「新政権の課題」評価会議・現役官僚が見た安倍政権/第7回:「小泉政権のプラスの遺産が安倍政権のアキレス腱」

2006年12月15日

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言論NPOは、今年9月に誕生した安倍政権に対する評価を、各界の有識者の方々の参加を得て進めています。今回は、中央官庁の幹部クラスの皆さんに座談会に参加してもらう形で議論に加わっていただきました。


小泉政権のプラスの遺産が安倍政権のアキレス腱

工藤 この座談会でこれまで出た議論を考えてみると、安倍政権は大変な歴史的な局面で誕生しましたね。成功すればすごい政権になるのではないですか。

B  北東アジアの経済、とりわけ中国が安定し続けるという前提が必要ですが、経済にとってもこれだけ大きなリスク要因が存在していても、東京マーケットにしてもそれを織り込んだ上で成立しているわけです。その意味で言うと、短期的にはかなり混乱するのは事実だと思いますが、2~3年程度のオーダーで見れば、マイナスよりプラスの方が勝つ可能性がありますね。

工藤 そうですね。不安定要因がなくなるわけですから。

B  話はこの座談会の冒頭に戻りますが、安全保障についてはイメージがある程度描けるとしても、そのほかに経済問題や教育など様々な分野があるわけです。それぞれの分野が安倍政権の政治主導体制、つまり、何事もポリティカルアポインティー(政治任用)の人たちで対応していくということで本当にうまくいくかどうかという問題があります。以下は少し役人的な言い方になりますが、ポリティカルアポインティーが増えていき、総理主導、政府主導が強まるということは、総理に物を言う人が極端に減っていく体制でもあるわけです。危惧を感じているのは、経済問題などでも、総理に、こういう問題があります、ということはほとんど上がっていないのではないかということです。

ですから、今の安倍政権の路線のやり方でやっていって、参議院選挙まで本当にもつのか。野党にも色々と言われ、それを参院選対策で夢を振り撒きながら流していって、来年7月の参議院選挙を超えたところで、さあ、やりますと言う。本当にそんなに器用なことができるのか、その際に本当に説得力のある何かをお持ちなのか。例えば補佐官の人たちも、その立場の源泉は総理にしかないわけですから、皆さん、総理に評価されなければならない。これは他の大臣の方々もそうだと思いますが、総理に耳に痛い話というのはなかなかしづらいと思います。ならば、役人ができるかといえば、最近では、役人もそのようなことはしない人が増えてきていますので、それも困ったものだという話です。

小泉内閣ができた頃は、まだ古いスタイルのプロセスが残っていましたから、従来どおり、これは総理の耳に入れておかなければと思って、役人も官邸に行き、「総理、そんなことは駄目ではないですか」といったことを申し上げていた。あとから考えると恐ろしい話で、今では、だんだんお役人も皆さん賢くなってしまって、そういうことはポリティカルな人たちがやればいいと思うようになってしまっていますが。

工藤 今回、官僚の人たちも、若手の皆さんが何十人か公募に応募して官邸に選ばれたということがありますね。その人たちはそういう役割はしないのですか。

C  80人中10選びましたが、面接したのは選ぶことになっていた10人だけでした。

D  私の役所では何人か応募しましたが、最初からこの人だと決まっていましたね。

工藤 公募の実態はそういうことなんですか。

B  彼らが総理に対して、危険なものは危険というふうにきちんと言えているか疑問です。官邸スタッフというのは、最初は誰が重用されるかというところで、まず競争するわけです。それは基本的には総理に気に入られなければならないということがあるわけです。某有力官庁から行った総理秘書官が、「総理がそのようにお考えなんだから、そういうところは慎重にやっていただかないと」などと、その人らしくない言い方をされて、省庁の指定席の秘書官ボストの人ですらそうなってしまう。危ないですね。

工藤 安倍さんは小泉さんとは違って、個性やリーダーシップも含めて、何がすごい人なのか、まだ見えてきていないということはありませんか。みんなの意見を聞くタイプということであれば、小渕さんもそうでしたが。

B  聞くけど、聞かない、というタイプではないですか。安倍さんは、官房長官時代は少なくとも話はよく聞きましたが、総理になられるかも知れないという流れになってきてから、少し変わってきた。役人の言うことは基本的にはあまり聞かない。説明もそれほど聞いていない。

C  今は外交の方で忙しいということもあるかも知れません。

工藤 安倍政権が小泉政権から引き継いだのは、経済についてはプラスの遺産でしたね。

B  だからこそ、それがアキレス腱になるかも知れない。

工藤 ただ、外交はマイナスで引き継がれました。

  アジア外交ですね。だから、これがプラスのポイントになり得る。

工藤 ただ、それを活かせるかどうかは安倍さん次第ですね。

  そうです。早速、北朝鮮の問題をどうするかということが出てきた。

工藤 経済はプラスで引き継いだからマイナス要素、外交はマイナスで引き継いだのでプラスポイントの要素、これが一つの総括になりました。どうもありがとうございました。


<了>

言論NPOは、今年9月に誕生した安倍政権に対する評価を、各界の有識者の方々の参加を得て進めています。今回は、中央官庁の幹部クラスの皆さんに座談会に参加してもらう形で議論に加わっていただきました。