「北京コンセンサス」を採択し閉幕―2日目全体会議後半 報告

2017年12月17日

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 「第13回東京-北京フォーラム」は12月17日、2日間にわたる議論の締めくくりとして、両国の主催者間で合意した「北京コンセンサス」を発表し、幕を閉じました。

 北京コンセンサスの骨子は以下の通りです。

一、 日中関係は重要な節目と発展の契機を迎えている。調和がとれ、健全かつ安定したウィンウィンの日中関係は両国国民の利益である。
グローバルガバナンスを強化し、アジアの平和と安定を維持・発展させることは、日中両国の共同の責任である。

二、 日中間の首脳交流や意思疎通が回復していることは、双方が信頼を深め、違いを解決するために極めて重要である。
次の一歩は、互いが高度な歴史的使命感、政治的責任感を持ち両国の関係を全面的に回復することである。
多くの実際の活動で、互いが脅威ではなくより強いパートナーになることを目指すべきであり、メディアはその過程で建設的な役割を果たすべきである。

三、 日中両国がより開放的な経済秩序の確立に向けて様々な協力を行っていくことの重要性が一段と高まっている。私たちは、より開放的な国際経済秩序こそが世界経済の発展の基盤と考える。
両国は、二国間あるいは多国間の協力関係の向上に努める中で、貿易・投資・資本の交流を促進し、具体的な行動やプロジェクトについても検討していく。

四、 日中両国は、地域の平和と安定、国際的な核不拡散体制の維持などで重大な共通利益と共同の責任を有している。
 我々は朝鮮半島の非核化の目標を堅持し、新たな核の脅威の出現を許さず、平和的手段によって脅威を取り去り、争いを解決するという原則を共有する。

五、 私たちは、新しい時代での、45年前の日中国交正常化の積極的な意義を明確にした。この対話の成果に基づき、来年の日中平和友好条約40周年に向けて作業を開始する。
 我々は、民間対話の歴史的使命を再認識し、日中関係の安定と健全な発展の推進のため建設的な役割を果たすことを誓う。

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 コンセンサス発表に先立ち、前日に行われた5分科会のパネリストの中から日中1人
ずつ、計10人が登壇し、分科会の内容報告が行われました。

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国際秩序の受益者である日中が、北朝鮮に対しても核放棄を前提に協力する ―政治・外交分科会

0B9A5122.jpg 政治・外交分科会は、藤崎一郎氏(前駐米国大使)が日本側の報告者を務めました。まず、不安定化する国際秩序全般を議論した前半では、「現在の国際秩序」、「国際機関」、「グローバル化の受益者」という3つの観点から日中双方が協力できることで合意がみられた、と報告されました。一方で藤崎氏は、日中双方が考える国際秩序の意味を共有することや、グローバリゼーションが格差社会につながっている点は引き続き課題であり、今後も議論していかなければいけない、という意見があったと報告しました。

 北朝鮮問題を集中的に議論した後半について藤崎氏は、日中が3つの点で合意したと報告。具体的には、「朝鮮半島の非核化が日中共通の利益であること」、「NPT(核拡散防止条約)体制と国連安保理決議の順守を重視すること」、「まずはあらゆる外交手段が尽くされるべきであること」です。日中相互への要望として、「中国は制裁をきちんと実施するとともに、6者協議で示されたような解決へのリーダーシップを発揮してほしい」、「日本は、北朝鮮との外交交渉に持ち込むため、経済的な見返りや協力のあり方を考えてほしい」といった発言があったことを明らかにしました。

0B9A5226.jpg 中国側の呉寄南氏(上海市日本学会会長)は、議論を通し、45年前の日中国交正常化の「初心」を忘れないことが、キーワードになったと報告。古い世代の指導者の政治的決断や戦略的思考を銘記し、未来志向で先を見据えた理念を持つことが、新しい時代における協力の前提になると語りました。

また、呉氏は、日中双方が利益を共有する点を拡大すべきだ、という議論があったことを紹介。この中で、藤崎氏と同様、日中が既存の国際秩序の受益者だという点で合意があったことに言及しました。北朝鮮情勢については、「日中で意見が一致しているとは限らない点もある」としたものの、「北朝鮮の核放棄を前提とし、外交によりいかに安全を確保していくか、という発想で政策を展開していく」点では日中の合意があったことを強調しました。


