「2004.10.12開催 アジア戦略会議」議事録 page1

2004年11月19日

041012アジア戦略会議
2004年10月12日
於 日本財団会議室

会議出席者(敬称略)

松下和夫 (京都大学大学院教授)

福川伸次(電通顧問)
岩竹常博 (三井物産ライフスタイル事業本部長補佐)
周牧之 (東京経済大学准教授)
国分良成 (慶応義塾大学教授)
入山映 (笹川平和財団理事長)
大辻純夫 (トヨタ自動車渉外部海外渉外室長)
工藤泰志 (言論NPO代表)
松田学 (言論NPO理事)

福川 皆さん、おはようございます。今年度第3回のアジア戦略会議でございますが、今日は京都大学大学院地球環境学堂教授の松下和夫先生にお越しいただきました。環境の分野では第一人者でいらっしゃいまして、私も大変長いこといろいろお世話になった方でございます。東京大学経済学部ご卒業後、アメリカのジョンズ・ホプキンス大学大学院を修了されまして、1972年に環境庁に入られ、国連上級環境開発官として地球サミットの事務局などで活躍されました。その後、環境事業団の地球環境基金部長とか地球環境戦略研究機構副所長代行などを経て、2002年から京都大学の方で教鞭をとっておられます。また、現職として、そのほかに国連大学高等研究所客員教授、国際協力銀行環境ガイドライン審査役、財団法人国際湖沼環境委員会理事、全国市長会都市政策特別研究委員会委員、財団法人森林文化協会森林研究会幹事等々、いろいろな分野でご活躍でございます。

著書としては、「環境ガバナンス」が岩波書店から2002年に、「地球温暖化読本」が海象社から2002年に、そして「環境政治入門」が平凡社から2000年など出版をなさっておられます。

パワーアセスメントの一環として、環境問題というのも1つ重要な課題だということで、松田さんの方からいろいろご連絡をさせていただいて、快くお引き受けいただきまして大変ありがとうございました。そんなことで、これから松下先生に40分ほど環境問題の現状や、この分野での日本の将来の可能性についてお話しをいただきまして、その後、自由討議ということで取り進めさせていただきたいと思います。先生、今日はありがとうございました。どうぞよろしくお願いします。

松下 ただいまご紹介いただきました京都大学の松下でございます。おはようございます。

ご紹介いただきましたように、私は、もともとは環境庁で仕事をしておりまして、そのとき以来、地球温暖化問題を比較的フォローしておりましたので、今日は「地球温暖化問題と国際政治」という非常に大きい表題を付けさせていただきましたが、こういったことでお話しをさせていただきたいと思います。

現在、京都大学の大学院の地球環境学堂というところにおります。学堂というのは、よく名刺を渡しますと誤植ではないかと言われるのですが、これは中国の古典から採った言葉で、研究組織です。もう1つ、地球環境学舎がありこれは大学院生を対象とした教育組織です。さらに三才学林という交流組織がありこれらの名称が文科省に正式に登録して認めていただいております。

今日は「地球温暖化問題と国際政治」というテーマですが、2つ大きい課題があります。1つは、京都議定書を近々ロシアが批准しそうで来年早々にも発効する見通しになっています。それに対して日本はどういうふうに取り組むべきかという問題です。

もう1つは、実は京都議定書は地球温暖化対策の中では今後の長期的取り組みの中の第一歩で、議定書自体が対象とする期間は2008年から2012年、第一約束期間と言っておりますが、そういう期間を対象としており、それから先をどうするか。特に中長期、2050年あたりを目指してどういう目標を立てて、どういう取り組みをするかという国際的議論がこれから起こってくる。そういう課題に対してわが国はどう対応すべきか、という問題があります。

まず、地球温暖化問題の現況ですが、世界の自然科学・社会科学者も含めた学者、政府関係者が集まって、IPCCという気候変動に関する政府間パネルという国際組織があり、ここで地球温暖化問題の科学的なメカニズム、影響、対策を議論しています。これがこれまで条約交渉や議定書交渉の科学的基礎を提供してきました。

IPCCはこれまで3回レポートを出しており、第1次レポートが1990年、第2次レポートが1995年に出ています。最新のレポートが2001年の9月に発表されたものでその概要をここに書いておきました。現在の科学者のコンセンサスとして、現在の状況が続けば、2100年、すなわち100年後には地球全体の気温が1.4度から5.8度ぐらい上昇する。さらに異常気象が頻発し、ある地域では洪水が起こりある地域ではより乾燥する。水不足や台風が頻発する。農業生産にも影響が出たり、地球全体の海面上昇も予測されるなど深刻な影響が警告されています。

このような影響は地球全体に均一に起こるというよりは、むしろ生態系として非常に弱いところや、特に対応策が難しい開発途上国、バングラデシュであるとか、エジプトであるとか、あるいは小さい島国、そういったところが影響を受けると言われております。

また健康に対する影響も起こり、たとえば現在は熱帯地方だけにあるマラリアとかデング熱などの熱帯性伝染病が温帯地域まで広がる、あるいは世界的な水不足や食糧危機が起こるというような非常に深刻なことが警告されています。

ただし、ポジティブな面としては、現在ある実用可能な技術をうまく組み合わせて使えば、経済にあまり悪い影響を与えずに、温室効果ガスを相当程度削減することは可能であるという評価もしています。

このような予測が一方であり、他方最近の気象状況などを見てみると、非常に異常な事態が起こっている。昨年はヨーロッパを熱波が襲い、トータルで3万5000人ほど死者が出たと推計されています。フランスでは摂氏40度以上の日が続いて、特に老人の方などが、パリなどでは冷房が家庭に入っていませんので、体温が上がってしまい手遅れになって死んだ人がたくさん出ています。スペインやポルトガルでは大規模な山火事も頻発しました。

一方で、あまり報道されていませんがインドなど開発途上国でももっといろんなことが起こっております。インドでは去年の5月には45度以上の高温で1600人が死亡したという報告もされています。

