イェスパー・コール氏 「日本はすでに世界の関心からはずれている」

2008年6月16日

日本はすでに世界の関心からはずれている


 日本の政治にポピュリズム(人気取りの政策)は確かに見られます。でも、それは世界のどの国でもあるわけです。日本が今陥っている本質的な問題とは無関係だと思います。

 日本の問題は政治が何もやっていないということです。政治家は口では色々と言っていますし、マスコミもそのたびに騒いでいます。では日本の政治はこの間、何か根本的な政策を実現しましたか。つまり外国人の目から見ると、日本の政治には何もありません。

 政治にまず必要な政治的な哲学やビジョンが何もない。霞が関や役所の規制強化や規制改正ばかりやっている。日本の政治家には政治的なリーダーシップや哲学的なリーダーシップを全く感じない。

 この2年間で世界は大きく変わってきている。世界では政策に大きくチャレンジできる大きな問題がたくさんあります。経済の面、安全保障の面など、世界の舞台で考えていくと大きな問題はたくさんある。原油のこととか、食糧不足、テロ戦争はどう超えるか、サブプライム問題、温暖化問題、イラクとイラン、アメリカとロシアなど、問題点が色々と出てきました。やるべきことはたくさんありますが、あまり時間がない。

 では、その問題に対して、日本から前向きとか、建設的な考え方は出してきましたか。出していないでしょう。世界の舞台にはアイデアを持ち、信頼できる実力者はたくさんいますが、日本人には一人もいません。

 日本の政治は大変不安定な状況にある。ねじれた国会のコントロールは大変だし、日銀総裁もなかなか決められなかった。これは信じられないことです。世界最大の債権国日本が金融政策の担当者すら決められない。どういうことでしょうか。だから、世界の舞台では、日本についての議論はもう話したくない。時間の浪費なのです。

 今、日本の政治家の大物がワシントンに行ってもアメリカの人は誰も会いたいと思わない。話にならないからです。お茶を飲むだけで前向きで建設的な、具体的で新しい原動力になるものが全くない。

 世界の舞台で色々な問題がある中で、日本についてどうしても考えなければいけない問題があるかというとプライオリティ(優先順位)は非常に低いし、今、この人に会って、面白いアイデア、前向きな考え方が出てくるという人は日本の政治家には全くいません。

魅力のないニッポンには「さよなら」となる


 エコノミスト誌の「JAPAIN」記事は詳しく読んだわけではありませんが、日本の失敗は政治の失敗というだけではありません。全面的にそうなのです。企業もそうです。もちろん、技術はありますが、TOYOTAや京セラなど日本を代表する企業50社以上に何かありますか。

 この記事が出た後に、私は自民党に呼ばれて、海外が今の日本の政治や日本全体をどう考えているかについて説明を求められました。

 そこで言ったのが日本は「普通の国」になった、ということです。one of themです。私は22年間、日本にいますが、「普通の国」になったのは昔ではなく、2年前からです。

 経済的な点で金の流れについてみると、2年前から、金融システムでの資本不足が終わり、貯蓄から投資への流れはできるようになった。貸し渋り状況もなくなった。金融社会主義的な財政投融資や簡保もなくなった。

 だからこそ、22年間で2年前から初めて「普通の国」になったのです。需給ギャップも引き締まったし、デフレは超えた。本当にそうかどうか、色々と議論はありますが、CPI(消費者物価指数)は上がっています。株の世界でも、適正PER(株価収益率)が15,16,17倍で、これも普通の先進国と同じです。

 これは、日本にとって特に良くもなく、特に悪くもない。では、普通の国になってどうやって評価されるか。

 経済的にも魅力のある国になることです。羽田空港の国際化が千葉県の反対で進んでいないことなどは信じられない現象です。規制強化するような国は儲からないから、興味はなくなります。投資のチャンスがない日本は、さよならです。

 むしろ、まだ困ったところが色々とある。累積財政赤字は国民所得の180%、金融の政策金利は0.5%、規制の問題はたくさんある。財政、金融、規制の政策は取り組む課題はいろいろある。どこの先進国にも似たような問題があります。日本は高齢化の問題で大変だと言いますが、第二次世界大戦後のベビーブームの状況はほぼどこでも同様にある。

