがあり、TPPもこの恩恵を享受できると前置きしたうえで、中国を組み込まなければ多国間の取り組みとしては機能しないと中国抜きのTPPに疑問を呈しました。

 この後、パネリストと会場の間でディスカッションが行われました。会場からは、イノベーション分野での日中協力の在り方に関する質問がありました。これに対して、中国は既存のビジネス環境の整備が万全でないものの、新しいビジネスの実証の場として優れており、この中で日本企業は、中国側が業務のオペレーションを効率化する場合等をサポートすることが出来るのではないか、と回答するなど、活発な議論が繰り広げられました。

0B9A3420.jpg 以上の前半部分のディスカッションを踏まえ、日本側の司会である山口氏は、より開放的な経済体制を維持する上では日中の協力が必要であり、日本側が中国の経済規模に対する認識をしっかりと持つことが、日中のみならずアジアの発展に寄与する、との総括を行い、前半を締めくくりました。

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