加藤紘一氏 第5話:「ナショナリズム」

2006年2月22日

「ナショナリズム」

 私はナショナリズムをあおるのは絶対にいけないと思います。まさに日本のこれからを考えると、歴史に学ぶことは多いと思います。かっての日露戦争が終わった後の日本の対処で、結局、その後の戦争、満州事変まで行ったと私は思います。

 日露戦争の講和を巡ってマスコミや政治もナショナリズムを煽ってしまい、それが次の大きな戦争に向かってしまう。

 日露戦争が終わった後、明治44年、1911年に夏目漱石が「三四郎」を朝日に連載し、その冒頭のくだりにこういうのがあるのをご記憶かと思います。熊本の中学を出た三四郎が東京の学校に合格してとことこと東海道線に乗って2泊3日ぐらいやってくるんですよね。静岡の伊豆辺りで中年の親父が乗ってくるんですよね。お前、熊本から来たのかと。そうですと。東京は熊本より広いぞ、その東京よりも日本はもっと広い、その日本より人間の頭の中はもっと広いぞ、みたいなわけの分かんないことを言う。で、この国は欧米に自慢できるものはない、日本人の鼻は欧米人に比べると平べったいと。あえて自慢できるものといえば、今に見えてくる富士山だ、しかし、この富士山とて、てめえで作ったもんじゃねぇから自慢も出来んしなと。みんな他の国のになっちゃって、日本には何もなくなってきたと。でも、三四郎は、日露戦争にも勝ったしこの国は発展するでしょうという。するとそのおっさんは、この国は潰れるね、とのたまわる。後になってみると、このおっさんが東大の先生だったということになるんですけども。

 夏目漱石が、明治維新の時に日本はグローバリゼーションを導入した、そして全部西欧の真似をした、で、何も特徴がなくなっちゃったと。おまけに鼻は低い、この国はどうなったんだ、どこを自慢するんだということを、日露戦争で勝った後にじっくり言うわけですよね。でも、日本は朝鮮半島と満州に、西欧と同じようなことをやったんだと僕は思いますよ。

 靖国神社参拝は、心の問題ではみんな同じなんですよ。おそらく中国の指導者が(特攻隊の基地となった鹿児島県の)知覧に来たら、一緒になって涙流すと思いますよ。でも、政治家とか外交官は、なぜ若い兵士が飛び立たなきゃならかったのか、誰が命令したのか、その時の指導部は、国は、歴史は、ということを考えるのが任務だと思います。それを考えずに「心の問題」だというのは間違えてます。だったら政治家にならないほうがいいんです。

 それは国際的には常識的な話なんですね。戦いで犠牲者を考える時、トップリーダーたちは、なぜこんなことになったのかを考えるんです。だから、心の問題だと言った瞬間に、アメリカや中国や韓国の指導者たちは、「それはちょっと違うんじゃないですか」と思ってるはずですよ。

 その時に考えなきゃならないのは、明治維新のこともありますが、特に日露戦争後のことだと思います。それを考えずしてナショナリズムをあおったら大きな間違いで、ブーメランは必ずその指導者の元に戻ってきます。そして、眉間を直撃するんじゃないかと思います。絶対にあおっちゃいけません。


※本テーマにおける加藤紘一さんの発言は以上です。
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※次回2/24(金)の発言者は深川由起子氏です。引きつづきご期待ください。

発言者

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かとう・こういち
profile
1939年生まれ。64年東京大学法学部卒、同年外務省入省。ハーバード大学修士課程修了。72年衆議院議員初当選。78年内閣官房副長官(大平内閣)、91年内閣官房長官(宮沢内閣)、95年自民党幹事長。著書に『いま政治は何をすべきか―新世紀日本の設計図』。

 私はナショナリズムをあおるのは絶対にいけないと思います。まさに日本のこれからを考えると、歴史に学ぶことは多いと思います。かっての日露戦争が終わった後の日本の対処で、結局、その後の戦争、満州事変まで行ったと私は思います。