WHOの推定によると、気候変動によって2000年だけで15万人死亡し、30年後にはこの死者が倍増すると言われています。

今年の日本は歴史的な暑さにみまわれ、さらに異常な数の台風が上陸し損害保険会社の保険金支払いも非常に高くなっています。カリブ海やアメリカのフロリダなどにもハリケーンが多数襲っていますし、中国でも洪水が起こっています。気象学者によると、こういう異常気象をただちにIPCCが予測する地球温暖化が原因であると結び付けることはまだ難しいようですが、いわばIPCCが予測している異常現象を先取りして体験しているような気がします。

このような状況に対して国際社会はどういう取り組みをしているか。今から7年ほど前に気候変動枠組み条約第3回締約国会議(COP3)が、京都で開催され京都議定書が採択されています。これは、地球温暖化対策に関する現在ある唯一の実質的な義務を定めた拘束力を持つ国際的な約束です。先進国に対して温室効果ガス(グリーンハウスガス)の抑制に関する、数値目標を定めて、1990年と比べて2008年から2012年までに例えば日本は6%、アメリカは7%、EUは8%、先進国全体で5.2%削減という目標を定めています。その仕組みとして、各国で削減の補完措置として、国際的に削減量や削減事業の一種の融通を認めることにより、より経済的かつ効率的に削減することも可能とされています。もれは、排出量取引、共同実施、クリーン開発メカニズムとよばれるものです。

京都議定書は、排出削減義務は先進国(OECD諸国、旧ソ連、東ヨーロッパ諸国など)が対象となっていますが、開発途上国に対しては排出抑制の義務は盛り込んでいません。現在、124カ国とEUが批准しています。京都議定書が発効する要件は、55カ国以上が批准することと、先進国の排出量の55%を占める国が批准をするこです。ところが、2001年にブッシュ大統領が京都議定書から脱退を発表しました。、アメリカが先進国の中で排出量36%を占めているので、17%を占めるロシアが批准しないと発効しないという状況になっていますそのためロシアの状況が非常に注目されていましたが、今年の9月30日にプーチン大統領が指示をして、閣議で批准する法案を決定した。それが今、議会に出されていまして、議会は与党が多数派ですから、今年中には恐らくロシアも批准することが見込まれています。ロシアが批准してから90日後に議定書は発効するので、来年春までには発効するのと見込まれています。

京都議定書が発効すると京都メカニズムも動き出し、先進国同士が共同で事業を実施する共同実施(投資した国がその結果として削減された排出削減量を目標達成に利用できる制度)、クリーン開発メカニズム(先進国が途上国の温室効果ガス削減プロジェクトに投資するメカニズム)、排出量取引などの仕組みが実際に動き出します。、京都議定書はロシアが批准すれば京都での採択後7年を経やっと発効することになったわけです。

京都議定書はやっと発効する見通しになりましたが、京都議定書に対してはいろんな異見があります。「異なる見方」と書きましたが、私の見方と違うという意味でこういう字を書かせていただきました。まずアメリカが参加しない京都議定書は無意味ではないかという議論があります。アメリカは、実は気候変動に関する国際的交渉にずっと積極的にかかわってきましたし、むしろ先ほどの京都メカニズムなどもアメリカの提案で出たものです。アメリカ自身も積極的に関与し国際社会が10年以上かけて積み上げてきた交渉をいわば自ら否定する形になり、アメリカが参加しないのはアメリカ自体の問題だと思います。ただし、アメリカが参加しないと確かに効果が十分ではないので、今後どういう形でアメリカの参加を求めていくかという議論は必要です。

また京都議定書が途上国に対して義務を課していないのはおかしいのではないかという議論があります。しかし、これは交渉の経緯を見ると、気候変動枠組条約の第1回締約国会議がベルリンで開かれ、そこでベルリンマンデートという決議がされ、まず先進国が先に対策をとり、それから後で途上国の取り組みを検討するという「共通だが差異のある責任」という地球環境問題について国際的に受け入れられている考え方を適用し、まず先進国にだけに義務を課す組むということが合意されています。したがって途上国にどういう削減目標を課すかはこれから(京都議定書以降)の課題です。

京都議定書の目標時期が短期的過ぎるのではないか、地球温暖化は長期的課題であるから、もっと長期的見通しが必要だという議論もあります。まさに京都議定書は第一歩ですので、第一歩の課題に確実に取り組みながら、次の先を見通した議論をしていくというのが議定書の考え方です。

日本は既にエネルギー節約等を相当厳しくやっているので、日本にとって目標が厳し過ぎるのではないか、不平等条約ではないかという議論もあります。しかし交渉の過程でかなり日本の言い分も取り入れられて、例えば森林吸収に対する3.9%という枠を認められている。さらに今後、長期的に脱温暖化すなわち化石燃料に依存しない社会をつくっていくということを考えると、今後の経済社会を変革していく上での1つのチャレンジとして受けとめていくということが必要ではないかと思います。

次に、各国の状況につき簡単に紹介します。アメリカは、ブッシュ政権になってから京都議定書から脱退しました。ただ、気候変動枠組み条約という親の条約の枠組みにはとどまっています。それで、ブッシュ大統領も独自の目標を掲げている。これはGDP当たりの温室効果ガス(炭素集約度)を2012年までに18%下げるという目標を掲げています。これは非常に大きな削減に聞こえますが、実は、これはGDP当たりですので、GDPが毎年3%成長するとすれば30%ぐらい増えるのでCO2は実質的に結果的には10数%増えることを認めた目標です。GDPとCO2排出量の関係は、産業構造が変わり、知識集約型産業になりますと傾向的に下がっていきます。したがってブッシュ政権の目標は余り厳しくなく、むしろ排出拡大を許容する目標です。

一方アメリカでは従来から技術開発に力を入れています。また企業の経済活動をできるだけ制約せずに自主的取り組みを推奨し技術開発を推奨しています。特に水素経済(ハイドロジェンエコノミー)、あるいはCO2を固定化(炭素隔離)などの分野で国際的イニシアチブをとっています。あと石炭のクリーン・コール・テクノロジーにも力を入れています。

