【vol.33】 シンポジウム『アジアの変化に日本はどう向かい合うべきか 第5回』

2003年6月17日

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■■■■■言論NPOメールマガジン
■■■■■Vol.33
■■■■■2003/06/17
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       ■■■アジア戦略会議アンケート実施中■■■
  中国の台頭を軸とするアジアのドラスティックな変化。日本はどのように
  改革を進め、世界に向き合うべきか。 2年目の議論を開始するにあたり、
          あなたの意見を聞かせてください。
     https://www.genron-npo.net/forum/asia/030526_01.html

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●INDEX
■ 言論NPOアジア戦略会議シンポジウム・セッション1
  『アジアの変化に日本はどう向かい合うべきか 第5回』
    パネリスト:安斎隆、ドナルド・P・ケナック、榊原英資、柳井正
    コメンテーター:イェスパー・コール、加藤隆俊、 周牧之
    コーディネーター:谷口智彦


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■ 言論NPOアジア戦略会議シンポジウム・セッション1
  『アジアの変化に日本はどう向かい合うべきか 第5回』
   パネリスト:
     安斎隆 (株式会社アイワイバンク銀行社長)
     ドナルド・P・ケナック (AIGカンパニーズ日本・韓国地域社長兼CEO)
     榊原英資(慶應義塾大学教授)
     柳井正 (株式会社ファーストリテイリング代表取締役会長兼CEO)
   コメンテーター:
     イェスパー・コール(メリルリンチ日本証券株式会社チーフエコノミスト)
     加藤隆俊 (株式会社東京三菱銀行顧問)
     周牧之 ( 東京経済大学経済学部助教授)
   コーディネーター:
     谷口智彦 (『日経ビジネス』主任編集委員)
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中国の台頭を軸としたアジアのドラスティックな変化。国境を越えて進む経済の新た
な結びつき。現実に進行する大きな変化から取り残されかねない日本は、自らの将来
をかけた国内の改革をどのように進め、また現在や将来のアジア、そして世界にどの
ように向かい合えばいいのか。2003/3/7に行われたシンポジウム・セッション1で
は、榊原英資、安斎隆、柳井正、ドナルド・P・ケナックの4氏に、アジア戦略会議の
メンバーの3氏をコメンテーターとして迎え、話し合った。


●日本とアジア、ウィン・ウィンの関係は作れるか

加藤 できるかどうかはともかくとして、日本はこれだけのチャレンジを受けている
   のですから、そちらの方向に日本の仕組みを変えていく努力をしないと、将来
   は開けてこないだろうと思います。危機、クライシスではあるがオポチュニ
   ティでもある。このオポチュニティという側面を、日本はもっと意識したほう
   がいいのではないかと思います。

周  先ほどネットワークの話が出たのですが、産業問題をこれまで研究してきた者
   の視点から見ると、現在、世界の産業集積は組み替えられている最中なので
   す。今までの産業集積は、ある国あるいはある地域にフルセットの産業集積を
   つくるというもので、それを守っていたのは国民経済という壁でした。フル
   セット型産業集積にいろいろな不合理性があっても国民経済という壁が守って
   くれる。もちろんそれと引き換えにフルセット型産業集積は国民経済を支え
   る。つまり国民経済とフルセット型産業集積とは相互依存してきたのです。

   しかし、この相互依存関係は情報革命によって崩壊してしまったのです。産業
   技術体系の変革によって、どこでも誰でも工業生産活動を展開できるように
   なった今、製造業の競争力のカギは、徹底的な効率追求にあると言えます。世
   界大競争の中で、効率こそが、今日工業企業生存の最大のファクターとなりま
   した。効率を追求するため、企業は、国民経済の壁に閉じ込まれたフルセット
   型産業集積の不合理性を乗越えなければならない。企業は、世界最適調達を目
   的にグローバルサプライチェーンを構築することに、あるいはグローバルサプ
   ライチェーンに組み込まれることに、活路を求めざるをえなくなったのです。

   その意味では、情報革命に引き起こされた産業技術体系の変革は現在、フル
   セット型産業集積を解体し、国民経済そのものを変貌させています。

   グローバルサプライチェーンというビジネス・モデルが普遍的になった今、昔
   のフルセット型の産業集積はどんどん崩壊しています。グローバルサプライ
   チェーンに対応する形で新しい産業集積が世界のあちこちにいろいろな形態で
   出てきたのです。例えばアメリカのシリコンバレー、台湾の新竹、インドのバ
   ンガロール、中国では上海を中心とする長江デルタ、香港・広州を中心とする
   珠江デルタなど多種多様な産業集積が、新たに作られたグローバルサプライ
   チェーン型産業集積であると言えるでしょう。

