2012年、何が私たちに問われているのか

2012年1月04日

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、昨年末、有識者を対象に行った緊急アンケートの結果やご意見を交えながら、「2012年は何が問われているのか」について語りました。

(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2012年1月4日に放送されたものです)
ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。

「2012年、何が私たちに問われているのか」

おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です。
さて、2012年という新しい年になりました。皆さんも、今年はこうしたいとか、いろいろ考えていることがあると思います。この正月の三が日の新鮮な気持ちが、私は非常に大事だと思っています。ぜひ、素晴らしい、わくわくするような新しい年になってほしい、と思っています。


この国の未来を動かすのは私たち有権者

私にとっては、この2012年というのは、新しい覚悟を固めた年です。
去年のこの番組でも話したのですが、私は「健全な輿論(よろん)の形成」が非常に大事だと思っています。この「輿論」。これは一般的な雰囲気とか空気とは違うのですが、きちんと責任を持った「輿論」の力で僕は日本の政治を動かしたいし、この国に新しい目に見える変化を、起こしたいと思っています。つまり、そういう、ぎりぎりのタイミングに、私たちのこの国は入っているのではないかという強い思いがあります。

私は、新年だからこそ、あえて言いたいのですが、あくまでもこの国の未来を動かすのは、私たちだと思っています。だから、私たちは、やはり自分で決断しなければいけない。たぶん今年も、日本の政府や政治の舞台で、いろいろなことが出てくるでしょう。その時、「国会でやっていることを私は知らない」ではなくて、自分できちんと考えていく、と。そういうような舞台を私たちは作っていきたいと思っています。是非皆さんも私たちの議論作りに参加していただければ、と思っています。

さて、ON THE WAYジャーナル、「言論のNPO」。今日は、このまさに2012年の、新年1回目という事で、この国はどうなるのか、そして私たちに何が問われているのか、という事について、みなさんと一緒に考えてみたいと思っています。
題して、「2012年、何が私たちに問われているのか」、です。


2012年、日本はどんな年になるか

昨年の暮れに、この番組のために、私たちはあるアンケートを有識者の方を対象に行いました。かなり多くの方が意見を書いてくれまして、約100名の意見を今日集計して持って来ました。その意見をたたき台にして、今日は話を進めたい、と思います。

アンケートの設問は4つでした。
1つめは、「2012年、日本はどんな年になると思うか」です。
選択肢は(1)日本の将来に影響を与える、決定的な1年になると思う、(2)決定的とまではいわないが、日本の将来に影響を与える重要な1年になると思う、(3)日本の将来にとっては単なる通過点に過ぎず、これまでと変わらない1年だと思う、(4)わからない、の4つでした。
なんと9割近い人が、2012年が日本の将来にとって大事な年になると強く意識しています。決定的だと考える人は58%もいらっしゃいました。その理由も皆さんに書いてもらいました。全部を紹介することはできないのですが、皆さんの思っていることを取り上げてみます。
今年は、アメリカの選挙、中国の権力交代、ロシア、韓国、いろいろなところでトップの選挙があり、やはり世界が大きく変わるという状況が1つあります。
そして、日本の政治は非常に混迷していると。たぶん日本も選挙になるだろうと思います。この2つを軸に皆さんの認識が形成されているのだと私は思いました。

この中から意見を紹介しようと思います。

(1)の「決定的な1年になる」という方の意見
・新年は解散、総選挙が実施されるだろうが、それを機に政界再編へと進み、新しい政治態勢のもとで平成維新といえるような大改革へと動き出せるのかどうか、重大な岐路の年になる。(70代、NPO・NGO関係者)
・政策課題がすべて先送りされていて、もうこれ以上延ばすことができない状況だと思う。(60代、NPO・NGO関係者)
・消費税の引き上げを決定して財政危機を回避しなくてはならない。引き上げを先送りして、長期金利があがれば、国民生活に大きな痛手となる。時間がない。(40代、学者・研究者)
(2)の「決定的とまでは言わないが、重要な1年になる」と思っている方の意見
・米、ロ、フランス、韓国で大統領選、中国で指導部交代、北朝鮮で権力移行など、世界情勢が大きく変化する。(50代、メディア)
・日本の地盤沈下が大きく進む1年になると思いますが、その危機的な状況にみあった的確な対応ができない1年になると予想します。(40代、メディア)

