「新政権の課題」評価会議・現役官僚が見た安倍政権/第4回:「消費税問題こそが安倍政権の最大の課題に」

2006年12月08日

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言論NPOは、今年9月に誕生した安倍政権に対する評価を、各界の有識者の方々の参加を得て進めています。今回は、中央官庁の幹部クラスの皆さんに座談会に参加してもらう形で議論に加わっていただきました。

消費税問題こそが安倍政権の最大の課題に

工藤 小泉政権が初期に予算編成で打ち出した方針が国債発行30兆円枠でしたが、今度の安倍政権の19年度予算では30兆円より低い枠に抑えることになるわけですね。

B  5年前の国債30兆円枠の出だしは、かなり無理してやりました。当時の財政は実質的にはもっと大きな赤字でした。今年度予算になってようやく実力として30兆円を若干ですが、下回った。来年度はさらに小さくしようとしています。それは、歳出カットと税収増の両面によるものです。

C  経済の状況は大体、平成15年度ぐらいがボトムでした。13年に小泉内閣が誕生し、13、14年と2年間辛抱して、15年のボトムからその後、戻ってきた。安倍政権は、小泉総理ほど辛抱して踏ん張らなくても、経済はトレンドとしてよくなってきていますから、 30兆円枠の達成が十分にできる状況の中で誕生したのです。

B  つまり、安倍政権は経済的には非常に良い状態を引き継いだわけです。確かに、小泉内閣と比べて客観的には良い条件ですが、それによるマイナス面もあります。小泉内閣の場合は最悪のところから始まりました。2002年の2月が景気循環上はボトムで、それは10 年間続いたバブル崩壊後の調整過程だから、どうしようもないとみんな思っていたわけです。不良債権処理もみんなあきらめがあったわけです。ところが、安倍さんは、引き継いだ時点で既に良いわけです。戦後最長の景気回復(いざなぎ景気)に並んでしまう。そうすると、あとは後退が必ずあります。ピークアウトが必ず来る。今、成長戦略で上げ潮だと言っていますが、来年や再来年にリセッションの局面が出てきたときに、上げ潮とずっと言っていられるのか。要するに、これまで良くなってきているだけに、ここでよたよたとなったときには、安倍政権のマイナス点になりやすい。

工藤 今、安倍政権が抱えている本当の課題とは何なのでしょうか。

  今、この瞬間は良いのですが、どこかでちょっとリセッションがあったり、何か変調を来したときにも踏ん張っていけるかどうか。今は外交や安全保障に気を取られていて、内政で再チャレンジといった言葉を借りたばら撒きのようなことが復活しようとしているが、それをきちんと抑えられるか、それが課題でしょう。

C  結局、小泉さんの場合は課題が色々と見えていて、それを処理するので大変なんだということで、政治的には課題がたくさんあった方が締まるわけです。それが、今回は本当に消費税をやらなければならないということが課題ではないですか。もう逃げるわけにいかなくなる。小泉さんは何だかんだ言いながら、消費税については、こんなに課題が山積しているのに、そんなこと言っていられる時期か、と言えたのですが、まさにそれがないということが最大の課題です。だから、消費税は「逃げず、逃げ込まず」になった。

B  税制以外の改革はこれまで随分とやってきています。公共事業もさんざん切ってきました。ですから、追加的な1単位の改革の困難さは増していくばかりなのです。さすがの政府もだんだん岩盤にぶち当たり、大きな無駄はもう無いというところまで来ている。規制改革でも、例えば農協など、与党がぎょっとするような話が次にできるかどうかです。

  農業分野は全部やってしまい、農地法や農協法の世界に入ってきた。医療もそうで、最後の牙城として医師会が一番嫌がる問題になってくる。外国人の受入れについても、単純労働まで開くかどうか。細かな枝葉はほとんどやり尽くして、本当に改革を継続するというのであれば、これからは、太い幹をどかんと倒すようなことに関わるわけです。