真の相互理解には、報道の「客観性」が重要になるとの認識で一致  ―メディア分科会

0B9A5256.jpg メディア分科会の報告を行った杉田弘毅氏(共同通信論説委員長)は、自身が参加した過去3回の同分科会と比べた「収穫」として、「これまでは日中のメディアの性格の違いを背景とした一方通行の議論が多かった。しかし今回は、互いの問いかけに答えるかたちで進めることができた」と語りました。

 杉田氏は、議論の基調となった今回の日中共同世論調査の結果について、「日本メディアの中国に対する一面的、画一的な報道が、中国人の対日印象に比べて日本人の対中印象の改善を遅らせている」という批判があったことを紹介。この解決には、日本メディアの特徴である「報道の自由」と「商業主義」の間で、どうバランスを取るかが重要になる、という日本のジャーナリストからの意見があったことを報告しました。また杉田氏は、今回日本側で新たに招いた、中国駐在経験を持つ記者らから、「自分たちは中国社会の変化を広く伝えたいが、東京の本社では国家としての中国の動きを重要視している」という悩みが語られたことを紹介しました。

 一方、後半では、ニュースの真実性との向き合い方や、AIによるニュース配信とジャーナリズムとの共存など様々な議題が出された、と杉田氏は説明。このようなニューメディアの台頭を背景にした問題は「次回の宿題となった」と総括する一方、会場で質問に立った学生の参加者から、「若者は、実はスマホだけでなく多様なメディアの、しかも深い分析を得たいと思っている」という発言があったことには、ジャーナリストとして勇気づけられた、と振り返りました。

0B9A5276.jpg 中国側の王衆一氏(人民中国雑誌社総編集長)は、世論調査で日中相互の印象が改善した要因を、国交正常化45周年の前向きな雰囲気に加え、トランプ米大統領の政策調整や安全保障情勢など国際情勢の変化に求める意見があったと紹介。一方、自国への脅威認識など北東アジアの平和に対する考え方について、日中間のギャップが依然として大きいことを指摘する声があったことを取り上げ、「真の関係改善にはまだまだ努力すべき」だと語りました。

 王氏は、報道の「客観性」や「信憑性」こそがジャーナリズムの命だ、という点で日中間の合意があったことを報告。それらを実現し国民間の信頼を深めるためのアイデアとして、相手国のニュースを自国メディアにも転載して報道するなど、日中のメディア間の共同作業が提案された、と説明しました。


朝鮮半島の非核化では一致するも、その手段では両国の様々な違いが明らかに  ―安全保障分科会

A30X1238.jpg 安全保障分科会について日本側の西正典氏(元防衛事務次官)は、「北東アジアの安全のため両国はどのような努力ができるか」という議論を進めたプロセスを紹介。具体的には、この地域の情勢を自国がどう認識しているか、どのような防衛政策をもってこれに臨んでいるか、そして地域の安全保障のフレームをどう考えているか、を両国が明らかにするという順序です。

 西氏は、この中で、北朝鮮の核問題がトップの関心事であるという点で日中の安全保障関係者が一致した、と紹介。北朝鮮の非核化という目標では一致しているものの、その方法論について、「より強力な制裁が必要」という主張が目立つ日本側と、「事態を打開するために北朝鮮との協議が必要」という中国側との違いが出ている、と語りました。西氏は、地域の安全保障の枠組みについても、両国の認識の相違が明らかになったと紹介。具体的には、中国側は「日米を中心とするアジア太平洋の同盟関係は冷戦時代の残滓で、排他的なものだ」と考えているが、日本側は「ポスト冷戦の状況下における地域の安定」で、同盟の貢献を重視している、と紹介しました。

0B9A5121.jpg 中国側の張沱生氏(中国国際戦略研究基金会学術委員会主任)は、まず北朝鮮問題を巡り日中で得られた共通認識に言及しました。「地域の平和秩序を擁護するために北朝鮮の非核化を目指し、日本側も核を持たない」、「圧力と同時に二国間、多国間の対話を模索し、また有事に備えた日中の連絡体制を整えるべき」といった点です。また、「北朝鮮の核への対応を、日中が安全保障面で協力を進める原動力にすべきだ」、という中国側からの意見が、両国のパネリストから広い支持を得たことも紹介しました。

