工藤のアンケート分析4 -最終回-

2007年1月24日

この分析も今回が最後となる。ここからは安倍政権の100日間の実績に関する評価について分析を試みたい。

まず、安倍政権の100日に関して全体評価を行うために、回答者には安倍氏の首相、リーダーとしての適格性として、
①人柄
②リーダーシップと政治手腕
③国民に対するアピール度、説明能力の3項目
さらに政策軸として
④実現すべき理念や目標
⑤すでに打ち出されている政策の方向
⑥実績
⑦安倍政権を支えるチームや体制 のあわせて7つの質問を行った。

全体で見ると、良い評価は「人柄」だけに集まっており、半数近く(46.6%)が「良い」「やや良い」と答えている。ただ、そのほかの項目はいずれも低い評価になっており、政策的な問題よりも特に首相、リーダーとしての資質や人事も含む政権構成のあり方で評価がかなり低くなっている。


特に評価が低いのは、安倍氏の「リーダーシップと政治手腕」(62.9%)、「政権を支えるチームと体制」(64.3%)、「国民に対するアピール度、説明能力」(76.6%)で、それぞれ6割を越す人が「良くない」「やや良くない」と低い評価をつけている。

回答者層別で見るとこうした判断は特にメディア関係者に多い。「国民に対するアピール度、説明能力」で「良くない」「やや良くない」と回答するのは87.0%、「政権を支えるチームと体制」は85.0%と際立って多い。

こうした安倍政権への評価と支持率との関係を見てみると次の特徴がある。


第一に、首相の人柄への評価は「支持」を得るための最低条件ではあるが、十分条件ではないことだ。安倍政権を支持する人はこの「人柄」の設問に全員が「ふつう」以上の評価を行っている。だが、人柄を「ふつう」以上と回答した人の中でも不支持は6割もいる。

では、この評価と支持・不支持はどう対応しているのか。まず官僚の場合、各項目での評価と「支持」との関係は薄く、各項目の判断を「良くない」「やや良くない」と判断していても、安倍政権を支持している人が多い。

特に「リーダーシップと政治手腕」、「国民に対するアピール度、説明能力」、「政権を支えるチームと体制」の3項目ではこの傾向が強く、安倍政権を支持する官僚の中にもこの項目で不満を持っている人が多い。

これに対して、メディアの場合は支持・不支持とこの個別の評価との関係は強く、特に支持しない層の9割程度が上記の3項目を「良くない」「やや良くない」と判断している。こうした傾向はメディアほどではないが、有識者にもある。

言論NPOではこの7項目の評価をレーダーチャートで示し、さらに5点満点で採点して公表している。集計結果では全体の平均点は2.2点となった。


次に安倍政権がこの100日間に行った①政権の人事②教育改革③国と地方④アジア外交⑤官邸主導体制など、18項目の個別の政策や対応について回答者に評価を求めた。ここでは「対応が適切だった」か、あるいは「今後は期待できる」がプラスの評価、「今後も期待できない」への回答をマイナスの評価と判断した。

全体で見てプラス評価が目立つのは外交課題で、特にアジア外交全般については7割を超す人がプラスの評価をしている。その反面、内政課題は「経済成長」以外はマイナス評価が相次ぎ、特に郵政造反組の復党問題やタウンミーティング問題などでは「今後も期待できない」との評価がそれぞれ6割を越し、世間の批判を浴びたこれら項目に対する評価はかなり低くなっている。

政権運営については、前政権のマイナスを埋めるのは比較的容易だが、プラスをさらに維持し続けるのは難しいとよく言われる。その点では前政権のマイナスはアジア外交であり、安倍政権は政権発足直後の10月8日には訪中では5年ぶりとなる日中首脳会談を成功させている。それが、外交全般への高い評価につながっている。

これに対して内政課題に対する評価は今回のアンケートで共通して厳しいものとなっている。アンケートでは個別政策項目とは別に、この復党問題と道路財源問題、官邸主導の問題を問うたが、その結果も個別政策の評価の結果と符合している。つまり、マイナスの評価が多かった。

回答者層別に見ると、ここでも厳しい評価のメディア関係者、有識者と今後を期待する官僚との間で落差が際立っている。メディア関係者はアジア外交関連と経済成長を除く13項目で半数を越す回答者が「今後も期待できない」と判断しているのに対し、官僚は「今後も期待できない」と半数が判断しているのは、政権の人事や官邸主導体制という政策の執行体制の問題と復党問題の3項目のみであり、外交や内政課題の11項目では、「適切」「今後は期待できる」が、「今後も期待できない」を上回った。

メディアが厳しすぎるのか、政策現場にいる官僚の判断が妥当なのか、それはここで論じられる話ではないが、その傾向は対称的で大雑把に言えば有識者はメディアに近く、大学生は官僚に近い。

こうした個別課題への評価が、安倍政権への支持率にどう反映しているかだが、メディアでは「今後も期待できない」と回答するほとんどの人が不支持となっているのに対し、官僚では支持・不支持と評価結果がここでも直接には結びついていない。


安倍政権はこの100日間、外交、内政の様々な課題に取り組んできた。しかし、このアンケートで浮かび上がったのは、安倍政権の目指すべき政権像や目標について、多くの回答者が理解できておらず、それを実現する揺ぎ無いリーダーシップや執行体制について信認をまだ得ていないということである。

安倍政権は、改革姿勢を打ち出すことで構築した前政権の政治基盤に乗って誕生した政権であり、郵政の関連法案を否決されたことで、総選挙を実施し、その結果、安定的な政治基盤を自民党は構築している。安倍政権は自身の信認を直接、国民に問い誕生した政権ではない。

前政権の延長線上にありながら、政権運営でタウンミーティングや復党問題、道路特定財源問題を始めとした様々な失点や場当たり的な改革姿勢を巡る動揺も垣間見られた。それが、この100日間にまだ目指すべき政権運営で立ち位置が定まらないような印象を強めたとも考えられる。


安倍氏はもちろん100日目に評価されるとは思っていなかっただろう。しかし、有権者の目はそれほど厳しいのである。それを知ってくれるだけでも今回の調査結果は成功だと私は考える。あとは、今回指摘されたことを参議院選挙までに安倍政権がどう捉え、何をどのように政策実行過程に反映してゆくのか、である。

この点が明らかにされていかなければ、私たちが7月までにまとめる政権評価はさらに厳しいものとなろう。