「福田政権100日評価」座談会 (4/5) 政権交代の空気が民主党に動いていない

2008年3月10日

080220_fukuda.jpg2008年2月15日
加藤紘一氏、添谷芳秀氏、若宮啓文氏が出席。


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政権交代の空気が民主党に動いていない

工藤 今回、福田政権の100日評価ですが、民主党についても聞いてみました。そうしたら、民主党への政権交代に賛成、というのは43.1%あるのですが、反対とどちらでもないとを合わせると53.1%あって、政権交代の空気が民主党に動いていない。そこで、民主党に何が必要なのかと訊くと、党内でのビジョン・政策軸の統一や、政策の実行能力とかが挙がる。今はばらまきというか、有権者がなめられているような感じがあるのですが。つまり、あなたたちお金が欲しいのかとしいうようななめられ方です。そうあからさまに言われると、逆に有権者は反発する。特に都会型はそうです。だから、私たちの周りでは民主党が駄目だという声が今、非常に強い。

 そして、政権をとった場合の総理大臣は誰なのかときくと、小沢さんと岡田さんが並んで、岡田さんのほうが少し上になっています。それで、政党への期待を尋ねると、現在の既存政党には期待していない(45.4%)というのが一番多くなっています。つまり、まさにまだ政治改革のゴールが2大政党であり政権交代とすれば、それに答えをださなくてはならないのに、もう一つの政党にも不満がある。たとえばアンケートでは、政策のところでも、農業政策では、営農の集約に向けた自民党の政策のほうが勝っている。農業政策で、ばらまきでは駄目だと。

加藤 民主党の政策で自民党と違うのは最近では、農家に1戸当たり全部お金を配って歩きますというのと、ガソリンを安くします、その2つでしょう。

工藤 だから、民主党になめられている感じがするのです。営農のところは集約をして農業に競争力をつけるという自民党の政策は39%が支持で、農家の戸別補償というのは14%です、皆さん、都会の人かもしれませんが。今回のアンケートを見る限りかなり民主党に厳しい。皆さんは民主党を、政権交代の担い手としてどうご覧になっていますか。

若宮 回答者をメディアに限れば、民主党への交代に賛成が69.0%とすごく高い。

加藤 メディアは、政権交代すれば書く記事が増えるからかもしれない。

民主党は余りにも頭で考え過ぎている

加藤 民主党を非常にサポートしているスポンサー的なある人が言っていたけれども、民主党の人材供給源は、官僚を若くしてやめた人、松下政経塾、留学して外資系に勤めている人、こんな感じです。この3つとも、生活実感のコクがないような気がします。よくても悪くても、昔の社会党は日農系だとか労働組合系だとか、ぎとぎとの生活実感みたいなものが"売り"でした。今の民主党はさらっと蒸留水みたいに知的な人が多い。しかし、ではそれで有権者が動くかというと、一服の清涼剤として必要なときはいいけれども、いざ政権となると、まだどうなのかなという感じをみんなに持たれるのではないでしょうか。

 だからといって、自民党でやってきたけれども、それも限界だねと言われる。大体、自民党の基盤の地域社会をぶっ壊すようなことを次から次へと政策的にもやってきたじゃないかと。特に、最近の竹中政策の5年間はそうだし、あんな人に任せた自民党はもう自民党じゃないと思っていますといった批判が多い。自民の弱点は私も含めて2世が52%ですが、民主の弱点は、余りにも頭で考え過ぎていることではないか。だから、毛沢東ではないけれども、地域にもう1回、日本の政治家は与野党とも戻っていく、それの競争をしなければだめなのじゃないでしょうか。

工藤 ということは、今の既存の政党をベースにした政権交代という形にはならないということですか。

加藤 ならないと思います。結論はそういうことです。

添谷 そうすると、交代にはならないけれども、与野党伯仲という感じですか。

加藤 本当にいい政治をしようと思ったら、日本の場合は中選挙区に戻さないと、もう無理です。両方とも同じことを言っているのですから。だから、野党だったらガソリンを安くします、農家にお金を配りますみたいなところが差なのでしょう。配り合戦をやれば選挙に勝つと小沢さんが言っていたわけです。

若宮 中選挙区に戻るとしても、それは相当なエネルギーと期間を要する話なので、当面はちょっと無理ですね。

加藤 そうではないと思います。なぜなら、政界再編しようと思ったら、中選挙区でなければできませんから。

総選挙後に政界再編のチャンスが来る

若宮 つまり、どうなるかわからないけれども、今度の総選挙後に政界再編のチャンスが多分来るわけですね。両方とも決め手がない。参議院だけは民主党がとっているという状況では、それこそ大連立するなら別だけれども、そうならなければ再編への何かうごめきが起きざるを得ない。加藤さんがやっている今度の訪韓も、そういうことを見てやっているに違いないでしょう。