国際的な取り組みとしては、国連という枠を余り重視せずに、むしろ各国と2国間で、あるいは数カ国で協調関係を結んで進めていくというやり方に重点を置いています。

ブッシュ政権はこのようなアプローチですが、実は州レベルでは独自の取り組みが活発にさています。例えばカリフォルニア州では自動車燃費の30%改善を求める、発電所に対する排出規制をするというような取り組みがされています。カリフォルニア州は非常に大きな州で、自動車のマーケットとしても非常に広大ですから、カリフォルニア州が規制を導入すると、自動車メーカーとしては、カリフォルニアだけに対して独自の仕様というわけにいきませんので、実質的には全米に対して同じ基準を適用するということになります。

さらにテキサス州や東部のニュージャージー、ニューヨークなどの州では独自の温室効果ガス対策を導入しています。

加えて自治体や企業の独自の取り組みが行われ、シカゴの商品取引所では温室効果ガスの排出量取引も始められています。そういう企業レベル、自治体レベル、あるいはNGOレベルでの取り組みは、アメリカは非常に懐が深い国ですので、幅広い動きがあります。

議会でも上院でリーバーマンとマッケイン議員(リーバーマンは前回の選挙で民主党副大統領候補、マッケインも共和党で大統領の有力候補とされていた)が、アメリカ全体で温室効果ガスに上限を決めて、それで排出量取引をするという法案を昨年末に共同で提出しました。上院は100名の定足数ですが、そこで43票の賛成を得て、55票反対でした。意外に支持が多かったのです。リーバーマン、マッケインは、これであきらめずに、さらにもう少し法案を変えて多数派を獲得すべく働きかけようとしています。下院でも同様の法案が出されています。

大統領選が近々実施されますが、環境自体がメインのイシューではないもののブッシュとケリーでは明らかにポジションが違います。ケリー候補の方は、再生可能エネルギーの拡大や国際的な協調を主張しています。ただし、ケリー候補が大統領になったから直ちに京都議定書に復帰するということではなくて、むしろ京都議定書の先を見通した国際協議にアメリカは積極的にイニシアチブをとっていこうというポジションであるように思われます。

最近、政策研究機関同士のレベルで日米の共同ワークショップなどが開かれていますが、そういったところでの議論を見ると、アメリカ側としては、日本が京都議定書のもとで技術開発を実現したり、あるいはアメリカよりも温暖化対策で先を行くことに対して懸念しています。したがって逆に日本が有効な削減対策を先に進めることがアメリカの取り組みに対するプレッシャーになるといえます。

次にそれからイギリスです。イギリスはEUの一員として京都議定書を批准し、EU全体の目標は8%削減ですが、イギリスは12.5%の削減を引き受け、その削減量をほぼ達成しています。気候変動税という一種の炭素税を導入し、企業と気候変動協定を結び、国内で、これは世界最初の排出量取引制度を導入しています。このような新しい政策を組み合わせることによって成果を上げています。

昨年の4月にはエネルギー白書が閣議で決定されています。この中で2050年までにCO2を60%削減するという非常に野心的な目標を出しています。今年の9月14日にブレア首相が気候変動の重要性についてスピーチをし、その中でイギリスは京都議定書の達成に向けて順調に成果を上げていること、さらに2050年までには60%削減することに挑戦するということを言っています。さらにいわゆる低炭素社会(CO2を減らす社会)に向かうことによって大きなビジネスチャンスがあると言っています。

来年のG8サミットはイギリスがホストをしてスコットランドで開催されますが、ブレア首相は気候変動を主たるテーマにすると明言しています。G8のサミットで気候変動に関する科学あるいは技術、対策を加速するためのプロセスについて合意したい。そして中国やインドなども巻き込んだ取り組みをしていきたいと言っています。

次にドイツです。ドイツもEUの主要国として、ドイツ自身は22%削減というEUの中で一番大きい削減を背負っております。その削減を18%まで達成し、もう少しで達成できるという状況に達しています。ドイツで特徴的なことは、いわゆる自然エネルギー、特に風力発電などが急速に増えており、2003年の末で1340万キロワットになっています。これは風力発電、太陽光などの自然エネルギーを電力会社が固定価格で買い入れるという制度を91年に導入し、それがきっかけとなって急激に増えてきました。最近では条件のよい陸上での風力発電のコストが下がってきたので少し改正し、洋上風力に力を入れるとともに太陽光発電について買い上げ価格を高くして優遇しています。現在、ドイツでは太陽光発電のブームになっており、日本のシャープ、京セラなどのメーカーは、日本で売るよりむしろヨーロッパで売ることに力を入れている状態です。すでに電力の10%が自然エネルギー起源になっています。

ドイツでもイギリスと同じように環境税を導入し、気候変動に関して産業界と協定を結んでいます。さらにドイツのイニシアチブとして、今年の6月に「Renewable2004」と題した自然エネルギー国際会議を開催したことがあげられます。これは2年前にヨハネスブルクで開かれた持続可能な開発に関する首脳会議(WSSD)でシュレーダー首相が約束した会議です。この会議は自然エネルギーに関する閣僚級国際会議としては世界初で、154カ国から3600人以上が参加し、自然エネルギー市場発展のための政策的枠組み、資金調達、人的制度的能力向上、研究開発などがテーマとなりました。中国やフィリピンなどの途上国も含め、多くの国が自然エネルギーを画期的に増やすことにコミットしたことも注目されます。

ドイツの連邦政府の諮問委員会、ですからこれはまだ政府の決定というわけではありませんが、その報告書でCO2の排出量を2050年までに45%から60%削減するという目標を出しています。

次はロシアです。ロシアはずっと京都議定書に対して批准をするかどうか世界中から注目を集めていましたが、やっとプーチン大統領のイニシアチブで、批准を閣議決定し、議会での決定を待っているという状況です。従来から産業界や地方の指導者などは、共同実施などによってヨーロッパあるいは日本から、投資や技術移転に期待をしていました。

