「新政権の課題」評価会議・現役官僚が見た安倍政権/第6回:「安全保障問題は安倍政権のチャンスになり得るのか」

2006年12月13日

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言論NPOは、今年9月に誕生した安倍政権に対する評価を、各界の有識者の方々の参加を得て進めています。今回は、中央官庁の幹部クラスの皆さんに座談会に参加してもらう形で議論に加わっていただきました。


安全保障問題は安倍政権のチャンスになり得るのか

工藤 日本と中国は首脳会談を成功させ、ある意味で日本はもう一つの外交カードを持ったわけです。その中国と握って北朝鮮を対応することを安倍さんは考えているのではないですか。

D  胡錦濤とこの北朝鮮でも手が握れるかということは当然探っているでしょうね。

B  アメリカの北朝鮮に対する対応は、アメリカの他の国に対する対応に比べれば非常に手ぬるいですね。これが例えば中東や東ヨーロッパであれば、10年以上前にC IA の工作員は転覆活動を何回もやっているでしょうし、そこが、我々からすると、ロシア、中国の存在ということがアメリカを慎重にさせているという、かなり特殊な事例だと思いますが、いかがですか。

D  慎重にさせているのは、ロシアや中国より韓国でしょう。北で何か起こった場合の最大の被害者は韓国ですから、どうしても事態を後回しにしたい。韓国にとっては、北朝鮮が飢餓と貧困のテーマパークのような国であり続ける限ればいいわけです。何事も起こらない。言葉は悪いですが、死なぬ程度に物を出しておく。

  アメリカにはベトナムの再来の恐怖というのがあるのではないか。つまり、アジアで戦争行為をやると泥沼化する、1回やるとイラク以上に2度と足を抜けない状態になるということがあるのではないですか。

B  アフガンのときに言われたのは、クリントン政権時代に対外活動の能力ががた落ちになったということです。潜入工作が下手でどうしようもなかった。また、湾岸戦争の後、クルドや南部のシーア派もそうですが、当時、フセインに逆らった連中をあるところで見捨ててしまう。それがアメリカの対外活動の限界であり、かつ弱さの露呈だと言われ、そこはクリントン政権時代に治癒していないのです。アフガンをやったときも、度々、工作の失敗を露呈していますし、さらに北朝鮮を相手に工作しようとすれば、間違いなく韓国の全面的な支援が必要ですが、ノ・ムヒョン政権はそれをさせる気は一切ありません。中国側からやるといっても、中国にとっては、その結果、半島が不安定化し、東北地方にいる少数民族を巻き込むことになるのは最悪です。

工藤 中国はどう考えるのでしょうか。今の状況がずっと続く方が不安ではないですか。それでも手はあるのでしょうか。

D  中国の手詰まり感は深刻だと思います。今、あの国にとっては、平穏な経済環境が発展のためには必要ですし、一旦、経済がスローダウンすると、国内の矛盾が一挙に吹き出るリスクは高いわけですから、ともかく突っ走らざるを得ない。特に成長から取り残されている中国の東北部など、これでさらにダメージが広がるとすれば、地域格差はどんどんひどくなります。その点からいえば、中国にとって安定した半島情勢は不可欠なのにもかかわらず、金正日はそれをすべて足蹴にした。では、そこを修復し、説得することができるのか。結局、北京も射程圏ですから、そのリスクを常に感じなければならないし、北朝鮮は世界の皆が敵だと豪語してはばからない国です。

B  不良債権処理を先送りにしてきた銀行頭取と同じ立場ですね。中国と韓国、日本もそうかもしれない。私の代ではやりたくない。

工藤 何かのトリガーを期待しているのではないですか。

D  みんなそろってそうなのではないでしょうか。金正日ときちんと話をできている人間が誰もいないのです。

工藤 困りましたね。ただ、安全保障については出口がないというよりも、チャンスだということは言えませんか。つまり、去年頃までは、言論NPOで安全保障の評価会議をやりますと、いつも、日本は当事者ではないという絶望感でした。結局、アメリカが何かをやるしかない、日本は拉致問題の解決しか言えない、核の問題が解決しなければ何も進まないということでした。それが今は、日本が自分たちで何かやれる局面に入ってきたという感じはありませんか。

  そうですよ。

工藤 だから、政治が問われている。ハードランディングのケースは別として、北朝鮮問題のソフトランディング、つまり、朝鮮情勢が大きく変わり、韓国と北朝鮮が将来的に統一国家になるといった際の東アジアの枠組み、安全保障はどうなって、それが日本にどうつながるか、そこはどう見ていますか。

D  まず、半島が今のような二分した形になるのか、それとも統一された形になるのか、そこのところで議論の先が大きく変わります。もう1つは、今回の危機が中国にとってどれだけ深刻になるか。つまり、中国は、辛うじて巨大なエンティティーを維持していますが、仮にそこで1つの国家としての体をなさないようなことになった場合です。そちらの方がはるかに大変な問題です。戦艦大和の沈没に巻き込まれるようなものですから、これが最悪です。北朝鮮が1つの問題として処理が終わってくれるのか、それとも次の何かの導火線になってしまうのか。