 加えて、海洋の安全保障を巡り、「国際法に基づいて摩擦を解決しなければいけない」という合意点を紹介。しかし、その認識では日中間に意見の相違があるため、早急に対話を行って溝を埋めるべき、という声があったことを報告しました。また、日本側の一部から出された中国の海洋進出への懸念に対し、中国側は「もともと中国は陸と海が複合した国であり、経済成長に伴って海洋への展開を求めるのは必然だ。覇権を求めることは決してない」と説明した、と伝えました。

 また、アメリカを中心とする同盟と、中国との軍事的なバランスが崩れている、という意見があったことを報告。米中の関係改善に向けて防衛当局の対話を進めることが、地域のバランスを回復し、ひいては朝鮮半島非核化の努力にもつながると語りました。
 最後に張氏は、「安全保障は日中間で最もセンシティブな問題だが、だからこそ相手の立場を理解し、摩擦をコントロールし、協力を模索する努力が欠かせない」と述べ、報告を終えました。


「自由貿易とグローバル化の流れは変わらない」という認識で日中が一致      ―経済分科会

2.jpg 経済分科会で日本側の司会を務めた山口廣秀氏(元日本銀行副総裁)は、「時に激しいやり取りもあったが友好的で率直な議論が多角的に行われ、最終的には認識の共有が図られた」と総括。

 マクロ経済をテーマにした前半において、「心強かったのは、自由貿易とグローバリゼーションの流れは将来も変わらない」という認識が日中で共通していたことだ、と語りました。同時に、「より開放された経済秩序の維持発展を目指すべきであり、そのために日中がウィンウィンの関係を作ることが大事」というもう一つの合意点を紹介。一方、中国側から、「そのためには中国の経済規模、経済の実力を日本が適切に認識してほしい」という興味深い意見があったことも紹介しました。また、TPP、RCEPといった多国間の枠組みを巡り白熱した議論があったことを紹介。「条件にもよるが、中国もTPPに参加したい」との声が中国側からあった、と伝えました。

 ミクロ経済を議論した後半では、「一般論よりも企業レベル、実務レベルでの議論が重要だ」という強い主張が日中双方からあったと報告。日中の企業がさらに協力を進めることへの合意があった一方、中国側からは「日本はアメリカのように、もっと貪欲に中国の潜在力を活かすよう取り組んでくれないか」という面白い指摘があったことも紹介されました。

A30X1081.jpg 中国側の遅福林氏(中国=海南=改革発展研究院院長)は、世界でグローバリゼーションが直面するチャレンジについて、「古いグローバリゼーションは新たな問題を引き起こしている」という中国からの視点が示されたと紹介。同時に中国側からは、中国のグローバリゼーションにおける地位の向上、その中心に「一帯一路」構想が位置づけられていることを両国が客観的に判断し、協力の大前提とすべきだ、という意見があったことを紹介しました。

 続いて、山口氏と同様、TPPをめぐる議論が盛り上がったと報告。日中間の意見の相違として、「アメリカが脱退し、日本が主導するようになったTPPは従来のTPPとどう違うのか」、「アジア諸国にとって最大の貿易パートナーである中国が存在していないTPPには、現実性、有効性があるのか」といった点が明らかになったと伝えました。

 そして、日中の相互補完性、相互の市場への依存度がますます高くなっている点では日中が合意していると紹介。エネルギー、環境、医療、サービス業などで実務レベルの協力をどう進めるかが課題になっている、と述べ、中国はそのために様々な分野の自由化を促進している、と語りました。


国交正常化の精神を未来につなげるための様々なアイデアが出された  ―特別分科会

3.jpg 特別分科会に参加した福本容子氏(毎日新聞論説委員)は、「日中国交正常化の意義」、「日中関係の未来」という二つのテーマが一体化した議論になった、と総括しました。

 同分科会では、日本の記者として国交回復のための首脳会談に同行し、取材していたパネリストによる報告が行われています。福本氏は、この報告を受けた議論で、領土問題や戦後賠償の経緯を巡る日中の対立点が浮き彫りになったと報告。「何を情報源として主張を組み立てているかが日中で異なり、認識がかみ合わない」という印象を語りました。