ロシアは、京都議定書では1990年と比べて2008年から2012年までに温室効果ガスを横ばいにすればいいという目標ですが、90年以降の経済的混乱によって古い工場などが閉鎖されたこともあって、努力しないでも30%ぐらい減っています。そうすると温室効果ガスが見かけ上削減されているので、それをほかの国に対して売ることができます。

今回、京都議定書の批准に当たっては、WTO加盟交渉でEUから譲歩を勝ち取ったということも報道されています。恐らくアメリカとEU相互から働きかけがあって、ロシアとしては国益を最大化すべく交渉していったのです。今後、天然ガスや石油の需給がタイトになってくるので、ロシアがエネルギー供給大国として、気候変動も絡めてどういう戦略を取っていくか非常に注目されています。

EUでは、EU全体としてEU共通気候変動政策をとっており、来年の1月からEUワイドの排出量取引制度が導入されます。これはEUの中だけが対象ですが、ほかの制度ともリンクすることが可能で、ノルウェー、アイスランド、スイスも加わることが決まっています。それから、カナダも加わるべく交渉しています。排出量取引制度は、マーケットが大きくなればなるほどスケールメリットが出るので、より広がっていく。EUの戦略としては、EU制度の国際制度化を狙い、より幅広いコアリッションをつくっていくと見られています。

EU加盟国もEU15から25に増えて、その影響力がだんだんと広がってくる。ただし、国の数が増えると、気候変動政策自体の多様化ということもあるので、EU拡大がどういった影響を与えるかということは今後非常に注目されます。またEU全体としては非常に高い自然エネルギー目標をつくっております。

先ほど紹介しましたドイツが主催した自然エネルギー2004国際会議では、中国や、フィリピン、ブラジルなどの開発途上国も自然エネルギー拡大についてコミットし、中国が2015年までに電力の10%を自然エネルギーにする。フィリピンは地熱発電大国ですが、2013年までに倍増するというように、開発途上国も自然エネルギーに対して大きくコミットしています。そうすると、増大する自然エネルギーの投資に対して、どこから資金を調達するか、あるいはどういうふうに技術を移転するかという新たなマーケットの拡大が予想されます。

次に日本です。日本については、2002年に地球温暖化対策大綱ができ、京都議定書が締結され、現在、大綱の中で、ステップ・バイ・ステップ・アプローチで第1ステップの見直しをしているところです。大綱が有効かどうか。これは各省の審議会などでレビューをしていますが、残念ながら、これまでのところは京都議定書の達成が非常に難しいという評価です。原発は増えず、石炭火力が増えています。

6%削減の内訳については、エネルギー起源、それ以外の温室効果ガス、技術開発、代替フロン、森林吸収、京都メカニズム、これらの対策を積み上げて6%削減という内容になっています。

次のグラフは、2000年の段階で1990年と比べて8%温室効果ガスが増えてしまっている。それからさらに6%下げるので、14%ぐらい下げる必要があるという状況です。2002年の最近のデータでも7.6%ぐらい増えており、状況はあまり変わっていません。したがって、現状では京都議定書達成は非常に困難であるという評価です。

それではどうするか。中央環境審議会では、温暖化対策税、排出量報告の義務付け、国内排出量取引制度の導入、それから、現在経団連等が自主的取り組みでやっていることを政府との協定化するというような提案をしています。ただし、これに対しては、経済界などは非常に慎重な態度、反対をしているという状況です。あとエネルギー転換、京都メカニズムの活用、森林吸収源対策が出されていますが、いずれも難しい内容を含んでいます。経団連の方では、自主的取り組みと技術開発を中心とした取り組みでやるべきだと言っていますが、それだけでできるのかどうかという問題があります。

これまで見てきましたように、京都議定書自体が間近に発効を控えて、その達成が難しいという状況で 、一方で長期的に考えると、気候変動枠組み条約では、究極的目標として、温室効果ガスの濃度を安定化するとしています。

これはどういうことかというと、大気中に排出される温室効果ガスと吸収される量をいずれかの時点で均衡させなければならない。ですから、出した分だけ吸収される、あるいは吸収される分しか出してはいけないということになるわけです。非常に単純化しCO2だけにしますと、現在、人為的活動で出されているCO2は炭素換算で63億トンで吸収されているのが31億トンです。ですから、32億トン、半分以上吸収する必要がある。先進国がより責任が大きいということを前提とすると、先進国は60%とか80%、ある段階で削減をする必要があるという計算になるわけです。

そういうことから比べると、現在、先進国全体で5.2%下げようとしている京都議定書は非常にささやかな第一歩である。そういうこともあり、EU諸国では、2050年に温室効果ガスを45%から80%削減する国家計画を検討したり発表したりしているわけです。

京都議定書以降をめぐって大西洋を挟んだ一種のトランス・アトランティック・ライバリーすなわち、アメリカ的アプローチとEU的アプローチがいわば競争している、リーダーシップを争っている。それから、開発途上国をどう取り組むか。開発途上国は、むしろ気候変動による影響をどうやって緩和するか。異常気象や海面上昇だとか、そういう影響を受けるということで、適応策に対して先進国の支援を求めたり、あるいは技術移転を求めている。そういう途上国の関心に対してどう対応していくかという問題があります。

日本はどうするか。米国型のアプローチ、EU型のアプローチがあって、EUは京都議定書について排出量取引というものを制度化して、それを各国に対して下ろしていって、各国はさらに企業団体に対して取り組みを求める。そういう短期的取り組みと中長期的取り組みを組み合わせたやり方をしております。アメリカは、技術開発を重視して、国際協力はバイラテラルで、あまり国連を重視せずに、幾つかのやりやすい国で集まって進めていこうということです。

