講演録:「地域再生とパートナーシップ ~『公』の担い手とNPOの役割~」(その1)

2007年3月14日

2月19日(月)、青森県主催のパートナーシップ・フォーラム2007において、基調講演をさせていただきました。
そのときの内容を、今日から4回にわたって公開させていただきます。

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「パートナーシップ・フォーラム2007」/主催:青森県
日時:平成19年2月19日(月)
場所:青森国際ホテル「孔雀の間」

演題:「地域再生とパートナーシップ ~『公』の担い手とNPOの役割~」
講師:認定NPO法人 言論NPO 代表 工藤泰志

はじめに

皆さん、こんにちは。「言論NPO」の工藤といいます。

「言論」というと何か政治団体のようだと間違われることもあって、最近、何となく「言論NPO」と言うのを躊躇していますが、中立性とか独立性にこだわっているNPOなので、安心して話を聞いて欲しいと思います。

私は青森市出身でして、今日も昔の友人にあって本当に嬉しく、懐かしいなと思っています。今は、ほとんど東京から離れられないのですが、今回、故郷のために何かできないかなと思っていたときにお話がありまして、それで今日の講演が実現したのだと思います。

私はNPOの研究者ではないのですが、私が作ったNPOが、今後の日本のNPOの在り方に対して、いろんな大きな問題提起をしているという自負を持っております。そういうことからも、私のNPOに関しての説明とか、私達がその中で悩んでいることを説明することが、一番NPOの今後やNPOと行政のパートナーシップの本来の意味の在り方について何かを伝えられるのではないかと思っています。

言論NPOとは何か

まず、私達の言論NPOとは何かということです。

言論NPOは、簡単に言えばアドボカシー型の政策提言とか、シンクタンク的な機能を持ったNPOであり、日本で初めて認定NPO法人として認定されたNPOです。つまり免税団体です。認定されたのは34番目で、社会教育という分野の中で入ったわけです。

実を言うと、私達NPOのメンバーの一人である加藤紘一さん(元自民党幹事長)に、ある時、「工藤、NPO法が成立した時には、言論NPOのように議論活動やメディアに近いNPOが出てくることは想定していなかったよ。」と言われました。

NPOに問われている課題も、社会の発展の中で変わり始めているんですね。NPO法成立当初は言論NPOのような活動内容のNPOが、出てくることさえ想定されなかったというのに、言論NPOがなぜ認定NPO法人として認められたかというと、私たちの活動が今の社会に対して広く公開され社会に支えられることで活動が運営されていることを理解していただいたからだと私は思っています。

日本のメディア、新聞社とかテレビとかありますが、本来メディアが「こんなことをやっていたらいいな」ということが現実的にはなされていない。そのことに対して私たちは、非営利組織で挑んでいるというふうに理解してもらったほうがいいと思います。

例えば、メディアとは何だろうか。それは有権者に対して政治や社会を判断するための材料を提供するとか、将来に対してきちんとした議論形成をし、その内容を公開していくとか。本来、メディアに問われていることはそういう役割だったと思います。

私は6年前まで石橋湛山(元内閣総理大臣(1956年))という総理大臣を出した出版社の中で、まさに石橋湛山の100周年の記念事業で創刊されたオピニオン誌の編集長をずっとやっていました。しかし、日本のメディアが高度成長後やバブル崩壊後に新しい社会に向けて建設的な議論をして取り組まなければいけない時に、対案も出せず傍観者のように批判だけを繰り返していたことに自戒の意味を持って、会社を辞めてこの非営利組織を創ったわけです。私の中には、メディアの持つ公共性が営利をベースにした組織原則との間で、非常に齟齬をきたしているという認識があるわけです。御存知だと思いますが、アメリカのNPOには、メディアの分野でもラジオ会社などのNPOが結構あるのです。寄付をベースにしているのですが、少なくとも専門性があって、ミッションをベースにしたメディアの経営が行われています。そのことが日本でも動き出したと理解してもらえればいいと思います。

私達は本来、日本のメディアがやらなければいけない日本の政治の政策の判断をするために、政策の評価をやっています。

元々、私が親しくさせていただいている北川正恭さん(前三重県知事)と一緒にマニフェストの運動を創ったのです。その時に北川さんはマニフェスト運動をやったのですが、私は評価をやるという話になりまして、私達は評価基準と体系を持って、まさに政策評価の上位概念である国民との約束を軸とした日本の政策評価の体系を構築しようとしたわけです。

つまり、そういう形で、有権者に判断材料を提供するということや、それからきちんとした議論を作るということが本来のメディアだったと思います。日本のメディアが全部そういうことをやっていないというわけではなくて、やっているところはたくさんあるのですが、そういうことだけに、その目標に絞って私達は議論をし、運動を展開しているということです。そこの背景には、きちんとした議論、しっかりとした議論が民主主義のためにも必要だという思いがあります。


