【論文】みずほ問題と日本のコーポレート・ガバナンス

2002年7月11日

benesh_n020710.jpgニコラス E. ベネシュ (株式会社ジェイ・ティ・ピー代表取締役)
Nicholas E. Benesh

スタンフォード大学にて政治学学士号取得、カリフォルニア大学ロサンゼルス校(UCLA)にて法律博士号・経営学修士を取得。J.P.モルガン証券会社などを経て94年独立。97年より金融取引についてのアドバイザリー専門のブティック・インベストメントバンク、株式会社ジェイ・ティ・ピーの代表取締役。ウォールストリート・ジャーナル誌(アジア版)の論説欄、新聞・雑誌に多数執筆。

概要

大手投資銀行を経て、現在はM&Aアドバイザリーの代表を務めるニコラス・ベネシュ氏が、みずほグループの大規模なシステム障害を起こした根本的な原因を通して、日本企業が抱える共通の問題としてのコーポレート・ガバナンス(企業統治)の欠陥について指摘する論文。同氏はコーポレート・ガバナンスについて、日本人の認識と日本的定義を改めるところから出発する必要があるとし、商法を含めた制度的改革の処方箋を示す。

要約

1999年8月に第一勧業銀行、富士銀行、日本興業銀行が経営統合を発表してから2年半、みずほフィナンシャルグループとして華々しいスタートを切るはずだった今年4月1日、同グループは深刻なシステム障害を起こし、大きく信頼を損なった。

みずほの問題は、日本のコーポレート・ガバナンス(企業統治)の欠如を象徴するものであった。3人の前共同CEO(最高経営責任者)や現CEOを批判する声が強まっているが、彼らを辞めさせれば済む問題ではない。これをきっかけに日本全体でガバナンス改革に取り組まなければ、日本経済は深刻な状況を脱することはできないだろう。

みずほがトラブルを起こすに至った根本的な問題はいくつかある。それは、株主や役員会によるチェック・監視機能の欠如、負の情報を経営トップにまで上げる企業文化がなかったこと、ステークホルダー(株主、従業員、顧客など利害関係者)の主張不足、そしてそのステークホルダーよりも監督官庁の顔を見て経営をしてきたこと、M&A(企業の買収・合併)の経験と知識をもたない人たちが統合を主導したこと、などである。こうした問題はみずほ特有のものではなく、多くの日本企業に見受けられるが、それはコーポレート・ガバナンスの未整備に起因するものだ。

日本ではコーポレート・ガバナンスとは、社外取締役を導入すること、社長を評価する仕組みをつくること、といった誤解があるが、本来はそのような狭い意味ではない。コーポレート・ガバナンスとは何かといえば、要するに、株主、従業員、顧客といったステークホルダーとのつながりやコミュニケーションのあり方であり、チェック&バランスや意思決定のルールといったものをみんなが一番納得できるような形にしていこうという、お互いへの義務議論である。会社が倒産すれば負担がかかるので、間接的には一般社会もそのステークホルダーの1つだ。そこで企業統治をインプルーブしなくてはいけないという「投資家の義務」が派生する。

まず、コーポレート・ガバナンスについての認識を改めた上で、次に法律面など制度的改革に進むべきだが、制度面でポイントなるのは、機関投資家の受託者責任の明確化、株主提案権の自由化にある。


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 大手投資銀行を経て、現在はM&Aアドバイザリーの代表を務めるニコラス・ベネシュ氏が、みずほグループの大規模なシステム障害を起こした根本的な原因を通して、日本企業が抱える共通の問題としてのコーポレート・ガバナンス(企業統治)の欠陥について指摘する論文。