ただ、私がとても興味を持った別の意見を紹介します。

・図らずも「決定的な1年」となったのは2011年だったと思う。世界的には大統領選の多い2012年が大きな意味をもつと思うが、日本社会が大きな転換を迫られたのはやはり東日本大震災と原発事故を経験した去年だった。日本社会は、経済成長一本槍の社会でもなくあるいは成熟社会でもなく、豊かさや安全とは何かを深いレベルで理解し獲得していかなければならなくなった。その意味で、2012年は、そうした社会へとどう転換させていくのか、政治・経済・文化の各方面で実質的な取り組みが問われる年になると思われる。(40代、学者・研究者)
私はこの意見に強くに賛成します。確かに今年、世界も変わる。しかし、大きな転機がはっきりしたのは、わたしもやはり去年、震災と原発事故だったと思います。つまり今まで当たり前だと思っていたことが、自分たちの生活にかかってくる問題になったと。そういうことを自分で考えなければいけない時代になった。しかし一方で、様々な問題に、政治が十分に対応できない事もはっきり分かった。つまり、変化は避けられないけれども、政治だけに任せられない、それが去年分かった、という状況だと思うのですね。


2012年、最も関心のあるテーマは「財政破綻」と「原発問題」

2つ目の設問は「あなたは2012年の日本を考えるにあたって、もっとも関心があるテーマは何ですか」というものです。
ここにも、あるはっきりした傾向が見事に表れています。これは13の選択肢の中から選ぶものなのですが、全部を見て選ぶのはかなり大変で、好きなだけ選んでいただけばよかったと思うのですが、それでも傾向がはっきりと出ています。

2012年、一番関心のあるテーマは、「日本の財政破綻」で、47.1%、次は「日本の政党政治の混迷」が30.4%です。3番目は「年金・医療などの社会保障」で25.5%、そして、「原発問題」の24.5%となりました。これは何を意味しているのか。多くの人が日本の政策課題で非常に気になっているのは財政破綻をベースにした流れなのです。これともう1つは原発という問題の流れ。この2つの流れを私たちが考えなければいけない状況になって来ているのではないかと、多くの人たちが気付いているのですね。これが2012年、私たちが考えなければいけないテーマだと。
この財政破綻に連動している一番大きな要素が、社会保障の問題です。これは前の番組でもやりましたけれど、毎年、高齢化の進展で自然増がどんどん増えているわけですね。これを賄えないという状況になっている。そして原発も、やめるような新しい仕組みを展開しなくてはいけないのではないかと。そういう大きな政策の転換をしなければいけないという、大きな流れがあるのだろうと思います。

一方で政治環境の方では、そうは言っても政党政治そのものがもう混迷して、これをどうすればいいかという事も、考えなくてはならないテーマになってきている。そういう判断を多くの人がし始めているわけです。先ほどの30.4%です。それに関連した選択肢を回答した方は、その次は政界再編の16.7%、ポピュリズムの15.7%、市民の決起が10.8%で続いています。これは、大きな課題を解決する時に、政治が機能していない、しかし、政治を立て直すという事は、いろいろな問題がある。単純に選挙で政権が変わるだけという段階では済まされない状況になっているし、ポピュリズムというのは大衆迎合的、扇動的な政治になってしまうかもしれない、そういう気配を感じている方もいらっしゃるのです。つまり自分できちんと考えて、民主主義を守らなければいけないと、そういう見方もあるという事がここに示されているのだと思います。


日本に最も問われている課題は「日本の成長戦略」

次の設問はそれに関連して「2012年、日本に問われるもっとも大きな課題は何か」ということです。
ここも、非常に皆さんが2012年を真面目に考えていることが分かります。
上位に並んだのを少し紹介しますと、だいたい25%ラインに並んでいるのですが、一番多かったのが、「日本の成長戦略」で27.7%でした。それに並ぶのが「日本の政党政治の立てなおし」で25.7%、その次は、「持続可能な社会保障制度への改革」で23.3%です。そして、「原発を含めたエネルギー戦略の転換」が20.8%、「財政再建」が19.8%、「原発事故の処理」が16.8%で続いています。
どうでしょうか。2012年に日本に問われる課題がくっきりと見えて来ているような感じはしませんでしょうか。
つまり、財政再建の話なのですが、以前この番組でも言ったように、たぶん消費税が5%上がるのですが、それだけでは済まされないのですね。このままいくと2020年に20%ぐらいになってしまうだろうと。これを解決する方法は、無駄がどうだというレベル以上に、日本の経済を成長させて、税収を増やさない限りダメだと。という事は、単に悲観的に日本の財政が厳しいようなことを言っているのではなくて、プラス思考でこれに向かって、解決しなければいけないという意識が、多くの回答者の中にあるという事なのですね。
私は非常に前向きな姿勢があると思いました。それが成長戦略、社会保障の改革、原発問題の見直し、という事なのです。つまり、非常に冷静に、今の日本が問われている課題をみんなが今、考え始めている。これは、非常にうれしいことだと私も思っています。
ただ次からの問題が重要なのですが、政治の問題があります。
先ほど政策課題の話が出ましたが、私たちが直接解決するわけではなくて、政府が、私たちが選んだ政治家が、立法府に入って、そして政治を動かして、政権が政策を作ってこれまでの動きを転換していく、そういう流れになるのです。しかし、その肝心の政治がどうなっていくのか、2012年、非常に不透明になっているのですね。
これに対しても設問してみました。
「2012年、あなたは解散総選挙があると思いますか」という設問では58.4%、つまり6割の方が「解散がある」と見ています。
「選挙後の日本の政治の姿をどのように予測していますか」という設問もしたのですが、なんと一番多いのが「政界再編」の37.1%、それと並ぶように多いのが、「不安定な政治の継続」で35.5%という回答だったのですね。ここで、「野田政権の継続」は4.8%、「野田首相は代わるが、民主党を軸とした政治の継続」はわずか3.2%しかありません。「自民党への政権交代」は11.3%なのですね。つまり、多くの人たちは、先ほどの日本に問われている課題を解決するためには、単なる今の既成の政党政治、政権を変えるだけでは答えが出ないのではないかと。つまり7割の人が、大きな変化を求めているという事なのですね。ただ7割の中で半分の人は政界再編にいくだろうと考え、もう半分の人はそんなこともできなくて、非常に不安定な政治が継続する、という風に今年の政治を見ているわけですね。ここがまさに今、私たちも考えなければいけない新年の課題だと思うのです。