日本の場合は、まず京都議定書というものに対して真摯に取り組むことが必要です。また国連というフレームワークを通じて取り組むということが、日本の外交力が試される場であすし、そういう努力をする。それから、アメリカとヨーロッパのアプローチに対して、日本の特性を生かし、積極的に日本が取り組むことがアメリカに対する働きかけになります。また、開発途上国の関心をくみ上げる形で国際的枠組みをつくっていくことに対してリーダーシップを発揮していくという必要があります。

全体として、現在の日本の議論で欠けているのは、長期的な脱温暖化社会へどう向かうかということについて、確固たる目標がまだできておりません。また根本的な政策転換であるとか、技術的・社会的革新を促進するリーダーシップとその具体的政策措置が欠けています。

地球温暖化を1つの契機として、将来への明確なビジョンを打ち立てて、そのビジョン達成のための政策とスケジュールを明らかにしていく。

一方、地域レベルでは、地球環境問題を1つのきっかけとして、地域の産業を振興するとか、あるいはまちおこしだとか経済改革だとか雇用確保をしていくべきです。

らに、環境保全型税財政改革が必要です。すなわち政府を通じたお金の流れを環境面からエコロジカルにしていくということです。

 日本の強さだとか弱さ、あるいは国際的な状況の中で日本はいかに進むべきかについて明確なに答えを出していないわけでありますが、現在の各国の状況などを報告することによって議論の参考にしていただければということで報告させていただきました。ご清聴ありがとうございました。

福川 どうもありがとうございました。非常に緊急な課題ではあるが、なかなかアプローチが定まってこない。国によって非常に違いがあるということですし、日本のパワーアセスメントの中で一番得意としてきた公害防止なのだけれども、世界で日本の存在感というのはあまりできていないという状況で、この問題をどう扱っていくかというのは非常に重要な問題だと思いますが、その問題点をよくお話しいただいたと思います。ありがとうございました。それでは、あと数十分ございますので、ひとつぜひご意見、ご質問をお願いいたします。

発展途上国のことをあまりお触れにならなかったのですけれども、中国、インドというのが課題ですけれども、それについては日本としてはどういうことをすべきだということになりますか。そのほかの発展途上国でも、インドネシアなんかもまた大変なことになるし、アフリカはこれまたうんと大変ですけれども。

松下 先日、外務省が主催して地球温暖化対策の非公式会合が東京で開かれておりますが、そこでの報告などを聞いてみますと、先ほど言いましたように、中国あるいはインドなどでも、温暖化対策、削減対策を含めて注意深く取り組んでいきたいと言っております。それから中国、インドなどは、1つは地球温暖化に関する技術の移転であるとか投資の移転に対する期待が非常に大きい。それから、より影響を受ける脆弱な開発途上国は、地球温暖化による適応策に対する支援を求めている。京都議定書は、実はアダプテーション(適応)ということが入っていません。先進国に対して温室効果ガスの削減を求めていますが、途上国が一番被る地球温暖化の被害に対する適応であるとか、あるいは対応、それに対する支援策ということが盛り込まれていないので、そういったことに対する期待が非常に強いと言えると思います。

 3つばかり質問したいのですが、第1番目は、アメリカが京都議定書を離脱した本意はどこにあるのか、その背景をもう少し説明していただきたいなと思います。

2点目は、日本の原発政策がこれからどういうふうに展開していくかということを紹介していただければありがたいなと思います。

3点目は、太陽エネルギーの進展。コストは今、石油火力と比べるとどれくらいまだ差があり将来いつごろ追いつくのか。この辺の進展を教えていただければありがたいなと思います。

松下 アメリカの京都議定書の離脱ですが、ブッシュ大統領が離脱したときの演説においては、京都議定書は根本的な欠陥があると言っています。特にインドや中国を念頭に置いていますが、開発途上国に対して温室効果ガスを削減する義務が課されていない。2点目は、アメリカ経済にとって非常に悪い影響がある。それは第1点と関連しますが、途上国に対して義務が課されていなくて、アメリカの産業に義務が課されると、国際競争力が失われてアメリカの経済にとって不利である。最近のブッシュ大統領の演説などを聞いてみても、やはり京都議定書はアメリカの労働者から職を奪うのだという言い方をしています。

日本の原発政策については、福川先生のご専門ですが地球温暖化対策大綱の中では、安全性に最大限の注意を払いながら原発を拡大するということになっています。ただ、現実問題として、当初計画していた14基が現在では3基ぐらいしか拡大できないだろうということで、温暖化対策として想定していた原発の拡大が現在のところはできていない状況です。長期的には個人的な意見として最終的にはいわゆる再生可能エネルギーを増やしていくべきだと思っています。

最後の太陽エネルギーですが、これは、これまではNEDOによる補助金があって、個人が例えば家庭で導入しようとするときにNEDOを通じて政府から補助金があったり、自治体から補助金があったりして、それで設置費用の相当部分が補助されていて、自分で設置して電力会社に買い取ってもらって、30年ぐらい設置しておくと一応元が取れる。それでも個人の持ち出しでかなり広まってきたわけですが、どうもだんだんと補助金も削減されてきているということで、来年度以降その補助金が維持されるかどうか分からないと聞いております。

もう1つは、電力会社が太陽光発電による余剰電力を実質的に買い取ってきたわけですが、これもどうなるか保証はない。したがって、まだコスト的には非常に高いので、コストだけを考えると、まだまだ太陽光発電は非常に厳しい状況にあります。

ただし、日本は世界全体で、PVパネルメーカー、京セラとかシャープとか、太陽光発電設備の生産では世界一のシェアを持っている。それから、設置台数でも現在のところ世界第1位です。先ほど紹介しましたが、ドイツでは、新しい再生可能エネルギー法で、個人が例えば太陽光パネルを設置して、それによって電力をつくって売った場合には非常に高い価格、たしかキロワットアワー当たり60円ぐらいで買い取ってくれる。そうすると、十分採算がとれるので、今、設置ブームになっています。これは韓国でも同じことが起こっていまして、お金のある人はどんどん太陽光発電を導入する。そうすると、こういう政策的な措置によってマーケットが広がって、さらにコストがダウンできることになります。