B  しかし、岩盤にぶち当たってでも我行かんという気迫があるかというと、どう考えてもそれはないです。

C  みんな疲れていますよね。

工藤 岩盤が最も固いというのは何ですか。本当にぶつかっていかねばならないのは。

  やはり、税制改革ではないでしょうか。

B  規制改革の方はどんどん難しくなってきていますね。誰が考えてもおかしいじゃないかというものは大体改革されています。

C  税制改革については、基礎年金の国庫負担割合を3分の1から2分の1に引き上げるのが2009年度です。そこを1つのターゲットにして、2009年4月に消費税が上がるとすると、準備機関も入れれば、2008年には法案が通っていないといけないです。 2008年に法案を通すには、2008年の年初には少なくとも消費税を上げるぞという勢いがついていなければなりません。

工藤 今は2006年ですから、来年の間にそこまで持っていかなければならないということですね。

  ですから、やはり、来年の参議院選挙後に始めなくてはならない。それもぎりぎりです。それを選挙のときに全く議論しないで、選挙が終わってから、押っ取り刀で消費税と言えば、インチキだということになりますね。そんなことをああでもない、こうでもないと言っていると、すぐ2008年になってしまいます。ですから、結構大変なのです。

B  それも、消費税率を少しだけ上げて、足りませんでしたと言って、その後で2度上げるということは難しい。自民党の前の税調会長の柳沢さんも、それはできないと言っていました。少なくともここまでやらせてくれと言って、段階的にやることが考えられる。

工藤 そうだとすると、大変な議論をしなければなりませんね。安倍さんが初めから少しだけと言うと、次の人が困ってしまいますね。

B  今の政権を見ていて、そういう流れには全然なっていないと私は思います。

  竹下さんのように、その1点に内閣が命運をかけるという布陣になれるどうか。

工藤 では、安倍さんは歴代の総理と比べて何に命をかけている内閣ですか。

B  稼ぎたいポイントのターゲットは憲法改正であり、安全保障でしょう。ただ、心配しているのは、経済面でマイナスポイントにならないかどうかです。ポイントゲットは他の分野でおやりになる、それはそれでいいと思います。ただ、経済面では、実は小泉さんの遺産を受け継いだがゆえに、ポイントを上げることが難しい状況なのです。

堺屋太一さんが言っておられましたが、昔、享保の改革をやった徳川吉宗は後で非常に名君と言われた。元禄で町民文化を栄えさせた綱吉は犬公方とか阿呆と言われた。日本人にはそういうところがある。厳しい改革をやった人は後々評価されるが、今、経済状態が少し良くなっている。そういう状態で、これを維持できなかった場合には、非常に批判される。安倍政権はそういう難しさを本当は持っていると思います。

それから、松岡農水大臣も5年前とは変わりました。例えば公共族や農林族という人たちもかなり変わり、あの当時の最強硬派の人たちは、今はどこにもいません。例えば農水省でも改革マインドでかなりの人が動いています。にも関わらず、改革路線が完璧になればなるほど、逆に、何となく改革が停滞したときに、曲がり角を曲がってしまうと、そのまま行ってしまうということもあるのではないか。そこをどうするのかということですね。

工藤 そもそも、安倍さんは誰が側近なのですか。

  みんな集めたのではないですか。皆さんが側近ナンバーワンだと思っているところが良いところではないでしょうか。

工藤 今回の安倍政権は憲法と安全保障をやる政権ということですね。

D  基本はそうでしょう。少なくとも、今のところはそうです。だから、二人の中川さんが頼りになる。


※第5回は12/11(月)にアップします。

 言論NPOは、今年9月に誕生した安倍政権に対する評価を、各界の有識者の方々の参加を得て進めています。今回は、中央官庁の幹部クラスの皆さんに座談会に参加してもらう形で議論に加わっていただきました。