各党のマニフェストをどう読みこなしていけばいいのか

2012年12月13日

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、先週に引き続き、言論NPOが毎回選挙毎に行なっている、現政権のマニフェスト評価・実績評価の結果を踏まえて、選挙に向けて有権者が何を注目すればいいかを議論しました。

(JFN系列「ON THE WAY ジャーナル『言論のNPO』」で2012年11月29日に収録されたものです)
ラジオ番組詳細は、こちらをご覧ください。


各党のマニフェストをどう読みこなしていけばいいのか

 おはようございます。言論NPO代表の工藤泰志です

 毎朝、様々なジャンルで活躍するパーソナリティーが自分たちの視点で世の中を語るオンザウェイジャーナル、今日は言論NPO代表の工藤泰志がお送りします。

 さて、先週は、私たち言論NPOが行った政権の実績評価を語りながら、私たちは課題に向き合わないマニフェストはだめだよ、ということを皆さんにお伝えしました。投票日はもう間近ですが、それを見据えてですね、もう一回マニフェストをどのように読めばいいのか、ということを皆さんと一緒に考えてみたいと思います。

 ということで今日のオンザウェイジャーナルでは、私たち有権者は各党のマニフェストをどう読みこなしていけばいいのかということをお送りさせていただきます。今回の選挙は12党の乱立状態ですが、各党のマニフェストをベースに、いかにして政治家にだまされないかということ、つまりマニフェストの評価をしている言論NPOの手の内を皆さんにこっそりお伝えしたいと思います。


できることではなく、やらなければいけないことを書いているか

 それで結論から先に言うとマニフェストが出て、各党の党首がいろいろなことを言っているんですが、それに対して私は、非常に違和感を持っています。ある政党の党首は、民主党のマニフェストはあまりできがよくなかった、だからできないことを書くんじゃなくてできることを書く、と言っていました。僕はブーだと思うんですね、こういう党首は。できることを書くんだったら、誰でも言えますから。できることじゃなくて、やらなきゃいけないことを書かなければいけない。これが課題型、日本の直面する課題を解決するためのマニフェストです。実際、党首の意見とマニフェストの内容はまた違うのでマニフェストはちゃんと見ていただきたいのです。


抽象的な表現ではなく、有権者に向かい合っているか

 それから、あまり細かく約束するとうるさいから曖昧に書いた方がいいのではないか、ということを言った政党の人がいたんですが、それもまたブーだな、と。全部を細かく数値目標を書けということではないんですが、例えば、平和な国家を目指しますとか、民主主義を徹底するとか、健やかな子供を育てますとかでは、何をしたいんだか全然わからない。抽象的なものに逃げるな、と。やっぱり課題解決のために、何を実現するかを示したうえで、具体的な数値目標について分からなければ、数値目標は少し考えさせてくれということを言ってもいいんですよ。ブーブー言われるからあまり細かく書かない、ということも国民に向かい合っていないという感じですね。

 で、ある人は有権者と約束などということをしているから日本の政治の質がせせこましく、小さくなっていると。もっと政治は夢を語って、ビジョンを語らなければいけない、と言う人がいました。だけど、だいたいそういう人は選挙戦になると小さくなって、政策を考えないで、全然違う人たちと集まるので僕たちとしては困るのです。

 夢を語るのは勝手に語ってくれ、と。だけど国民にはちゃんと実現することを語ってほしい、それでその実現は課題に対してどういうふうに答えを出しているか、ということをはっきり示さなければいけないわけですね。

 みなさんがマニフェストを考えるときは、こうしたことを鉄則にしてほしいんです。この前言ったように、課題に結びつかないマニフェストは必ずだめになるんです。じゃあ、今の日本は何に対して、まだ答えを出していないのか。僕は世界の国際会議に出席して、考えることはいっぱいあるんですね。


高齢化対策への仕組みは考えられているか

 まず一つ、日本の高齢化は非常にスピードが速いです。今、若い世代、働いている世代が3対1ぐらいで、3人で一人のお年寄りを支えています。それが、いま正確ではないんですが、1.5人で一人の高齢者を支える、それくらいお年寄りが増えちゃうんですね。それは避けられないんです。しかもそれは、ある局面を我慢したら改善されるんではなくて、その状況はずっと続くんですね。日本は高齢化に対応した仕組みを作って実現しなければいけないんです。一番大きいのは社会保障の年金とか医療とか。そのお金がどんどん膨らんでいきますからその仕組みをどうするのか。若い世代が支払えなくなったら、この仕組みは壊れてしまうわけですからそこに答えを出さねばならない。で、マニフェスト、みなさん読んでみてください。なかなか答えがないんですよ。こういう場合は、年金とか社会保障とかの課題状況に対して、政治家がどういう意識を持っているのか、それをみんなよく耳を澄まして聴くべきだと思いますね。