日本は、これまでは補助金で世界をリードしてきましたが、その補助金自体がどうなるかという状況、それから電力会社が買い取ってきたのがどうなるかということで、来年以降どうなるかは非常に不確定な状況です。ただ、ヨーロッパとか一部のアジアの諸国、韓国などではマーケット的に広がってきているという状況です。

 向こうでは政策的につくり上げたマーケットが広がってきたということですか。

松下 価格を固定して買い上げる制度ですので、投資をする方から言うと、例えば風力発電所を設置すると、設置費用が幾らで、電力はどれだけ発電されて、それを買い取ってもらうと幾らで売れる。そうすると、費用が回収できるかどうか計算できますので、例えばドイツとかデンマークでは、農家の人だとか、あるいは協同組合で設置して、それで電力を売って成り立つという仕組みができている。

松田 2つありまして、1つは、このペーパーにも、自然エネルギーが分散型社会あるいは自立型社会に適合したエネルギー体系であると書かれています。私、今ある地域振興の仕事もしているのですが、実際、風力発電というのは供給も非常に不安定でして、コストも高い。あるいはバイオマスとか、いろんな実験もやっているのですが、あれも、どちらかというと、より大規模にやらないと、なかなかコストが実用化できるところに至らない、むしろ当面は集中させて中央集権的にやらないとコストもなかなか下がらないという問題もあって、そことの間のジレンマに結構悩んでいるようにも思うのですが、自然エネルギー、循環型エネルギーというのは、いわゆる地方の自立にとってプラスなんだということをどうやって説明するのか、説明の仕方に少し悩んでおります。それをどうやって説明したらいいのかというのが1つ。

もう1つは、主査としての立場なのですが、このアジア戦略会議の全体の議論の流れの中で、将来の日本ということを見据えたときに、日本が環境分野でどういう強さを将来にわたって持ち得るのか。私どもはパワーアセスメントの作業をやったのですが、圧倒的に強いということでは、環境分野における日本の先進度は非常に高い。しかしながら、いわゆる循環型社会への転換をしていくというイニシアチブ、それを環境分野についての強靭性としてみなせば、日本の強靱性はそれほど強くない。一方で国際的影響力についても、先生から以前聞いたお話では、アジアの周辺諸国との間の政治的な問題が非常に難しいので、アジアとの環境協力が非常に難しい。そういった地域を隣に抱えているというのは日本の弱さであるという点から、これもそれほど強くないという形にしました。

一方で戦略的重要度については、有識者に対してアンケート調査を行いましたところ、環境というのは戦略的重要度が極めて高い分野だというのが有識者の意見でした。ただ、私どもは環境についてそれほど重要かどうか、少し戸惑いがございまして、重要度はあえて中程度というふうに置かせていただいて、そこに少し違いが出ました。しかし多くの有識者が環境を非常に重視している。地球環境問題が日本にとって最重要戦略分野であるという結果が出たということも踏まえまして、今回お話を聞かせていただいたのですが、もしそうだとするならば、環境の分野につきまして、日本独特の強さを生かして、あるいは弱さを克復して、日本がどのような30年後の日本のビジョンを形成していくかという点について、一義的に答えは出ないかもしれませんが、先生の個人的お考えでも結構ですから、お聞かせいただければと思います。

松下 いずれも重要な問題ばかりです。最初の自然エネルギーが地域分散型であるか、あるいは自立型であるかということでありますが、現状の日本を考えると、なかなかそうなりにくいということはご指摘のとおりです。例えば、風力だとかバイオマスにしても非常に不安定でありますし、電力会社の配電、系統連系というのでしょうか、そういった連系をどうするかとか、そういう技術的問題があって非常に難しいというのはおっしゃるとおりだと思います。

ただし、今、系統連系についていろいろ検討されているようですし、デンマークなどの例によると、風力発電所を地元の住民、農家だとか、あるいは協同組合で所有している例が非常に多くて、風力発電所の過半数は地域の所有です。そうすると、地域で管理して、労働力も雇用して、地域に利益が還元されるということです。いっぽう例えば風力発電所をつくるのでも、東京の資本が例えば北海道へ行って、外国から輸入した発電機を設置して置いておくというだけだとあまり地域とは接点がないわけです。理想的には、いわゆる中山間部地域で風がたくさんあって、利用されていない森林があって、川があるとか、そういうところを一種の自然エネルギー基地として、地元で雇用して、地元の技術を生かして、人も資金も資源も地元で循環するという形ができればいいと思っています。

例えば岩手県などは、そういうことを目指して、知事さんをはじめとして、葛巻町という町がありますが、自然エネルギー100%の町をつくろうとしているのですね。ですから、現状において自然エネルギーが自立的であり、地域分散型で循環型であるかどうかは、確かに現在の制度を前提にすると難しいと思いますが、そういうことができるような仕組みをつくっていくべきというのが私の気持ちです。

環境分野で日本はどういう強さがあるかということですが、例えばトヨタのハイブリッドカーは、現在アメリカでは、買いたいという希望者がいても、それが半年とか1年待たなければいけないぐらいということで、新しい低公害車あるいは省エネカーへの需要が非常に大きくなっていますし、いろんな分野における省エネは依然として日本が優れていますし、個々の技術においては非常に強い分野がある。それをどうやって組み合わせてシステムとして強くしていくかが課題です。

ODAの分野でも、日本は依然として世界に冠たるODA供与国ですので、ODAと組み合わせて、例えば先ほどのCDMであるとか、途上国との環境協力の中でODAを活用するということをもっと考えていくべきです。

中国についても、もちろんエネルギーの需要はどんどん増えているわけですが、中国の当局者の方でも、現在の発展のパターンでずっと行けるとは考えていない。ですから、そういうところに対してどういうふうにして日本の経験なり技術を生かして協力できるかというところが非常に大きい課題だと思います。