 先進国がほぼ同じ問題を抱えている中で、では、日本に行ってみて日本の政治家や官庁と話をすると、面白いアイデアが出てくるか。面白い人がいるから東京に来て絶対会った方がいいという人はいますか。答えは残念ながらNOです。だからこそ北京、ベルリン、ハノイに行きましょうとなる。

 皆さんがいつも議論したがるのが、国内での勝ち組は誰、負け組は誰ということですが、これもナンセンスです。勝ち組は外に出て行きます。論理的な議論ではなく、話にならない。今は言論NPOのような場で議論ができるような外国の有能なジャーナリストは日本から出て、中国に行ってしまいました。優秀な外国人経営者もほとんど日本にはとどまっていないでしょう。魅力のない国からは人は離れます。

 日本は沈没したのではありません。沈没だと、無くなってしまうことにみんなが悲しみますが、日本はもっとひどい。どうでもいいというところに来ています。

日本は勉強好きだが、問題は決定能力がないこと


 こうした状態は、根本的にはこれは小泉構造改革に出口が見え始め、日本が「普通の国」になった2年前からです。
 その後、安倍総理は「美しい日本」という議論をしました。私の故郷のドイツも美しいドイツを作ろうとしています。タイトルはロマンチックですが、基本的には無策でした。無策がずっと続いてきた。

 日本で今、議論されているのは鎖国議論です。小泉さん本人は、日本人の目から見ていて、「変人」、「スローガン」というイメージがありましたが、根本的にはやるべきことをやった。個人と社会との関係の政策をやりました。自己責任を重視したわけです。

 しかし、今は逆に消費者庁を作りましょうとなっている。それは自己責任の逆ではないでしょうか。消費者を守るために役所を作る。個人に責任は問えないという論調になると、官僚のパワーが上がっていくことになります。ちょっと待って下さい、特に困っている消費者は誰ですか。高齢者でしょう。電器メーカーが悪い製品を作って高齢者が困っているということではありません。最も困っているのは年金の不足、社会保障の不足です。きちんとこれを直すことにこそ、プライオリティーがあるべきです。新しい役所をつくることではありません。

 これは数年前から言われていたことですが、税制や年金に対しては、どうでしょうか。建設的で前向きな政策を日本はとりましたか。全くありません。逆です。10年、15年、20年も前から引きずってきた課題に対して、何か建設的な解決はありましたか。

 一般の社会では、何か問題があったときには、では本当に問題があるのか、そうならば問題の大きさはどれくらいか、それを判断して問題を解決します、でも、日本の政治は検討はするが、決められても実現しないのです。

 私も色々と日本の審議会に参加しました。それはすごい。検討は深いところまでやって、国際的な比較もします。非常に面白く、勉強になる。勉強で終わらずにプランまでは出す。しかし、決定能力はゼロに近い。

 現在の政治の停滞は有権者の問題だとは私は考えていません。これは自民党と民主党の問題です。構造的に年功序列の世界ですから、若い人が上に上がれない。

 しかし、将来をつくるのは若い方の世代です。これは日本の政党の内部の問題で、民主党もそうかもしれませんが、自民党は年齢的に非常に硬い。日本の会社もほぼ同じ構造ですから、成果は低くなる。

 日本の仕組みや構造は少しずつ変わってきてはいますが、根本的には変わっていません。年をとっているからダメだということではありませんが、会社で優れた人でも若すぎるからといって部長に就けられない。この人は10年我慢しなければならない。

有権者はもう怒るしかない


 言論NPOを私たちが一緒に作ったときに「日本は夢がない国だ」と言っていましたが、その後、何か進歩がありましたか。

 私の最後のメッセージは、「有権者よ、怒れ」です。政治はウソをついている。言論NPOは細かく政党のマニフェスト評価をしていますが、では、マニフェストの項目ひとつひとつで約束したことを、一つでも実現したでしょうか。それでも許されている日本は、政治家にとっては天国かもしれません。

