【国と地方】 増田寛也氏 第4話:「三位一体改革に影響した格差議論の遅れ」

2006年6月23日

増田寛也氏増田寛也 (岩手県知事)
ますだ・ひろや
profile
1951年生まれ。77年東京大学法学部卒業後、建設省入省。千葉県警察本部交通部交通指導課長、茨城県企画部交通産業立地課長、建設省河川局河川総務課企画官、同省建設経済局建設業課紛争調整官等を経て、95年全国最年少の知事として現職に就く。「公共事業評価制度」の導入や、市町村への「権限、財源、人」の一括移譲による「市町村中心の行政」の推進、北東北三県の連携事業を進めての「地方の自立」、「がんばらない宣言」など、新しい視点に立った地方行政を提唱。

三位一体改革に影響した格差議論の遅れ

  この5年間は、ちょうど小泉構造改革が進められた時期であり、三位一体改革はまさに小泉総理が投げたボールでした。

 その小泉内閣について評価すべき点は、初心にぶれずに景気対策としての公共事業を削ってきたことです。地域というのはやはり、公共事業に頼るわけですから、ぶれずに公共事業を減らすことによって、今までなかなかできなかったような経済構造を切り替えていくきっかけができるようになったと思います。
地方にとってはクセ球ですが、誠実にそれを真剣に受け止めて応えようとしたところには、地方が長年なれていた分配構造から成長構造に切り替えるための改革にはなりました。借金を重ねながらも、昔の公共事業で地方が一見繁栄しているような姿に戻りたいと思うのは、私はおかしいと思います。

 ただ、別の面で、経済の面で真剣に変えていかなければいけないと思うのは、セーフティーネットの部分です。例えば、医療も含めた住民の最低保障のようなところについて、色々な意味で社会政策的に考えていかなければいけない面があります。その点についての真剣な議論がまだ十分できていない中で、改革だけが進んだことが、問題を残しています。

 三位一体改革でも、お金のやりとりが議論されたときに、まさにそのセーフティネットの部分の議論が足りなかったことが、地域にとって非常に多くの問題をもたらしました。岩手県でも生活保護受給世帯の数が増えてきていますが、改革は進んでも一番苦しい人に夢をなかなか与えられなかったということはあったのではないでしょうか。

 国全体として、セーフティネットの議論をもっとしておかなければならなかったのが、できておらず、なおかつ、最も末端のところのお金が三位一体改革でさらに地方で苦しくなった。私はこうやって5年くらい旗振りをして、地方、地方と言ってきましたが、地方が何を自力でやって、国に最低限、何をやってもらうのか、そうした役割分担の議論を本当はもっと国とやりたかったのです。しかし、中央省庁もなかなかそういう協議の場に応じない。従来からの地方団体の政治力の弱さというものを見せ付けられた感じがしています。

 今回の三位一体改革の成果として、私は経過措置と思いたいのですが、交付税などが削減させられましたが、それはそういうセーフティーネットの部分に現れてきているわけです。また結局実現しませんでしたが、国は三位一体改革の中で、生活保護なども全部、自治体の方により責任を負わせようとしていました。

 つまり、格差拡大を意識したセーフティネットの議論をしていなかったということが、三位一体改革全体が国民の支持を得られないことに繋がったと思います。

 何でも地方によこせと我々が主張する中で、そういう部分まで含めて地方が引き受けてしまうのかという感覚が、国民にあったと思います。

 他方で、公共事業などは総額は減らしましたが、中央省庁の権限は全く減っていません。むしろ、公共事業のような分野こそ、生活保護などよりも、もっと優先的に地方に移譲させるべきです。そこで、地方自治体が本当に公共事業なのか、別のことを選ぶのかを考えさせるようなことをやるべきでした。
それは、中央省庁の壁があって乗り越えられなかったのです。もし、そのようなことができていたら、地方の責任で、かなり違うことに公共事業のお金を振り向けた自治体はあったのではないかと思います。

 公共事業のお金というのは、あとで交付税で措置されたり、起債をしてそれが交付税措置されたりしますから、国から来るお金は天から降ってくる金ということで、野放図に使ってしまいます。従って、それを自治体の方に一般財源化すれば、教育費など他に色々と使えるのです。もっと教育費に使いたいという自治体も出てきたはずです。

 そこを、自治体が住民に選択を問うて、それで選ばせる。それが真の民主主義だと思います。
ですから、それで最後は住民の選択に委ねる、真の民主主義を根付かせるという文脈で今回の改革が出てくれば、三位一体改革の中身の選び方がもっと変ってきたのではないかと思います。


※第5話は6/25(日)に掲載します。

  この5年間は、ちょうど小泉構造改革が進められた時期であり、三位一体改革はまさに小泉総理が投げたボールでした。その小泉内閣について評価すべき点は、初心にぶれずに景気対策としての公共事業を削ってきたことです。地域というのはやはり、公共事業に頼るわけですから、