「2008年 日本の未来に何が問われるのか」 / 発言者:横山禎徳氏(全5話)

2008年2月06日

第1話:「壊す構造改革」から「組み立てる構造改革」への転換を

 これまでの日本の構造改革を一言で評価するならば、「小泉さんありがとう、壊さなきゃいけないものを壊してくれた」ということだろう。それは壊す改革であって基本的には、古いもの、時代遅れのもので壊せるものは壊したということです。それが十分だったかどうかと言われれば、政治のプロセスですから、換骨奪胎したり骨抜きにするなど、いろいろなことはあるわけです。

 ただ、壊す改革は確かに必要だったとしても、やはり今はギアチェンジをして、組み立てる構造改革をしなければならないということです。古いものは寿命が尽きたから無くしてしまえという考え方だけでは不十分なのです。

 その一つの典型的な事例が住宅金融公庫です。戦後は民生安定のために持ち家を推進するという政府の方針がありました。が、市中銀行は短期資金の供給者であっても、二十年三十年の長期の住宅ローンを出すことにはあまり積極的ではありませんでした。それが儲かるか儲からないかは、金利動向次第で分からないからです。そこで住宅金融公庫というものが意味を持っていたわけですが、それは「持ち家推進」という意味で必要性があったのです。ただ、持ち家の比率が今のように3分の2を超えてしまうと、もうそれは大成功で、住宅金融公庫はもう不要だということになります。

 しかし、日本には住宅問題が未だにあります。持ち家だけがすべてではなく、都市型住宅を大量に作っていかなければならない。高齢者は田舎で悠々自適ではなく、やはり、利便性の高い都心に住みたい。そのためにしっかりと住めるような住宅供給をするといった課題は残っています。住宅金融公庫はなくなりましたが、それでは次に何が必要かの視点が抜け落ちています。

 竹中平蔵氏たちがやった改革を批判するつもりはありません。状況が状況でしたし、金融システムを崩壊させないようにするということには成果をあげました。では、新しい日本の金融システムを作ったのかというと、それはないのです。かつての都銀はメガバンクと呼ばれるようにはなりましたが、その中身は本質的にそれほど変わっていません。日本の銀行の能力が高まったわけでもなく、金融システムのアーキテクチャーが変わったわけでもない。今回のサブプライムの問題はパラドックスのようなもので、日本の金融機関が、わからないものは手を出さないという保守的なものにとどまっていたことや、世界の金融コミュニティの主要メンバーになっていないが結果的に幸いしたものです。

 竹中平蔵氏たちが改革をしていた当時は、組み立てなどをしている暇はなかったかもしれませんが、今は組み立てる構造改革に早く転換しなければなりません。ただ、組み立てると言っても、良いものを組み立てない限り、組み立てたことにはなりません。

 郵政の改革は、一応組み立てのように見えるわけです。事業を分離し、それぞれを独立採算にする。それはそれで結構ですが、国鉄改革のようにはいきません。国鉄の改革は優れた改革だとは必ずしも思いません。東日本や東海などに地域分割するのは、JR東海がぼろ儲けするだけの仕組みです。整備新幹線でJR東日本の行き着く先が青森まで延長され、かなりの高速車両が導入されるようですが、なぜそんなに青森まで急いで行かなければいけないのか、その理由が組み立てられていません。東京や大阪なら必要かもしれません。

 ただ、航空機や私鉄など様々な競争相手がある中で競争ということがどういうものかが分かったという意味で、国鉄改革は成果をあげたということです。それは分割したから分かったのではなく、民営化したから分かったのであって、他の組み立てはいくらでもあったはずだと思います。

 郵政については、競争相手もあるし何とかなって行くと思いますが、そもそもそれはダウンサイジングすべきものなのです。それを当初からきちんと謳って、そこにいくステップとプロセスと、そしてその先に何があるのかということをもっと描いていなければならない。それがないのです。どうも、官から民へという民営化は、ひとつ何かがうまくいくと、二番煎じをやろうとして、分割していってしまう。NTTもそうです。NTTの分割は新しい時代の通信の組み立てに適したものでは全くありませんでした。二番煎じをやってみただけなのです。郵政改革は三番煎じだったかも知れません。

 ですから、常に新しい組み立てをしなければならない。しかし、ここにも何か官主導的な発想があって、産業再生機構が結果的にはうまくいったので、同じ伝で今度は「地域力再生機構」設立が検討されています。しかし、両者が直面している状況は大きく異なるはずです。新しい運営のやり方を見つけないといけないのです。

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発言者

横山禎徳氏横山禎徳(社会システムデザイナー)
よこやま・よしのり
profile
1966年東京大学工学部建築学科卒業。建築設計事務所を経て、72年ハーバード大学大学院にて都市デザイン修士号取得。75年MITにて経営学修士号取得。75年マッキンゼー・アンド・カンパニー入社、87年ディレクター、89年から94年に東京支社長就任。2002年退職。現在は日本とフランスに居住し、社会システムデザインという分野の発展に向けて活動中。

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