地方自治とNPO

ここで今日話すことは、実を言うと地方6団体(全国知事会、全国市長会、全国町村会、全国県議会議長会、全国市議会議長会、全国町村議会議長会の6団体)が設置した新地方分権構想検討委員会(平成18.1.13~18.11.29)の中で私が説明した内容がほとんどです。この委員会の中で、NPOの役割についてきちんとした定式的な表現が書き込まれましたが、私が提案した内容がかなりの割合で入っています。

つまり、行政とNPOの協働という概念の前に、これからの地方自治、地方の再生という問題の設計をどういうふうに考えればいいだろうか、これが今問われているわけです。つまり、パブリックゾーン(公共)の担い手としての非営利組織を考えて、新しい公の設計ができるだろうかということが私の問題意識でした。

皆さんも御存知のように、これまでの分権改革は中途半端なものだったと思います。それは政府との間で権限なり財源なりの移転がきちっと行われていないということだけが不十分なのではなくて、団体自治にあたかも目標設定がなされているところに不十分さがあるわけです。地方分権というのは団体自治が目標ではなくて住民自治が目標です。だから、団体自治から住民自治へ移行するための仕組みが必要なわけです。その時に、国と地方という垂直的な構造だけではなく、公共と民間が担えるパブリックゾーンのところに民をどれだけ巻き込んでいくのかという水平的な議論が必要だと考えました。つまり、縦軸と横軸の2軸でこれからの分権と地方の自立を考えなければいけないだろうということです。 その横軸のところが今日のテーマになっている「行政とNPOとのパートナーシップ」の議論だと思います。

ただ、この時に私が言っているのは、行政とのパートナーシップというのは行政の仕事をアウトソーシングするという概念ではないということです。行政の財政が厳しい中で、ある程度効率化を考えなければいけないというのは当然だろうし、市民層がこれまで行政が行ってきたものを担っていくということは非常に尊い作業だと思うのですが、本来のパートナーシップというのは海外の例で見られるように、それを担うべき主体がまさに自立して独立していないと絶対パートナーにはなれないのです。だから、民がパブリックゾーンを自立して独立した形でどう担えばいいのかというところが重要なわけです。

新地方分権構想検討委員会の報告書は、多分きちんと読んでない方が多いと思いますが、結局、その中で地方自治体には、NPOに対する税の控除をしたらどうかという提案をしたのはそういう考え方によるんです。つまり、税をベースにした公共サービスという概念から、寄付をベースにした公共サービスという市民が選択をできるというシステムが、これからの分権にとって必要なのだろうと思っているわけです。

そういうふうに大きな日本のグランドデザインを考えてNPO論を構築するというのであれば、NPOの可能性について僕達はきちんと考えなければならないと思います。NPOというのはそもそも何なのかということを今日はきちんとお話ししたいと思っているわけです。


小さな政府と「公」の担い手

〔当日配布資料〕

小さな政府と公の担い手は、安倍さんが総理になる総裁選挙でも議論がされました。小さな政府という表現は具体的にはあまり使ってないのですが、効率的な政府と公の担い手という議論は、実を言うと小泉政権時からあったわけです。そのための議論として行革関連法案3法がありまして、公務員削減、政府系金融機関の問題があって、それから市場化テストとか公益法人改革とか指定管理者制度という話が出て来ているわけです。ここは私達のマニフェスト評価の関係では政府とかなりやりあったのですが、基本的には大きな政府部門をアウトソーシングしていく考えが背景にあるわけです。これは官と民という軸になっていますが、基本的に大きく肥大化したところはアウトソーシングしていきますよということであって、その大きな前提となったのは政府部門の効率化ということなります。

ただ、安倍さんが言っているように、公の担い手としてNPOとか公益法人、社会的起業家というのが入ってきたのは、「おお、なるほど」と思ったのです。とりあえず、そういう団体がある程度担い手になるという哲学を政府は打ち出したわけです。つまり、政府がやっている動きというのは、政府部門のリストラと同時に哲学として民のパブリックゾーンの担い手という議論は出しているのですが、その制度設計はまだ全然どこも出ていないんですね。これをもし実現するのであれば、公共部門の制度の設計、デザインが必要になってきますが、これが無いというのが今の状況を見えなくさせているわけです。

その下にあるのが、この前の分権推進委員会の中で言った話です。つまり、NPOを支援してくれと、行政から人材供給はどうですかということです。一部の都道府県ではNPOに人材を供給しているところもあります。あと税制的に支援をするような、つまり、NPOというものが自立するという仕組みをある程度作っていかないと、単なる委託が委託を生んでしまうという構造ではあまりにもNPOの先行きも厳しいなと思っているわけですが、そういうことをここで書かせてもらったわけです。

ここの中で一貫して言われていることは、公の担い手としてNPOの役割なんです。NPOなのか公益法人、社会的起業家、自治会とありますけれど、基本的に広義のNPO、つまり非営利活動ということがそれを担うということを言っているわけです。

▼ 「講演録その2」へ続く