加藤 そんなことはないですけれども。(笑)

若宮 再編への動きの中で選挙区制度に連動してくるということですか。

加藤 それでなければ大連立以外はあり得ない。大連立なら、現在の選挙区制度でいいわけですが。

若宮 それはある程度再編の形ができてからの話でしょう。再編に行く過程で選挙区制度を直しましょうと同時平行でやるというのは、無理でしょう。

加藤 選挙をやっている当人は、政界再編だったら、そのとき自分はどっちから出るのかな、彼も仲間に引き入れていいかな、悪いかなと常に考えるのです。すると、党派を超えたコスタリカなんかあり得ないとなると、選挙制度を考えるしかない。

若宮 ただ、次の総選挙までにそんなことをするのは不可能です。

加藤 だから、選挙後再編をやります、選挙の制度を変えますという前提で組み替えするのです。それでなければ、理想的な組み替えなんかできっこないです。人間の組み替えです。田中秀征氏(元経済企画庁長官)がおもしろいことを言ったらしいのですが、長い長いトンネルに2つの列車が入っていく。すると、トンネルを抜けてきたときに、相変わらず列車は2本トンネルから出てくるんだけれども、乗客はがらがらっと入れ替わっている。トンネル内途中駅で誰かがアナウンスして、こういう基準で乗りかえてくださいと言うと、がしゃがしゃっと替わると。それは小選挙区制ではできない。

若宮 むしろ、それは列車が3つになっていたという話ではありませんか。2つの列車が走っていたのが、トンネルを出たらやっぱり2つで組み替えていたというだけなら、余り現実味がない。

加藤 それはそうかもしれない。

工藤 第3の道があるという感じがしますね。

若宮 最低3つ、4つになっていないとならない。

加藤 だから、それが中選挙区でないとできないのです。

若宮 それはそうだと思いますが、次の総選挙に中選挙区制をやりますといって合意ができて、総選挙に向かうということはあり得ないでしょう。超党派で中選挙区議連か何かをつくってやるということですか。

加藤 そうです。政界再編は選挙が終わってからと思いますが、プロセスを考えると、選挙の3カ月ぐらい前から起きるのです。自民党が圧倒的に勝つ、3分の2を維持する、ないし参議院で15人ぐらい引っこ抜いて新党をつくってもらって、それで状況変化、ねじれが解消されるということがあれば別ですが。政界再編を当然、自民党の執行部は考えると思います。でも、それは将来の日本の政治について言えば、極めて夢のない話です。そうすると、政界再編だといった場合に、では、対立軸は何かということを、今年はみんなが一生懸命、議論を始めますよ。現に、そういうシンポジウムに呼ばれて延々と議論してきました。その種のシンポジウムが頻繁に行われ、言論NPOでも政界再編の対立軸は何だろうといったことをきっと工藤さんがやる。それで、対立軸づくりをみんなが議論して、それだけならいいけれども、メディアは選挙近くなると、あなたは赤組ですか、白組ですかとアンケートをとり始めると思います。それに応じて有権者が投票するということが起きるかもしれません。

工藤 では、動き出せばスピードは結構早まる可能性があるわけですね。

添谷 中選挙区の議論が出ると、一般的な世論の反応は、また昔に逆戻りかみたいな反応が出ると思うんです。

加藤 いや、それは学者とかメディアが言っていることで、一般は違います。小選挙区制導入のとき、学者が何を言ったか。小選挙区になると2大政党の対立で政策論議が華々しくなって議論が明確になります、と。現実には、全く明確じゃない、逆になりました。それから、政権交代が起きますと言った。しかし、4回の総選挙をやって政権交代は起きていない。小選挙区制は日本の政治をおもしろくなくしました。


各党ともやっていることはスキャンダル探しだけ

加藤 日本を悪くしたのは、東京の高等学校の学区制と、小選挙区を導入したことです。前者は、改革と称してこんなとんでもない受験競争のつまらない世界にしてしまったと思います。それは反省してもらわなければならない。社会科学においてどれが正しいかというのは論証できないことだけれども、しかし、選挙制度については13年の実験をやって失敗したということが明確になったのですから。政策論争になっていないでしょう。ますますなりませんよ。

工藤 制度は全部できたわけですね。小選挙区で、2大政党に変わっている。

加藤 できた。今やっていることは、各党ともスキャンダル探しだけです。

若宮 それはわかりますが、次の総選挙がいよいよ勝負だということに一応なっています。

工藤 今の既存の政党で政権交代になるかもしれない。

若宮 その可能性がある限り、やってみなければ。それから、政策論争になっていないじゃないかというのは、なっていないのが悪いので、もっとちゃんとやれと尻を叩くのが我々の役割です。だから、もう1回これでやって、いよいよだめだなということになってからでないと。4回やってだめだったといっても、5回目が本当の勝負なのではないですか。

