【国と地方】 本間正明氏 第6話 「少子高齢化と地域活性化」

2006年6月15日

honma.jpg本間正明(大阪大学大学院経済学研究科教授・経済財政諮問会議議員)
ほんま・まさあき
profile
1967年大阪大学経済学部卒。73年同大学大学院経済学研究科博士課程修了。英国ウォーリック大学客員教授、ロンドン大学STICERD客員研究員、大阪大学副学長などを経て、現在大阪大学大学院経済学研究科教授。経済財政諮問会議議員、税制調査会委員などを兼任。主著に「租税の経済理論」「新・日本型経済システム」等。

少子高齢化と地域活性化

 今後、日本が少子高齢化になれば、福祉や介護、医療が非常に重要なサービス産業になっていきます。これらは地域から外に出るということにはならないわけで、その地域で供給をし、その地域で需要するという形で、国民経済の中におけるサービス化を地域経済の活性化にどのように入れ込んでいくかが課題になってきます。

 今、貯蓄の65%以上を高齢者の方々が持っていらっしゃるわけですから、それを抱いて亡くなられるということではなく、自分の老後を豊かに展開するための地域経済の活性化というのが、まさに高齢化のニーズという形で顕在化していくわけですから、そこにその貯蓄をどう活用していくかが問われます。

 地方は物価が安く、住宅費にあまりお金をかけないわけですから、疲弊しているといっても、実質所得は高いわけです。

 これからの少子高齢化で、製造業のパーセンテージは下がっていかざるを得ません。今、付加価値ベースで25%、就業構造では20%程度ですが、これが、これからの約30年の間に、付加価値ベースでは2割程度をキープしても、就業構造では10%程度にまで低下するわけです。そこで、非製造業、サービス業のウェートが非常に高くなり、実態としては、地域経済の中で、まさに医療や介護といったものを充実していくという流れの中で、自らが払える部分のところで地域経済にお金を流す。

 こういう流れにうまく乗れる地域とそうではない地域との間で、これからは地域間競争の時代になっていくと思います。

 マクロ的に国全体でパイが増大しているときは、中央政府からいかにお金を地方政府に取ってくるかということが、地域づくりの一番大きなお金のソースでした。それが、民間のサービス、例えば、あの地域に行くと介護がどうだ、あるいは、リタイヤしたあと、定住に対してどのようなサポートをしてくれるか、町の全体の行政レベルがどうだ、というような都市間競争が、一律的な形ではない形で起こってくるわけです。それがまさに地域活性化につながっていくような時代状況を作ると思います。

 問題は、行政がそうした取り組みを阻害することがあることです。例えば、厚生労働省が、地域が違っていれば実情も違うのに、同じような施策をやる。医療費ひとつとっても、長野県と福岡県と大阪府とでは大きな地域差があります。長野県のように地域の健康増進プログラムができているような地域と、事後的な対策でお金を垂れ流ししている地域とでは、行政の中身はかなり違ってくるはずです。

 私は、行政こそが、つまり、今まで行政がやっていたことのマーケット化こそが、地域経済のステージとして新たな局面を生んでいくと思います。そこで我々は、「市場化テスト」という言い方をしているわけです。地域再生の問題と、特区の問題、官がやっているものを民がNPOなども含めて参入したときに、コストが低くて質的には行政よりも良いものができれば、もう移し替えていこう。こういう形で、官の開放を進める。

 つまり、官の市場化をすることによって、地域経済の活性化ができるような枠組みというものを、どういう具合に強化していくか。農家の土地保有の問題についても、株式会社が、あるいは個人が、他の地域から来て農業ができるような、そういう規制改革をどのようにしていくのか。参入と退出において、今までは全て退出地域から都市に行ったものを、どういう具合に双方向な形にもっていけるか。団塊の世代の方々が、都市から地方へと移動していく、それもこれから考えていかざるを得ないだろうと思います。

 都市のシャビーなマンションを売って地方にお金を持って帰れば、かなり質の高い住宅が買えて、老後の生活の原資にもなり得るような状況がありますから、そういうオプションの多様化というようなことも含め、新たに都市と地域との間の物流、サービスの交流、資金の流れのようなものを生み出していく。官を通じての資金のパイプが先細りせざるを得ない状況の中で、民の資金のパイプをどういう形で地方に振り向けていくかということが、これから戦略的に考えなければいけない大きなテーマだと思います。


※本テーマにおける本間正明さんの発言は以上です。

今後、日本が少子高齢化になれば、福祉や介護、医療が非常に重要なサービス産業になっていきます。これらは地域から外に出るということにはならないわけで、その地域で供給をし、その地域で需要するという形で、国民経済の中におけるサービス化を地域経済の活性化にどのように...