B  中国としては、そうならないよう、自国の国内体制への影響を最小限に抑えるような形で問題を処理したいでしょう。それはどの国にとってもそうだと思います。日本やアメリカにとっても、分裂してくれて結構だという考えは余りないと思います。

D  今度、国連の事務総長になる韓国のパンキムン氏も行くとは言っていますが、彼の動き一つで韓国自体の明暗が変わるとすれば、最もシュリンクするのは韓国自身です。決定的なのは、中国が北朝鮮を見捨てるという条件が成熟するかどうかで、そのために被る膨大な損害に対して、アメリカや日本がどこまで補てんしてくれるのか。それを承知してくれるのであれば、見捨てますという、途方もないものが出てくるかもしれない。中国の被る損失というのは、難民の受入れだけでなく、始末が終わった後の朝鮮半島の非核化や中立化、つまり、あそこをアメリカとの間での人工的な緩衝地帯にするか、ないしは、新しく統一ができ上がった後、それは10年、15年後の統一朝鮮ですが、それを国連共同管理のようなものにするか。中立地帯か、国連軍の駐留か、4カ国共同出兵のような話です。

B  統一国家については、東ドイツを受け入れた西ドイツに比べて、朝鮮半島の場合は経済的に格差も大きいし、人口比率も比較的近いこともあって、状況はより厳しいと思いますが、基本的には韓国に統一させる方向でアメリカかは考えないですか。

D  それを最も嫌がっているのは韓国自身ですよ。

C  全部引き受けなければならないですからね。

B  そこのところで、日米からの様々な支援が必要になってくると思いますが。

D  そのカネを出せるのは日本だけです。だから、その話が日本に回ってきたときに、どれだけのものになってしまうのか。逆に言うと、日本が出したものをどれだけキックバックするのか、そういう話を議論する必要が出てしまうかも知れない。

工藤 そうした議論をする場は政府にはあるのですか。小池さんのNSC ですか。

  2年ほど前のことですが、日本のダムの専門の人が北朝鮮に頻繁に行ってらして、その目的を尋ねると、北朝鮮の経済復興のディールをするときに、日本のタイドローンとは言えないから、日本にしか落とせないような案件はどれだけあるのか調べてほしいと外務省に頼まれて行っているということでした。外務省も捨てたものではないと思いました。

工藤 中国は、北朝鮮を国連共同管理にして、自分たちの意向をベースにやっていこうとは思わないのですか。

D  それは思うと思います。だから、このまま朝鮮半島において自分に対して敵対的な者がいるのは勘弁してほしいということでしょう。そこで、米軍は引け、朝鮮半島は非武装化し、中立化するということでしょう。水面下でそこまでやっていてくれればいいのですが、今のアメリカにそこまでの余裕があるかどうか。

工藤 先日の言論NPOの東京-北京フォーラムで、北朝鮮はGD Pで日本の250分の1であり、それぐらい小さい、だから、この程度の国であれば日本はほとんど救済できるという日本側の発言もありました。

B  人口は日本の6分の1ですから、1人当たり所得は、日本の4万ドル程度の40分の1ということになり、北朝鮮は1000ドル程度ということになる。その1000ドルを2000ドルにしてやろうと思えば、日本のGD P500兆円の250分の1を新たに援助するということですから、2兆円ですね。2兆円を援助する。それは食物援助の倍増に相当する。

C  日本が負担するコストは意外と少額で済むかも知れないですね。外務省が2年前にそういうことを考えているとすれば、その延長でまだ頭を回している知恵者がいますね。

工藤 今の6者会議という北朝鮮問題の強力な枠組みをベースにして、北東アジアの安全保障の何らかの流れをつくってはどうかということもあります。同様の話は中国側からも結構出ます。協力という環境の下で実績を積むことによって、北東アジアの地域安全保障の新しい仕組みを構築するということになるのでしょうか。

D  韓国が以前、北朝鮮が破綻した場合の国連による共同管理ということをほのめかしたことはあります。それは裏を返すと、自分1人では無理だからということです。ですから、倒産した会社を救済してもらって健全になったら、私が合併して引き受けてあげますということです。理屈は合いますよ。

  非常に虫のいい話ですね。投資した利益を何と心得るかという話になりますね。

D  そこは後からツケを回すのでしょうが、問題は、腐り切った会社が素直に資産を譲渡するのに応じる保障はゼロだということなのです。

B  北朝鮮に対し戦後賠償の分ぐらいは日本にやってくれという話になるかも知れない。中国の場合はそのような考え方で円借款で20年間、1000億オーダーでやっていました。

D  その場合に、今の金正日政権が無血革命で崩壊し、国際的な管理下に置かれる地域になった後、それでみんながハッピーであるならば、日本もそれぐらいのカネは出しますという話になる。それが日本の財政を甚だしく脅かさないかどうかです。

B  賠償に相当するような程度の話であれば、財政上、そう大変な負担ということではないですね。


※第7回は12/15(金)にアップします。

言論NPOは、今年9月に誕生した安倍政権に対する評価を、各界の有識者の方々の参加を得て進めています。今回は、中央官庁の幹部クラスの皆さんに座談会に参加してもらう形で議論に加わっていただきました。