加藤 しかし、そこでだめでも、参議院はあと3~4年、ある意味では自民党の過半数はもう永劫にないようなものだと思いますから。そうすると、まだ5回目じゃなくて6回目もやるということになる。

小選挙区制導入の際、参議院の問題が抜け落ちていた

若宮 小選挙区制を導入した時の議論で抜け落ちていたのは、参議院のことだと思います。つまり、衆議院だけ過半数をとっても、参議院で過半数をとっていないと非常に厄介なわけです。総選挙で小選挙区制にして政権交代しやすくなるという。政権交代はするかもしれないけれども、参議院で過半数をとっていなければ、常にねじれ状態なるわけです。選挙には振り子現象があります。衆議院で1回こっちがとると、次の参議院選では逆に揺れるというような。同じ総選挙で振り子が揺れるならまだわかりますが、参議院をかませて揺れてしまうものだから、わけがわからなくなる。だから、衆院の小選挙区制だけで政権交代論を考えたのは、ちょっと議論が足りなかったなと思います。

添谷 一般論として小選挙区制を導入したときの支持の一番大きな理由は、政権交代が起きるという話です。中選挙区制というのは、自民党の永続政権の構造的な要因だったというか、そういう理解があったという部分が大きかったと思います。健全な政権交代が起きるというのは、民主主義にとっては必要だと思います。恐らく加藤先生もその一般論は否定なさらないと思いますが、中選挙区制に戻ったとして、政権交代が起きる構図というかシナリオというか、その辺はどうお考えなのですか。

加藤 政権交代が中選挙区時代に起きたでしょう、細川政権です。あのときに小沢一郎が失敗しなければ、もっとしっかりしたものになっていた。
添谷 そうすると、2大政党制というよりは多数政党制の中での連立による政権交代というイメージですか。

加藤 そうです。言うのは非常につらいことですが、あそこで小沢一郎が失敗しなければ、私は細川政権というか我々の相手側が自民党と同じように永久政権になっていたと思います。つまり、与党対野党しかない社会の本質がまだ続いているんです。まだディベーティング・ソサエティーではないのです。すでに、中選挙区で政権交代が起きた。それが小選挙区になったら、4回の選挙の12年ぐらいでまだ起きていない。

若宮 もう1回やってだめだと、やっぱりだめだなということになるのです。加藤さんの願望はわかりますが、現実はそうはならないと思います。

加藤 願望ではなく、そういうふうになりますよと13年前から言っています。

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Profile

080303_soiya.jpg添谷芳秀(慶応義塾大学法学部教授)
そえや・よしひで

1955年生まれ。79年上智大学外国語学部卒業。81年同大学大学院国際関係論専攻・修士課程修了。同大学国際関係研究所助手を経て87年米ミシガン大学大学院国際政治学博士(Ph.D)、同年平和安全保障研究所研究員、88年慶応大学法学部専任講師、91年同助教授の後、95年より現職。専門は東アジア国際政治、日本外交。主著書に『日本外交と中国 1945―1972』(慶應義塾大学出版会、1995年)、Japan's Economic Diplomacy with China (Oxford University Press, 1998)、『日本の「ミドルパワー」外交―戦後日本の選択と構想』(ちくま新書、2005年)などがある。

080303_wakamiya.jpg若宮啓文(朝日新聞論説主幹)
わかみや・よしぶみ

1948年生まれ。政治部長などを経て、02年9月から現職。著書に「忘れられない国会論戦」「和解とナショナリズム」など。06年1月、渡辺恒雄読売新聞主筆と雑誌で対談し、靖国問題の「共闘」で話題になった。連載コラム「風考計」をまとめた「右手に君が代左手に憲法」もある。4月から朝日新聞のコラムニストに。

080303_kato.jpg加藤紘一(衆議院議員、元自由民主党幹事長)
かとう・こういち

1939年生まれ。64年東京大学法学部卒業、同年外務省入省。67年ハーバード大学修士課程修了。在台北大使館、在ワシントン大使館、在香港総領事館勤務。72年衆議院議員初当選。78年内閣官房副長官(大平内閣)、84年防衛庁長官、91年内閣官房長官(宮沢内閣)などを歴任。94年自民党政務調査会長、95年自民党幹事長に就任。著書に『いま政治は何をすべきか--新世紀日本の設計図』(99年)、『新しき日本のかたち』(2005年)。

071113_kudo.jpg工藤泰志(言論NPO代表)
くどう・やすし

1958年生まれ。横浜市立大学大学院経済学修士課程卒業。東洋経済新報社で、『週刊東洋経済』記者、『金融ビジネス』編集長、『論争 東洋経済』編集長を歴任。2001年10月、特定非営利活動法人言論NPOを立ち上げ、代表に就任。