財政再建への取組みは

 二つ目の課題は財政再建です。財政再建についてはね、驚いたことにマニフェストにないんですよ。それで公約集にポツッと入っているとか。たぶん財政が厳しいとなると、消費増税とかと連動していると思うんですね、意識が。それでなかなか表に出さない感じがあるんですよ。僕も政治家に聞いてみました、財政再建はどうしちゃたんですか、と。そうしたら今、みんなで実行しているから書かなくてもいいとか、隅っこに書いているよ、とか言うんです。実は、日本は、ユーロ危機があったりしますが、どの国よりも借金が多いんです。GDP比で200%突破して。それで今一部の政党が、日銀がどうのこうの言って、ひょっとしたら日銀の独立性がなくなってしまい、財政の規律がないとわかってしまうと、世界の投資家がこの国は危ないんじゃないかと思ってしまう。そういう非常に不安定な状況の下で、債務がどんどん膨らんでいく状況になっているんですね。この状況はどうしたらいいんでしょう。


原発問題、エネルギーの安定供給は

 原発問題に関してはいろんなアイディアが出てきています。つまり原発をなくすというのであれば、どういうふうな道筋でなくしていくのか、その時エネルギーはどうするのか。原発をなくすということは、国民がみんな(国民の多くが)思っているんで、みんなそっちに寄っているんだけれども、しかし本当にどうやってなくすのかよくわからないんですよ。たとえば再稼働。原発が今50基ぐらいあって、二つしか動いていないわけですが、再稼働するの、しないの、するときはどういう風にやっていくの。最低限そういうことは言わなければいけないし、原発の今後の道筋がはっきりするということは大事なんですが、そのなかで安定的な供給はどういう形を考えていくの。今の段階で見ると、設計が具体的になくても、こういう形で目途を付けるとか、きちっと出していかなければいけないし、その時にどっちとも読めるという形ではなく、真剣に考えているかということを見なきゃいけないと思うんですね。


経済成長率を上げるのは政府?

 あと経済成長もそうなんですよ。僕は経済成長も日本の課題だと思うんです。それで経済成長をどうすればいいのか、ということをみんな書いているんだけど、どうしてもわからないことがあって。名目成長率を3%以上にするとか4%とか、実質で2とかバナナのたたき売りみたいに成長率を上げていくとしているんだけど。政府がそれをできるのか、と。成長率を上げるのは政府があげるんじゃないんですよ。社会主義でもあるまいし、計画経済ではないんだから。民間経済がそういうふうに動くための経済構造に対して、政府ができることは何なのか、それを示している政党が一番正直なんです。だけどなんとなくそういうことを言わないで経済成長を何%にしますとかいって。それはしたいな、という希望を言っているわけだけども、希望を言いあうことが選挙じゃないんですね、そのために何を実現しますかと。

 以前、言論NPOが有識者に聞いてみたことがあるんです、成長戦略で政治家が国民に説明しなければいけないのは何なのかと。そしたら4つあったんですね。

 まず社会保障の制度設計がきちんとできないといけない。つまり国民は自分の老後が不安なんです。不安があったら貯蓄してしまうので経済は動きません。

 あとエネルギーの安定はどうしたらいいのか。原発を廃止してもいいんだけれども、成長していく中でエネルギーをどう考えていけばいいのかですよね。

 あと労働ってことを言うんですよ、労働市場。オバマ大統領も、世界も、雇用をどうすればいいのかということを言うんですね。雇用のために産業を作るといっても社会主義じゃないんだから、市場ができるということは民間がまず動いているんですね。民間がリスクを見たりして試行錯誤して市場になっていくわけで。市場になるために構造を、規制をどう変えていくかというふうに動いていかなければいけない。産業ということもそうだけど労働市場もそうなんですね。いろんな人たちが働けるということは正規職員と非正規職員がいるんですが、この労働環境をどう変えていくのか、どうしていくのかということも構造の問題となるわけですね。

 医療の問題もそうですよ、どういうふうな構造の転換を図るのか。


TPP―自由化される海外の市場で、日本経済をどう鍛えるか

 そして、TPP。自由化される海外の市場で、日本はどういうふうに経済を鍛えていくのかという段階に踏み込まないと。TPPだけではなくFTAとかいろいろあるんですが、それらに対してどういう考えを持っていくのか。これらは全てに痛みがあるんですよ、既得権があって反対する人もいる、それでマニフェストに出せないわけです。しかし経済成長するということは、そういう構造なんですね。だからスローガンだけ言っている人はいっぱいいます。これはまず疑うべきだと思いますね。

 それから物価が上がれば経済成長が動く、という人もいますが、物価だけ上がって経済が動かなければそれは悪い物価上昇と言うわけで。それでこの国は大丈夫かというふうに世界のマーケットは見ているわけです。それでウィッシュリストというか願いだけでいう政党は厳しく見なければいけない。


尖閣諸島は日本の領土―主張を通じて外交関係構築を

 最後は外交問題ですね、尖閣問題について主権については厳しく言わねばならない。尖閣諸島は日本の領土です。しかし主張するということは外交ではないですよ、主張するというのは国家として当たり前。しかし主張を通じてどういうふうな外交関係、国家関係を作るのかということは意外と触れられていないんですね。選挙間近ですけど、みなさんに言いたいのは、課題に対してそろそろ有権者も考えていかなければいけない段階に来ていると思うんです。