国分 勉強させていただきまして、ありがとうございました。きょうは早めに行かなくてはいけないものですから質問だけさせていただきますが、まず1つは、例えば2050年というと、われわれはいないわけです。恐らくブレアさんにしてもそういうことが言えるかもしれない。つまり、その辺の切迫感というものをどういうふうにわれわれが共有できるのかという部分なのですけれども、恐らく自分が今生きている間はいいだろうという感じで考えている人が実際のところは比較的多いわけです。

そうすると、その辺の切迫感は、例えば教育とか、いろんなものがあるのでしょうけれども、最初に例を幾つか出されましたけれども、こういう異常気象みたいなものがまさにこの問題に直結しているのだという因果関係や相関性の解明とか、その辺のところが恐らく一番重要になってくるのだと思いますが、その辺はまだ明確になっていない部分があると思います。自分の子供に影響が及ぶというような切迫感みたいなものがどこかに欠けている部分があるかなという感じがします。

2つ目は、それとも関係がありますけれども、地球環境学堂というのを京都大学でつくられたそうですけれども、環境問題というのはいろんな問題に波及するわけですから、エネルギーの問題もあれば、まさに地球学というか、気象の問題もあるでしょうし、経済学もあれば行政学もあれば、いろんな問題が全部学際的になっていくわけです。そういう学問が日本の中でどういう位置を占めているのか、あるいはそういう分野の対話がきちんとでき上がっているのか。やっているのはわかっているのですが、だれがそのイニシアチブをとるのか。例えばドイツとか、あるいは海外では、そういう学問体系みたいなものができ上がりつつあるのか、その辺、学問体系としてどうなっているのかを聞きたいというのがあります。

3点目は、京都議定書自体、何となくいろいろ聞いているとあまりいい話を聞かない。それ自体を1つの目標にはみんな設定しているようですけれども、これが実現できるという話はほとんど聞かない。そうなってくると、これに対する強制力とか管理の問題とか、あるいはこれに替わるもの、それにそういうものを地球全体の中で誰がリーダーシップを握っていくのか、またその辺のテーマがあったときに日本は何をやるべきなのか、こうしたところが少しまだ明確になり切れていない部分がある。

第4点目になりますけれども、例えばドイツに行くと、まず自分が何党の支持かと言うわけです。私は社会民主党の支持だ、あるいはキリスト教民主同盟と。それを前提にして、結局、国内論争になってしまう。つまり、環境問題というのは、日本の場合は、今どうしても官僚主導にならざるを得ない状況があるのですけれども、本来は政治の問題であるのだと思う。日本の選挙を見ていても、全員が環境問題と言っている。しかし、その取り組みだとか、そのスタイルだとか、方法だとかは絶対違うはずなのですけれども、それを言っておけば聞こえが非常にいいということで、みんな使う。その辺の政治の論理は、どうせ日本にはそういう政治文化がないのですけれども、政治と行政と実際の運営の部分と、多分、日本の場合、まだ政治の力が弱いのかなと思いますけれども、その辺はいかがでしょう。

つまり、アメリカでも民主党と共和党になれば、どっちがなったらどうなるという話になるわけですから。日本の場合だと何となくこの辺が不明確。もともとそれ以外の分野でも全部そうですけれども。そんなことを少し考えてみたのですけれども、いかがですか。

入山 ついでにつけ加えて2つほど。ご一緒にお答えいただけるとありがたいと思いますが、地球温暖化問題それ自体がコストパフォーマンスの点からいってプライオリティーが非常に低い。例のビョルン・ロンボルグがこの間のコペンハーゲンコンセンサスで打ち出した問題で、例えば、これぐらいの金をこれぐらいの期間にかけるのであれば、先生がおっしゃったプライオリティーの問題としては、全世界の途上国の人間にクリーンウォーターを提供するという方がはるかにコストパフォーマンスはいいのだというような議論が一方でございます。これが主流派の環境論者の中ではどの程度の議論として受け止められているのか。これは、ご案内の「スケプティカル・エンバイロメンタリスト」を書いたデンマークの男ですけれども、私の見る限りでは、ヨーロッパではかなりの支持を得ている。ところが、日本からアメリカにかけては、当然の話ですが、ほとんど意識的に無視をしているという感じが強い。そういう議論を今国分先生のおっしゃったようなプライオリティーの問題と横並びにした場合、日本というのは一体どういう立場になるのだろうかという話が1つ。

それから、これは米本さんなどの議論ですが、環境問題を論ずるときには、前提となる客観的なデータの存在というものがどうしても不可避であって、例えばヨーロッパにおいては、何十年、半世紀以上にわたってそういうデータの共通認識の積み重ねがある。しかしアジアにおいては、そういうデータ、要するに価値自由的な客観的なデータの存在というものがほとんど見られない。これをまずつくり上げてからでなければ、アジアにおける環境問題の合意というのはあり得ないのだという議論がございます。この点に関しては、どの程度それが真実を反映しているのかという点は私にもわかりかねているのですが、付随して、その2点だけ。

松下 いずれも大変難しい問題ですが、最初の切迫感の共有ということですが、確かに温暖化ということは、科学的な報告書であるとか、いろいろ推論、あるいはモデルのシミュレーションの結果として出るものですから、体感として非常に分かりにくい。逆に、例えば最近公開された「ザ・デイ・アフター」という映画であるとか、あるいはペンタゴンから出されたレポートであるとか、非常に衝撃的な報告もあるのですが、どうしてもそういったものはセンセーショナリズムになり過ぎです。センセーショナリズムにならずに、なおかつ客観的に切迫感を共有していくというのは非常に難しいチャレンジだと思います。

ただし、2050年は随分先のことであるということですが、対策ということを考えると、例えばエネルギー転換にしても、技術開発にしても、あるいは制度の導入にしても、相当早い段階からやっておかないと効果が出るまで時間が掛かるわけです。そうすると、例えば2050年にどういう社会を目指すかというビジョンを共有して、現在の延長ではなくて、そこから逆算して、こういう社会を目指すのだから現在からこういう手を打っていくのだということをきちんと出していく必要があると思います。ヨーロッパの例で言うと、自然エネルギーを2050年に何%増やす、CO_をどれだけ減らすということから逆算して、現在打つべき手を、あるいは研究投資の配分を変えるとか、資源の配分を変えることをやっています。