 一方、日中の未来を考える上では、「民間交流の草の根が先行し、積み重ねが国を動かす」という理念のもと、分科会では、学生や学者、観光客、市民レベルでの交流について意見交換が行われたと報告。課題として、日本を訪問し日本文化に触れた中国人たちが中国の対日印象の改善に貢献しているが、日本人の対中訪問はそれほど進んでいない、という点を挙げました。

 また、「二国間の関係だけに気を取られていると、両国の違いばかりが見えてくる」という意見を紹介。自国第一主義が世界で広まっているからこそ、日中が普遍的なテーマで第三国への貢献を進めるべきだ、と語り、「一帯一路をグリーンベルトロードと位置づけ、環境に配慮した開発を行う」といった日中協力の具体的なアイデアが出されたことも紹介しました。


1.jpg 中国側の程海波氏(中日友好協会副秘書長)は、議論を通しての日中間の五つの合意事項を挙げました。第一に、国交正常化の初心を忘れず、四つの政治文書と四つの共通原則という原点に返ること。第二に、平和、友好、協力、ウィンウィンという精神を堅持すること。第三に、戦略的に相互信頼を作り出す条件として、各分野のハイレベルな往来を進めること。第四に、「民をもって官を促す」という伝統を踏まえ、大規模な民間交流を展開すること。第五に、両国民の共通の土台である東洋の倫理文化を共有すること、です。

 また、日本側から、「相互理解と相互信頼は国交正常化の基本的な精神であり、心と心の触れ合いの交流を促すことができる」という発言があったことを紹介。具体的な交流のアイデアとして「社会の弱者同士の交流」、「青少年の歴史教育や、両国の青少年が共に学び合う枠組み」など様々な意見が出されたことを紹介しました。

 最後に、国交正常化45年の今年、日中平和友好条約40年の来年は日中関係の重要な節目だが、そのためには世論のムード作りがまだまだ必要だ」と訴え、報告を締めくくりました。


ボランティア表彰式

 分科会報告に続いて、ボランティア表彰式が行われました。今回の対話では日本側だけで約100名のボランティアが参加し、早朝から深夜まで会場を駆け回って運営を支えました。

 全体会議の司会を務める青樹明子氏は「自然災害やオリンピックなど社会の重要な局面で最も力を発揮するのは、日本でも中国でもボランティアだ。今回の対話が成功裡に開催されたのは若いボランティアのおかげだ」という賛辞をもって、日中各4名のボランティアを壇上に招きました。

 そして、中国側を代表して李薇氏(中国社会科学院日本研究所元所長)、日本側主催者の工藤泰志(言論NPO代表)がボランティアたちに感謝状を手渡すと、日中双方の聴衆から大きな拍手が沸き起こりました。

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「共同作業」の覚悟を固める一歩になった今回の対話      ―閉会宣言

 2つの全体会議と5つの分科会でのべ20時間を超える議論が繰り広げられた今回のフォーラムも終わりを迎え、閉会宣言として、2005年に北京でこの対話を設立した言論NPOの工藤が登壇しました。

33.jpg 「この対話は毎回、多くの人の強い志で支えられ、ここまで大きな輪が広がった」と、工藤は13年間の歩みを振り返ります。「特に今回、議論の質や視野の高さが進化した」と話し、その理由として工藤は「世界が大きく変動し、アジアでも不安が高まっている。多くの人は、日中がいがみ合うのではなく、秩序や平和のために力を合わせることが不可欠と実感しているからだ」との見方を示しました。

 「習近平主席も言っているが、我々に問われているのは単なる協力でなく共同作業だ。その覚悟を高めるきっかけとして、今回の対話は新しい確実な一歩になった」と工藤は総括。フォーラムの原点である「両国が困難に向かい合い、未来のために課題を解決する」という決意を改めて示しました。

 最後に若いボランティアの活躍に触れて、「新しい世代とともに対話が動いている」と語った工藤。そして、「日中の新しい協力関係を作り上げるために、もう一歩の新しい動きを東京で作り上げる」と、来年、東京で開催予定の「第14回東京-北京フォーラム」に早くも視線を向け、13回目のフォーラムは幕を閉じました。


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