有権者もできるマニフェスト評価基準―形式用件と実質用件

 それで言論NPOはこれについてどういうふうにやっているかと言うとですね、マニフェスト評価基準というのがあります。その時にどうやっているかというと形式要件と実質要件という二つに分けているんです、100点満点で。

 形式要件と言うのは測定可能なマニフェストになっていますか、と。たとえば明確な目標がある、いつまでにやるのか、お金はどうなっている、そのためにどういう政策手段を使うのか、そういうことが有権者から見て評価が可能なもの、それを形式要件と呼んでいます。それを100点のうち40点にしているんですが、ここが今のマニフェストでは曖昧になっているので、結構減点になっています。

 だけど60点は実質要件なんですよ。それが今の話なんですね。つまり何を解決したいんだと、社会保障とか財政とか経済とか雇用とか教育とかいろいろな問題がある中で日本の社会の中で何をあなたは問題だと思っていて、課題は何で、その課題をどういう風に解決しようとしているの、ということなんですね。つまり課題をうまく抽出しているか、それから課題解決をどういうふうにしようとしているのか、そのあたりの妥当性を考えなければならない。それから課題解決するために党とかの政府のガバナンス、どういうふうに実効のプロセスを設計しているのか、このあたりを20点、20点、20点でいろんな専門家、だいたい40人ぐらいいるんですが、その人たちがきちんと評価するんですね。それをあわせて100点満点でやっているわけです。

 これは有権者の皆さんもできると思うんですね、同じように。形式的に評価できないときはマイナスにすべきですね。それから実績で、僕が言ったような課題にきちんと沿っているね、答えは出ていなくても正直にこの政治家は悩んでいるね、語っているねというところは実質的なところになるんですね。

 評価基準については言論NPOのホームぺージで出されていますから、ぜひ挑戦してくれないかな、と思います。


演説会で有権者は首をタテではなく、ヨコに振れ

 そこで、政治家が何か言ったら「うん」と首をタテに振るのではなくて、きちんと言わない政治家には、首をヨコに振れということをみなさんに言いたいんですね。政治家ってね、有権者の顔を見ているんですよ、演説会で。そういう時に首を横に振れば、自分の話が受けていないと思うじゃないですか。こういう形でプレッシャーをかけていかないと。日本の政治家は選挙の時だけ発言をして有権者をごまかせると思っている人がいるんですが、今回からはそうじゃないということを見せつけてやろうと思うんですね。

 私が最後に言いたいのは、今回の選挙がどういうふうなプロセスに入っているか、ということをちょっとみなさんも考えた方がいいと思います。今まで政党政治があって政党がいろんな形で機能していたんだけど、実は政党政治そのものが課題解決という点で機能しなくなり始めて、政党政治が分解し始めている。それで今、多党化し始めている。だけど多党化したことで一つの答えになっているかというと、そうとも言い切れない。なぜかというと、多党化した現象の背景には選挙対策というものがあるからですね。どうやったら受かるかということで新しい第三極が生み出され、合従連衡し始めている状況になってしまっている。つまりこれは、日本の政党政治が政策軸をベースにして大きく変わるプロセスに入っている、と私たちは見るべきだと思うんです。


日本の民主主義が有権者を主体に変わることができるか―それは貴方しだいです

 そしてその時に、彼らたちは有権者の鏡なんですよ。有権者が、中国とか原発とか社会に対して不安を持っていて、彼らはそれに答えようとしているわけですね。それで答える時は、不安に対してだけスローガン的に答えてしまう、そして我々は「反対だ」とかいう威勢のいい言葉に、勇ましく答えてしまう。本当はそうではなくて、有権者が不安を持っていることに対して、課題解決をする政策を求めなければいけないんです。我々は日本の政策課題に対して、今のかたちでは不安だと。しかし、それに対して答えを出してほしいというプレッシャーをかけ続けないと、今の政党政治は政策ベースにして大きく動かないと思うんですね。だから今回の選挙は、日本の民主主義が有権者を主体に変わるスタートだと思うんですよ。私たち有権者は譲っちゃいけないんです。さっき言ったような課題をベースにして厳しく見ていくと、その中で政党はダメでも、この個人の政治家はいろいろと考えている、という形でもいいです。そういう形でプレシャーをかけていって、政党そのものが、民主的に有権者の課題にこたえて仕事をしていくような政治を実現するための一歩にしていかなければいけないと思うんです。

 今回の選挙はそういう意味で歴史的な動きが始まる一歩になっている。

 あくまで有権者主体という動きを強めて、絶対政治家にはだまされないと。今の大きな動きをムードとして考えるのではなく、あくまで課題として見つめると。そういうふうに考えて今度の投票に向かってほしいと思っております。

 今日は各党のマニフェストをどうやって読みこなすかということについて、言論NPOのやっている方法を皆さんにお伝えして提案と議論をしてみました。では、選挙当日頑張ってください。今日はありがとうございました。

今回の「工藤泰志 言論のNPO」は、先週に引き続き、言論NPOが毎回選挙毎に行なっている、現政権のマニフェスト評価・実績評価の結果を踏まえて、選挙に向けて有権者が何を注目すればいいかを議論しました。