   これらの新型産業集積は昔のフルセットの産業と違い、工程間の世界分業を基
   本とするネットワーク型です。恐らくこれから成功する企業は、こうしたグ
   ローバルサプライチェーンに組み込まれていくか、あるいは自分が構築するか
   という努力をする企業に限られます。そういう努力をしない企業は失敗するで
   しょう。つまりグローバルサプライチェーンというネットワークに対応できる
   かどうかということは、恐らく21世紀の企業の生死にかかわる話なのです。そ
   の中で日本と中国の間には新しい産業像あるいは産業協力像、企業協力像が出
   てくると思います。

谷口 つまり、上流から下流までという工程があるとして、それが10にも20にも分
   かれて、ある部分は大連に行き、ある部分は上海に行き、またある部分はイン
   ドに行くと。それがこれからの姿だと。

周  そうですね。もう既にそういうふうになっています。中国はそれにうまく適応
   したことで伸びたのだと私は思います。現在、中国では大規模な産業集積が形
   成されつつあります。

   また、もうひとつ申し上げたいのは産業集積地の流動化です。産業革命以降、
   「世界の工場」の場所がどんどん変わっているのです。つまり世界規模の産業
   集積が次々と場所を移しています。フルセット産業集積と国民経済の時代、産
   業集積地の変化はオセロゲームによく似ていました。つまり新しい産業集積地
   の出現によって既存の産業集積地は崩壊してしまった。オセロゲームのよう
   に、こちらが黒になるとあちらが白になってしまうのです。しかし今回の新興
   産業集積地の台頭は昔と違っていまして、フルセットで変わっていくのではな
   くて、世界的に新型産業集積のネットワークを構築していく。ウィン・ウィン
   ゲームになる可能性があります。

谷口 だから必然的にネットワークになるし、お互いにウィン・ウィンじゃないとあ
   り得ないということですね。

周  ウィン・ウィンの上で成り立っているビジネス・モデルがもたらしたのが、新
   しい産業集積の台頭なのです。

谷口 そうすると、工程間分業のパイオニアとも言えるユニクロの経験を、柳井さん
   に少し話していただきたいのですが。

柳井 ユニクロと言うよりも繊維の経験ですけれど、昔、日本は繊維の輸出大国だっ
   たのです。ワンダラー・ブラウスと言って、1ドル・ブラウスを米国に大量に
   輸出していた国です。日本は昔、繊維を自分で作っていた。その後、最初にわ
   れわれが輸入したのは韓国製や台湾製です。その次は香港製、それから中国
   製。そういうふうに、やはり産地というのは変わっていくということです。

   僕は、その意味では今はいい世の中なのではないかと思います。インターネッ
   トは完全に時代を象徴している、だから時間も距離も何もない。個人でも企業
   でも国でも、そこに最も早く気がついて行動した人間が勝ちという、そういう
   社会だと思うのです。だから、そういった現実に対して、いかに早く行動する
   かということです。何もない中国は、自分の資源をものすごく生かしていると
   思うのです。日本は反対に悲観論ばかりで、有利な点はたくさんあるのに生か
   していないという非常に不思議な状況です。でも悲観論で閉じていたら、ウィ
   ン・ウィンどころではなく滅ぶと私は思うのです。

周  ここで注意しなければならないのは、今日の産業集積の変化に、怠慢に対応し
   ていくと、またオセロ効果が起きる可能性があるということです。

谷口 つまり安斎さん、どうアジアに向き合うか、なんていう議論をしている場合で
   はなくて、もう既に起きている現実にどう適応するかということですね。

安斎 まったくその通りで、非常に貴重な意見が揃ったように思えます。ただ、何も
   怖がる必要はないのです。さきほども言ったように、まず変え始めようと言う
   か、身近なところから一人ひとりが自立していく、世界の中で自立していくと
   いう文化を築くということです。

   ところが、これは私の友人の本に書いてあるのですが、日本全部、企業も家族
   のも、みんなパラサイトなのです。企業も「政府が何かしてくれる、日銀が何
   かしてくれる」と。それを待っていてはいけないのです。柳井さんもおっ
   しゃっていましたが、自分は自立して生きていくのだという覚悟を固めなけれ
   ばならないし、そのために何をすべきかということを個人や企業が考え、実際
   に行動する。今はもうその段階です。そうすればおのずから、ケナックさんが
   言ったようなことが象徴的ではなくて本物になってくるのだと思うのです。し
   かし、私もケナックさんと同じように、日本はかなり変わりつつあると思いま
   す。企業にそういう動きが出てきていますし、私もそれを感じています。

                          ──次号へつづく──

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