政治の混迷を打開する主体は「有権者」

では、このような日本の状況を誰が立て直せるのかと。立て直す主体は誰であるかと突っ込んで聞いてみました。なかなか面白い結果が出ました。
設問「あなたは今後の政治の混迷を打開する主体として誰に期待しますか」の結果です。
一番多かったのは「若い政治家」で47.5%です。これと対になる選択肢の「ベテラン政治家」は7.1%でした。それに並んでいるのが41.4%で「有権者」なのですね。つまり、このいまの状況を変えるのは、私たち有権者なのだと。問題を解決する主体の所在を、皆さん、なんとなく感じてきている。しかし、なかなかそうは言っても、では誰を選べばいいのかと。私たち有権者にとって、商品棚は同じではないかという事がありまして、では今の既成の人ではなくて、新しい人にしてみたいという事が、この中に出てきているのだと思うのですね。
ちなみに面白かったのは、「既存のメディア」に期待する人はわずか7.1%で、「ベテラン政治家」と同じ割合です。「学者」は4%、「経営者」が12.1%です。大阪で府知事が変わりましたけれど、「知事などの地方の首長」が20.2%です。NPO、NGOとインターネットメディアが21.2%で並んでいます。つまり、圧倒的に有権者をベースにした大きな転換を期待しているのです。
ただここの中で私が気になっていることがありまして、多くの人たちは日本に問われている課題も分かってきた、それを変えなければいけないことも分かってきた、その中で、自分たち、有権者が関わらなければいけないという事も薄々感じてきた、しかし皆さん、心の中にもう一歩不安があるという事が、今回のアンケートの中で見えてきたのですね。それは、有権者自身、世論の動向をまだ心配しているのです。


民主主義を機能させるために、有権者自身が覚悟を固める年に

つまり、さっき言いました「ポピュリズム」ということをかなり懸念している人たちがいるのです。これはどういう事なのかと言いますと、去年、私は佐々木毅さんとこの番組をやったのですが、基本的人権、平等という、私たち自身を大事にする仕組みと非常に適合したのが民主主義なのですが、民主主義は非常に不安定で危うさを持っています。その危うさというのが、大衆の空気に流されて、迎合する政治や扇動する政治が出てしまうということで、その中で、過去の歴史を見るとファシズムになったり、戦争になったり、いろいろなことが起こります。そういうような気配を感じている人がいるということなのですね。
民主主義は私たちが望んでいる仕組みなのに、その危うさがあるという非常に皮肉な問題を、どうやって立て直せばいいのか、ということなのですね。立て直すためには、私たちの代表である政治をきちんと選んでいくという、代議制民主主義をきちんと機能させるしか、基本的にはないわけです。それが、「有権者がきちんとしなければいけない」ということになってきていると思うのです。私は今回のアンケート結果というのは、2012年、私たちに問われているものを、非常に的確に浮かび上がらせたと思うのです。
つまり2012年私たちに問われているものは、この国の未来と、民主主義というものを機能させるためには、私たち自身が、この状況とかこの時代に向かい合うしかない、僕たち自身が覚悟を固めるしかないのではないか、と私は思ったわけです。

さて、皆さんはこのアンケート結果をどのように読んだでしょうか。この詳細なデーターは言論NPOのホームページにも掲載しておりますので、ご関心のある方は是非、見ていただきたいです。
私は新しい年、私は日本が未来に向けて動き出す、そういうスタートを切れる年にどうしてもしたい、と思っています。

ということで、時間になりました。きょうは、緊急の有識者アンケートを元に、「2012年、私たちに何が問われているのか」について考えました。ありがとうございました。

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、昨年末、有識者を対象に行った緊急アンケートの結果やご意見を交えながら、「2012年は何が問われているのか」について語りました。
(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2012年1月4日に放送されたものです)
ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。