 日本は国内には原動力の満ちた素晴らしい国です。優秀な人材がいます。しかし、なぜ動けないのか。もう少し我慢して待ってほしいと言っても、世界は我慢できません。その間に世界は大きく動いている。問題は人材の活用です。人材を活かすためには世代交代が必要です。それが年齢社会、縦社会で難しい。この人は優秀な人だといっても、若すぎるとなる。今の内閣で若くてなんとかやっているのは渡辺喜美さんだけです。

 日本がいずれ二等国に転落するというレポートはすでにいろいろ出ています。その最大の原因は意思決定ができないということです。

 世界から見れば、日本の国内政治はほとんど興味がありまぜん。誰が総理になるかではなく、その総理は強いのか、総理になれば何とか決定できるようになるのかの方が重要です。

 日本のことをよく知っている外人が理解できないのは、何かおかしくなると、問題の原因が分かっても、仕方がないと言って逃げてしまうことです。日本人は熱心です。真面目に問題を勉強しています。しかし、問題をなんとか解決しようとするステップはとれない。馬鹿よりもひどい。年金問題もそうです。税制改正の責任者は政治家でしょう。官僚は何も決定できる立場ではありません。抜本的税制改革が必要だと、ずっと前から言われているのに政治は決定できない。

 小泉さんは、国民からは大変な人気があった。なぜかというと、この人は話だけではなく、何かやると思われたからです。有権者は賢いです。

 今の世界の動きの中で、経済などの重要問題を決定するに際して、G7に日本が参加する必要があるのでしょうか。金融や経済では、ヨーロッパとアメリカと中国です。日本は大きな図面で見ると、規制政策がポイントですが、何もやっていません。

 もう話をしている段階ではなく、時間がない。21世紀は話の世紀ではなく、決定の世紀です。日本の決定能力は最低です。しかし、この状況はもうどうしようもないと諦める必要はありません。政策の決定は人にもよります。

 今のアメリカやヨーロッパや中国の実力者は若いのです。胡錦涛主席の世代はまだ、日中関係に関心がありますが、次の世代は日本にはほぼ関心がない。今 35歳や40歳ぐらいの若い人たちは、これからの5年間でスピードを出していく。その中で、面白いキャリアを形成する上では絶対に日本に行かなければならないというものを日本は持たなくてはなりません。これはグローバルなレースです。

 日本の人材は素晴らしいですし、良いところはたくさんあります。その力を発揮させる上で問題が多いのです。

 マスコミもそうです。論理のある議論をさぼっています。たとえば、税制改正にしても、政治家が2年前にはどういう政策提案を出して、それがどのように逆転してしまったかといった、その検証を全くしていません。これはマスコミの責任ではないでしょうか。日本のマスコミはアピール性に偏り、この人は面白い、これからこの人が出てきますということばかりです。もう少し、本質を突いた議論をすべきです。

発言者


060316_koll.jpgJesper Koll(投資顧問会社タンタロン・リサーチ・ジャパン株式会社代表取締役)
イェスパー・コール

1980年、レスター・B・ピアソン・カレッジ・オブ・ザ・パシフィック卒業。1986年ジョンズ・ホプキンス大学高等国際問題研究大学院(SAIS)にて国際経済学修士号(M.A.)を取得。1986年に来日。京都大学経済研究所研究員、東京大学教養学部社会科学研究室研究員を経て、1989年S.G. ウォーバーグ証券会社入社、日本経済担当チーフ・エコノミストに就任。1994年J.P.モルガン(東京)調査部長、1998年タイガー・マネージメント L.L.C.日本駐在事務所マネージングディレクターを経て、1999年8月にチーフ・エコノミストとしてメリルリンチに入社、日本経済の調査を担当。 2007年投資顧問会社タンタロン・リサーチ・ジャパン株式会社を設立、代表取締役に就任。エコノミスト、金融アナリスト、ストラテジストとして高い評価を受けており、日本版ビッグバンに向けた課題を審議する通産省の産業金融小委員会、各種政府諮問委員会、財務省「関税・外国為替等審議会外国為替等分科会」 の専門委員等を歴任。


 日本の政治にポピュリズム(人気取りの政策)は確かに見られます。でも、それは世界のどの国でもあるわけです。日本が今陥っている本質的な問題とは無関係だと思います。 日本の問題は政治が何もやっていないということです。政治家は口では色々と言っていますし、マスコミも