教育の問題もありますが、やはり制度によって物事が変わってきます。例えば、京都議定書による排出量取引制度がEUで導入されると、国ごとに排出量の配分が決められて、国の中でまた各セクター、いわゆる産業セクター、運輸セクター、民生セクターに配分されて、そうすると、各企業セクターの間でまた割り当てが決まってくる。それぞれに責任が明確化されていくと、経済メカニズムとしてできる限り温室効果ガスを減らしていこうというインセンティブが働いてきますので、そういう制度化というのが非常に重要ではないか、インセンティブをつくっていくのが非常に重要ではないかと思います。

次に、環境問題に関する学問の世界、あるいは研究の世界ではどうかということですが、例えば学会ということで考えると、ここ10年ぐらいの間に環境経済政策学会だとか環境法政策学会とか環境社会学会、これは社会科学系で、私が多少知っている方ですが、そういう学会が相当広がってきておりますし、環境経済政策学会の会員は1400人ぐらいです。つい最近も学会がありましたが、大学院生が相当増えてきて、そういった人たちが非常に活発に発表しております。

国際的には、エコロジカル・アンド・リソース・エコノミック・アソシエーション、環境資源学会という学会が世界大会を開いているのですが、これを2006年には京都で開こうということで、そういう国際的な学会と連携して、日本も環境分野における学会に貢献していこうと考えております。ですから、地球環境問題については、自然科学の研究は従来からあったわけですが、それと政策とを結び付けようとする、社会科学的分野でも、学会としての活動がかなりできてきていると思いますので、これは期待していきたいと思っております。

それから、京都議定書はどうも実現できそうにないという悲観的な見通しですが、現在の国際的な制度としては、10年間ぐらい掛けてやっとできた国際的な枠組みです。これに替わる枠組みを出すべきだという議論もありますが、京都議定書をスクラップにして再度新しい枠組みをつくろうとすると、また10年ぐらい掛かるかもしれませんし、その間に事態はどんどん進んでしまう。そうすると、京都議定書の枠組みを生かしながら、一方で次のステップを考えていくというふうに取り組むのが現実的ではないかと思います。

それで、確かに180カ国以上ある国連という枠組みで一度に議論することはものすごくロスが多いですし、エネルギーも掛かりますし、コンセンサスはとりにくい、しかし国連という枠組みを使いながら、それに加え志を同じくするグループ、あるいは積極的に先に物事を進めていこうというグループが有志連合をつくって、やれることを先にやっていく。そういう有志連合アプローチと国連的アプローチと両方を並行してやっていくべきではないかと思います。いずれにしろ、各国は国益で動いてしまうので、条約を強制することは難しい。主権国家は強制できませんので、これはお互いの名誉に訴えるとか、あるいは経済的な利益に訴えるとか、そういう形で実効性を保つしかないのではないかと思っております。

それから、環境問題は政治の問題ではないかと。これはおっしゃるとおりだと思います。ただ、現在の政治といっても、選挙のときは総論では環境を掲げるわけですが、結局、個別団体であるとか個別の企業であるとか個別の地域にかかわる問題になると、総論は賛成でも各論は反対ということですので、これは、あるところにとってはメリットがあるけれども、あるところにとっては違いがあるという各論も明示した上で、政治の場で議論すべき問題であると思います。

温暖化に関する対策をとることがコストパフォーマンスから見てどうかということですが、これはアメリカの経済学者などで一部ある考え方ですが、技術はどんどん発展していくのだから、まだよく分かっていない温暖化にやみくもに対策をするよりは、少し様子を見て、後で賢明な対策をとった方が結果的には費用効果的ではないかという議論ももちろんあります。それから、ロンボルグさんの懐疑的環境論というのもあります。

ただ、先ほど紹介したIPCCという場がありますが、あれはあくまで学術雑誌に出されて、専門家がレビューしたペーパーをベースにして、それを多数の科学者がレビューし、政府がレビューして出したものですので、私自身は別に自然科学者ではないので、自分で妥当性を判断する能力はないわけですが、そういう自然科学者あるいは専門家がレビューをして、コンセンサスとして出てきて、それも一定の幅があるわけですが、それを受けて政策担当者あるいは政治家が政策をつくっていくというのが現在のシステムですので、それをベースにして議論していくしかない。ロンボルグ氏の議論というのは、いろいろ個別の議論はありますが、どうも特定の事例を取り上げて、それが全体であるかのように論じているのではないかという気がいたします。

ですから、現在のシステムとしては、科学者のコンセンサスをベースにして、それを政策担当者が受け止めて、これまでの経験から出てきた、例えば予防的アプローチと言いますが、できるだけ問題が起こる前に対策を取る。

2つアプローチがあって、1つはウィン・ウィン・アプローチです。いずれにしろやるべきこと、例えば省エネルギーだとかエネルギーの転換であるとか、それはいずれにしろやった方がいいことを早めてやる。もう1つは、非常に深刻な影響が起こると予想される場合は、とるべき対策を遅延させてはならないという予防的アプローチがありますので、そういう原則にのっとって対策をとる。これは国際的に環境問題で認められてきている考え方ですが、そういう考え方にのっとって対策をとるべきだと思います。

日本は公害問題などで非常に手痛い経験をしてきておりますので、将来のマーケットとかいうことを考えると、先にいずれ強まってくるであろう環境制約に関する新しいブレークスルーをやっていくことの方が、産業力も国際競争力も付いていくのではないかと思っております。

水を供給することの方が安いというのは、趣旨がよく分からないのですが......。

「2004年度第3回アジア戦略会議」議事録 page2 に続く

福川 皆さん、おはようございます。今年度第3回のアジア戦略会議でございますが、今日は京都大学大学院地球環境学堂教授の松下和夫先生にお越しいただきました。環境の分野では第一人者でいらっしゃいまして...