2008.1.18開催 アジア戦略会議 / テーマ「アジアの潮流(中国とインド)」

2008年1月18日

080118アジア戦略会議
 言論NPOのアジア戦略会議では現在、アジアや世界の中長期的な潮流と、その中から日本に問われる本質的な課題が何かについて、再検証の議論を行っているところです。2008年第1回目となる今回の会議は、ゲストスピーカーとして谷野作太郎氏(元中国日本国特命全権大使・元駐インド大使)をお招きして開催しました。谷野氏からは中国やインドを中心とした2030年頃までのアジアの大きな潮流についてスピーチが行われ、その後出席者の間では最近の金融経済情勢や洞爺湖サミットなどについて活発な意見交換が行われました。

谷野作太郎氏スピーカー:谷野作太郎氏(元中国日本国特命全権大使・元駐インド大使)

 谷野氏はまず、ご自身の駐在経験から中国とインドの両国を経済・社会の様々な側面から比較した上で、日本がこの両国といかに付き合うべきかについて指針を提示しました。

 中国は1978年、インドは1991年にそれぞれ経済自由化路線へと転換して以降、高いペースで経済成長を遂げてきました。今後もこの中国とインドの成長が持続し、2050年頃には両国がアメリカとともに世界の3つの経済大国の一員になるとの予測も行われています。この両国はいわゆるBRICsメンバーとして世界の注目を集めていますが、中国は製造業中心、インドはサービス業中心という産業構造の違いがあります。またインフラ整備に関し、中国においては共産党の一党独裁を背景に高速道路や電力網の整備が進む一方、インドにおいては各州の権限が強いがために全国的な整備が進みにくい状況があります。さらに、中国では言論の自由や三権分立が完全には確立されていない一方、インドでは言論の自由が保障され、高度な司法の独立が確立されているという違いも存在しています。

 このような中国とインドの多くの違いを指摘しつつ、世界の中で台頭する巨龍(中国)と巨象(インド)に日本がどう向き合うべきかについて、谷野氏はまずは日本国内の政治の正常化を図り、財政再建や少子高齢化への対応を進めるべきだと述べました。また、日本人の内向き志向を改め、外の世界に開かれたマインドセットを持つこと、英語能力や討論能力を磨いて対外発信力を強化すべきことを指摘しました。

 両国との個別の関係について、対中関係では日中間の貿易額がいまや日米間のそれを上回り、日本の対外直接投資先としても中国が1位となっているのに対し、対印関係については日印間の貿易額が2002年以降増加傾向にあるとしても、それは両国の経済規模に比べれば未だ限定的であると谷野氏は指摘しました。中国については、政治・安全保障面での透明性が低く、特に国防費が公表数字だけで中国が日本を追い抜くような状況であり、大国としての所作も未熟であることを懸念材料として挙げました。そして、対話を通じて日本が中国により透明性を求めていくことが信頼醸成の上で必要だと指摘しました。また、水資源不足をはじめとした環境問題の深刻化についても懸念を示し、この分野における日本の先端技術をもって日中共同の取り組みを推進していくことの重要性・可能性を指摘しました。


 その後、谷野氏と出席者との間では"開かれた日本"を作ることに関連して様々な議論が行われました。今夏の洞爺湖サミットについては、そこで日本が大きな得点を稼げるとは限らない環境問題に集中するのではなく、むしろ、金融をはじめとする最近の市場の情勢や世界経済の状況を踏まえたプラグマティックな議題設定を通じて日本がリーダーシップを発揮していくことの重要性についての認識が共有されました。


 アジア戦略会議では、今後も世界・アジアの潮流を捉えつつ、日本の課題とその解決に向けた針路を打ち出す議論を構築していきたいと考えています。


文責:インターン 山中浩太郎


今回の出席者は以下の方々でした。(敬称略)

福川 伸次
(ふくかわ しんじ)

機械産業記念事業団会長
元通産省次官

会田 弘継
(あいだ ひろつぐ)

共同通信社編集委員
論説委員

安斎 隆
(あんざい たかし)

セブン銀行代表取締役社長
元日本銀行理事

進 和久
(しん かずひさ)

ANA総合研究所顧問

添谷 芳秀
(そえや よしひで)

慶応義塾大学法学部教授
同大学東アジア研究所所長

横山 隆
(よこやま たかし)

三井物産株式会社
食料・リテール本部本部長補佐

深川 由起子
(ふかがわ ゆきこ)

早稲田大学政治経済学部
教授

松田 学
(まつだ まなぶ)

財務省(東京医科歯科大学教授)
言論NPO理事

工藤 泰志
(くどう やすし)

認定NPO法人 言論NPO代表

 言論NPOのアジア戦略会議では現在、アジアや世界の中長期的な潮流と、その中から日本に問われる本質的な課題が何かについて、再検証の議論を行っているところです。2008年第1回目となる今回の会議は、ゲストスピーカーとして谷野作太郎氏(元中国日本国特命全権大使